バンド・アーティスト名のアルファベット順にご紹介してきました当ブログ、一周目も半分を過ぎましたので、この辺りでちょっと別メニューを差し挟もうかと思います。
過去の記事をお読みいただいた方にはおわかりのことと存じますが、わたくし、ドラマー(とそのドラミング)が気になる質の者でして。自分がアマチュアバンドでドラムをやっていた(いる)から、というのもありますが、人力演奏の極致としてある「太鼓」に、楽曲を聴いていると耳が行くのです。そういう聴き方をしてしまっていると、ドラミングの好みというのも出てまいります。
実はむかしから自分でも不思議だったんですが、わたくし「The Beatlesはピンと来るけどThe Rolling Stonesはいまいち」「King Crimsonはピンと来るけどPink Floydはいまいち」「Thin Lizzyはピンと来るけどQueenはいまいち」「Sex Pistolsはピンと来るけどThe Clashはいまいち」……っていうようなことがよくあったんですよね。同じ時期・似たジャンルの名バンドがあるとき、なぜかスッと入ってくる方と、なかなか乗り切れない方――言い訳しておくと、「いやだ」と言っているつもりはないのです、Stones、Floyd、Queen、Clashの味はわかるつもりですし、作品も持っています――とに分かれるという。で、しばらく考えてみて、それぞれのリズムのフィーリング就中ドラミングの個性が違うせいじゃないかと気づいたのです。その分析は(そんなものをしてどうなるというものでもないのですが)いずれ勝手にやるとして、少なくとも「ロックなどの人力音楽ではドラミングはやっぱり致命的に重要」だと思うのですよ。カラオケボックスで流れる演奏なんかを考えたらわかると思いますが、譜面通りにドラムを「打ち込んで」も、同じ味わいは決して出ない。よくある「トリビュートもの」で、歌やギターはよく似ていても「曲として何か違う」場合は、たいていドラミングが違っている――打ち込みで済ませていたり、あまり原曲への深い解釈なしに叩いていたり――。たぶん本来一番気を使うべきところでありながら、一般向けには多くの場合後回しにされるのがドラミングではないかと。
そんなことではなりますまい、ということで、今後時々すごい――もとい、わたくしの好きな――ドラミング・ドラマーを紹介していこうという所存であります。さっきリストアップしてみたら、「この人はプッシュせねば」というのが30名以上いました……が、今回は記念すべき初回として次の人を挙げましょう。
<達人の物語(前編)>
Liberty DeVitto(1950-)
*左下がLiberty DeVitto
Libertyさんは、Billy Joelのバンドに長くいたことで知られるドラマーです。1950年アメリカはニューヨークの生まれ。イタリア系移民の子供だそうです。(ユダヤ系ドイツ人の移民子弟であったBilly Joelとバンドを組んだという話になりますから、ニューヨークという土地柄もしのばれますね。)Libertyは、エド・サリヴァン・ショウというテレビ番組でThe Beatlesを観、ドラムに興味を持ったといいます。エド・サリヴァン・ショウの米国における影響力はすさまじく、Billy Joelもこの番組を見て「プロのミュージシャンになろう」と決心したといいますし、わたくしが最も好きなHRバンドRiotの創始者Mark Reale氏も同様のことを生前語っていました。
Libertyに戻りますと、彼は他にDino Danelli(The Rascals)の影響を受けつつ、独学でドラムを習得していきました。(ネット上には、DanelliとDeVittoの対談動画が上がっていますが、冒頭でDeVittoが「リンゴ(スター)の次に夢中になったのがあなただった、最初にライヴを観たのもThe Rascalsだったんだ。……The Rascalsの面々はすごくniceでcoolで、ファンの自分にもよくしてくれた、それで人生が変わったんだ」と告白しています。)ニューヨークで活動していた彼は、The Hassles時代のBilly Joelとも知り合いだったといいますが、当時は共演はなかったようです。しばらく西海岸で活動したBillyは『PIANO MAN』(1973)に続いて『STREETLIFE SERENADE』(1974)を出しますが、その後ニューヨーク(Billyの生まれ育った地でもあります)に戻ることを考え、「レコーディングとライヴを共に行うバンド」づくりに動きます。『STREETLIFE SERENADE』のツアーで同行したベーシストDoug Stegmeyerが最初にBillyからアプローチを受けまして、そのDougとバンドメイト(当時Topperというグループをやっていた)だったLierty DeVittoに白羽の矢が立った、というわけです。
1976年の『TURNSTILES』(名盤!)以来、DeVittoは2006年までBilly Joelのバックで叩き続けます。Billy Joelバンドの核はベースとドラムでして、Billyが曲のアイデアをピアノで示し、Doug Stegmeyerがベースラインを考え、Liberty DeVittoがビートを付ける、という作曲パターンもあったそうです。『THE STRANGER』から『STORM FRONT』まですべてのアルバムに参加し――『THE BRIDGE』収録のBilly & Ray Charlesのデュエット曲「Baby Grand」(Vinnie Colaiutaがドラム)など、叩いていない曲はありますが――、1987年のソ連ツアーを含むあらゆるツアーに同行しています。
<名演紹介(前編)>
(1)Billy Joel「Prelude/Angry Young Man」(『TURNSTILES』1976)
Billy Joelバンドが制作に関わった第一作目『TURNSTILES』は、プロデュースもBilly自身が務めた渾身の作品でした。楽曲の出来は素晴らしく、ダイナミックなロック・サイドと(「Say Goodbye To Hollywood」、「I’ve Loved These Days」、「Miami 2017(Seen the Lights Go Out On Broadway)」)、美しい弾き語り調サイド(「Summer Highland Falls」「New York State of Mind」「James」)のバランスも見事。中でも6曲目にあるこの「Prelude/Angry Young Man」は、Billyのショウのオープニングナンバーとして長く演奏され続けている名曲。ピアノの連打で激しく始まりまして、そこへドラム・ベース・オルガンが重なり合って「前奏」スタート。この時点でもうLibertyは全開で、タムを絡めたフィルがビシバシ決まる。歌は2分弱のところから始まりますが、歌詞は、いわゆる「怒れる若者」を突き放しながらもどこか共感を捨てきれない人の立場から紡がれたもの。前期Billy Joel得意の“都会に生きる人を観察して描いた”一曲といえるでしょう。各パートの瑞々しい演奏は続き、最後まで勢いを保ちます(いま改めて聴くと、ベースが良いね)。
先程も言いましたが、この曲はライヴの定番でして、直後のツアーからずーっと演奏されているのですが、オフィシャルな音源としては『КОНЦЕРТ』(コンツェルト)という「ソ連ツアーを収めたライヴ盤」で聴くことが出来ます。Liberty DeVittoのドラミングはライヴではワイルドさ倍増になることが多いのですが、このロックナンバーでは特にそうで、2分50秒~3分05秒あたり及び3分40秒~3分50秒、3分55秒~4分05秒あたりのフィルのぶち込み方はそんじょそこらのハードロック・ドラマーよりよほど激しい。ソ連ツアーは映像もあるんですが、DeVittoって人は巨漢なもんで、物凄い迫力なんですよね。
ということで、Billyいわく「どれだけ強く叩けるか」命の「ロックンロールドラマー」Libertyの真骨頂が味わえる一曲、ぜひお楽しみ下さい。
(2)Billy Joel「Zanzibar」(『52nd STREET』1978)
しかし、Liberty DeVittoっていうドラマーは、ただ力任せにひっぱたくだけの太鼓打ちではないのです。ジャズ的な素養もある人で、アルバムによってはそういう演出も行っています。Billy Joelの『52nd STREET』は、若干ジャジーなテイストの強めな作品ですが、この中ではかなり幅広いドラミングを披露しています。元気なロックソング「Big Shot」「My Life」「Half Miles Away」では期待通りの演奏ですが、バラード調の「Honesty」や独特のリズムの「Rosalinda’s Eyes」では歌を邪魔しないさりげないバックアップに徹します。ジャズ風味なのはピアノの刻みとホーンのフレーズが印象的な「Stiletto」、ジャムセッション風の短い終曲「52nd Street」、そしてこの「Zanzibar」でしょうか。「Zanzibar」は最初はゆったりしたテンポのロックなんですが、間奏後半の3分05秒~3分25秒あたりは完全にジャズになり、また元に戻ります。(一つの曲の中で「ロック→ジャズ→ロック」になるというものとしては聖飢魔Ⅱの「Ratsbane」なんていうのもありましたっけねえ。)とにかく、Billyバンドのリズム隊には感服しました。この曲は4分25秒以降の後奏も間奏同様のジャズで、トランペットのソロからフェイドアウトしていきます。
長いことライヴでは演奏されていなかったんですが、皮肉なことにLibertyが参加しなくなってからの2006年や2011年のライヴ盤では聴くことが出来ます。ドラムのChuck Burgiは、オリジナルのスタジオ版に忠実に演奏しています。(続く)