⑪Riot『SONS OF SOCIETY』1999
- Snake Charmer
- On the Wings of Life
- Sons of Society
- Twist of Fate
- Bad Machine
- Cover Me
- Dragonfire
- The Law
- Time to Bleed
- Queen
- Somewhere
- Promises
<メンバー>
Mark Reale(Gt)
Mike Flyntz(Gt)
Pete Perez(Ba)
Mike Dimeo(Vo)
Bobby Jarzombek(Dr)
以前、デンマークのNaritaというバンドを紹介した際に、このアルバム『SONS OF SOCIETY』のジャケットのお話をさせてもらいましたね(第46回「Narita」(2))。Eric Philippeさん画のジャケ、「今だったらむしろ受けるんじゃないか」とも申しました。欧州を中心にパワーメタル/スピードメタルが復権してくると、この手の‟ファンシー・ファンタジック・ファニー”なピクチャーは珍しくもなんともなくなりましたから……99年ではちょっと早すぎたのかもしれませんね。(Hammertfallなんかはもうデビューしてたんですが。)
それから、実はこの作品が「リアルタイムでリリースを待望した」初のRiot作品ですので、個人的にも思い入れが深いのです。ベスト盤を図書館で借りて感動し、CDショップにあった当時ニューリリースの『SHINE ON』(ライヴ盤)を買って聴きまくっていた私……「この人たちの新作はいつ出るの?」となるのも無理はなかったわけ。このころ(90年代末)Mark RealeはWestworldも進めていて創作意欲は旺盛だったようですが、ライオットにどれだけ情熱を注いでいるのか異国からは見えなくて……たしか、当初発表になったリリース・デイトより若干遅れて出たんじゃなかったかなあと思いますが、せっかちな若い衆としてはまあ気をもみました。
蓋を開けてみれば、バンド史上久々の「前作と同一メンバー、同一制作環境」による高品質ヘヴィメタルに仕上がっておりました。カヴァー曲も今回は無く、バンドの創造性が高まっていた様子がうかがえます。またTony Harnellも引き続きバッキング・ヴォーカルで参加してますが、その辺を除けば基本的にはバンドだけで作り上げたところも個人的には好印象。
なんて言いながら、一曲目「Snake Charmer」だけはゲスト参加のFrank Carilloによるシタール及びタブラ演奏が目立つ、「インド風」というか「インドかぶれのジョージ・ハリスン風」インスト。ライナーノーツによりますと、フランクさんはじっさいGeorge Harrisonと接点があった人みたいです。……泥縄ですがいま調べたら、フランクさんは1950年生まれ、Doc Holidayでデビューしたミュージシャンで、ソロ活動もしながらPeter Framptonほかの作品にもセッション参加してきたとのこと。Doc Holidayでの同僚Bob Mayoは一時期ピーター・フランプトンのバンドメンバーとなっていました(第17回「Peter Frampton」(3))。というかフランクさん、Westworld『WESTWORLD』にもマンドリンでゲスト参加していらしたじゃないですか!?。大変失礼いたしました。この「Snake Charmer」だけならまったくRiotらしくない‟蛇使い”サウンドですが、次曲以降への期待をいやが上にも高めます。ちなみに、末尾の“E~F#~G~B~E(オクターブ上)”はMike Flyntzお得意の音階(?)らしく、Riot V『UNLEASH THE FIRE』(2014)所収の「Fight Fight Fight」のソロ結び(3分05秒~08秒)でも使ってます。
そして本編幕開けとなる「On the Wings of Life」。相変わらずの音、バンドの武器であるBobby Jarzombekのドラムをしっかり聴かせてくれるプロダクションは素晴らしい。それから、Pete Perezのベースもとても活き活きと聴こえます。前々作までは音質のせいで埋もれ気味でしたが、本作で聴くとその個性的フレージングにもハッとさせられますよ(コーラス部分に入る前のくだりとか)。聖飢魔Ⅱのゼノン石川和尚などもそうですが、「ジャズとかプログレもいける指弾きベーシストが本気でメタルをやる」っていうパターン、いいですねえ。もちろんギターセクションも充実、深化し続けるMark & Mikeのコンビネーションはまさしく鉄壁というに相応しい。
次も同様の疾走曲「Sons of Society」なんですが、前作で時折感じられた“焼き直し感”少なめで好印象。これまでRiotではあまりやってこなかったタイプのリフやメロディで押しつつ、“♪Sons of society……”に始まるコーラスのところは王道的な歌い上げでカタルシスを得させるという、なかなか巧みなもの。社会批評を込めた歌詞を歌うディメオさんも、抑えたところと解き放つところの対比が見事になってます。ディメオとパワーメタルの組み合わせはいま一つ、と決めつけてはいけませんぞ。
Reale/Dimeo/Flyntz作の「Twist of Fate」は、パワーメタル以前のRiot風味。ゆったりした進行にビッグでメロディアスな旋律。フリンツとリアリのじっくり聴かせるギターソロ付き。フリンツさんのソロのフレージング、作品を重ねるごとに練られてきてるよね。楽曲としてはやや地味かなと思わなくもないのですが、本人たちは気に入っていたようで、私が唯一肉眼で観たRiotの日本公演(2005年9月)でもやっていました。
短いドラムソロ(フィル)から始まるミドル・シャッフル「Bad Machine」。ここではディメオさんの歌唱を味わうが良し。やや高い音域がメインとなりますが、テンションを高める効果大。”♪Yeah~”・“♪Ooh~”・“♪That’s right…”ってなお得意の間投詞がふんだんに盛り込まれるのは好みが分かれるかもしれないけども。速弾きを抑えメロディセンスで勝負する両ギタリストのプレイは好印象。あとは、この手のミドルテンポの曲で小技を利かせまくるリズム隊にも注目ね。
本作中唯一のバラード「Cover Me」。ディメオ入魂の歌唱もあって、かつての「Runaway」他にも匹敵する抒情味を醸し出しますが、ライヴで演じられる機会はほとんどなかった模様。中間の鍵盤入り間奏部分(3分過ぎ辺り~)が、中期Led Zeppelin風(?)で彼らにしては少し風変わりかも。間奏後半は十八番のメロウなギターソロがこれでもかと繰り出されるわけですが。歌が戻ると、4分30秒辺り“♪You were all I ever wanted”のところで、それまで抑えていた感情を爆発させるかのように歌い上げるディメオさん。
本作中最長だった前曲が終わった後にすぐさま続くのが、逆に(イントロダクションの「Snake Charmer」を除いて)一番短い「Dragonfire」。これはもう典型的なパワー/スピードメタル。というか、「Thundersteel」の本歌取りですよね。Reale/Dimeo/Flyntz作。むかしは即効性のある曲が好きだったから、こればっかりずいぶん聴きました。コーラス(サビ)がちょっと単調かなと、いまになると感じますけどね。それでも、「お約束過ぎるナア」と思いつつもギターソロ後半のツイン・フレージングなんかはグッと来る。終盤3分8秒辺りで、ボビーさんがハイハットのかわりにフロア・タムをドンドコ叩いてるのなんかも好きです。
ちょっと練られたギターリフに、躍動的なフレージングのベースが絡む「The Law」も疾走曲。曲のテンポおよび構造はわりとシンプルな部類に入ると思いますが、正攻法で聴き手を「オッ」と思わせるリフ作りはなかなかのもの。緩急をつけたギターソロももはや彼らにしか出来ない職人芸の世界。こうして、我が法則による「3分50秒の名曲」がここにも誕生したのであった。Flyntz/Dimeo作……ついに彼らもMark Realeに頼らずここまで書けるようになりましたか。
「Time to Bleed」もまた疾走するナンバーであった。バンド5人の共作になるのですが、ジャム的に発展して出来た曲なのでしょうか。本作中では比較的ストレートな(捻りのない)作りかもしれない。それにしてもこのアルバムでは、マイク・フリンツのギタープレイが光っていますねえ。本作の貢献第一は彼かもね。(次点が地味にピート・ペレツ。正統派のHM/HRでこれだけベースが活動的なのは珍しいと思いますよ。)
「Queen」は日本盤ボーナス・トラック。というか、イニシャル・リリーズは日本だから、後発の欧米盤ではなぜか一曲オミットされたことになるかな。『FIRE DOWN UNDER』か『RESTLESS BREED』あたりを思い出させるハードロック・ナンバー。
ボビーのドラムソロから、ややトリッキーな始まりをみせる「Somewhere」はDimeo/Perez作品。心地よく疾走する曲ですが、サビのところ“♪Somewhere tomorrow, somewhere today……”の爽快感は特にナイス。ギターソロのバックのボビー’s ドラミングも匠の技で、曲を単調に感じさせない。
やや大仰なオープニング・リフで始まる「Promises」も、マークは作曲に関与していないね。Dimeo/Flyntz作。テンポはやはり速めなのですが、ギターとベースがユニゾンになるリフが多いためか、タフネス3割増し(?)に感じられます。ディメオの歌も力感と情感を兼ね備えた見事なものに。
こうして最後まで聴いてくると、Riotは「Mark Reale Band」じゃなくて、あくまで有機的なユニットなんだなあと再認識します。そしてそれは、マーク自身の思惑でも(おそらく)あるのです。最近調べたところでは、Riotの初期から中期にかけてのマネージャー/プロデューサーSteve Loeb氏は、マークの才能だけを買って他のメンバーをないがしろにする傾向があったようなのですが……マーク自身はそれでいいとは思っていなかったということですね。マークに育てられたドン・ヴァン・スタヴァンやマイク・フリンツが彼に恩義を感じてるというのもわかる気がします。で、マイク・フリンツのプレイヤー及びソングライターとしての大成長が見て取れるのがこの『SONS OF SOCIETY』なのです。