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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

Riot特集:時系列全作品紹介(6)『THUNDERSTEEL』

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Riot『THUNDERSTEEL』1988

  1. Thundersteel
  2. Fight or Fall*
  3. Sign of the Crimson Storm*
  4. Flight of the Warrior
  5. On Wings of Eagles*
  6. Johnny’s Back
  7. Bloodstreets*
  8. Run for Your Life
  9. Buried Alive(Tell Tale Heart)

<メンバー>

Mark Reale(Gt)

Don Van Stavern(Ba)

Tony Moore(Vo)

Bobby Jarzombek(Dr)

+[guest]Mark Edwards(Dr*)

 

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 さて、現代メタルファンにはこちらが有名になってしまったようですが、Riotの6thアルバムです。『BORN IN AMERICA』のあとも、近年発掘された音源集に拠ればライヴはそれなりに行っていたようなのですが、セールス的にもあまり振るわなかったようで、バンドは一旦停止します。しかし、我らがマーク・リアリが音楽をやめてしまうことなどなかった。

 

 彼はニューヨーカーでしたが、この頃はテキサスに拠点を移していたらしく、現地の若手ミュージシャンとニューバンドを始動します。ソングライティングの相棒となったのが、Don Van Stavern。S.A.Slayerなどでプレイしていたベーシストでした。そして、1985年頃作られたという彼らのデモには、すでに「Thundersteel」があったのです。(ヴォーカルはS.A.SlayerJuggernautで歌っていたSteve Cooper。ドラムはやはりS.A.SlayerにいたDave McClain。Dave McClainは後にMachine Headで活躍しますし、SteveのいたJuggernautはBobby Jarzombekの居たバンド……ということで、テキサス人脈畏るべし。)ほとんど曲は完成していて、物凄いツーバス疾走をベースに、ハイトーンヴォーカリストが叫ぶという様式は既にかたちになっていました。(Youtubeあたりでもこのデモ・ヴァージョン聴けます。)

 

 当初彼らはMark Reale ProjectとかNaritaとか名乗ったようですが、最終的にはRiotとして動くことになります。そして完成した『THUNDERSTEEL』は久々にバンドのヒットとなったと同時に、HM史にも残る名盤として語り継がれるようになるのでした。

 

 「Thundersteel」は有名過ぎていまさら何を、という気もしますが、いくつか。まず、永遠の名曲「Warrior」と同じ3分50秒ソングであるということ。優れたメタルはコンパクトにまとまる!それから、この演奏の素晴らしいところは、しつこいようですが完全人力であるところ。ギターソロもじいっと聴いてみると、ところどころ運指のハシリ・モタリがあるのがわかりますが、それが却ってすばらしい。あの長いソロは、何テイク掛かったかはわかりませんが、きっちりひとつながりで弾いて(ライヴ的に)仕上げたということになりますからね。コンピュータ技術を駆使してパンチ・インをするような小狡い真似は無用。

 

 その他では、トニー・ムーアのハイトーンが度肝を抜いたのは当然として、やはりすごいのはボビーのドラム。デモのデイヴ・マクレインも凄いツーバスを披露していましたが、ボビーのプレイは身体がドラムと一体化しているみたいに変幻自在で無駄な音がまるで無い。特にそのフットワークは完璧で――彼はライヴでもまったく同じように再現します――、唖然とするほかなし。ドンのベースは目立ちませんが、彼は作曲で貢献してます。彼曰く、「マークはキャリアに乏しい若造に過ぎなかった自分に、どんどん曲を書くチャンスをくれた、しかも、どうやったらよくなるかも懇切丁寧に教えてくれた」。ここからは想像ですが、曲の骨格となるリフの数々はドンが持ちこみ、その上にいかに美旋律を乗せるかでマークのセンスが発揮されて、あの曲になったんじゃないですかね。

 

 そして、最近のインタビューでもドンとマイク(・フリンツ)が語ってましたが、「マークのギターソロは曲のなかの曲、歌のなかのミニソングみたいなものだった」と。聴き手の印象に残るように、きちんと構築されたものを組み入れていたというわけですが、「Thundersteel」の長いソロも、まさに起承転結みごとに出来上がっていますよね。

 

 次の「Fight or Fall」は、本作中では唯一Mark Realeが作曲に関与していない、ドンさん単独作(クレジット上)の曲。ライヴでは開幕によく使われたようです。冒頭からのムチャな疾走感が、アルバムの勢いも象徴しておりますね。この曲のドラムはMark Edwardsですが、当時では元SteelerLionの彼の方がBobby Jarzombekよりも有名だったでしょうね。ともにメタル系ドラムの名手と言えますが、エドワーズさんはまだオーソドックスというか、バスドラムの踏み方が素直。ジャーゾンベク兄貴は、後述の「Flight of the Warrior」や「Run for Your Life」で繰り出すように、結構トリッキーな足技を絡めてきます。

 

 3曲目にしてミドルテンポのヘヴィな「Sign of the Crimson Storm」が登場しますが、この曲はやや古くからあった曲のようす。1986年に一瞬だけリユニオンしたRiot(Rhett Forresterがヴォーカル、Mark Realeがギター、DVSがベース、Sandy Slavinがドラム)がステージで披露しておりますので。なお、本作でのドラムはエドワーズさん。さてこの曲、むかしは地味に思えたもんですが……あらためて聴くっていうと、歌メロの意外なメロディアスさに感心しますな。“♪Here we go!”っていうトニーのセリフからギターソロに突入するところがカッコいい。

 

 「Flight of the Warrior」は、ワーキング・タイトルが「WarriorⅡ」だったとかなんとか……。確かにMark Realeらしいつくりの曲になっていますね。ボビーさんの変幻自在足技のお陰で、野暮ったさのないスマートなパワーメタルになっています。ギターソロこそタッピングをちょっとまぶしたりやや新味ありですが、3番の歌に絡むオブリガードなどは初期と何ら変わっていない、「ハードロック時代」の良き伝統の継承。

 

 そして前曲から間髪容れずに始まる「On Wings of Eagles」。エドワーズさんのヘルプを仰いだ、バンドメンバー三人(Mark, Don, Tony)による疾走曲。この曲はあまりライヴで演じられてこなかったようですが、「Fight or Fall」路線のストレートなパワーメタル。マークの長いギターソロも、彼にしてはトリッキーな演出付き。

 

 「ジョニーって誰?」って思いますよね。バンドのマスコット(ゆるきゃら?)の白アザラシ君が“Johnny”っていう愛称だったんですって。まあ、それはともかく、この曲「Johnny’s Back」も本アルバムを代表する曲のひとつでしょう。ボビーさんの高速三連ドラム(やっぱり足技が凄いです)+ドンさんのうねうねしたベースががっちり骨格を作った上に、些か古風なマークさんのメロディアス・ギター。そして、単なるハイ・ノート繰り出しだけでなく、哀愁を感じさせる歌い回しが見事なトニーさんの歌唱が合わさるわけです。後に『IMMORTAL SOUL』で「Still Your Man」という続編が作られます。

 

 アコースティックギターと笛の物悲しい調べから始まる「Bloodstreets」(Reale/Moore作)。珍しくPVが作られた曲でもあります。(Youtubeでも観られますよ。)演奏場面中心なので、動くMark RealeやTony Mooreが観られるのが嬉しい。ちなみに、映像ではボビーさんが出てきますが、本トラックのドラムはマーク・エドワーズが担当。「Altar of the King」あたりから何ら変わらない、オーソドックスでメロディアスなギターソロに心安らぐ。

 

 次の「Run for Your Life」は、バンドメンバー全員の共作。(同名異曲が『FIRE DOWN UNDER』に入ってる話は、前にしましたね。)最近気に入りまくってます。程よい疾走感、ボビーさんの素晴らしいバスドラ・ワーク、そしてトニーさんのヴォーカルが魅力的。トニーが中音域メインで歌う曲は他にあんまりないっていうのもあるし、1分21秒のところ(二番に入る直前)の“♪Hey!”っていう差し込みもカッコいいし、1分40秒のトコの“♪One bites and your heart’s on fire!”の“fire”がいきなりオクターヴ上になるのも最高。アルバム発表直後を除いてライヴでは長いこと演奏されなかったようですが、2018年の来日時には『THUNDERSTEEL』完全再現の一環としてついに披露されました。

 

 語りと「いかにもマーク・リアリ」なギターソロから始まる「Buried Alive(Tell Tale Heart)」は大作で、9分近くあります。効果音の類も入ったりと、アートロック風味が強いので、ライヴではやらないだろう……というのは誤解でした。当時の音源を探すと、3分過ぎからのダークなリフに導かれる「本編」部分はよくステージにかけられていた模様。彼らのキャリアの中では珍しいタイプの曲ですが、見方によっては次作のアート路線への橋渡しととれなくもない。世間が思っている以上に知的なバンド、ライオット。この曲はタイトルからしエドガー・アラン・ポーの作品に着想を得ていると思しいですが、詳細は不明。作曲はメンバー全員+Steve Loeb+Bob Held。スティーヴはマネージャー/プロデューサー(当時)、ボブはよくわかりませんがAlice CooperJoe Lynn Turnerに楽曲を提供することになる人物。

<続く>