1アーティストにつき1曲ずつ、「これいい!」「おもしろい!」曲を紹介してまわるコーナーです。毎週水曜更新。YouTubeやSpotifyの力も借りて「音」への誘導もあります。
〔この「目次」は記事の追加ごとに順次増えていきます〕
どんぱす今日の御膳287[Jeff Watson]
どんぱす今日の御膳288[Cyndi Lauper]
どんぱす今日の御膳289[Stormwind]
どんぱす今日の御膳290[Hydra]
どんぱす今日の御膳291[Little Richard & 高中正義]
どんぱす今日の御膳292[Buck Dharma(Donald Roeser)]
どんぱす今日の御膳293[The Dictators]
どんぱす今日の御膳295[Tempest]
どんぱす今日の御膳296[Symphony X]
どんぱす今日の御膳297[Groundhogs]
どんぱす今日の御膳298[Avenger]New!!
298
Avenger「Death Race 2000」『BLOOD SPORTS』(1984)
前回何の気なしに(というか無根拠に)NWOBHMなるワードを出してしまったので、今回は正真正銘NWOBHMのバンドを出しましょうか。Avenger。といっても、本ファーストアルバムが出たのが84年ですから、ムーヴメントの中では後発組になりますね。(ただし、活動はもっと早くからやっていたようですけど。)
音を聴いたら、というか歌を聴いたら、何かと通じるものを感じることでしょう。そう、このヴォーカル、Brian Ross(Satan、Blitzkrieg)っぽくないですか? それもそのはず、このシンガーIan Swiftは初期Satanに居たことがあり(『INTO THE FIRE』デモで歌っている)、そのころAvengerでデモを録ったBrian Rossがその後トレードでSatanに入り名盤『COURT IN THE ACT』を製作する……という不思議な因縁もあるのです。歌い方も心なしか似てるわけよ。
Avenverは、Satanに比べればストレートな曲が多く、捻りがないのは物足りない(といえなくもない)ですが、例えばこの「Death Race 2000」など突撃感はなかなか捨てがたい。「Warfare」で歌い上げるIanはなかなか堂々としているし、8曲目「Enforcer」は、確実にあのスウェーデンのNWOTHMバンドEnforcerの命名の由来になったんじゃないかと勝手に睨んでいるのですが。❨どっかにバンド名の由来説明がありましたかねえ?)
録音があまり高クオリティでなく、音がややカルめに聞こえてしまうのだけが残念。
そして私がこのバンドを「信頼に足る」と認定した根拠は最後に控えているのだ。ラストは何だと思います?「Matriarch」ですよ。Montroseのサードアルバムからのカヴァーっていうところがセンス良い。Sammy Hagar時代じゃなくてBob James時代のロックナンバーを若干の早回し(?)でお届けする心意気よ。
そしてさらに素晴らしいのは、Ian Swiftたちが2014年に至って再集結アルバムを出したことですよ。『THE SLAUGHTER NEVER STOPS』なるアルバムが突如出たもんだから、こっちは半信半疑。おじいちゃん、だいじょうぶ?
“…………なめるな若造め!”とばかりに、アノ感じで歌いまくるイアン、タイトなドラミングでバンドの推進力を担うゲイリー・ヤング(Gary Young)の両翁が、若いギタリストらを従えて正統派メタルの意地を見せる。Satanの復活に刺激を受けた、のかは定かではありませんが、あの時代のヒーローたちが戻ってくれるのは超嬉しい。
297
Groundhogs「Razor’s Edge」『RAZOR’S EDGE』(1985)
どんぱす公認“ジョン・リー・フッカーの直弟子”Groundhogsの80年代作品。偉大なる進歩的ブルーズロッカーTony McPheeは、亡くなる2020年代までそのギターで英国の聴衆を魅了し続けた魔法使いみたいな人ですが、その魔法の杖=ギター捌きはどの時代をとっても素晴らしかった。John Lee Hookerのバックをつとめた60年代中盤、Dave KellyやJo-Ann Kelly達とルーツ的ブルーズを掘り下げた60年代後半、Groundhogsを率いてオリジナリティの塊たる名作(『THANK CHRIST FOR THE BOMB』やら『SPLIT』やら……)を送り出し続けた70年代初期~中盤……と、この辺までの作品に言及されることは多いのですが、80年代以降も彼はスタジオ・ライヴ取り混ぜて多くの作品を送り出していましたよ。
例えばこの85年作のタイトルトラックはどうですか?「Razor’s Edge」なる題名はまさに「名は体を表す」で、凄まじい切れ味のリフ。確かにブルーズロックでありながら、この異様な疾走感……やっぱりマクフィー先生の音楽はすげえ。続く「I Confess」のハードさ、「Born To Be With You」の奇妙なスウィング、極上のリフが導く「One More Chance」……A面だけでお腹いっぱいですぜ。当時のバンドはTony(Vo, Gt)+Alan Fish(Ba)+Mick Kirton(Dr)。(え、Alan Fishって、Tredegarでプレイしてたことがあんの!!!……関係ない情報に驚いてしまいました。)
私が買ったアルバム『RAZOR’S EDGE』は(もちろん)再販盤ですが、ボーナストラックに「Razor’s Edge」や「One More Chance」などのライヴヴァージョンが入っててお得。これを聴いてもやはりすごいなあ。Tony McPheeって人が時代に左右されるとは思えませんが、ここまでくるとNWOBHMの時代を経て若返っちゃったんじゃないかと思えるレヴェル。ハードロック好きの人はここから入るのも大いにアリでは?
296
Symphony X「Smoke And Mirrors」『TWILIGHT IN OLYMPUS』(1998)
このバンドのことを、当ブログではこれまで正面から取り上げていなかったのか……。いわゆるプログレッシヴ・メタルの中で私が最も好きなグループです。近年は寡作でなかなか待たされますが、出してくる作品の質の高さには毎回唸らされますね。『PARADISE LOST』なんかは気に入りすぎて、出た当初に日本盤を買い、数年後にDVD付き特別版をまた買ってしまったのでした。「Seven」は神々しいまでの名曲。
で、最初に買ったのはこっち『TWILIGHT IN OLYMPUS』でした。ヘヴィメタルのディスクガイドに載ってた、その(本が出た)当時の最新アルバム。買ってきて再生ボタンを押すでしょ、それでいきなり飛び出すギターのこのフレーズよ。素朴だった当時の私はもうそれだけでやられてしまいました。ヴォーカルも熱く、うまいしね。個人的にはドラムにも感銘を受けた……のですが、ドラマーTom Wallingは本作だけの参加でしたね。オリジナルドラマ―のJason Rulloが次作で復帰するからですが、共にテクニカルなタイプでありながら、Jasonはパワーで、Tomは細かさに秀でているようです。(「Smoke And Mirrors」のライヴヴァージョン(played by Jason)は、キックやスネアのアタック感が凄い分、細かなフィルは端折ってる――ように聴こえます。ええ、ええ、私はどっちも好きですともさ。)トム・ウォーリング先生――実際ドラムを教えていたりするようですけど――のプレイをまたどこかで聴きたいもんです。
本作、イントロから即効性のある曲は他には「In The Dragon’s Den」くらいですが、長尺のプログレッシヴな曲(「Through The Looking Glass」)やメロディアスなバラード(「Lady Of The Snow」)にも佳曲があり、気を抜けません。人気曲の密度では前作『THE DIVINE WINGS OF TRAGEDY』(1997)――アタマ三曲「Of Sins And Shadows」「Sea Of Lies」「Out Of The Ashes」はライヴの常連!――にはかないませんが、味わい深いアルバム。