1アーティストにつき1曲ずつ、「これいい!」「おもしろい!」曲を紹介してまわるコーナーです。毎週水曜更新。YouTubeやSpotifyの力も借りて「音」への誘導もあります。
〔この「目次」は記事の追加ごとに順次増えていきます〕
どんぱす今日の御膳313 夏休み特集(1):ゲームミュージックを聴こう④ [GRAVITY DAZE 2]
どんぱす今日の御膳314 夏休み特集(2):1964年へトリップ① [Bob Dylan, The Rolling Stones]
どんぱす今日の御膳315 夏休み特集(2):1964年へトリップ② [The Beatles, The Chipmunks]
どんぱす今日の御膳316 夏休み特集(2):1964年へトリップ③ [The Kinks, The Animals]
どんぱす今日の御膳317 夏休み特集(2):1964年へトリップ④ [Simon & Garfunkel, John Hammond]
どんぱす今日の御膳318 夏休み特集(2):1964年へトリップ⑤ [Scotty Moore]
どんぱす今日の御膳319 夏休み特集(2):1964年へトリップ⑥ [The Ventures, The Surfaris]
どんぱす今日の御膳320 夏休み特集(2):1964年へトリップ⑦ [Yardbirds]
どんぱす今日の御膳321 夏休み特集(2):1964年へトリップ⑧ [The Beatles]
どんぱす今日の御膳322 [Iron Maiden]
どんぱす今日の御膳323 [Kotipelto]
どんぱす今日の御膳324 [Paul Di’Anno’s Warhorse]
どんぱす今日の御膳325 [Rhett Forrester]
どんぱす今日の御膳326 [Piledriver]
どんぱす今日の御膳327 [Brothers Grimm]
どんぱす今日の御膳328 [斎賀みつき (聖飢魔Ⅱカヴァー)]
どんぱす今日の御膳329 [Shusei’s Project (塚本周成)] NEW!!
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Shusei's Project「Black Card」『SAME DREAMER』(2017)
前回声優さんが登場したので、今度もそのつながり(?)で。
塚本周成さんのプロジェクト/アルバム。といいつつ、これも私は某中古店でたまたま見かけて、「え、こんなのあったん?」とびっくりしたっていういつものパターン。鴨過ぎる……それはともかく、Outer LimitsやViennaといった80年代国産プログレが好きだった(今でも好き)――ちなみに、これもいつも言っていますが、2000年代にぜんぶ後追いで聴きましたわ――私にとってはスルーの出来ない代物。レコーディングメンバーにも、ベース(フレットレス)で永井敏己さん、ドラムで菅沼孝三さん、なんていったらもうね……平常心じゃいられないんですよ。
リードヴォーカルを雅絢恵さんと相馬優さんという声優さんが務めているというのがちょっと面白いかな。「でも」というか「だから」なのか、作品は往年のプログレ風のシンフォニックかつファンタジックな大作。ここしばらくの再発ラッシュでMarge Litchを聴きまくり、関連バンドAlhambraも大好物である小生からすると、大いに「アリ」の世界。
あ、塚本さんのオフィシャルサイトに行くと、ご本人が本作について語っているインタビュー動画があるじゃないですか。皆さんもどうぞ。
https://www.shusei-tsukamoto.com/discography/
ヴォーカルに女性声優を起用した理由(「言葉を伝えたかった」等)なんかも語られています。「(プログレファンというよりも)アニメファンの方々に聴いてもらいたい」とも仰っていますね。
さて、プログレファンの私が聴きます。実はアルバムの最初の方は捉えどころがない感じがしたのですが、3曲目「Border」あたりから――プログレ耳には――楽しくなってきました。リード楽器にヴァイオリン(藤本美樹氏)が大きくフィーチャーされているためか、どことなくKansas風味を感じることが多い印象。もう少しウェットですけども。で、今回挙げた「Black Card」はなんだかユニークな曲。動きまくりのベースにうねうねしたシンセサイザーで始まる「いかにもテクニカルなプログレ」と思わせておきながら、「現代的な内容(?)をアニメチックな表現で歌う」。ヴァイオリンと鍵盤の風味が――私が好きなもんでひたすらいい意味で言うんですが――Kansasってて最高なのね。荒牧隆さんのグイっと来るギターソロも良い。
アルバムとしても、5曲目の「戦いの中で」からラストの大曲「夢の始まり」(10分ジャスト)までの盛り上がりが凄まじい。比べるものでもないですが、さっき挙げたので言うと、Marge Litchの『ファンタージェン』を通して聴いたときの様な感動が。もともとNovelaやViennaやStarlessに影響を受けた(であろう)Marge Litchが国産ファンタジック・シンフォプログレの灯を護り、2017年にオリジネーターの塚本さんによる“プログレ+アニメ”を軸とする作品が登場……ストーリーとしてもいいですね(勝手に)。
いや、偶然出くわした作品でしたけど、大当たりと言わざるを得ない。未聴のアニメファン又はプログレファンの方は要チェックですよ。
328
斎賀みつき「嵐の予感」『非公認! 聖飢魔II カヴァーアルバム VOICE』(2006)
聖飢魔Ⅱのカヴァー作品としては、少し後に『悪魔との契約書』というよくできた作品が出たために、一層影が薄くなってしまっていますが、世界最初に出た聖飢魔Ⅱトリビュートはこれでした。特徴は、ヴォーカルをいわゆるバンドのシンガーではなく声優・俳優の方々が務めていること。この点と、「非公認!」っていうフレーズのふざけてる感から、本作への世評はなんだか低かった気がしています。かくいう私も、手に入れたのは最近になってから。……とはいえ、中古で安くなどなっておらず、ほぼ定価でやっと中古品が買えたんですがね。レア過ぎたか。
歌ってる方々は、ちょこっとゲームやアニメを嗜む私にはなじみのあるお名前も多く。森川智之さんはその岩波新書『声優:声の職人』も読んだことがあるなあ。そんなキャスト人の中で「お!」と思ったのが「嵐の予感」を歌っている斎賀さん。いろいろなお仕事をされていますが、ゲームをちょっとやる私からすると最近ではマリーザ(スト6)、ちょっと前にはDQⅪの勇者、そして何と言っても『空の軌跡』他のヨシュアなんですよね。そういえば『空の軌跡』はファルコムがフルリメイクするとか…
…閑話休題、で、歌は聴いたことがなかったんですが、お上手でした。聖飢魔Ⅱ屈指の劇的な曲ですが、見事に歌い上げていて、デーモン閣下とはまた別の世界がしっかりできてました。トリビュートとかカヴァーものっていうは、本家に寄せる手法もオリジナルカラーを出すやり方もありますが、程よい感じ。(「閣下の方がいい」ってかんじちゃったら負け。誰が?)
ちなみに、演奏を担っているバックバンドもしっかりした腕利きの方々です。世評で「演奏が弱い」とあった気がしますが、必ずしもそんなことはない。どちらかといえば複雑でないアレンジがされているようで、そこに「物足りなさ」をおぼえるメタルマニアはいるかもしれませんが――私も数年前ならそう感じた気がする――あくまで「歌もの」と考えれば問題なし。チープな打ち込みとかはなくてちゃんと生のフルバンドで録ってありますしね。
それから「非公認!」の件ですが、別に聖飢魔Ⅱをないがしろにして勝手に出した、とかではなさそう。BMG JAPAN(聖飢魔Ⅱがかつて所属)から出ているし、プロデュースにKikuo Hirano氏(即ちかつての聖飢魔Ⅱ侍従長ナスティ平野氏)が関与しているし。聖飢魔Ⅱの側が積極的にお墨付きを与えた「わけではないけどね」くらいの意味なんでしょうか。
大枚はたいて手に入れるべきものかはわかりませんが、一聴の価値はあり。メタラー的には、10曲目の「地獄への階段(完結編)」――楽曲チョイスがマニアックすぎるだろ!――を高橋由美子氏とKAMMURI(冠徹弥)氏がデュエットしてるのも聴き物、かもよ(期待通りに暑苦しい!)。冠さんは『悪魔との契約書』にも参加して「Jack The Ripper」を歌っていましたね。
というわけで、Pat Booneの『メタルバカ一代』を許せる(楽しめちゃう)度量の広い人にはお勧めしときますぜ。
327
Brothers Grimm「Status: Oligarchy」『HELM’S DEEP』(1990)
1990年の作品ですが、私は2022年の再発盤で聴きました。アメリカのプログレッシヴ・メタル。これも事前には全然知らなくて――ディスクガイドの類でも見かけたことはなかったと思う――DU店頭で"Cacophony、Dream Theater、Fates Warning、Racer X、Watchtowerらから影響を受けたというサウンド"という煽り文句に釣られて買ったやつ。
例示されてるのがみんな好物だし、1990年ってことはDream Theaterのブレイクより前だから、それこそウォッチタワー的なクレイジネスが発揮されてるんじゃないかと思ってね。
で、再生するとまずこれ、「Status: Oligarchy」。いいねえ、バカテクのインスト、好物よ。リズムセクションもギターもイイ感じじゃないの、感心感心……と思っていたら甘かった、このバンドの秘密兵器はヴォーカルだよ!Bruce Arnoldなる人らしいが、もうこれ、Midnight(Crimson Glory)じゃん!まあ、あそこまで安定感と威厳は無いか……でも悪くない、かなりいいのよ。
ちなみに、「グリム兄弟」なるバンド名ですけど、メンバーにグリムって人はいません。バンドはこの後『ONLY CHANGE IS CONSTANT』(1992)というEPを制作しましたが、リリースすることなく解散。この音源は22年の再発盤にボーナスで入ってます――つまり私も聴ける。技術と音質は向上したようです――「Only Change Is Constant」とかはしっかり前作路線――が、ヴォーカルはもう少し普通の(歌はうまいです)Aaron Thomasに交替。これはもう好みの問題ですね。1992年といえばDream Theater『IMAGES AND WORDS』が出た年。現代プログ・メタルの潮流が一気に変わったこのタイミングでちょうど去っていったとは、なんとも残念な気がします。せめてプログ・メタルおたくの人々がしっかり聴いて供養いたしましょう。いや、真面目な話、よいです。再結成以降のCynicが好きな人とかにもたぶんストライクだよ。