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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

Riot特集:時系列全作品紹介(8)『NIGHTBREAKER』

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Riot『NIGHTBREAKER』1993

  1. Soldier
  2. Destiny
  3. Burn
  4. In Your Eyes
  5. Nightbreaker
  6. Medicine Man
  7. Silent Scream
  8. Magic Maker
  9. A Whiter Shade of Pale
  10. Babylon
  11. Outlaw
  12. Black Mountain Woman [bonus]

<メンバー>

Mark Reale(Gt)

Bobby Jarzombek(Dr)

Mike Flyntz(Gt)

Pete Perez(Ba)

Mike Dimeo(Vo)

 

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 前作からあいだが空いているのは、メンバーチェンジがあったからでしょう。ただし、ギターのMike Flyntzは『THUNDERSTEEL』期の来日公演にも帯同していた人ですし、Pete Perez(Ba)も二度目の来日でサポートに入っていた人。まったくの新人となるのはヴォーカルのMike Dimeoですが、彼もTony Moore期にキーボーディストとして加わっていたとのことです。Dimeoさんは、トニーの脱退をうけてリード・ヴォーカルにコンヴァートとなりますが、おそらく重要だったのはソングライティング力。おいおい述べて参りますが、Mike Dimeoはパワーメタル・シンガーではないので前任者の遺産を扱うのには苦労したと思いますが、それを補って余りある楽曲制作力(シリアスな歌詞も書ける)がMark Realeの眼鏡にかなったのでしょう。……とはいえ、本作の時点ではまだ彼が作曲に関与したものは多くないのですが。

 

 あと、実は重要だったのではと思われるのが、マイク・フリンツの参加です。すでにソロの相当の部分を任されていたりしますし、マークが最後まで信頼してギター・パートナーとしただけのことはありますね。マイクの最近のインタビューによると、マークはRiotの楽曲の弾き方や作曲のコツ、ギターソロの構築法などいろんなことを丁寧にマイクに教えたんだそうですけども、人柄的にもウマが合ったんでしょうか。ライオットの面々はほとんどみんなそうだけど、真面目ないい人なんだよなあ。

 

 早速両者のコンビネーションが聴けるのが、冒頭の「Soldier」。「Thundersteel」あたりとは違った手触りなのは、ヴォーカリストの交替もあって当然ですが……武骨でありながらメロディアスというあたりは彼ららしい(作曲はMark Reale単独)。ソロはバトル形式で交互にとった後、きっちりハモるなんてのもお家芸でございます。録音がやや籠っているので、リズムセクションの仕事が聴こえにくいのは些か残念ですが、BobbyとPeteの相性も完璧。後に数学的プログレバンドSpasitic Inkで両雄(+Ron Jarzombek)のバカテクが炸裂いたします。この曲はDimeo期のライヴでよく演奏されましたが、本人たちも手応えがあったのでしょう。

 

 次がMike DimeoとMike Flyntzの共作になる疾走ナンバー「Destiny」。フリンツさんは、「自分のような若造にも曲を書くよう励ましてくれたマークには感謝してる」とやはり最近言ってましたね。『THUNDERSTEEL』期のDon Van Stavernもそうでしたが、マーク・リアリ先生は有望な若手を育てるのも上手だったんだねえ。さてこの曲は、爽やかな疾走感が心地好いのと、単純な曲の後ろでボビーさんがお得意の細かい技を繰り出してるのとが聴き所。ギターソロ後半のドラマティックな展開もなかなか。マイク・ディメオのヴォーカルも若々しい感じでいいんじゃない。

 

 本作はカヴァーが3曲もあるのですが、その一がDeep Purpleの「Burn」。まあ、彼ら(特にMark Reale)はDeep Purple好きでしょうから、選曲的には驚きはないかな。ディメオさんはタイプ的にはDavid Coverdale系のブルージー・ヴォーカリストですから、そこもまあ良し。(突き抜ける高音がキモのGlenn Hughesパートは、ちょっと違和感あるけど。)あとは、鍵盤レス・ギター二本で再演なので、ソロ部分の印象が変わっていますかね。原曲ではJon Lordがオルガン・ソロを披露していた部分では、フリンツ・ソロからダブル・ギター(ハモリ)に突入する風にアレンジされてます。ディメオ期ライヴでもよく上演されました。

 

 Reale/Dimeoの作になる鍵盤バラードが次の「In Your Eyes」。キーボードはディメオさんが弾いている。特に捻りの無いオーソドックスなナンバーですが、マイク・ディメオの(トニー・ムーアとは違う)うたが素直に良い。泣きのギターソロはマークによるものでしょう。

 

 前曲の静謐さとの落差も大きな「Nightbreaker」は、本作中でも屈指のスピードナンバー。Mark Reale作。フリンツさん(最近)によると「難しい曲なんだよねえ」とのことですが、確かにギターソロは割とカッチリしてて崩せなそう。イングヴェイほどじゃないですがネオクラシカルな速弾きも登場。コレをステージで再現してたんだから、90年代末のライオットはテクニカルだった。

 

 「Medicine Man」もリアリ作品。ドラッグの売人のことをテーマにしてるとか。ゆったりしたシャッフル調自体はそこまで珍しくないにしても、ソロでこれだけスライドギターをフィーチュアしたことはないんじゃないかな。いま久し振りに聴いたら、このブルージーな味わいもなかなかいいじゃないの。インテンスなスピードメタルよりもこういう曲でディメオさんの声質と節回しが活きますね。

 

 なんて言っていると、リアリ/ディメオ/フリンツの共作になる「Silent Scream」がスピード曲なんですがね。コーラス・パートでテンポを落としてキャッチーな明るい調子のメロを聴かせるなんていうのは前作・前々作とまた違った味わいで悪くない。フリンツ→リアリ→ハモりのソロパートもこなれて来たね。

 

 「Magic Maker」はリアリ単独作の8ビート・ロッカー。“♪Take me home, magic maker……”というコーラスがキャッチー。こういう曲が意外としっかりライオットにはあるんですが、忘れられやすいのね。勿体ないことです。ちなみに、この曲と「Medicine Man」は、Mike Dimeoが正式にリードヴォーカリストに収まる前にHarry “The Tyrant”Conklinをゲストに迎えてデモが作られていました。

〔大事なことを聴き逃がしてました!楽曲がフェイドアウトしていく際に反復されるメロディがあるのですが、これはかつての作品「You Burn in Me」(『BORN IN AMERICA』所収)のメイン・リフとそっくりですね。2020.6.24追記〕

 

 カヴァーその二、英国アートロックの最高峰Procol Harumの「A Whiter Shade of Pale」(邦題:青い影)でございます。原曲通りオルガンも入っていますし、泣きのギターも悪くないし、ディメオさんも入魂の歌唱といえるのですが……神懸っているオリジナルには矢張りかなわないかなあ。HR/HM好きの方は、HSASHagar, Schon, Aaronson, Shrieve)のヴァージョン(アルバム『THROUGH THE FIRE』1984)所収)もチェックしてみるといいですけど……アレでもやっぱり違和感はあるもんなあ。

 

 カヴァーが多いと、「オリジナルが作れないからじゃないの?」と勘繰りたくなるもんですが、Mark Realeの自作曲は決してクオリティが落ちたわけではない。例えばこの「Babylon」、メインリフはなかなかフックがあるし――後にこれをちょっと変えて「Whiskey Man」なんてのも作る(?)し――、起伏のある歌メロは魅力的だし、何といってもスリリングなギターソロが素敵。別に凄技披露してくるわけじゃなくて、実にオーソドックスな弾きなんですが、コードの展開(転調)や緩急のつけ方で「オッ!」と思わせるのである。

 

 最後はセルフ・カヴァーの「Outlaw」。『FIRE DOWN UNDER』に収録の名曲ですが、楽曲自体はわりと素直にカヴァー。イントロに、ウェスタン風(?)の導入部分がついてるのが特色かな。曲自体は『THUNDERSTEEL』期以来もライヴでやっていたりするので、お手の物。Mike DimeoがGuy Speranzaの曲を歌うとどうなるか、っていうあたりがポイントでしょうけど、意外にふつう(無難)。後奏に長いギターソロをフィーチュア。

 

 12曲目は日本盤ボーナストラック「Black Mountain Woman」。ミドルテンポのやや地味な曲。ヨーロッパ盤にはこれと「A Whiter Shade of Pale」が入っておりませんで、代わりに「I’m on the Run」という曲がボーナス扱いで入っています。(どういう経緯かわかりませんが、「I’m on the Run」の末尾にはRhett Forresterの声が入れられてる。もしかすると、同年に亡くなったレットへのトリビュートのつもりかもしれないけど。)

 

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たしか『NIGHTBREAKER』は、リアルタイムではアメリカ盤が出なかったはず。ジャケットも日本盤の「オレンジ地にトリ(鷲か鷹?)のシルエット」から、ヨーロッパ盤の「人喰いザメみたいなやつ」、数年後に出たアメリカ盤の「薄暗い地のまん中上方に白アザラシのジョニー君の丸顔フィーチュアしたの」とまちまち。どれがオリジナルなんだよ。ひょっとするとこの頃からマネージメント(Steve Loeb)とはうまくいっていなかったのかもしれませんな。

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