現代ヘヴィメタルの基礎を築いたこの偉大なるグループについては、わたくしが今更ご紹介するまでもないでしょう。同時代からサポートしてきた評論家やファンがすでに多くを語っておられます。
最初に白状しますと、わたくしはIron Maidenというバンドに敬愛の念は持っておりますし、いわゆる「好きなバンド」ではもちろんありますが、ダイハードなファンとは申せません。ベスト盤やライヴ盤、DVDはありますが、持っているオリジナルアルバムは数枚のみです。『DANCE OF DEATH』(2003)リリース後の2004年2月、「アイアン・メイデン・フェスティヴァル」と銘打って行われた日本公演は埼玉へ観に行きまして感銘を受けましたが、そのくらいです。(ちなみに同フェスティヴァルでは、若き日のSonata ArcticaとAngela Gossowを擁するArch EnemyがMaidenの前に登場しました。両バンドとも頑張っていましたが、トリに出た――はるかに高齢の集団であるところの――Iron Maidenのステージングははるかに凄いものでした。おじさん達が元気いっぱい動き回り、広いステージが狭く見えた。あの時VoのBruce Dickinsonは暴れすぎて(確か、ちょっと高いところから落ちてしまったんだったかと)負傷していたみたいなんですが、最後までテンションは持続してましたしね。プロフェッショナル!)
なにしろキャリアの長いバンドなうえ、名作もとても多いので、何を取り上げればよいのか、というところですが、こんなアイテムがありました。
<作品紹介>
Iron Maiden『WOMEN IN UNIFORM/TWILIGHT ZONE』(1980/81)
1.Women in Uniform
2.Invasion
3.Phantom of the Opera[Live]
4.Twilight Zone
5.Wrathchild
6.Listen with Nicko Part.2
メンバー
Paul Di’Anno(Vo)
Dave Murray(Gt)
Dennis Stratton(Gt,track1-3)/Adrian Smith(Gt,track4-5)
Steve Harris(Ba)
Clive Burr(Dr)
1990年リリースの「The First Ten Years」シリーズ第Ⅱ番。つまりむかしのシングルをまとめてCD化したものですね。Maidenのシングルはこれより前に「Running Free」「Sanctuary」があり、時系列でいうと第3弾と第4弾を収録したのがこの作品。
1曲目「Woman in Uniform」は、実はオリジナル作ではありません。アイアン・メイデン史上、非オリジナル作がシングルA面になったのはこれだけではないかな。オーストラリアのSkyhooksが1978年に発表した“ヒット曲”(アルバム『GUILTY UNTIL PROVEN INSANE』にも収録)の、カヴァーです。ハイハットとタムが鳴ると、ベースとドラムがどんどこ響きはじめる。テンポチェンジのそこそこ激しいなかで、ツインギターが決まり、ポール・ディアノの叫びがこだまする、と。聴いていただけばわかりますが、完全に「Iron Maidenサウンド」でして、Maidenオリジナルといわれてもわからない。(なおSkyhooksのヴァージョンは、だいぶ軽快な感じで、印象はかなり異なります。)
歌詞は、「制服で仕事に従事するご婦人方」(警察官、看護師、客室乗務員、軍人……)が「見た目はちょっと冷たいけどホントは暖かいのよ」とかいうもの。オリジナル(Skyhooks)のPVにもそういう”women”の映像が出てくるんですが、MaidenヴァージョンのPVは輪をかけて変。バンドの演奏風景+マスコットキャラ「Eddie」の初期型(不気味なかぶりもの)+お姉さん(”women in uniform”)=アイアン・メイデン最初期のオフィシャルPV。必見であると言っておこう!
わたくしはこの一曲(PV込み)で、Paul Di’Anno派(?)になりました。曲単体だとBruce Dickinson時代の「2 Minutes To Midnight」がたぶん一番好きですし、ライヴで観て感激したのもBruceのパフォーマンスなのですがねえ。「Women in Uniform」が気に入ってあらためて最初期の『IRON MAIDEN』・『KILLERS』を聴き直すとこれがよいのですよ。Iron Maidenのデビューはわたくしが生まれる前のことなので、これから言うことは勝手な想像に過ぎませんが……あのバンドはリードVoがPaul Di’Annoだったから時代を変えたのではないかと推察する次第であります。仮にBruce Dickinsonが最初から(交友関係からしてあり得ない話ではなかったと思うのですが)MaidenのVoだったとしたら、バンドは「すごくうまいハードロック・バンド」として認知はされたでしょうが、「これまでになかったなんか新しいもの」としての雰囲気は持ちえなかったのではないかと。Steve Harrisの書く――ハードロック・プログレの伝統を踏まえ、パンクの時代をも吸収したような――曲がいかに優れていたとしても、です。Paulの、明らかにパンク以降でありながら決して雑ではない歌唱法――発するワードのアタック感が強く、語尾を絶妙のタイミングで落とす(“吐き捨てる”というのとは微妙に違う)歌い方――が、楽曲をスペシャルなものにしていると思うのです。例えば「Iron Maiden」のサビ「Iron maiden、gonna get you、no matter how far…」といったくだりなど、後年のBruceによるライヴヴァージョンが「歌い上げて」いるのと比べてもらうとよいでしょう。(Paulは大体どの曲でも、各フレーズのアタマにアタックポイントを設定し、末尾をストンと落とす、っていうのをやってて、要するに一本調子ではあるんですが。)映像を観れば、何かに噛み付かんばかりの勢いをたたえて闊歩する「黒でまとめた上下(服装)+短髪」の大男が危険な雰囲気を振りまいている……っていうのが初期Iron Maidenだったことがわかります。Bruceのようにキレのある動きはしてないのですが、存在感が半端でないPaul Di’Anno。彼は結局ライフスタイルと歌唱表現の問題などでバンドからは出ていくことになるのですが、稀代のシンガーではありました。と最大に擁護しておきまして……その姿を拝める数少ないオフィシャル映像が「Women in Uniform」である、とあらためてお薦めしておきます。なおこの曲は本人も気に入っているようで、近年ソロ名義で発表した「Iron Maiden初期の曲のリレコーディング集」にも、「Iron Maiden」「Prowler」「Sanctuary」などと共に収録があります。
1曲目の話が長くなってしまいました。2曲目「Invasion」も1曲目と同様「アルバム未収録」の楽曲。2分40秒ほどの疾走ナンバー。短い中でもペースチェンジと弦楽器のユニゾンを絡めてくるところがMaiden流。
3曲目は、ファーストアルバム『IRON MAIDEN』に収録された「Phantom of the Opera」のライヴヴァージョン。クレジットによると1980年7月4日、ロンドンはマーキーでの録音だそうです。7分以上ある曲ですが、メンバー交代後もステージナンバーとして演奏され続けている名曲、その最初期版です。展開も複雑な、ある意味プログレ的な作品ですが、演奏には破綻無く、歌唱も覇気がある。この3曲目までがデビュー時のラインナップによるものです。
4曲目・5曲目は第4のシングル「Twilight Zone/Wrathchild」から。「Wrathchild」は2枚目のアルバム『KILLERS』の(イントロのインスト曲に続く)冒頭を飾るもの。ベースが全編を引っ張り、Paulの歌唱スタイルが活かされた、ドスのきいた一曲。「Twilight Zone」は当初『KILLERS』未収録(後のアメリカ版から収録されるようになりました)。ファーストアルバム収録の「Running Free」と同様のシャッフル曲。軽快な感じ……にあんまりならないところが「らしい」ですかね。この二曲はギタリストの一方がAdrian Smithに交代してからのものとなります。
6曲目、というか6トラック目は、Iron Maidenデビュー後2代目のドラマーNicko McBrainによる「楽曲回顧・解説」のおしゃべりトラック。メンバーによる楽曲解説!わたくしはこういうのは好物な方ですが、本作収録の楽曲はすべてNickoではなく前任(デビュー時のドラマー)Clive Burrによるものなので、いまひとつ企画の趣旨がわからない。Iron Maidenのヒストリーで論文でも書くなら役に立つでしょう。