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Riot特集:時系列全作品紹介(10)『INISHMORE』

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Riot『INISHMORE』1997

  1. Black Water
  2. Angel Eyes
  3. Liberty
  4. Kings Are Falling
  5. The Man
  6. Watching the Signs
  7. Should I Run
  8. Cry for the Dying
  9. Gypsy

    Irish Trilogy

  1. Inishmore(Forsaken Heart)
  2. Inishmore
  3. Danny Boy

<メンバー>

Mark Reale(Gt)

Mike Flyntz(Gt)

Pete Perez(Ba)

Mike Dimeo(Vo)

Bobby Jarzombek(Dr)

 

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 新体制での出発作となったアルバムです。と言いましても、メンバーが替わったわけではありません。(ドラムはボビーさんが復帰しましたが。)デビュー以来の縁であったSteve Loeb氏と手を切ったことにより、プロダクション(制作過程及び品質)が変化したのですね。

 

 Loebの庇護下(管理下?)にあった時は氏の所有するスタジオを使っていたRiotですが、本作からは同じニューヨークでもPaul Orofino氏のMillbrook Studioを拠点とするようになります。で、これが奏功したのか、音質面はかなり良くなりました。オロフィノさんの仕事については本ブログ「第37回「Faith And Fire」(1)」「第37回「Faith And Fire」

(3)」などでも言及しておりますが、クリアな音像の、Riot的なハードロックを表現するにはふさわしい音作りとなっております。

 

 ライオットは、『NIGHTBREAKER』以来相変わらずイニシャル・リリースは日本(のみ)で、欧米ではなかなか販路が確保できなかった様子なのですが。メジャーレーベルとディールがなくても良い作品を送り出すことは可能となった、といえるでしょうね。本人たちは相変わらずたいへんだったと思いますが、ボビーさんが戻ってきた、っていうだけでも状況の好転を示しています。(前作で叩いたJohn Macalusoさんに難があったっていう意味ではなく、長年Mark Realeの近くにいた人Bobbyが「戻ろう」と思えたという変化がポジティヴだという事。)

 

 もう一つ制作面でのことを添えておくと、本作では豪華なバッキング・ヴォーカルが加わっておりまして、それも良い方向に作用しています。曲ごとの効果はあとで申し述べますが、パワーメタル曲のコーラス部分など「厚み」が求められるところに特に効いてます。中音域を得意とするMike Dimeoをうまいこと補っているのは、Riotのツアーにも帯同したLigaya Perkinsさん、TNTのTony Harnellさん、TykettoのDanny Vaughnさん。リガヤさんは後にPete Perezのパートナーとなるので、バンドに近いミュージシャンだったと思われます。トニー・ハーネルさんはマーク・リアリとWestworldをやりましたが(第41回「Ice Age」(2))、直接の出会いはここでしょうね。ちょうどこの頃、オロフィノさんのスタジオはTNT『FIREFLY』の制作にも使われていました。ダニー・ヴォーンさんとの接点はわかりませんが、彼のソロアルバムVaughn『SOLDIERS AND SAILORS ON RIVERSIDE』(2000)にオロフィノさんはプロデューサーとして関与しています。

 

 さてアルバムを再生しますと、30秒ほど低音の前振りがありましてから、ヴァイオリンが奏でられていきます。(クレジットによるとYoko Kayumi氏によるプレイ。)そこへ鍵盤・ギター・リズム隊も加わって美旋律の一大オープニングとなるのですが、この辺りは前作の手法を踏襲している感じがありますね。

 

 といいますか、方法論としては『INISHMORE』は明らかに『THE BRETHREN OF THE LONG HOUSE』のそれを引き継いでます。前作ほどの明確なコンセプト作品ではありませんが、「アイルランドのリヴァーダンス(Riverdance)を観て感激したマークが、アイルランドをテーマに作品を作ってみようと思った」っていうわけで‟テーマ設定”がまずあること。(それにしても影響されやすい人だな、マーク先生。そういやあ、前作ではアイルランド関連でGary Mooreの「Out in the Fields」もやってたね。)インストゥルメンタルをいくつか入れてること。トラディショナル・ソングを取り入れてること。このあたりですかね。パワー/スピードメタル的な曲が多いのはちょっとした変化ですが……あくまで正統的なバンド演奏を核にしながらも、劇的(ドラマティック乃至映画的)な盛り上げを意識した作風になっているのは、継続路線なんでしょう。

 

 さて、本格的にスタートとなるのは次の「Angel Eyes」から。本作はほとんどReale/Dimeo作品ですが、この曲はReale/Dimeo/Flyntzの作となってまして、それもあるのか現在のRiot V(マーク・リアリ没後、マイク・フリンツとドン・ヴァン・スタヴァンがバンドを引き継いだ)でもしばしば演奏されています。97年当時ですでに長年のギター・パートナーとなっていたマークとマイクによるツインが決まりまくる、たしかに名刺代わりの一曲ともなりましょうなってなもの。ピートの可動的ベース(?)もライヴリーだし、復帰したボビー・ジャーゾンベクの完璧な手技足技も素晴らしいですが、コーラス(サビ)部分を中心に一層カラフルになったヴォーカル部門がなんとも素敵。この曲は久々にPVも作られてまして、バンドの気合いが感じられますね。(‟演奏場面+ニューヨーク(?)のストリートを背景としたちょっとした映像”の、まあメタルバンドとしてはエライ地味な作風ですがね。彼ららしいや。)

 

 スピードナンバーが続きまして「Liberty」ですが、このへんとなると何かしら過去の作品を思わせるところが増えてまいります。スピードメタルのバリエーションって難しいのかもしれませんが、前作なら「Glory Calling」のような感じで、ね。ライヴ盤も含めて何十回も聴いてるせいかもしれませんが、ちょっと予定調和的な感じにも感じられる……この曲の個人的味読ポイントは、ギターソロ後半(3分17秒辺り~)の爽快な展開になるくだりですかな。

 

 少しテンポを落として‟ざっざかざっざか”進行する「Kings Are Falling」のほうに、いまだとより魅力を感じますな。まあこれも、「『NIGHTBREAKER』の「Soldier」の作風かな」、と思わなくもないですが……ピートとボビーが凄くいい仕事をしててダイナミックなので楽しい。ギターソロのところは、「これこれ!」のリアリ節を堪能。“♪Kings are falling~”のところ(コーラス)のバッキング・ヴォーカルの入り方も良くて、ともすれば地味になりそうな曲が華やかになっています。

 

 同じスピードナンバーでも「The Man」は、よく出来てると私は思います。歌メロがよく動いてダイナミックなのと、ギターソロのところで敢えてツインは締めくくりだけにして両人の個性を出すようにしてるのがいい感じ。勿体ぶらずイキナリ始まるところもいいし、3分50秒くらいで終わる黄金パターンだしね。1分55秒からのソロは、マークが先攻→マイクが後攻→最後にツインだと思われますが、マークらしい粘りのあるフレージングも聴ければ、転調する箇所を背景に巧いところを聴かせるマイクの技量も味わえてお腹一杯。

 

 楽曲単位でアイルランド的な要素を取り入れているのは、まずはこの「Watching the Signs」ということになるでしょうか。近年のインタビューでも、フリンツさんが「マークが作ったWatching the Signsみたいな曲を自分で作りたいとずっと思っててさ……」って話してて、印象的でしたね。マイク・フリンツさんもThin Lizzyは大好きみたいですが、それ以上にマークのこと尊敬してるんだよねえ。まあそれはさておいて単に聴いても、マークの美学が端的にあらわれた曲としてよく出来てると思います。2分12秒からのギターソロはまさしく「曲の中の曲(ミニ・ソング)」として構築されてて、かつての名曲「Altar of the King」以来の名演の流れにありますしね。効果的なバッキングを得て、ディメオさんの歌唱が無理なく伸び伸びしてるのも嬉しい。この曲に関しては、ギターのフレーズを聴きながらのフェイド・アウトというのも雰囲気に合っていてナイス。

 

 さて、実は私このアルバムは入手するのがずいぶん遅かったんですが、その理由は「先に買って聴いてた『SHINE ON』っていうライヴ盤にこのアルバムの曲は大半が入ってたから」なんです。当時の来日公演を収めた『SHINE ON』に入っていなかった唯一の曲、それが次の「Should I Run」でした。別にレア曲でも何でもないんですが。Dimeo/Flyntz作。「Warrior」と「On Wings of Eagles」と「Glory Calling」を足して三で割った……じゃないけど、何か既聴感をおぼえさせるんですね。ボビーさんのバスドラ・ワークは凄いし、ギターソロ後半(3分ちょうど辺り~)のメロディセンスはわるくないですけど。

 

 やはり疾走ナンバーが続きます。「Cry for the Dying」。Riot様式美といえばそこまでですが、新鮮味はさほどなし。ギターソロが意外にあっさり終わっちゃったりするのは珍しいかな。あと、この曲で良いのは、Bメロでしょうか。Aメロやサビがあまりにお約束なのに比べるとね。それと、“♪Hear your cry for the dying but no one will see……”云々というコーラスなど、ディメオさんの真面目なタッチの歌詞は私は嫌いじゃありません。

 

 「Gypsy」もパワー/スピードメタルで、この流れで聴くと少しもたれる。ライヴで本編の締めくくりにやったりしてるのはうまい嵌まり具合なんですけどね。コーラスのメロディにうまいこと載せたリリック“♪Save us we cry from……”は、キャッチーさにやや欠ける(単純でないのでライヴで一緒には歌いにくい)きらいはありますが、真面目な正統派メタルとしてはよく出来てる。器楽では、ボビーのドラムがイイのはもういちいち言うまでもないとして、ピートの動きまくるベースのお陰でダイナミックになっていますね。ギターソロはマーク→マイク→ツインの黄金パターン。

 

 最後の三曲は「アイリッシュ・トリロジー」という組曲扱いになっております。「Inishmore (Forsaken Heart)」は、ギター+キーボードをバックにした、抒情的なバラード。ディメオの独擅場。これが短く終わった後、バンドによるインストゥルメンタルの「Inishmore」に。前作では映画音楽のカヴァーをやっていましたが、これは自作。イニッシュモア(Inishmore または Inis Mór)というのは、アイルランドに実在する島の名前で、本作のテーマの(マークにとっての)インスピレーションの中心にあったところ(らしい)。この組曲では「海」を思わせる効果音が挿入されております。劇的なインストが終わった後の締めくくりには、トラディショナル・ソングの「Danny Boy」をやはりインストで。アイルランド民謡でもって本作を余韻嫋嫋に結ぶというのは心憎いですが、実はマーク・リアリは『THUNDERSTEEL』期のステージでのギターソロ・コーナー(他のメンバーはさがって彼だけがプレイするパートね)でとうに披露していたのでした。『RIOT IN JAPAN-LIVE!!』でも聴くことが出来ます。