DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

特集:このドラミングがすごい③Jerry Shirley(2)

 では、ハンブル・パイ関連からまず参りましょう。

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<名演紹介>

(1)Humble Pie『PERFORMANCE:ROCKIN’ THE FILLMORE』(1971)

  1. Four Day Creep
  2. I’m Ready
  3. Stone Cold Fever
  4. I Walk on Gilded Splinters
  5. Rollin’ Stone
  6. Hallelujah (I Love Her So)
  7. I Don’t Need No Doctor

<メンバー>

Steve Marriott(Vo, Gt)

Peter Frampton(Gt, Vo)

Greg Ridley(Ba, Vo)

Jerry Shirley(Dr)

 

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 まず何か一枚、と言ったらやはりこれですかね。オリジナルHumble Pieの最後の輝きをとらえた実況盤。(この後フランプトンさんは脱退しソロ活動へ入ります。)このバンドは、元Small Facesのスティーヴ+元The Herdのピーター+元Spooky Toothのグレッグ+若手ホープのジェリーからなるいわゆるスーパーグループだったのですが、当初は方向性が定まらず――やりたいことがいろいろあったのでしょうが、フォークっぽかったりR&Bっぽかったりといったものが混在していてわかりにくかった――突き抜けたポピュラリティを得られていなかったのですが、本作で熱いロックを繰り広げてみせたことにより見事に殻を破りました。数あるロックの名ライヴ盤の一つにも入れられる作品ですね。

 

 Humble Pie=スティーヴのバンド、という見方は、この時期には実は当てはまりません。勿論彼の唯一無二のソウルフル・ヴォイスがバンドの絶対的個性であることは間違いないのですが、ピーターのクールなギター、グレッグの力強いヴォーカル、そしてジェリーの包容力あるビッグビートが組み合わさったバンド芸術こそがポイントでした。

 

 冒頭の「Four Day Creep」で端的にそれが味わえます。一番を歌うのはグレッグ、二番がピーター、間奏をはさんで三番がスティーヴと、3人の個性的な歌。器楽的にはシンプルな曲ですがリフのキメが多く、二本のギターの絡み、タフなベースのフレージングも満喫出来ます。そしてドラム、スウィング感もフレーズごとの運びも実に自然で、思わず乗せられてしまいます。こういうドラミングが出来るようになりたい。楽曲のクレジットはIda Coxとなっていますが、ほとんど同名異曲のような感じでして、ハンブル・パイのオリジナルに近いのではないかと思います。バンド史上も、ここまでハードなロックソングはそれまでなかったのではないかと。むしろこの曲あたりのイメージを持って彼らのファーストアルバムを聴いたりすると、テイストの違いに驚くことになります。(ファーストはもっとフォークっぽかったりブルーズっぽかったりしていてあまりハードではない。私は驚きました。)

 

 スティーヴの本領発揮のヴォーカルから始まる「I’m Ready」は、ヘヴィ・ロックに仕上がっています。Montrose「Rock Candy」はこれに影響を受けてんじゃないでしょうか。いや、ホントに雰囲気が近いなあ。ジェリーさんのタメの効いたドラミングがまず素晴らしい。スティーヴの歌が神懸ってるのも凄いですが、ピーターのギターソロも美味しい。彼はオーソドックスなブルーズのスケールにちょっとジャズっぽいテイストを加えてるんではないかと思うんですが、他の同時代ギタリストたちとは異なる味わい有りです。私の好きなAlvin  Lee先生もそうですが、‟ジャズをどこかにもってる”プレイは人を飽きさせません。

 

 このアルバムの楽曲は、元は他のアーティストのもの(マディ・ウォーターズとかレイ・チャールズとか……)が多いのですが、次の「Stone Cold Fever」は、バンド4人の共作。前作『ROCK ON』に収録されていたナンバーですね。リフ主導のこれまたハード・ロックですが、間奏はグレッグさんのベース・ランも忙しいジャジーな展開に。スタジオ版の作り込みも良かったですが、鬼気迫るこのライヴ版も凄い。

 

 「I Walk on Gilded Splinters」はなんと20分を超える長尺作品。原作はDr.Johnによるもので、それでも7分以上あったんですが、3倍以上に。といっても、プログレ的な展開(組曲)というよりは、各メンバーの見せ場をつなげていくとこんな長さになった、という感じで、どちらかというとCanned Heatが得意としたロング・ブギーのようなものに近いかなと。グレッグのベースソロや、スティーヴのハーモニカ・ソロも聴けます。その間、多少のリズムチェンジも引き受けながら、楽曲の背骨を貫いているジェリーさんドラムはやっぱり凄い。

 

 次の「Rollin’ Stone」も、16分に及ぶヘヴィ・ブルーズ。Muddy Watersの曲ですね(これも原作はこんなに長くない)。この辺りの曲はスティーヴがメインで歌って、ブルーズ・ソウル寄りの声を活かしてますね。

 

 いささか重い曲が続いた後にこの「Hallelujah(I Love Her So)」を聴くとずいぶんポップな印象を受けますが、原作Ray Charlesのこの名曲も、彼らの手にかかるとやっぱりハードロックにされちゃう。ここでは三人衆のヴォーカルが交替で聴け、ピーター得意のフレージング(ギターね)も全開。後半弦楽器をとめて太鼓と歌だけになるあたりでは、ジェリーの軽やかなスネアさばきも賞味できますね。

 

 ラストの「I Don’t Need No Doctor」もレイ・チャールズ版で有名な曲。彼ら、特にスティーヴはこれが大好きみたいで、ハンブル・パイが終わった後のソロ活動時代にもよく歌ってました。レイ版はホーンと女声コーラスの入る軽快なナンバーなんですが、これまたリフをギターで置き換えたパイ版はハードに仕上がっております。疾走感もある。入魂の歌唱、聴衆への煽り、太くうねるベース、推進力を与えるドラム、個性的なギターソロ……これまた集大成的な一曲になっております。

 

 フィルモアでのコンサートは実は数回録音されていて、本作は一回のステージではなくて「良テイクを選んで並べた作品」だったそうです。近年、そのコンプリート版(『PERFORMANCE:ROCKIN’ THE FILLMORE The Complete Recordings』CD4枚組)が出まして全貌が知れたのですが、同じ曲でもまったく同じようには演奏していなかった(各回の工夫がある?)ようなのですね。ホントにスゴいライヴバンドだったんだなと思います。

 <続く>

第50回「Red Dawn」(2)

 さあ続き。

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Red Dawn『NEVER SAY SURRENDER』(1993)

  1. Flyin’ High
  2. I’ll Be There
  3. Liar
  4. Dangerous Child
  5. Promises
  6. I Can’t Get over You
  7. Christine
  8. Take These Chains
  9. She’s on Fire
  10. Never Say Surrender

<メンバー>

Dave Rosenthal(Key)

Tristan Avakian(Gt)

Larry Baud(Vo)

Greg Smith(Ba)

Chuck Burgi(Dr)

 

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 「I Can’t Get over You」は、明るい調子のゆったりシャッフル。ラリーさんのハスキー度合いがもっと進んだらHuey Lewisみたいな感じかもなあ。オルガン風味の鍵盤音色があたたかい雰囲気。コーラスのコード感も爽快。ブルージーな中にも速弾きを盛ってスリルを演出するトリスタンがやっぱりいい。

 

 お次は明るくポップな「Christine」。ここではラリーさんの歌がちょっとJoe Lynn Turner風にも聴こえるね。Gregのベースもテンポチェンジをリードして曲の表情を豊かにするね。

 

 トリスタンさん単独作の「Take These Chains」。ギターバリバリのハードロック……ではなくて、ピアノから静かに始まるバラード。ラリーさんのヴォーカルを活かす劇的なメロが用意されててこれまた〇。“♪Take these chains……”。デイヴ・ローゼンタールさんのピアノはこの曲でじっくり聴けということかな。

 

 SE風のキーボードから壮大なイメージで幕を開ける「She’s on Fire」。テンポこそゆったりですが、甘さより硬質さを感じさせるハードロック。こういう曲のテンポ刻みで光るグレッグのベースと、名手チャックのドラミング。前曲では遠慮気味だったギターが炸裂、フラッシーなプレイを披露。歌やメロディは抑えた感じで最後まで。

 

 ラストの「Never Say Surrender」は、冒頭の「Flyin’ High」と呼応するかのようなアップテンポのナンバー。“♪Never…say  surrender……”。コーラスのトコロで転調して爽なパートへ持ち込むのが豪快。この曲でもデイヴの煌びやかなキーボードソロが聴けます。

 

 ということで、なかなか良い作品でありましたね。このバンド/プロジェクトがなんで続かなかったのか存じませんが、勿体無い。まあ、ちょうどこの93年頃からデイヴ・ローゼンタールはビリー・ジョエル・バンドの一員として活躍していきますから、「忙しくなっちゃった」っていうのでしょうがないんでしょうけども。

<続く>

特集:このドラミングがすごい③Jerry Shirley(1)

<達人の物語>

 ドラマーの話はしょっちゅうしていますが、特集は久しぶりですね。

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 所謂テクニカル・ドラマーも私は好きなんですが、最近とみに「良いなあ」と思うのが“8ビート”に味のある人たち。当ブログでもなんだかんだでPhil Rudd(AC/DC)・Simon Kirke(FreeBad Company)・Denny Carmassi(MontroseGamma)・Terry Chambers(XTCTC&I)ほかの8ビート・マスターたちに触れてきましたが、この人も忘れちゃいけないやって思い出したのがJerry Shirleyさん。

 

 Shirleyさんについては、Peter Framptonさんの話をしたときに(第17回「Peter Frampton」(4))名前が出てきたんですが、それっきりになっていました。この伝説的バンドHumble Pieだけでなく、セッション的な仕事も、私の手元にある限りで挙げてみたいと思います。

 

 1952年生まれのシャーリーさんは、早くからドラムをプレイしていたといいますが、世に出たのはSteve MarriottたちのHumble Pieに加わってから。当時17歳!……そうか、私が感銘を受けた「Natural Born Woman」なんかは、十代のプレイだったんですよね。Humble Pieっていうとスティーヴのバンド、というイメージがつよいと思いますし、楽曲やパフォーマンスに関しては確かにそうなんですが、バンドの暖簾を守っているのは実はシャーリーさんだったりするんですね。彼のみが――スティーヴや、ベースのGreg Ridleyが亡くなってしまったというのもありますが――ハンブル・パイにずっと居るのです。

 

 当ブログ第17回(4)で挙げたうちの『ONE MORE TIME FOR THE OL’ TOSSER: Steve Marriott Memorial Concert/London Astoria 2001』は、タイトル通りスティーヴ・マリオットへの追悼コンサートの記録でして、Paul WellerだのNoel Gallagherだのといった“若手”(?)ゲストのほかに、Ian McLaganやKenney Jonesといった元同僚なんかも顔をそろえた会合だったのですが、ここにHumble Pieも登場(CD3枚組のうち2枚目)。Peter Frampton+Clem Clempson+Greg Ridley+Jerry Shirleyという、黄金のパイを支えた面々が「Four Day Creep」「Natural Born Bugie」「Hallelujah I Love Her So」「Shine On」「I Don’t Need No Doctor」を披露しました。(何曲かは、Youtubeでも観られるようです。)

 

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 野太く漢らしいGregのヴォーカルでスタートする「Four Day Creep」は、亡きSteveのパートはClemさんが歌います。Peterのクールなソロも健在。Jerryさんも、“切れ味鋭い”とはいえませんが、円熟味を増したグルーヴを叩き出します。

 

 お次は、初期の名曲(ながら、あまりライヴ記録が残っていない)「Natural Born Bugie」。眼鏡をかけたジェリーさんが淡々と8ビートを推進するのが渋くてカッコいい。この曲はクレムさんのソロが先攻、さすがの腕前に惚れ惚れ。終始ニコニコしてるピーターさんがキュート……だけど、終盤ではきっちりお得意のソロを決めます。

 

 Ray Charlesのナンバーで、スティーヴも好んでいた「Hallelujah I Love Her So」。これもやらないわけにいかないでしょうね。この曲、The AnimalsThe BeatlesGraham Bondなんかもカヴァーしてまして(これらは手元にありました)、ビートロック風ありジャジースウィング調ありなんですが、Humble Pie版がやっぱり一番ハードですね。この追悼ヴァージョンでは、終盤でピーターがトーキングモジュレータを使って聴衆とのコール&レスポンスを楽しんでます。

 

 次に、ピーター色の強い「Shine On」。Peter Framptonのソロライヴ・ヴァージョンより気持ちヘヴィでしょうか。グレッグのベースが「重い」のかも。この曲もあまりライヴで演じられたことはなかったはず。

 

 最後は「I Don’t Need No Doctor」、これまたスティーヴが大好きだった曲。弦楽器のユニゾンによるリフがヘヴィな疾走感を醸し出す名曲。スティーヴの声が無いぶんはみんなでフォローしますが、特に現役感バリバリのピーターの頑張りが素晴らしい。ベースソロあり、ギターバトルあり、観客への煽りありで大盛り上がり。そのすべての基礎は名手ジェリーさんによるものですよ。

 

 あれ、気が付いたらひと作品取り上げちゃってました。

 

 ジェリーさんは80年代にはFastwayWaystedといったハードロックバンドにも加わりますが、その後90年代以降は再編成Humble Pieの中心となって活躍しています。上のリユニオンに至るまでハンブル・パイを守ったのがジェリー・シャーリーさんだったのです。

 

 これらに加え、70年代から彼は各種セッションワークもこなしていまして、「え、これってジェリーさんのプレイ?」ってあとから気づかされることもあったりするのね。今回の特集は、Humble Pieでのプレイだけでなく、セッションワークもちょっと挙げてみたいと思います。

<続く>

第50回「Red Dawn」(1)

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 しばらく前に中古店で見かけて、どういうグループかも知らずに買った作品。店の説明タグに“Dave Rosenthal参加”って書いてあったというだけでね。通常のハードロックファンなら「あー、Rainbowにいた人ね」となるところでしょうが、私にとってDaveは「Billy Joelバンドの鍵盤マスター」なんですよこれが。あのビリーが認めて鍵盤を弾かせてるんだから凄いに違いない、っていうわけ。

 

 ただ、本作に関してはRainbowを想起するのが正解だったかも。なにしろ、ドラムはやっぱり元RainbowのChuck Burgi、ベースは90年代RainbowのGreg Smithだからねえ。アレ?ChuckもいまはBilly Joelバンドの固定メンバーだから……RainbowBilly Joelって意外に近いんじゃないの?

 

 まあそれはさておき、なかなかいい作品だからちゃんとご紹介しましょうね。

 

Red Dawn『NEVER SAY SURRENDER』(1994)

  1. Flyin’ High
  2. I’ll Be There
  3. Liar
  4. Dangerous Child
  5. Promises
  6. I Can’t Get over You
  7. Christine
  8. Take These Chains
  9. She’s on Fire
  10. Never Say Surrender

<メンバー>

Dave Rosenthal(Key)

Tristan Avakian(Gt)

Larry Baud(Vo)

Greg Smith(Ba)

Chuck Burgi(Dr)

 

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 プロデュースはデイヴ・ローゼンタール自身が務めてます。また、8がギタリストAvakianの単独作であるのを除けば、ローゼンタールは全曲の作曲に関与してますので、彼がリーダーだったことは間違いありませんね。

 

 作品全体のトーンは、メロディアス・ハードロックですね。1や2をちょっと聴けばわかるように、フックがありメロディアスな歌+きらびやかな鍵盤+華やかなギターソロが堪能できるしろもの。私が好んでる作品の中では、Seventh Key(元Kansas・Streetsの面々によるバンド)『THE RAGING FIRE』(2004)あたりがこういう感じを素直に出してます。

 

 いわゆる「メロハー」とちょっと違う個性になってるのは、ヴォーカルの声質じゃないですかね。所謂細くて高い美声、というのじゃなくて、やや野太さを感じさせるヴォイス。ミスマッチじゃないかという感想もあったようですが、きちんと歌えているんだから私は良いと思います。

 

 1曲目の疾走曲「Flyin’ High」からしてイイですよ。「アタリを引いた!」って思ったもんです。この心地よいテンポ、最近じゃ逆に聴けなくなったキラキラした鍵盤のフレーズ、出しゃばらないけど推進力になってるリズム隊。キーボードソロを満喫した後に、さらにギターソロがなかなかテクニカルに攻めてくるのも心憎い。エンディングの‟♪ダダダダっ……”っていうところ、何かに似てるんだけど思い出せない。シンフォニックなフィナーレです。

 

 アコースティック調のギターに導かれて穏やかに始まる「I’ll Be There」ですが、コーラスに入るあたりから全パート参加となって快活なロックソングに展開。ソウルフルというか、暑苦しいくらいのLarryさんの歌唱がいい感じ。この人は他にNetworkっていうバンドに居たそうですが、未聴です。

 

 3曲目はやや不安感をあおるようなキーボードのフレーズで始まり、ヘヴィなギターリフがの便乗から開始する、弾むミドルテンポの「Liar」。軽すぎず重すぎないチャックのドラミングも職人技だなあ。あと、ここではじめて言及しますが、Tristan Avakianさんのギターソロはテクニカル且つメロディアスで素敵ですわ。ほかの仕事は裏方のようなのが多いみたいで、ギタープレイの目立った作品はあまりないみたい。Trans-Siberian Orchestra『THE LOST CHRISTMAS EVE』(2004)で一部弾いてるっていうくらいかなあ。勿体ない。

 

 そのギターがガツンとリフを繰り出すところから始まる次の「Dangerous Child」は、前奏でも短くギターソロが聴ける。プロデューサーとしてのローゼンタールさんはトリスタン君をフィーチュアして目立たせようとしたんじゃないですか。いや、それだけの価値あるプレイをしてると思いますがな。

 

 5曲目の「Promises」は、所謂バラードです。ラリーさん、こういう曲もきっちり歌えてますからいいシンガーじゃないですか。繊細さよりタフなイメージが先行しちゃうのは確かだとしてもね。トリスタンさんの泣きのギターソロもいい感じ。比較的無名のこの二人をヴェテラン(レインボー人士)が引き立ててるっていう図式は美しいと思いますね。というか、Rainbowだって、Ritchie Blackmoreが次々と有望新人を発掘しては世に送り出してきた歴史(クビにしまくったという面もあるが)がありますもんね。

<続く>

Riot特集:時系列全作品紹介(14)『IMMORTAL SOUL』

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Riot『IMMORTAL SOUL』2011

  1. Riot
  2. Still Your Man
  3. Crawling
  4. Wings Are for Angels
  5. Fall before Me
  6. Sins of the Father
  7. Majestica
  8. Immortal Soul
  9. Insanity
  10. Whiskey Man
  11. Believe
  12. Echoes
  13. Fight or Fall(Live)[bonus]

<メンバー>

Mark Reale(Gt)

Mike Flyntz(Gt)

Bobby Jarzombek(Dr)

Don Van Stavern(Ba)

Tony Moore(Vo)

 

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 前作から5年もたってようやく出た新作……であり、Mark Realeの遺作。

『ARMY OF ONE』発表後、Mike Dimeoは脱退(Masterplanに加入・専念の為)しました。Mike Tirelliが後任となるという告知があった気がしますが、その実現の前に「Thundersteel Reunion」という企画が動き出すことになったため、ティレリさんは音源を残していません。2008年は『THUNDERSTEEL』の発表から20年ということで、当時のラインナップ(+Mike Flyntz)が再集結することになったのです。

 

 Bobby Jarzombekは元Riot組ではおそらく一番の出世頭で、メタル・プログレ界隈では引っ張りだこの名ドラマーになっていましたから、おそらくスケジュールさえ合えば問題なかったでしょう。

 ベースのDon Van Stavernは、かつてのRiot脱退後はメタル表舞台では見かけなかったのですが、インダストリアル系のPitbull Daycareなどで活動していたのでした。Riot関連音源は何でも欲しい小生、今は亡きHMV(たしか渋谷)でPitbull Daycare『UNCLEAN』(2004)を発見・購入し聴いたものです。音楽的には私の趣味には合わなかったんですけど、DVSが確かに音楽をやってることがわかってちょっと安心したものです。

 たぶん一番のネックはTony Moore。Riotの後はほとんど音楽ビジネスから退いていたように聞いていたので……。とはいえ、当ブログ(第37回「Faith And Fire」(1))でも取り上げましたFaith And Fireというプロジェクトで2007年に突如(?)私たちの前にカムバックを果たしており、そこではMike Flyntzとも同僚だったので、Riotに関わってくることは無理筋ではなかったよう(だと後からわかるのですが)。

 

 経緯はともかく、Mark Realeのもとに、かつての仲間が参集してきまして、レコーディングも行ったようですが、まずは『THUNDERSTEEL』20周年を記念したコンサートが執り行われました。一生の不覚で、私はこれを観に行かなかったのですけど……往年の名曲を全盛期と遜色ない力量で歌うトニー・ムーアなど、概して好評だったようです。

 

 そして待望の新作音源を待つことになるわけですが、これはなかなか出ませんでした。確か、「Wings Are for Angels」だけ先行リリース――コンピレーションに入るような形で――があったように記憶しますが、アルバムの形で登場したのは2011年の秋のことでした。いやー、ホントに待ちましたよ。(トニーが脱退したとか、帰ってきたとか、真偽不明の色んな情報も飛び交ってたのよ。)

 

 さて、「音」についてはここ数作の流れを汲んでBruno RavelとPaul Orofinoの手を借りてるので、安心の高品質。特にブルーノはマスタリングとミックスも担当して大貢献。Westworldの縁がここまで効いてるね。その他ではとりたててゲストなどもいれず、「バンドとしてできることをやった」っていう潔さが感じられるつくりになっております。で、話題性や音質ばかりのリユニオン作だったらがっかりですが、とんでもない、これがまた名作といってよい内容だから恐れ入る。

 

 例えば冒頭の「Riot」。史上初めてバンド名が曲名になったわけですが(Iron MaidenとかBlack Sabbathとかと逆パターンですな)、これが隙の無い名曲。アタマにオーヴァーチュア的なギター主導のイントロが鳴ると、「Thundersteel」をさらに展開させたような高速リフと疾走リズムが加わって本編開始。まず耳が行くのは、必殺の字余りリリックも交えながら炸裂する、トニーのハイトーンヴォイス。“What’s it gonna take to make you riot ?”のコーラスも良いよね。マークとマイクのギター部隊の鉄壁さは言わずもがなですが、些か古風なツインのキメ・フレーズにしても、アグレッシヴなリフィングにしても、ヴェテランが作る正統派パワーメタルのまさにお手本。テクニカルに迫るソロも決まってる。そして最も素晴らしい――と私が思った――のが、ボビーさんのドラミング。いまやRiotよりビッグなバンドもテクニカルなバンドも経験済みだと思いますが、このアルバムでは全力で出し惜しみなくプレイしてくれてます。ヴァースの裏のフットワークの細かさ、金物の鳴らし方の繊細さ、音の切り方の巧さ……超一流というほかない。3分50秒辺りからの、タムを入れたフレージングも速さと重さを両立させたスーパープレイ。こんなのを涼しい顔で(ついでに両足裸足で)演るんだからとんでもないお方じゃ。私は、Mark RealeはWestworldRiot(2005)で観たことがありますが、ボビーさんだけは生で観たことがないのよね。Spastic InkとかFates Warningとかで来日してくれませんかね。

 

 というわけで、「Riotってどんなバンド?」って訊かれたら、従来なら「Warrior」とか「Swords And Tequila」、あるいは「Thundersteel」を聴かせるところだったと思いますが、新しい時代では「Riot」を聴かせるのがいいやな、って思えるくらい。DVSとトニーの共作。

 

 2曲目「Still Your Man」は、“♪Hey Johnny, brother take may hand. I remember I am still your man.”などと歌われる、「Johnny’s Back」の続編みたいな(?)楽曲。いきなりのドラムソロも凄いことになってますが、ベースがリードするあたりがあの曲に似てる。DVSのベースは、音の像がピート・ペレツと対照的な気がします……Pete Perezは硬質な音で細かな動きを粒立ちによって聴かせる感じだったんですが、ドンさんは音の粒を立たせずに全体を包むようにしてる気がするんですね。これはRiot V時代に入っても同じ。起承転結の練られたギターソロもナイスですが、これはMike Flyntzのお手柄。

 

 なお本作では、ギターパートはほとんどマイク・フリンツによって録音されました。レコーディング時にはマーク・リアリの体調がかなりわるくなっており、ほとんど弾けなかったというのです。このことはマークが亡くなった後から知ったのですが、言われなければわからなかったくらい、マイクのプレイ(特にメロディアスなフレーズの構築法)はマークの味わいを会得したものとなっていました。ソングライティング時に、元気なマークがフレーズやソロのアイディアをマイクに示していたのか、マイクがマークに“なりきって”考えたのかはわかりませんが、「ツイン・リードのバンド」としての味わいをきちんと保っているところは素晴らしいと思います。

 

 さて、次へ行きましょう。アジアか中東かわかりませんが、ちょっと非欧米っぽいリフが印象的なミドルテンポの「Crawling」。ギターソロもここでは速弾きよりも美旋律構築を優先。ヘヴィというか陰鬱な雰囲気を演出。“♪I’m sorry, I’m sorry……”。1・2曲目がDVS/Tony Moore作品だったのに対し、これはDVS/Moore/Flyntz作。

 

 「Wings Are for Angels」は、アルバムより前に、『ONE FOR ALL, ALL FOR ONE』(2011)という「東日本大震災チャリティ・アルバム」に入って世に出ていました。Flyntz/Moore作、「Riot」に続くスピードナンバーで、ボビーさんのバスドラが心地好すぎる。トニーによるシリアスな歌詞は磨きがかかって、響きも美しい。スリリングなギターソロもナイス。マーク・リアリの流儀に倣って、三番ではオブリを其処此処に挿入するマイク、堂に入ってます。フリンツさんもこの曲は自信作みたいで、Riot Vになってからも演奏し続けていますね。あ、ボビーさんのタム回しが最高っていうのも付け加えとく。

 

 ヘヴィなリフィングで幕開けるミドルテンポの5曲目「Fall Before Me」。途中で転調していくギターソロのパートや、トニーによる多重ヴォーカル(ほのかに)が聴き所かな。おもいのほか起伏に富んだメロディラインでもあるね。

 

 ここでまた比較的ストレートな疾走ナンバー「Sins of the Father」が来ます。この曲、わが(勝手に決めた)黄金の方程式「Riot+3分50秒=名曲」にあてはまるのでありますが、如何。DVS/Moore作。トニーが抑えるところと張るところをうまく切り替えるのもメリハリを生んでますが、短い曲の中でドラマを強調してるのはやっぱりフリンツさんの起承転結ギターソロかもね。

 

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 次の「Majestica」はFlyntz作の短いインスト。アルバムのオープニングなんかに使われそうな感じの序曲っぽさ。LPならB面の幕開けなんですかね。そこから次の「Immortal Soul」は続けて聴くと劇的で良いね。アルバムの題名にもなったこの曲、Reale/Moore作でした。ここで漸くリアリ作品が登場。古き良きハードロックを感じさせつつも、硬派なメタルミドルに仕上がっております。聴き所はギター・ソロの後半。Riot歴二十年余りの小生なけなしの意地にかけて申しますが、ここ「だけ」がたぶん本作中Mark Realeの手になるソロ。“♪One more immortal soul……”に始まるコーラスをトニーが歌いきった後、2分15秒辺りから、まずマイクがフックのあるコンパクトなソロを披露します。2分30秒辺りから、転調するバックを背景にソロが交替――実は音質もよく聴くと違う――しまして、ひときわ粘っこいプレイがあらわれる。スピードは抑え目、絶妙のタメとヴィブラート、弦二本を絡めたお得意のフレーズ……これぞ「マーク・リアリ印!」な名プレイ。さきほど述べたようなわけ(体調)で、本作ではマークのプレイ自体はほとんど聴けないのですが、ここがあるからやっぱりこのアルバムはマーク・リアリの作品なのだ。他のメンバーもそれがわかってるからタイトルナンバーとして立てたんじゃないのかな。

 

 「Insanity」はFlyntz/Moore作の疾走楽曲。さきに細かいこと言いますが、疾走感を出すためには、敢えてツーバスを踏まない方がいい時もあるってことを、ボビーさんはよく心得てますよね。歌がワード少な目で聴かせるタイプの時はこういう方がいいんでしょうか。この曲のギターソロは、緩急のつけ方からしてフリンツ流構築美。フェイドアウトしながらトニーが“♪We fight and we fall, and never recall, our history is a  insanity……”

 

 次もリアリ関与の「Whiskey Man」(Reale/Moore/DVS)。ネット上に、本作のライティングセッションの様子が上がってるんですが(Riot writing session)、そこでマークたちがこの曲のバッキングを合わせてみてる場面がありました。私はこの曲のリフを聴いたときに「Babylon」(『NIGHTBREAKER』)を思い出したんですが、マークがああいうリフ好きなんでしょうか。歌は、ヴァースのところはやや語りっぽいというか長台詞ふうで、ブリッジを経てのコーラスがキャッチーに展開するのです。“Please call me Whiskey Man when the bottle’s in my hand……”。不思議と軽やかな感じもある疾走感が魅力ですかね。

 

 「Believe」も、上記のライティング・セッション動画でマークがカメラに向かって「こういうリフだよ、ドラムは入りに合わせてクラッシュを入れるんだ、云々」とイメージを語ってるのが印象的なの。Reale/Moore/DVS作。実際、そのアイディア通りに全パートがドン!で入るパワフルソング。この曲なんかは前の数曲と逆に、バスドラが空間を埋めるように入ってるのが効果的なんだね。ドラミングは奥が深い……。トニーのヴォーカル操縦も素晴らしいですが、一通りコーラスまで終わった後のテンポを落とした箇所は説得力がある。ソロはフリンツさんが入念に仕上げてます。

 

 本編ラストは、Reale/Mooreによる「Echoes」。疾走ナンバーですが、ビッグな歌のメロディを聴かせる、スケールの大きさを感じさせる曲。ギターの単音弾きによるリーディング・リフレインが耳に残るうえ、コーラスに入っていくところのコードの感じが最高なのです。“♪Echoes on the wind, faces reflected in mirrored eyes, another soul I must have been…….”Riotはメロディにこだわった曲作りをしてきましたけど、この曲は美旋律を極めていると思います。Mark Realeと聴衆の別れの曲となってしまったという感傷を抜きにしても、素晴らしい。The Beatlesあたりから楽曲構築のエッセンスを学び続けてきたMark Realeのメロディセンスが全開。2分50秒辺りからギターソロ。弾いているのはフリンツさんで、3分02秒辺りでは彼がかつてRiot版「Burn」(『NIGHTBREAKER』)のソロに織り込んだ得意のスロウタッピング・フレーズも聴かせます。3分12秒からは、歌のコーラスを発展させたフレーズをツインの様式美で表現。マークとマイクが弾いてるみたいですよ。歌に戻っていって、最後はややしんみりと終わります。

 

 あまりに美しいエンディングなので、蛇足と言えなくもないですが、次はボーナストラック。一曲でも多くRiot音源を聴きたい私は、歓迎しておりますが、「Fight or Fall」(ライヴ)。本作制作のラインナップによるプレイです。かつて『THUNDERSTEEL』期にはオープニングとして重用された曲でしたね。トニーもよく声が出ているし、マークもまだ元気に弾けていたのですが。(ちなみに、私が購入した日本盤はこの曲ですが、ヨーロッパ盤は「Johnny’s Back」と「Metal Soldiers」のライヴが入っているようです。)

 

 2012年1月25日に、Mark Realeは亡くなりました。彼が長年闘病生活を送っていたことは身近な人を除いては知らなかったようですが、私も大変驚き、悲しみました。しばらくして英語で追悼サイトが立ち上がったので、拙い英語でcondolenceを記入したものでした。Riotはその後、「終わる」という話も「続く」という話もありましたが、最終的にはRiot Vという新ラインナップによって継続されることとなり、今日に至っています。Riot VはMark Realeにきちんと敬意を払って活動していますし、内容的にもマークの遺産を活かす存在となっていますが、いちおうは別バンドとみるのがよさそうです。本特集は、「Mark RealeのバンドとしてのRiotの、オリジナルアルバム」のご紹介まで終えたところでいったん締めくくりたいと思います。Riot Vや各種ライヴ盤、アーカイヴ作品群については機会をあらためさせていただきましょう。

<本特集完>