DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第27回「Y&T」(4)

<関連作品>
2Stef Burnsの仕事
 1990年代末からソロ・アルバムも出しているようですが未聴。私の知るところではAlice CooperHEY STOOPID1991)・THE LAST TEMPTATION1994)に参加されてます。
 
 THE LAST TEMPTATIONは、かつてRainbowにも居た(95年のSTRANGER IN US ALLGreg Smith氏がベース。Dream TheaterPlanetX、そしてソロでも活躍するDerek Sherinian氏がキーボード。ドラムのDavid Uosikkinen氏はThe Hootersの創設メンバー。ステフさんも含め地味に豪華な(語義矛盾?)バック・バンドをしたがえて、アリス御大が繰り広げる物語絵巻、それが本作なのでございます。コミックとセットで作られたコンセプトORストーリー・アルバムである、というのが当時は「売り」だったようですが、その辺はあまり気にしなくても個々の曲がよく出来ているので楽しめば良し。
 
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1曲目のやたらキャッチーな「Sideshow」は耳に残るし、“I can’t get a car ‘cause I ain’t got a job. I can’t get a job ‘cause I ain’t got a car.”などと――ひじょうに単純な表現でアメリカン閉塞感を――歌う「Lost in America」もすごい。軽やかな音+精神的な重さ=必殺アリス・ワールドってとこですか。
 
今年亡くなったChris Cornell(当時Soundgarden、のちAudioslaveなど)が曲も提供しヴォーカルでもゲスト参加した「Unholy War」なども含めて“毒のあるロックンロール”が満載、です。(一本調子、というわけではありません。念の為。)このアルバム、当時はあまり受けなかったというのですが、いま聴くと良いですよ。ステフさんのギターワークは派手ではないですけども、軽いものから重いものまでよく表現されていると思います。
 
 もう一つステフさん仕事で重要なのがHuey Lewis & The Newsへの参加。HL&Nは偉大なバンドですのでいずれ別にきちんとまとめたいと思いますけど……。1980年のデビュー当時から2000年ごろまでバンドのリード・ギタリストはChris Hayesさんでした――私はこの人も過小評価されていると思うなァ――が、彼が退いた後にその席を埋めたのがステフさん。Chrisさんはメンバーの中では若い方で、80年代のライヴ映像を見ても溌剌としていましたし、彼が作曲にかかわった作品はバンドのアグレッシヴ・サイドを代表していました。(名曲「I Want A New Drug」を聴いてみてくださいな。)
 
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※左:Bill Gibson、右:Stef Burns(Huey Lewis & The News)

 

そのあとを受けたStefさんは?彼が録音作品でファンの前に現れたのが、2005年のライヴ・アルバムLIVE AT 25においてでありました。正直なところ、Chris Hayesの結構なファンであったわたくしとしては、「誰が後任でも、あんな味は出せないだろうナ」とさめていたのですが、聴いてみて少し認識を改めました。
 
どういうことかと言いますと、バンド全体が老成(熟成)したことに伴って、ギタリストの役割もやや変化したのだということがわかってきたということなのです。80年代的な“溌剌さ、若々しさ”を押し出したハードなアプローチをとることよりも、R&Rやブルーズ・ソウル・カントリーなど彼らのルーツに軸足を置いた深みのあるロックをショウにまとめ上げて繰り広げるようになっていたのですね。Chrisの脱退とこのアプローチの変化、どちらが因・果なのかはわかりませんが。ともかくそういうバンドの方向性からすると、「派手ではない」けれども多様なルーツを反映したアメリカン・ロックを表現できる職人肌のStefさんは適任なのかもしれぬ……とまあ、言語化すればこういうことになりますか。CD買ってすぐこんなこと思ってたわけじゃあないんですけどね。
 
で、肝心のライヴ盤の内容です。1曲目に、80年代HL&Nの代名詞「The Heart of Rock & Roll」。ヒューイ・ルイスの相変わらずのノドにも惚れ惚れさせられますが、最高なのはBill Gibson先生のドラム。全盛期と比べても何ら遜色ない……どころか、細かなニュアンスや緩急のつけ方などの巧みさはまさに名人芸の域。(ドラムの音色のせいもあるかと思いますが、80年代の音源よりその「うまさ」がわかりやすいのです。)1998年の来日・大宮公演で拝んだ時も感動しましたが、やはりこの人も尊敬に値する名ドラマーでございます。
 
23曲目は当時の最新作PLAN B2001)に収められた「So Little Kindness」・「Thank You #19」。このあたりがさっき申し上げた「ルーツ」風味でして、本ライヴ・アルバムでは実は聴き所。往年のヒット曲を演るとき以上にメンバーが活き活きしている気がする。ステフさんのプレイも良し。もちろん、5曲目「If This Is It」や6曲目「Power of Love」といった名曲も盛り上がるんですが。
7曲目の「Do You Believe in Love」・8曲目「Some of My Lies Are True」はバンド初期(80年代初頭)のナンバーなんですが、ここでは若干ゆったりしたテンポとシンプルなアレンジになっていますね。80年代中盤から後半のライヴではもっとゴージャスな音作りだった気がしますが、こっちはこっちでメロディの良さが際立つね。豪快だった前任のChrisのものとはまた違う端正な(線が細いという言い方も出来るけど)Stef’s ギター・ソロもこの雰囲気には合ってますね。9曲目「It’s All Right」(Curtis Mayfieldの曲)は80年代から演じられてきているア・カペラ(コーラス)ナンバー。”Everybody,clap your hands!”っていう歌詞のところから会場が手拍子で加わるところが好き。
 
10曲目「Bad Is Bad」・11曲目「Heart And Soul」、13曲目「Hip To Be Square」といった必殺の名曲も悪かろうはずがありませんが、個人的に楽しめたのが15曲目の「Back In Time」(映画『BACK TO THE FUTURE』挿入歌で、オリジナル・サウンドトラックにも入っている)ですな。映画からは20年経っていますが、曲を聴くと場面が浮かぶ……。この曲でも少し尺の長いステフさんソロが聴けるのですが、元のChrisヴァージョンとはまた違う味わい。高音部分の使い方が個性になっているかな。この曲はホーンセクションがフル参加してゴージャスな雰囲気を醸し出してます。で、最後は「Doin’ It All For My Baby」(1987年のFORE!』収録のバラード)で締めくくり。
 
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Stef Burnsさんは目立ってないんですけど実にいい仕事をされている、というわけ。彼はその後もずっとバンドを支え続けていまして、201711月には来日公演するHL&Nのリード・ギタリストとしてやって来るみたいですよ。<完>