⑬Riot『ARMY OF ONE』2006
- Army of One
- Knockin’ at My Door
- Blinded
- One More Alibi
- It All Falls Down
- Helpin’ Hand
- The Mystic
- Still Alive
- Alive in the City
- Shine
- Stained Mirror
- Darker Side of Light
- Road Racin’(live)[bonus]
<メンバー>
Mark Reale(Gt)
Mike Flyntz(Gt)
Pete Perez(Ba)
Mike Dimeo(Vo)
Frank Gilchriest (Dr)
2005年9月の来日を経ての新作。正直なところ期待と不安が半々だったように記憶します。来日はMike Tirelliが歌ったが正式ヴォーカルはMike Dimeoのままだ、という説明もよくわからなかったし。こんな風にシンガーの座が不安定な状態でどうやって作品をまとめるのだろうか?それに、ニュー・ドラマーの腕前は?……
おっかなびっくり再生ボタンを押すと、予想に反して力感あるスピードナンバーが飛び出しました。“♪The battle has not yet begun, we’ll tear out the hearts of all those suppress us……”なんていう歌詞が登場する、珍しく戦闘的な「Army of One」。Mike Dimeoの歌唱は、この類型の楽曲については史上最良ではないでしょうかね。彼は超ハイトーン・ヴォーカリストではありませんが、抑揚をつけた歌いこなしを披露してます。
次に、新ドラマーのFrank Gilchriestですが、この人もなかなか達者なプレイを繰り出します。勢いを活かすべき時は軽快に、タメを効かすべき時は重厚にっていう、ヘヴィメタルというよりはハードロックの美学が身についてる感じ。この人は楽譜の読み書きができるとかで(たしか)、Riotの複雑な楽曲――ボビーさんのせいですな……――も自分で研究の上会得したんじゃなかったですかね。(最近出たRiot Vのライヴ盤『LIVE IN JAPAN 2018』でもその成果が聴けます。)Pete Perezのベースとの相性もよさそう。ギターはもう言うまでもなし、名人芸の世界で――私は‟Mark Realeを人間国宝に認定しろ“とかねて申し上げてます――ありますが、この曲では「ソロ」のところでテンポを落とし、ワウを効かせたフレージングを多用してるのが面白い。
てっきり、前作『THROUGH THE STORM』のようなハードロック路線に進むのかと思っていたら、メタリックに攻めてきたのでびっくりしましたね。「音」のほうは、プロデュースとエンジニアリング・ミキシングにBruno Ravelが参画しているので安心の高品質。Brunoは、本作ではキーボードとバッキング・ヴォーカルでも助力してますし、Tony Harnellもこれまで同様バッキング・ヴォーカルで協力。Westworldの仲間が好サポートしてくれてて嬉しい限り。
さて2曲目「Knockin’ at My Door」は面白い曲。こういうリズムパターンてあんまりなかったんじゃないかな。‟四角いシャッフル“っていうか、スクエアなのに弾んでるの(?)。フランクさんのバスドラワークが心地好い。ヴァースのところは抑え気味にうたっといて、“♪You see what you wanna see……”のところから一気に開放的になる歌の展開も素敵だ。ギターソロ前半は割とブルージーな弾きのコンテストなんですが、後半でお家芸のメロディアスなツイン・プレイに自然にリンク。曲終盤でかぶさってくる鍵盤もさり気なくていい感じだし、フランクのライド打ちがまたいいのだ。個人的にかなり好きな曲ですな。
次の「Blinded」はディメオさん時代Riot流の正統楽曲。ブリッジからコーラスのところの展開と、歌メロの感じは「いかにも」。続く「One More Alibi」がかつての「Soldier」風のリフを持つこともあってか、この辺は懐かしさを感じさせますかね。ただ、後者などやはりコーラスのところの開放感は従来作以上で――Westworldでの探究が活かされたと言ったら穿ち過ぎですか?――あります。“♪I’ll give you, another piece of time to tell you”なんていうあたりはグッときます。ディメオさんの表現力というか説得力は見事。
「It All Falls Down」の、銃を連射するみたいなリフの畳みかけは、Riotにはちょいと珍しい。コーラスにあたる部分のリズムパターンも16分のバスドラと4分のベースの組み合わせによる些かヘヴィなものですが、その上の歌はメロディアスなのがRiot流です。ギターソロの一部に耳を凝らすと、マーク・リアリの運指の癖が出てきたりしてホッとしたりね。
6曲目は器楽+ギターソロから始まる「Helpin’ Hand」。抑え目のテンポでヘヴィに迫るのかと思いきや、コーラスのところでは『THE BRETHREN OF THE LONG HOUSE』あたりで完成の域に達した美旋律バラードみたいな歌い上げが聴けたりするから、油断ならない。ギターソロも、名人芸の劇的ヴィブラートがこれでもかと繰り出されるのであった。Riotはいつもおんなじような曲ばかり書いてると思ったら大間違いですよ。
なんていいながら、次の「The Mystic」は明らかに「Thundersteel」や「Dragonfire」を踏まえたお約束のスピードナンバーなんだけどさ。むかし(アルバムを買った当初)はこちらもメロパワとかが大好物だったのでこの曲なんかに反応してたんですが、いまアルバムを通して聴くと、これなんかはオマケになりますね(極論すればね)。ギターソロに関して、速いパッセージの引き出しはMike Flyntzの方が多彩なんだなあと思ったりしますが……いつものパターンだとわかってても彼らのツイン・フレージングにはやられてしまうなあ。楽曲の尺が少し長いです。
うってかわってヘヴィなリズムで進む「Still Alive」は、Riotらしくはないけど、イイですな。フランクの太鼓と金物の繰り出し方が巧みなのが、ピートのテクニカル・ベースとうまく調和。ソロ前半のパートはリアリ色全開で、そこから研究熱心なフリンツに引き継ぎ。こういう曲だと歌がダレがちにもなりますが、いまやヴェテランの域のディメオさん、間投詞“♪Oh~/yeah~”こそやや多いものの、テンションを保って歌いきってくれます。
次の「Alive in the City」には、Andy Aledortという方がセカンド・ギターソロでゲスト参加していますね。ギター雑誌で執筆・編集したり、ギター教則の作品を多く出したりしている方のようです。楽曲は、スライド・ギターをフィーチュアしたイントロから始まる、ちょっとだけ「Outlaw」っぽいというかウェスタン趣味を感じさせる曲。シンプルなリフで引っ張る感じなんですが、メタル的でないテイストが面白く、聴き入っちゃうと7分過ぎちゃう。スライドの名手と思しきアンディさんに触発されたのかどうか、マーク(だよね?)のソロもスライド・プレイ全開で興味深い。「マーク・リアリっていう人はギタリストとして過小評価されている」っていうのは全世界のRiotファンの共通認識だと思うけど、この曲なんかを聴くとホントにそう思いますわ。
些か勿体ぶった始まり方をする10曲目「Shine」は、実は疾走曲なのでした。おお、これなんかは従来楽曲焼き直し感のあまりない、創意の感じられるナンバーじゃないですか。メリハリの効いた展開、強度のあるバッキングに負けないタフなヴォーカル、終盤に掛かるほのかなストリングスの味わい……ステージで再現はしにくそうだけど、Riotはまだまだ進歩するぜ!っていう気概に溢れてると思いますね。
インストゥルメンタルの「Stained Mirror」は、まずアコースティックギター+キーボードをバックに、エレクトリック・ギターがソロでメロディを奏でます。「Inishmore」や「Isle of Shadows」の路線ですか。終盤というか後奏がやや長めで、そこからの余韻とクロスしながら次曲が始まります。アルバムを締めくくる「Darker Side of Light」、オーソドックスなロッキング・ソング。特に走りもしない、捻りの少ない8ビートの楽曲をきっちり仕上げるのがハードロック時代の地力あるバンドの力量でしょう。フランクとピートの技がほのかにスリルを加味し、一方でディメオさんが朗々たる歌を――重た目の歌詞を載せて――歌う。いかにも真面目な曲だ。
最後はボーナストラックで、1998年の川崎でのライヴ音源。ライヴアルバム『SHINE ON』を録音したのと同時期のもののはず、従ってドラマーはBobby Jarzombekさんです。曲自体が名曲なのはいうまでもないからいいとして、Guyの曲を歌うMikeというのが新鮮ですよね。合ってるかはさておき……。この曲はマーク・リアリのロングソロが聴けるわけですが、その後のパートがここでは比較的尺の長いベースソロ(ピートさん)。次いで、マイク・ディメオの煽りによる聴衆とのコール&レスポンス。再びギターソロ(掛け合い)に突入して、最後は「Killer」(『THE PRIVILEGE OF POWER』)のソロ末尾のフレーズを合奏して終わり。
なお、アルバムの内側(ジャケット)には、Riotの初代ヴォーカルであったGuy Speranzaの写真と、彼の思い出を語るマークの文章が載っていました。
「ガイに初めて会ったのは1975年の夏。カヴァーバンドで歌ってたガイを観た時、“彼と一緒にやれればきっとうまくいくぞ”と思った。じっさい、色んな困難があったけど乗り越えて、Riotは多くのファンを獲得できた。81年の末頃、ガイは家族と暮らすことを選択してバンドを去った。94年には久しぶりに再会し、歌のアイディアを交換したりして「リユニオン」の話もしたりしたんだが、結局実現しなかった。……2004年11月に彼は亡くなってしまったんだ。それを聴いたときは信じられなかったし、自分の青春の一部が失われてしまったと感じた(I felt another piece of my youth was gone.)。ガイは控え目なやつで、尊大なところなんて全然なかった。そして、非常に才能豊かで、唯一無二の声を持ってた。彼が亡くなって本当に悲しい。この作品を、旧友の記憶と遺産に捧げたい。云々」(大意)
前作ではGeorge Harrisonへの追悼を述べていましたが、こんどは同世代の友達・仲間を送らねばならなくなったというのはつらかったのではないでしょうか。そんな中でもこれだけの力作――過去の焼き直しに終わってないという点わたしはすごくいいと思うんですけど――を仕上げたんですから、マーク・リアリと仲間たちはやはり立派な「音楽の僕」ですよね。