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Hoyt Axton「The Pusher」(『JOY TO THE WORLD』1971)
このひと(Hoyt Axton,1938-1999)のこと、ずっと気になってました。Three Dog Nightで有名な「Joy To The World」やRingo Starr「No No Song」、Steppenwolfの「Snowblind Friend」などの作曲者でありながら、オリジナル(原作者)ヴァージョンがあまり聴かれなかったもので……。米国のシンガー・ソングライターとのことで、CD屋でも色々探したのですが、捜索方法が下手なせいかなかなか手ごろな作品に出合えずにいたんですよね。
例えば今回お題の「The Pusher」ですが、私が大大大好きなバンドSteppenwolfがファーストアルバムでとり上げて(シングルカットも)、さらにその後もずっとステージで演奏し続けている超重要曲。ドラッグの売人をテーマにした曲を米国HRの元祖が力強く奏でるヘヴィナンバーですね。アメリカン・ハードロック史に残るべき里程標だから、クレジットにある原作者Hoyt Axtonのはそもそもどんな感じだったのかっていうのも、気になるじゃないですか?
上に記した通り本人のアルバムでは『JOY TO THE WORLD』に入っていたということですが、その少し前に『FIRST VIBRATION』(1969年)なるオムニバスアルバムに提供されたとのこと。ステッペンウルフは67年録音・68年リリースをしているので、「他者への楽曲提供」の方が先だった、という時系列理解でよいですかね。本人版は、オルガンも入る分厚いバッキングに濁声のヴォーカル、ヘヴィなリズム……つまりステッペンウルフ版に近いのです。(どっちが先かな?)
で、最近Hoyt Axtonのアルバム『MY GRIFFIN IS GONE』(1969年)のリイシュー版ボーナストラックに「1968年録音」というホーム・デモ(アコースティック)ヴァージョンが入っているのに気が付きました。デモだからでしょうか、アコースティック・ギター弾き語りなので、後日世に出回るヴァージョンとは印象を異にします。とはいえ歌詞は当然ながら同じなので、特にサビのところの圧力はすでにヘヴィネス有り。(なお、当該リイシュー『MY GRIFFIN IS GONE』には黒い丸のステッカーが貼ってあって、そこに「Psyche-folk classic!」とか書いてあるのね。「サイケ・フォーク」ってなんすかね。Jake Holmesくらいならわかりますけど、ちょっとああいう雰囲気もあるかも。)
通常だとカントリー・ミュージックは私の守備範囲外になってしまいやすいのですが、この人の作品はロック界隈に持ち込まれたというか隣接するものも多くて、チェックしていきたい気にさせられますね。上述『MY GRIFFIN IS GONE』と近い時期に手に入れたベスト盤には「Joy To The World」や「No No Song」の本人版も入っていて楽しめたし、これまで私が知らなかった曲では、音楽賛歌らしき「Never Been To Spain」(これもThree Dog Nightのが有名なのかな?)であるとか軽妙な「Roll Your Own」なんかもあって愉快痛快。今後も何とかフォローしたいアーティストです。
最後におまけで。「The Pusher」は何と言ってもSteppenwolfの名演が素晴らしいわけですが、意外な(そうでもない、ですか?)歌手がこの曲をカヴァーしております。やや前に伝記的映画も出たNina Simoneさんが、『IT IS FINISHED』(1974年)にこの曲を入れています。ライヴ・ヴァージョンのようで、録音自体はアルバムリリースの数年前ということですが、やはりステッペンウルフ版以来のヘヴィな仕上がり。ただニーナ・シモンさんのことゆえ、単に人のやっていることをなぞるようにはなっていないのがまた凄い。探して聴く価値ありの重厚な5分15秒であります。