世にカヴァー・アルバム、トリビュート・アルバムは数あれど、コレほど面白いものはなかなかありません。(メタルの側が、「〇〇メタル」と称して異ジャンルの曲をカヴぁるのはある時期から割とたくさん出て――第11回「Jackie Chan」(2)で紹介したBLUE-3『METAL DRAGON』なんてのもありました――個人的にはもういいかなと思うほどなんですが……「カヴぁられる」(受動態)のは割と珍しい。しかも、お遊びでなくて。
Pat Boone『IN A METAL MOOD:NO MORE MR. NICE GUY』(1997)
- You’ve Got Another Thing Comin’ [Judas Priest]
- Smoke On The Water [Deep Purple]
- It’s A Long Way To The Top (If You Wanna Rock ‘n Roll) [AC/DC]
- Panama [Van Halen]
- No More Mr. Nice Guy [Alice Cooper]
- Love Hurts [Nazareth←The Everly Brothers]
- Enter Sandman [Metallica]
- Holy Diver [Dio]
- Paradise City [Guns N‘ Roses]
- The Wind Cries Mary [Jimi Hendrix]
- Crazy Train [Ozzy Osbourne]
- Stairway To Heaven [Led Zeppelin]
<メンバー>
Gregg Bissonette(Dr)
Andy Simplins(Aco Ba)
Mitch Holder他(Gt)
Dave Siebels他(Key)
Paul Smith他(Piano)
Alan Kaplan他(Trombone)
Frank Szabo他(Trumpet)
ほか
+
Marco Mendoza(Ba・4)
Dweezil Zappa(Gt・2)
Ritchie Blackmore(Gt・2)
Sheila E.(Timbales・4)
Ronnie James Dio(Cho・8)
このアルバム、邦題が『メタル・バカ一代』なんですよね。ちょっとこのインパクトが強すぎて、「あのパット・ブーンがメタルかよ(笑)」みたいな流れになったのはよろしくなかったのではないかな。だって、全編Gregg Bisonnetteが叩いてるってのは魅力的だし、「ご本人登場」状態の豪華ゲストも居るし、「ビッグバンド風アレンジ」も本格的だし、ジャンル越境型作品としては高品質なんですから。色物・珍作扱いしてた人には猛省を促したいレベル。
「あなたたち、ちゃんとコレ通して聴いたのかい?」
俺は聴いたのよ。一曲ずつ行きましょう。
まずはいきなりゴージャスなホーンが鳴り響く、Judas Priest「You’ve Got Another Thing Comin’」で幕開けだ。多重女声バックコーラスも華やか。御大Pat Booneのダンディヴォイスももちろんカッコいい。ロックっぽさの骨格は、Greggのドラミングが支えているからご心配なく。2分20秒からの「ソロ」パートは、ギターじゃなくてホーンがとるんだけど、そこんところではリズムチェンジがあって‟4ビートでのスウィング”になるのね。クール。後奏部分でもGreggのドラムが堪能できるなあ。ライドとかスプラッシュとか、シンバルの使い方も素敵だ。
続いてDeep Purple「Smoke On The Water」、これは例のギターリフから始まりますけど、ホーン・セクションも段々重なって入って来る。サンタナじゃないけど、ああいうパーカッションも入ってる。Aメロとかで歌い方はくずしてるけど、コーラス部分は原曲に合わせるPat。この曲では、ギターにDweezil ZappaとRitchie Blackmoreが参加してまして、ジャジーなソロも披露。ソロ明け(3番)のピアノ中心の静かなところもイイね。
ダブル・ベースに導かれるスウィンギン「It’s A Long Way To The Top (If You Wanna Rock ‘n Roll)」はもちろんAC/DCの名曲。ギターの出番もなく、ジャズ度の高いアレンジ。ソロ明けではオルガンがちょっとせり出してきたり、(前曲のピアノもそうだったが)飽きさせないように曲中でも変化をつけてきてるのが心憎い。原曲の、「お前さん達、ジョン・リー・フッカーのブギー好きでしょ!?」なギターリフもないし、何よりの特色「バグ・パイプ」もない。けど、これはこれできっちり完成してるのだ。
エレクトリック・ギターのソロで始まるのは、Van Halenへオマージュを捧げたものでしょうか。「Panama」も、本編が始まると、ホーン+パーカッション+女声コーラスの三種の神器が引っ張る中、Patの自由な歌唱がひろがる。原曲のDavid Lee Rothの歌唱って、あんまりカッチリしてなくて、カラオケとかで真似しようとすると難しい(フィーリングがつかめない)んですけど、逆にパットさんの様な歌手には合ってるのかもしれない。Sheila E.が打楽器(ティンパニかな)でゲスト参加。
お次がタイトル・トラック、Alice Cooperの「No More Mr. Nice Guy」。アルバムのブックレットの中を見ると、パットさんがレザーを着てバイクに跨り……みたいな「良い子ちゃんはもうやめたよ」絵柄が。おやっさん、本気ですな!楽曲の方は、ゆったり弾むようなテンポで“♪No more Mr. Nice guy, no more Mr.Clean……”カラッと明るい感じで、3分ちょいとで幕。
折り返しとなる6曲目は、「Love Hurts」。The Everly Brothersのヒット曲でもありますが、メタル・ムードっていうことならNazarethのヴァージョンを下敷きにしてるのかな。(いまざっと探したら、他にGram Parsons、Morning Wood〔元TNTのTony Harnellのバンド〕、Roy Orbison、Triumphなんかも歌ってました。古典中の古典。)もともとしっとりとしたバラードでしたけど、パット版は、ピアノ・バラードに途中からストリングスも加わるディナー・ショウ仕様(?)。Pat Booneのファンの側からしたらいちばんとっつきやすいのではないですかね。
<続く>