(3)Quatro, Scott & Powell『QUATRO, SCOTT & POWELL』(USA/UK)
- Slow Down
- Long Way From Home
- Tobacco Road
- If Only
- Bright Lights Big City
- Pain (Band Version)
- Just Like A Woman
- Mend A Broken Heart
- The Price Of Love
- Broken Pieces Suite
- I Walk On Gilded Splinters
- Late Nights Early Flights
- Little Sister
- Fever
- Tossin' & Turnin'
- Pain (Orchestral)
<メンバー>
Suzi Quatro(Ba, Vo)
Andy Scott(Gt,Vo)
Don Powell(Dr)
+
Jez Davies(Key)
Ray Beavis(Sax)
Suzi Quatroさんがこのところ旺盛に活躍されているので、ウェブサイトをいろいろチェックしてたら、70年代グラム・ロックの名士たち――The SweetのAndy ScottとSladeのDon Powell――と組んで作品を出したっていうじゃないですか。だいぶ探しまして、ようやく手に入れたのがコレ、QSPの作品。
冒頭の「Slow Down」(Larry Williamsの)から元気一杯。The Beatlesが演って有名になったかと思いますが、個人的にはAlvin LeeやThe Jamのヴァージョンも好き。“♪Slow down!”って歌ってるのに突っ走るザ・ジャムの性急な感じは特に微笑ましい。さて、QSPヴァージョンはピアノやホーンも入りまして分厚い仕上がり。オリジナルのLarry Williams版に忠実なのかもしれない。
次の「Long Way from Home」はバンドのオリジナル。6分を超える、壮大な雰囲気の大作。ロードムービーの主題歌にでもするといいんじゃないですかね。終盤にはサックスのソロもフィーチュア。
「Tobacco Road」もロッククラシック(John Loudermilk作)のカヴァーですが、ここの手本はヒットしたThe Nashville Teensのヴァージョンかな。私個人はSpooky Toothのウルトラ・ヘヴィなヴァージョンが好きですが。全編でピアノが活躍。なおこの曲も含め、本アルバムではSuziがリード・ヴォーカルをつとめる場面が多いです。
交互に挟まれるオリジナルソング、「If Only」は、80年代前半のBruce Springsteen風味ありの、キャッチーでビッグなロックソング。スージーさんは、ブルースの「Born to Run」をカヴァーしてたこともあります(Suzi Quatroのベスト盤などで聴けます)。
「Bright Lights Big City」(Jimmy Reed)もブルーズ名曲のカヴァー。スージーの年輪を経たヴォイスに説得力があるなあ。アンディのスライド・ギターも素晴らしい。ジミー・リードのヘヴィ・シャッフルは、ロックンローラーたちに愛されてまして、「Baby What You Want Me To Do」なんかは、Chris Spedding・The Everly Brothers・Jo Ann Kelly・Graham Bond・Wishbone Ashなんかにもカヴァーされてます。ヘヴィなWishbone Ash版は特にお薦め。
オリジナルの「Pain」は、アコースティック・ギター主導の歌で始まる静かな曲……というにはストリングスやピアノでゴージャスかな。所謂バラードに分類されるかなと思いますが、スージー歌うまい。次の「Just Like A Woman」はBob Dylan曲ですが、同じような雰囲気に仕上げてきましたね。
アンディ作の「Mend A Broken Heart」は、彼自身が歌う、ジャジーなナンバー。なぜかこれを聴いててGeorge Harrisonの「Cockamamie Business」(ベスト盤『BEST OF DARK HORSE 1976-1989』収録)を思い出しました。サビのあたりの進行が雰囲気近いのかな。
さっきも名前が出ましたThe Everly Brothers、その名曲「The Price of Love」もやっちゃいますか。この曲は、サイケ・ポップバンドStatus Quoがヘヴィ・ブギーバンドに脱皮する過程でやってた重要ソングでもあるんですよね。QSPもグッとヘヴィに演奏していますね。この辺りまで聴いてくると、彼らのヘヴィネスはドンさんのドラムに鍵があるとみえてくる。
次はSuzi Quatro作の「Broken Pieces Suite」。児童合唱からスタートし、スージーが引き継ぐピアノ・バラード。途中からバンドも入ってきます。3分半あたりから切り替わって(Suite=組曲なので)、ヘヴィなギターリフが主導する楽章へ。そこからうまいこと元の曲へ戻って幕。なかなか意欲的な作品とお見受けしました。
「I Walk On Gilded Splinters」は、当ブログではHumble Pieヴァージョンをうるさくご紹介しましたが、オリジナルはDr.John。あと、Paul Wellerも『STANLEY ROAD』の中でやってます。QSPではアンディが歌っているようですが、オリジナルの呪術的雰囲気に寄せて、ドンさんのドラム・パーカッションがドンツクドンツク……。不思議な曲ですわな。
バンドオリジナルの「Late Nights Early Flights」は、彼ら得意の丸みのあるミドルの8ビート。メロディにキャッチーさが少ない為、ポップな印象は受けません。むしろポップなのは次のカヴァー「Little Sister」(Elvis Presleyが歌ってヒットした)。Suzi Quatroはソロ活動時代に「All Shook Up」なんかも歌ってましたから、エルヴィス好きなんでしょうね。
「Fever」はアルバムの表示には‟New Track”とあるんで、何のことかと思いましたけど、どうやら「Suzi Quatroが過去に出した曲の、新ヴァージョンだからね」っていう意味みたい(違うかな)。元のヴァージョンもなかなかソウルフルに仕上がってましたが、こっちのは一層円熟味というか凄味が増した、かな。ベースもカッコいい。ベーシストとしてのスージー・クアトロってあんまり言及されないですけど、もっと評価されるべきじゃないですか?他の曲だってあれだけ歌いながら――ライヴでも――弾いてるんですからね。
「Tossin’ And Turnin’」も‟New Track”だそうで。私は元ヴァージョンを知らなくて、むしろThe Clash「Should I Stay Or Should I Go」のメインリフが頭に浮かんじゃいました。……調べてみたらオリジナルはBobby Lewisという人のシングルだそうで、その後色んな人にカヴァーされてきたようです。(スージー関連はみつかりませんでしたが……)へえ、KissのPeter CrissとかJoan Jettとかもカヴァーしてたのね。
最後は「Pain」のオーケストラ版。バンドは無しで純粋にスージー・クアトロの歌を味わうためのヴァージョン。
70年代グラムロックを派手にやってた面々が軽いノリで集結……っていうのでは「全然」なくて、熟練ロックンローラーが本気でやってやったぜ!っていう気概の感じられる作品。こういう好作品が手に入れにくい状況っていうのは何とかしてほしいものです。
<続く>