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"嘘八百 is not a metaphorical expression in our country."

時代の産物を追う?(15)

 さて、マーティンさん物語の続き。80年代は制作など裏方的な仕事を多くやったようですが、87年にオリジナルWishbone Ash再集結が行われたのに参画。91年に再脱退するまでの在籍期間に、数枚のアルバムやライヴ活動に貢献。その後は96年に初のソロ・アルバムWALKING THE  REEPERBAHN1980-96年の録音を集めたもの)を発表。以降は他のアーティストのレコーディングやツアーに参加していました。
 
 マーティン自身のWishbone Ashへの思い入れが再燃したのが2005年、Wishbone Ash流のバンドを自ら率いる形をとることになりました。なお、Wishbone Ash本体はAndy Powellが牽引する形で、マーティンの手から全くはなれて長年続いていました(いまも続いています)ので、マーティン側はMartin Turner’s Wishbone Ash名義で活動しています。MTWAは作品としては、往年の名曲を再演するライヴ盤がほとんどを占めるほか、名盤ARGUSの再録を試みたアルバム(ARGUS:Through The Looking Glass)があります。もう新曲は書かないのか……と思っているときに出たのがMartin Turner名義でのこのアルバム。MTWAとほとんど同じメンバーで作られていますが、楽曲が(ついに)新曲に。ジャケットはなかなか雰囲気があってよいですが、「これだけブランクがあって、どんな曲が出てくるのか?」おっかなびっくり手に取ったというのが正直なところ。
 
Martin TurnerWRITTEN IN THE STARS
1. The Big Bang (Overture) 
2. The Beauty of Chaos
3. Written in the Stars
4. Lovers
5. Vapour Trail
6. The Lonely Star
7. For My Lady
8. Pretty Little Girls
9. Falling Sands
10. Mystify Me
11. Interstellar Rockstar
メンバー
 Martin TurnerVo, Ba
 Danny WillsonGt. Cho
 Misha NikolicGt, Classical-Gt
 Tim BrownDr, Cho
 +Ray HatfieldGt, Cho)他
 
イメージ 1

 

 1曲目はスペイシー(?)なインストによる短い「序曲」。続く「The Beauty Of Chaos」からが本編というところでしょうが、こちらも浮遊感あるインストゥルメンタルでして、細かなフィルを入れるドラムがナイス。ロングトーンの電気ギターとアコースティックギターの重なりも凝ってますが、耳が行くのはやっぱりマーティンの硬質なベースプレイ。まだまだ健在!ってなところですかね。
 
 3曲目「Written In The Stars」からが歌モノ。この曲は往年のWishbone  Ashのテイストを再現しようとしたのではないでしょうか、器楽隊の揃ったリフ・パート、ゴツゴツと目立つベース、幾パートも重ねられたヴォーカル/コーラスと「美味しいトコ取り」。130秒あたりからのツイン・ギターもシンプルだが味わい深く、そこからはベースがリードします。(ミックスの関係でしょう、ベースが凄くデカく聴こえます。)320秒辺りの展開からギター・ソロへつながるところの壮大なスケール感も良い。タイトルトラックだけあって自信作のようで、Youtubeなんかでは演奏場面もみられますよ。もっかい観よ!などと思ってYoutubeをうろついていたら、マーティン本人が本作中のトラックに解説を加えてる動画がありまして、それによるとこの曲は1980年代後期には曲の原型はできてたそうです。Wishbone  Ashでも録音に入ってたそうなんですが――だから、「再現」じゃなかったんですね――「残念ながら歌詞とヴォーカル・ラインをまとめられなくてね」。それが、「ちょっと前にクリエイティヴィティが高まったんで一挙に仕上がったんだ」、ですって。歌の内容は「世界、地球、太陽系、宇宙……そういうものがいかに素晴らしいか」云々についてだということで、本アルバムのテーマを貫くものでもあるそうです。
 
 次の「Lovers」はちょっとリラックスした雰囲気のゆったり8ビート。湿り気のある雰囲気の曲が多い本作中では、明るい感じだな……。さきほど言及したご本人解説動画によると、「まあ要するに、ボクの二番目の妻についての歌さ」ですって。
 
 アコースティック・ギターの印象的なフレーズから始まる「Vapour Trail」もまた、ダブル・ヴォーカルが効果的。1分半あたりからの展開も「いかにも!」な往年のWishbone Ash風。ARGUSの頃の感じに近いなあ……あ、でも、420秒くらいからの「疾走パートに入ってギター・ソロ」っていうのは少しあたらしいかな。なかなか滑らかなソロが聴けます。マーティン語りによれば、「バンドの皆で作ったっていう点では、些か珍しい(quite unusual)ものだね」。
 
 前作からほぼ切れ目なくつながる「The Lonely Star」は、3拍子のバラード調インスト。ツイン・ギターのフレーズが耳に残る。2分過ぎに子ども(?)の「♪The lonely star…」っていうウィスパーが入った後、ギター・ソロ・パートに突入。泣きのフレーズ山盛り。マーティン曰く「ダニーが作り始めた曲なんだが、これを聴いて彼のクリエイティヴィティに気付かされたよ」。
 
 7曲目「For My Lady」はこれまでとは少し雰囲気違うかな……いや、「Underground」に近いか……アレ?でも81年のNUMBER THE BRAVEの曲じゃあマーティンは関係無いな(ベースはJohn Wetton)……やはり無理に旧作にこじつけるのはやめますか。さっき名前の出たダニーさんをふくむギター・セクションがかなりいい仕事してるので、叙情的なところはより叙情的に、躍動的なところはより躍動的に仕上がってる気がします。さ、先生お願いします:マーティン「友達のRod Lyntonが手掛けた曲。歌詞を書いて、ジャミングをして仕上げたよ。」
 
 「Pretty Little Girls」は、歌い方も跳ねるリズムも他とはやや異質。マーティン・ベースが元気なのはいつも通りですがね。歌は「ボクは娘が何人も居てね。彼女らの成長の様子を歌ったものだよ」。なんだか子煩悩なひとみたいです。
 
 ゆったりしたテンポの9曲目「Falling Sands」は、歌がもっとも前に出た感じ。マーティンの声には若い頃のような艶はさすがにありませんが、ジェントルな貫禄が増量。元XTCColin Mouldingと似たタイプ、じゃないかもしれませんが、枯れた味わい有り。ライヴ動画の類を見ると、むかしのWishbone Ashの曲は時々辛そうなときが(正直なところ)ありますが、本アルバムの曲なんかは安定。終盤のギターソロもメロディアスで素敵。
 
 「Mystify Me」は、おお、本作では初のシャッフル・ロッキン・ソング。これもかつてのWishbone Ashの十八番だったんですよね。ツイン・ギターのキメも美しい。ドラムがオリジナルのSteve Uptonより“軽快なのが得意そう”なのも奏功。この曲はレイさんの単独作。
 
 そしてラストの「Interstellar Rockstar」は、本作中最長の一曲で、冒頭の数曲のようなスペイシーな雰囲気で始まります。マーティン解説によれば、「旧友のMark Emeryに作曲に関わってもらった」のだそうです。アコースティック・ギターオーケストレーションをバックにマーティンがジェントルに歌い上げる。430秒からのスライド・ギター(かな)ソロも美しい。ちょっとPink FloydっていうかDavid Gilmour風味かなあ。速弾きとは対極にあるプログ・ギターの味わい。余韻嫋嫋……
 
 ということでして、いやあいい作品でした。Youtubeなぞで演奏場面とかトークとかを観ますと、もうみんなおじ(い)ちゃんなんですけど、カッコいいものはカッコイイ。ライヴだと、これはWishbone Ash時代からそうなんですが、リードヴォーカルをとることの多いマーティンさんが舞台中央。やっぱり風格があるなあ。いま、2016年の彼らによる「The Pilgrim」(Wishbone Ash初期の名曲!)の演奏を観てるんですが、“若い”メンバーを従えたマーティン・ターナーの威厳と、その“騎士”の如きギタリスト+ドラマーの“忠勤振り”が素晴らしいです。