ちょっとKevin Ayersっぽい感じもする「Waving My Arms in the Air」と「I Never Lied to You」は、鍵盤の活躍もあってシンプルながら華麗な仕上がりになってる。個人的にはこの辺が好きかな。「Wined and Dined」もいいね。ドラムはほとんど出てこないけど。
「I Go to Extremes」はリバティ大活躍のロックナンバー。『STORM FRONT』のライティング/レコーディング・セッション時に、リバティが繰り出した激しいビートがヒントになってできた曲だそうです。ビリーがピアノも弾いちゃうこの辺ではデイヴさんは主にバッキング・ヴォーカルで貢献してますね。次の「Shades of Grey」は新作『RIVER OF DREAMS』からの曲ですが、やはりハード度高め。『RIVER~』では大半をセッションドラマーが叩いていたのですが、この曲だけはスタジオでもリバティがプレイしてました。この曲ではめずらしく(?)トミーさんのまとまったソロが聴けます。
「The River of Dreams」は、お察しの通り『RIVER~』からのナンバー。細かい話ですが、アルバムタイトルは定冠詞が付かず、曲名は「The~」となりますからね。King Crimsonのファーストが『IN THE COURT OF THE CRIMSON KING』なのに、収録曲は「The Court of the Crimson King」、みたいなもんか、違うか。ダンサブルな楽しいナンバーではありますが、バンドが途中静止する部分で演奏を停めた後、フランクフルトの聴衆が自発的に歌い続けるところなんかは素晴らしい。まだアルバムが出てからそんなに長い時間は経ってないはずなのに、浸透してるんですからね。
次もある意味社会派の曲なんですかね、1949年以降の現代米国史の事件をひたすら挙げる「We Didn’t Start the Fire」。無茶苦茶ヒットした曲なんで、聴衆も盛り上がりまくりですが……やっぱり凄い‟歌詞”だなあ。リバティも元気一杯。で、その次はThe Beatlesのカヴァー「A Hard Day's Night」なのね。ビリーのビートルズ愛は周知のところだし、ソ連ツアーに行った時も「Back in the USSR」をやったりしてました。T-Boneさんのベースは、ポール・マッカートニー風味があるかもしれないな。
かように散々暴れ回った後に、アンコール的に演奏されるのが、「Piano Man」でございます。ハーモニカはビリー自身が吹き、T-Boneさんがアコーディオン、クリスタルさんがベース……っていう特殊編成。コーラス“♪Sing us a song, you’re the piano man……”のところは聴衆大合唱。デイヴさんはと……探しますと、この曲ではサポートキーボードの出番は少ないのか、専らコーラス要員となってました。
「Natural Born Woman」(または「Natural Born Bugie」、どちらが正式なのかわからない……)は、最初期のシングル。私が最初に手を出したベスト盤――これとは別なんですが――でも冒頭に収まってまして、ハンブル・パイと私の最初の出会いがこれだったので特に印象に残っております。構成としてはオーソドックスなブルーズ・ブギーなんですが、漢気あるグレッグ・ヴォイスで一番を始め、二番でピーターが引き継ぎ、間奏はさんで三番で満を持してスティーヴ登場……っていう流れは、さよう、「Four Day Creep」で繰り返される十八番の手法でございます。あとね、淡々としてるけど、フレーズごとに過不及無い適切なフィルを入れるジェリーのドラムが最高なのよ。8ビートマスターというのはこういう方を言うのであろう。あ、この曲はSteve Marriott作です。
「Big Black Dog」もシングル曲。こちらはPeter Frampton作。全編のパウンディング・ベース、2番での太い歌唱など、グレッグの見せ場が多めかな。ジェリーの太鼓は流石の安定感。“ドドッタッドタッ”っていうキックとスネアのコンビネーションが決まるんで心地よいのなんの。
「30 Days in the Hole」もスティーヴ作。シングルカットされ、『SMOKIN’』収録もされました。冒頭から見事なコーラスワーク“♪Thirty days in the hole……”で幕を開け、ジェリーのドラムに支えられてギターとベースが躍動するロックナンバー。この太鼓の音色は、80年代以降モノでは絶対(言い過ぎ?)聴けない感じのやつだね。
sus4(?)を多用したようなギターリフ作りは、スティーヴによるものでしょうか。むかし、The Blue Heartsをよく聴いてたんですが、のちにThe Jamなんかを聴くようになって「ギターワークはこの辺に手本があったのかなあ」などと勘繰ったものでしたが、考えてみればKeith RichardsにしろSteve Marriottにしろ、60年代英国ロッカーはああいう音をよく出してましたね。
「30 Days in the Hole」は、カヴァーもよくされているようですが、私にとって印象的なのはMr.Bigかな。ライヴ盤『LIVE』で聴けますし、Youtube上には動画もあるよ(故Pat Torpeyのドラムもやっぱり良い)。彼らはThe Who「Baba O’Riley」もやったりと、ブリティッシュ・ロック好きだよね……っていうか、バンド名じたいFreeから来てましたわね。
次の「Black Coffee」はIke & Tina Turnerのナンバー。Tina Turnerの物凄い歌唱をどうカヴァーするのかと思ったら、割と忠実に歌ってますねスティーヴ。こんな芸当ができる男性シンガーは滅多にいないでしょうなあ。Humble Pie『EAT IT』に入っています。この曲は、英国の音楽番組(OGWT)に出演した、当時のハンブル・パイの演奏がYoutubeで観られるので、ぜひご覧下さい。女声コーラス隊(The Blackberries)を率いてノリノリで歌うスティーヴ、スライドギターを決めるクレム、マジカルなファンクネスを生み出すグレッグが観られます。カメラのアングルのせいで、ジェリーさんがほとんど見えないのは残念ですが。
初出はVHSでした。『JOURNEY TO THE RIVER OF DREAMS』というセットで、アルバム『RIVER OF DREAMS』に伴うツアーの音源ミニアルバム+ビリー・ジョエルによる講演(Q&A)CD+93年のドイツ・フランクフルト公演の映像VHS。現在は映像が単品でDVD化されて、『LIVE FROM THE RIVER OF DREAMS』というタイトルになっているようです。