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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

特集:このドラミングがすごい③Jerry Shirley(2)

 では、ハンブル・パイ関連からまず参りましょう。

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<名演紹介>

(1)Humble Pie『PERFORMANCE:ROCKIN’ THE FILLMORE』(1971)

  1. Four Day Creep
  2. I’m Ready
  3. Stone Cold Fever
  4. I Walk on Gilded Splinters
  5. Rollin’ Stone
  6. Hallelujah (I Love Her So)
  7. I Don’t Need No Doctor

<メンバー>

Steve Marriott(Vo, Gt)

Peter Frampton(Gt, Vo)

Greg Ridley(Ba, Vo)

Jerry Shirley(Dr)

 

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 まず何か一枚、と言ったらやはりこれですかね。オリジナルHumble Pieの最後の輝きをとらえた実況盤。(この後フランプトンさんは脱退しソロ活動へ入ります。)このバンドは、元Small Facesのスティーヴ+元The Herdのピーター+元Spooky Toothのグレッグ+若手ホープのジェリーからなるいわゆるスーパーグループだったのですが、当初は方向性が定まらず――やりたいことがいろいろあったのでしょうが、フォークっぽかったりR&Bっぽかったりといったものが混在していてわかりにくかった――突き抜けたポピュラリティを得られていなかったのですが、本作で熱いロックを繰り広げてみせたことにより見事に殻を破りました。数あるロックの名ライヴ盤の一つにも入れられる作品ですね。

 

 Humble Pie=スティーヴのバンド、という見方は、この時期には実は当てはまりません。勿論彼の唯一無二のソウルフル・ヴォイスがバンドの絶対的個性であることは間違いないのですが、ピーターのクールなギター、グレッグの力強いヴォーカル、そしてジェリーの包容力あるビッグビートが組み合わさったバンド芸術こそがポイントでした。

 

 冒頭の「Four Day Creep」で端的にそれが味わえます。一番を歌うのはグレッグ、二番がピーター、間奏をはさんで三番がスティーヴと、3人の個性的な歌。器楽的にはシンプルな曲ですがリフのキメが多く、二本のギターの絡み、タフなベースのフレージングも満喫出来ます。そしてドラム、スウィング感もフレーズごとの運びも実に自然で、思わず乗せられてしまいます。こういうドラミングが出来るようになりたい。楽曲のクレジットはIda Coxとなっていますが、ほとんど同名異曲のような感じでして、ハンブル・パイのオリジナルに近いのではないかと思います。バンド史上も、ここまでハードなロックソングはそれまでなかったのではないかと。むしろこの曲あたりのイメージを持って彼らのファーストアルバムを聴いたりすると、テイストの違いに驚くことになります。(ファーストはもっとフォークっぽかったりブルーズっぽかったりしていてあまりハードではない。私は驚きました。)

 

 スティーヴの本領発揮のヴォーカルから始まる「I’m Ready」は、ヘヴィ・ロックに仕上がっています。Montrose「Rock Candy」はこれに影響を受けてんじゃないでしょうか。いや、ホントに雰囲気が近いなあ。ジェリーさんのタメの効いたドラミングがまず素晴らしい。スティーヴの歌が神懸ってるのも凄いですが、ピーターのギターソロも美味しい。彼はオーソドックスなブルーズのスケールにちょっとジャズっぽいテイストを加えてるんではないかと思うんですが、他の同時代ギタリストたちとは異なる味わい有りです。私の好きなAlvin  Lee先生もそうですが、‟ジャズをどこかにもってる”プレイは人を飽きさせません。

 

 このアルバムの楽曲は、元は他のアーティストのもの(マディ・ウォーターズとかレイ・チャールズとか……)が多いのですが、次の「Stone Cold Fever」は、バンド4人の共作。前作『ROCK ON』に収録されていたナンバーですね。リフ主導のこれまたハード・ロックですが、間奏はグレッグさんのベース・ランも忙しいジャジーな展開に。スタジオ版の作り込みも良かったですが、鬼気迫るこのライヴ版も凄い。

 

 「I Walk on Gilded Splinters」はなんと20分を超える長尺作品。原作はDr.Johnによるもので、それでも7分以上あったんですが、3倍以上に。といっても、プログレ的な展開(組曲)というよりは、各メンバーの見せ場をつなげていくとこんな長さになった、という感じで、どちらかというとCanned Heatが得意としたロング・ブギーのようなものに近いかなと。グレッグのベースソロや、スティーヴのハーモニカ・ソロも聴けます。その間、多少のリズムチェンジも引き受けながら、楽曲の背骨を貫いているジェリーさんドラムはやっぱり凄い。

 

 次の「Rollin’ Stone」も、16分に及ぶヘヴィ・ブルーズ。Muddy Watersの曲ですね(これも原作はこんなに長くない)。この辺りの曲はスティーヴがメインで歌って、ブルーズ・ソウル寄りの声を活かしてますね。

 

 いささか重い曲が続いた後にこの「Hallelujah(I Love Her So)」を聴くとずいぶんポップな印象を受けますが、原作Ray Charlesのこの名曲も、彼らの手にかかるとやっぱりハードロックにされちゃう。ここでは三人衆のヴォーカルが交替で聴け、ピーター得意のフレージング(ギターね)も全開。後半弦楽器をとめて太鼓と歌だけになるあたりでは、ジェリーの軽やかなスネアさばきも賞味できますね。

 

 ラストの「I Don’t Need No Doctor」もレイ・チャールズ版で有名な曲。彼ら、特にスティーヴはこれが大好きみたいで、ハンブル・パイが終わった後のソロ活動時代にもよく歌ってました。レイ版はホーンと女声コーラスの入る軽快なナンバーなんですが、これまたリフをギターで置き換えたパイ版はハードに仕上がっております。疾走感もある。入魂の歌唱、聴衆への煽り、太くうねるベース、推進力を与えるドラム、個性的なギターソロ……これまた集大成的な一曲になっております。

 

 フィルモアでのコンサートは実は数回録音されていて、本作は一回のステージではなくて「良テイクを選んで並べた作品」だったそうです。近年、そのコンプリート版(『PERFORMANCE:ROCKIN’ THE FILLMORE The Complete Recordings』CD4枚組)が出まして全貌が知れたのですが、同じ曲でもまったく同じようには演奏していなかった(各回の工夫がある?)ようなのですね。ホントにスゴいライヴバンドだったんだなと思います。

 <続く>