冒頭の「Four Day Creep」で端的にそれが味わえます。一番を歌うのはグレッグ、二番がピーター、間奏をはさんで三番がスティーヴと、3人の個性的な歌。器楽的にはシンプルな曲ですがリフのキメが多く、二本のギターの絡み、タフなベースのフレージングも満喫出来ます。そしてドラム、スウィング感もフレーズごとの運びも実に自然で、思わず乗せられてしまいます。こういうドラミングが出来るようになりたい。楽曲のクレジットはIda Coxとなっていますが、ほとんど同名異曲のような感じでして、ハンブル・パイのオリジナルに近いのではないかと思います。バンド史上も、ここまでハードなロックソングはそれまでなかったのではないかと。むしろこの曲あたりのイメージを持って彼らのファーストアルバムを聴いたりすると、テイストの違いに驚くことになります。(ファーストはもっとフォークっぽかったりブルーズっぽかったりしていてあまりハードではない。私は驚きました。)
「I Walk on Gilded Splinters」はなんと20分を超える長尺作品。原作はDr.Johnによるもので、それでも7分以上あったんですが、3倍以上に。といっても、プログレ的な展開(組曲)というよりは、各メンバーの見せ場をつなげていくとこんな長さになった、という感じで、どちらかというとCanned Heatが得意としたロング・ブギーのようなものに近いかなと。グレッグのベースソロや、スティーヴのハーモニカ・ソロも聴けます。その間、多少のリズムチェンジも引き受けながら、楽曲の背骨を貫いているジェリーさんドラムはやっぱり凄い。
いささか重い曲が続いた後にこの「Hallelujah(I Love Her So)」を聴くとずいぶんポップな印象を受けますが、原作Ray Charlesのこの名曲も、彼らの手にかかるとやっぱりハードロックにされちゃう。ここでは三人衆のヴォーカルが交替で聴け、ピーター得意のフレージング(ギターね)も全開。後半弦楽器をとめて太鼓と歌だけになるあたりでは、ジェリーの軽やかなスネアさばきも賞味できますね。
ラストの「I Don’t Need No Doctor」もレイ・チャールズ版で有名な曲。彼ら、特にスティーヴはこれが大好きみたいで、ハンブル・パイが終わった後のソロ活動時代にもよく歌ってました。レイ版はホーンと女声コーラスの入る軽快なナンバーなんですが、これまたリフをギターで置き換えたパイ版はハードに仕上がっております。疾走感もある。入魂の歌唱、聴衆への煽り、太くうねるベース、推進力を与えるドラム、個性的なギターソロ……これまた集大成的な一曲になっております。
フィルモアでのコンサートは実は数回録音されていて、本作は一回のステージではなくて「良テイクを選んで並べた作品」だったそうです。近年、そのコンプリート版(『PERFORMANCE:ROCKIN’ THE FILLMORE The Complete Recordings』CD4枚組)が出まして全貌が知れたのですが、同じ曲でもまったく同じようには演奏していなかった(各回の工夫がある?)ようなのですね。ホントにスゴいライヴバンドだったんだなと思います。
「I Can’t Get over You」は、明るい調子のゆったりシャッフル。ラリーさんのハスキー度合いがもっと進んだらHuey Lewisみたいな感じかもなあ。オルガン風味の鍵盤音色があたたかい雰囲気。コーラスのコード感も爽快。ブルージーな中にも速弾きを盛ってスリルを演出するトリスタンがやっぱりいい。
トリスタンさん単独作の「Take These Chains」。ギターバリバリのハードロック……ではなくて、ピアノから静かに始まるバラード。ラリーさんのヴォーカルを活かす劇的なメロが用意されててこれまた〇。“♪Take these chains……”。デイヴ・ローゼンタールさんのピアノはこの曲でじっくり聴けということかな。
SE風のキーボードから壮大なイメージで幕を開ける「She’s on Fire」。テンポこそゆったりですが、甘さより硬質さを感じさせるハードロック。こういう曲のテンポ刻みで光るグレッグのベースと、名手チャックのドラミング。前曲では遠慮気味だったギターが炸裂、フラッシーなプレイを披露。歌やメロディは抑えた感じで最後まで。
ラストの「Never Say Surrender」は、冒頭の「Flyin’ High」と呼応するかのようなアップテンポのナンバー。“♪Never…say surrender……”。コーラスのトコロで転調して爽なパートへ持ち込むのが豪快。この曲でもデイヴの煌びやかなキーボードソロが聴けます。
1952年生まれのシャーリーさんは、早くからドラムをプレイしていたといいますが、世に出たのはSteve MarriottたちのHumble Pieに加わってから。当時17歳!……そうか、私が感銘を受けた「Natural Born Woman」なんかは、十代のプレイだったんですよね。Humble Pieっていうとスティーヴのバンド、というイメージがつよいと思いますし、楽曲やパフォーマンスに関しては確かにそうなんですが、バンドの暖簾を守っているのは実はシャーリーさんだったりするんですね。彼のみが――スティーヴや、ベースのGreg Ridleyが亡くなってしまったというのもありますが――ハンブル・パイにずっと居るのです。
当ブログ第17回(4)で挙げたうちの『ONE MORE TIME FOR THE OL’ TOSSER: Steve Marriott Memorial Concert/London Astoria 2001』は、タイトル通りスティーヴ・マリオットへの追悼コンサートの記録でして、Paul WellerだのNoel Gallagherだのといった“若手”(?)ゲストのほかに、Ian McLaganやKenney Jonesといった元同僚なんかも顔をそろえた会合だったのですが、ここにHumble Pieも登場(CD3枚組のうち2枚目)。Peter Frampton+Clem Clempson+Greg Ridley+Jerry Shirleyという、黄金のパイを支えた面々が「Four Day Creep」「Natural Born Bugie」「Hallelujah I Love Her So」「Shine On」「I Don’t Need No Doctor」を披露しました。(何曲かは、Youtubeでも観られるようです。)
野太く漢らしいGregのヴォーカルでスタートする「Four Day Creep」は、亡きSteveのパートはClemさんが歌います。Peterのクールなソロも健在。Jerryさんも、“切れ味鋭い”とはいえませんが、円熟味を増したグルーヴを叩き出します。
お次は、初期の名曲(ながら、あまりライヴ記録が残っていない)「Natural Born Bugie」。眼鏡をかけたジェリーさんが淡々と8ビートを推進するのが渋くてカッコいい。この曲はクレムさんのソロが先攻、さすがの腕前に惚れ惚れ。終始ニコニコしてるピーターさんがキュート……だけど、終盤ではきっちりお得意のソロを決めます。
Ray Charlesのナンバーで、スティーヴも好んでいた「Hallelujah I Love Her So」。これもやらないわけにいかないでしょうね。この曲、The Animals、The BeatlesやGraham Bondなんかもカヴァーしてまして(これらは手元にありました)、ビートロック風ありジャジースウィング調ありなんですが、Humble Pie版がやっぱり一番ハードですね。この追悼ヴァージョンでは、終盤でピーターがトーキングモジュレータを使って聴衆とのコール&レスポンスを楽しんでます。
最後は「I Don’t Need No Doctor」、これまたスティーヴが大好きだった曲。弦楽器のユニゾンによるリフがヘヴィな疾走感を醸し出す名曲。スティーヴの声が無いぶんはみんなでフォローしますが、特に現役感バリバリのピーターの頑張りが素晴らしい。ベースソロあり、ギターバトルあり、観客への煽りありで大盛り上がり。そのすべての基礎は名手ジェリーさんによるものですよ。
『ARMY OF ONE』発表後、Mike Dimeoは脱退(Masterplanに加入・専念の為)しました。Mike Tirelliが後任となるという告知があった気がしますが、その実現の前に「Thundersteel Reunion」という企画が動き出すことになったため、ティレリさんは音源を残していません。2008年は『THUNDERSTEEL』の発表から20年ということで、当時のラインナップ(+Mike Flyntz)が再集結することになったのです。
Bobby Jarzombekは元Riot組ではおそらく一番の出世頭で、メタル・プログレ界隈では引っ張りだこの名ドラマーになっていましたから、おそらくスケジュールさえ合えば問題なかったでしょう。
ベースのDon Van Stavernは、かつてのRiot脱退後はメタル表舞台では見かけなかったのですが、インダストリアル系のPitbull Daycareなどで活動していたのでした。Riot関連音源は何でも欲しい小生、今は亡きHMV(たしか渋谷)でPitbull Daycare『UNCLEAN』(2004)を発見・購入し聴いたものです。音楽的には私の趣味には合わなかったんですけど、DVSが確かに音楽をやってることがわかってちょっと安心したものです。
たぶん一番のネックはTony Moore。Riotの後はほとんど音楽ビジネスから退いていたように聞いていたので……。とはいえ、当ブログ(第37回「Faith And Fire」(1))でも取り上げましたFaith And Fireというプロジェクトで2007年に突如(?)私たちの前にカムバックを果たしており、そこではMike Flyntzとも同僚だったので、Riotに関わってくることは無理筋ではなかったよう(だと後からわかるのですが)。
そして待望の新作音源を待つことになるわけですが、これはなかなか出ませんでした。確か、「Wings Are for Angels」だけ先行リリース――コンピレーションに入るような形で――があったように記憶しますが、アルバムの形で登場したのは2011年の秋のことでした。いやー、ホントに待ちましたよ。(トニーが脱退したとか、帰ってきたとか、真偽不明の色んな情報も飛び交ってたのよ。)
例えば冒頭の「Riot」。史上初めてバンド名が曲名になったわけですが(Iron MaidenとかBlack Sabbathとかと逆パターンですな)、これが隙の無い名曲。アタマにオーヴァーチュア的なギター主導のイントロが鳴ると、「Thundersteel」をさらに展開させたような高速リフと疾走リズムが加わって本編開始。まず耳が行くのは、必殺の字余りリリックも交えながら炸裂する、トニーのハイトーンヴォイス。“What’s it gonna take to make you riot ?”のコーラスも良いよね。マークとマイクのギター部隊の鉄壁さは言わずもがなですが、些か古風なツインのキメ・フレーズにしても、アグレッシヴなリフィングにしても、ヴェテランが作る正統派パワーメタルのまさにお手本。テクニカルに迫るソロも決まってる。そして最も素晴らしい――と私が思った――のが、ボビーさんのドラミング。いまやRiotよりビッグなバンドもテクニカルなバンドも経験済みだと思いますが、このアルバムでは全力で出し惜しみなくプレイしてくれてます。ヴァースの裏のフットワークの細かさ、金物の鳴らし方の繊細さ、音の切り方の巧さ……超一流というほかない。3分50秒辺りからの、タムを入れたフレージングも速さと重さを両立させたスーパープレイ。こんなのを涼しい顔で(ついでに両足裸足で)演るんだからとんでもないお方じゃ。私は、Mark RealeはWestworldとRiot(2005)で観たことがありますが、ボビーさんだけは生で観たことがないのよね。Spastic InkとかFates Warningとかで来日してくれませんかね。
というわけで、「Riotってどんなバンド?」って訊かれたら、従来なら「Warrior」とか「Swords And Tequila」、あるいは「Thundersteel」を聴かせるところだったと思いますが、新しい時代では「Riot」を聴かせるのがいいやな、って思えるくらい。DVSとトニーの共作。
2曲目「Still Your Man」は、“♪Hey Johnny, brother take may hand. I remember I am still your man.”などと歌われる、「Johnny’s Back」の続編みたいな(?)楽曲。いきなりのドラムソロも凄いことになってますが、ベースがリードするあたりがあの曲に似てる。DVSのベースは、音の像がピート・ペレツと対照的な気がします……Pete Perezは硬質な音で細かな動きを粒立ちによって聴かせる感じだったんですが、ドンさんは音の粒を立たせずに全体を包むようにしてる気がするんですね。これはRiot V時代に入っても同じ。起承転結の練られたギターソロもナイスですが、これはMike Flyntzのお手柄。
「Wings Are for Angels」は、アルバムより前に、『ONE FOR ALL, ALL FOR ONE』(2011)という「東日本大震災チャリティ・アルバム」に入って世に出ていました。Flyntz/Moore作、「Riot」に続くスピードナンバーで、ボビーさんのバスドラが心地好すぎる。トニーによるシリアスな歌詞は磨きがかかって、響きも美しい。スリリングなギターソロもナイス。マーク・リアリの流儀に倣って、三番ではオブリを其処此処に挿入するマイク、堂に入ってます。フリンツさんもこの曲は自信作みたいで、Riot Vになってからも演奏し続けていますね。あ、ボビーさんのタム回しが最高っていうのも付け加えとく。
ヘヴィなリフィングで幕開けるミドルテンポの5曲目「Fall Before Me」。途中で転調していくギターソロのパートや、トニーによる多重ヴォーカル(ほのかに)が聴き所かな。おもいのほか起伏に富んだメロディラインでもあるね。
ここでまた比較的ストレートな疾走ナンバー「Sins of the Father」が来ます。この曲、わが(勝手に決めた)黄金の方程式「Riot+3分50秒=名曲」にあてはまるのでありますが、如何。DVS/Moore作。トニーが抑えるところと張るところをうまく切り替えるのもメリハリを生んでますが、短い曲の中でドラマを強調してるのはやっぱりフリンツさんの起承転結ギターソロかもね。
次の「Majestica」はFlyntz作の短いインスト。アルバムのオープニングなんかに使われそうな感じの序曲っぽさ。LPならB面の幕開けなんですかね。そこから次の「Immortal Soul」は続けて聴くと劇的で良いね。アルバムの題名にもなったこの曲、Reale/Moore作でした。ここで漸くリアリ作品が登場。古き良きハードロックを感じさせつつも、硬派なメタルミドルに仕上がっております。聴き所はギター・ソロの後半。Riot歴二十年余りの小生なけなしの意地にかけて申しますが、ここ「だけ」がたぶん本作中Mark Realeの手になるソロ。“♪One more immortal soul……”に始まるコーラスをトニーが歌いきった後、2分15秒辺りから、まずマイクがフックのあるコンパクトなソロを披露します。2分30秒辺りから、転調するバックを背景にソロが交替――実は音質もよく聴くと違う――しまして、ひときわ粘っこいプレイがあらわれる。スピードは抑え目、絶妙のタメとヴィブラート、弦二本を絡めたお得意のフレーズ……これぞ「マーク・リアリ印!」な名プレイ。さきほど述べたようなわけ(体調)で、本作ではマークのプレイ自体はほとんど聴けないのですが、ここがあるからやっぱりこのアルバムはマーク・リアリの作品なのだ。他のメンバーもそれがわかってるからタイトルナンバーとして立てたんじゃないのかな。
「Insanity」はFlyntz/Moore作の疾走楽曲。さきに細かいこと言いますが、疾走感を出すためには、敢えてツーバスを踏まない方がいい時もあるってことを、ボビーさんはよく心得てますよね。歌がワード少な目で聴かせるタイプの時はこういう方がいいんでしょうか。この曲のギターソロは、緩急のつけ方からしてフリンツ流構築美。フェイドアウトしながらトニーが“♪We fight and we fall, and never recall, our history is a insanity……”
次もリアリ関与の「Whiskey Man」(Reale/Moore/DVS)。ネット上に、本作のライティングセッションの様子が上がってるんですが(Riot writing session)、そこでマークたちがこの曲のバッキングを合わせてみてる場面がありました。私はこの曲のリフを聴いたときに「Babylon」(『NIGHTBREAKER』)を思い出したんですが、マークがああいうリフ好きなんでしょうか。歌は、ヴァースのところはやや語りっぽいというか長台詞ふうで、ブリッジを経てのコーラスがキャッチーに展開するのです。“Please call me Whiskey Man when the bottle’s in my hand……”。不思議と軽やかな感じもある疾走感が魅力ですかね。
本編ラストは、Reale/Mooreによる「Echoes」。疾走ナンバーですが、ビッグな歌のメロディを聴かせる、スケールの大きさを感じさせる曲。ギターの単音弾きによるリーディング・リフレインが耳に残るうえ、コーラスに入っていくところのコードの感じが最高なのです。“♪Echoes on the wind, faces reflected in mirrored eyes, another soul I must have been…….”Riotはメロディにこだわった曲作りをしてきましたけど、この曲は美旋律を極めていると思います。Mark Realeと聴衆の別れの曲となってしまったという感傷を抜きにしても、素晴らしい。The Beatlesあたりから楽曲構築のエッセンスを学び続けてきたMark Realeのメロディセンスが全開。2分50秒辺りからギターソロ。弾いているのはフリンツさんで、3分02秒辺りでは彼がかつてRiot版「Burn」(『NIGHTBREAKER』)のソロに織り込んだ得意のスロウタッピング・フレーズも聴かせます。3分12秒からは、歌のコーラスを発展させたフレーズをツインの様式美で表現。マークとマイクが弾いてるみたいですよ。歌に戻っていって、最後はややしんみりと終わります。
あまりに美しいエンディングなので、蛇足と言えなくもないですが、次はボーナストラック。一曲でも多くRiot音源を聴きたい私は、歓迎しておりますが、「Fight or Fall」(ライヴ)。本作制作のラインナップによるプレイです。かつて『THUNDERSTEEL』期にはオープニングとして重用された曲でしたね。トニーもよく声が出ているし、マークもまだ元気に弾けていたのですが。(ちなみに、私が購入した日本盤はこの曲ですが、ヨーロッパ盤は「Johnny’s Back」と「Metal Soldiers」のライヴが入っているようです。)