だいぶ前にIron Maidenばなしをしたときに(第10回「Iron Maiden」(1))、曲単体では「2 Minutes To Midnight」(1984)が一番好きだと申し上げました。‟その曲によく似てる曲がある”っていう話は、アイアン・メイデンを聴き出してだいぶたってから知ったんですが……ほんまかいなと思って探して聴いたら、確かに頭のリフは似てました。
あ、「Midnight Chaser」(1980)っていう曲です。しかもそのバンド、後にアイアン・メイデン入りするギタリストJanick Gersがいたっていうじゃないの?なんか影響関係でもあるんですかね……
とまあ、勘繰ったわけですが、おそらく単なる偶然でしょうね。クレジットを見る限り「2 Minutes~」はAdrian Smith & Bruce Dickenson作ですし、ヤニックのメイデン参加は1990年ということですので。NHOBHMっぽいイイ感じのリフが同世代ミュージシャンから出てたっていうことで、両方楽しんじゃえばお得ですよね。
こちら(↓)がそのWhite Spiritの唯一のアルバム。その後活躍して名前が売れるのがヤニック・ガーズだけなんで、「あのヤニックがいたバンド」っていう回想のされ方をするみたい。私が購入したレア曲入り2枚組CD(Castle Musicによる再発)の表面にも、デカデカと“featuring IRON MAIDEN’S JANICK GERS”っていう丸シールが貼ってありました……でもわたし天邪鬼なんで、そういうことされると「他のメンバーがどうでもいい筈がない!」とムキになって聴いちゃいたくなるんですよね。
White Spirit『WHITE SPIRIT』(1980)
- Midnight Chaser
- Red Skies
- High Upon High
- Way Of The Kings
- No Reprieve
- Don’t Be Fooled
- Fool For The Gods
<メンバー>
Bruce Ruff(Vo)
Janick Gers(Gt)
Malcolm Pearson(Key)
Phil Brady(Ba)
Graeme Crallan(Dr)
まあ、何はともあれ「Midnight Chaser」をお聴き下さいな。さっきはアイアン・メイデンの話をしちゃいましたけど、こりゃあルーツは明らかにDeep Purpleですよね。NWOBHMの連中の中で、ここまで露骨にパープル趣味を出してたのは珍しいんじゃないですか。淡々と疾走を支えるドラムとベース(8ビートのルート弾きが単純だけど悪くない)。リッチー・ブラックモア風のフレージング・チョーキング・アーミングを入れてくるギター、バッキングではリズムも支えながら“ジョン・ロードに弟子入りしました”みたいなオルガン・ソロを聴かせるキーボード。思うに、このバンドの個性はこのキーボードにありと見ましたよ。歌は、イアン・ギランみたな個性はないけど、ふつうにうまいヴォーカル。
要するにけっこう70年代っぽいんで。そこが新時代を切り開いたあの異形のIron Maidenとちがうところなんです。私のようなハードロック野郎、特に、“ツェッペリンよりもサバスよりも、パープルの世話んなった時期が長い”ヤツにとっては、こういう曲はやっぱり美味しいくて、結構リピートします。(Biscaya「Howl In The Sky」なんかも同じ理由で時々再生したり……そういうことです。)
フェイド・インしながら思わせぶりに入って来る「Red Skies」も爽な曲調の疾走曲ですね。リフの一部をアコースティック(調)のギターが繰り出すところ、途中からはキーボードが全面リードするところあたりがポイントでしょうかな。ベースがドゥンドゥンドゥクドゥンいってんのも良い。ヤニックさんのギターソロも第二期DPのブラックモア風味たっぷり。
「High Upon High」はややポップなロックナンバーで、シングルも出たようです。ドラムがシンプルなのとあわせてベースがボンボン。ブルースさんのヴォーカルはこういう明るい曲調の方が映えるかもしれない。構築されたオルガン風キーボードソロもよろしい(反復は多いけど)。
Rage「Refuge」みたいなリフで始まる「Way Of The Kings」(もちろん、こっちのが古い)は、一転マイナー調で、何かしら不安な感じを煽るミドル・ハードロック。途中でリズムが変わってドラムがタンタカタンタカやりだすところが怖くて良い。ギョワーンっていう鍵盤ソロも雰囲気あり。ギターは地味かな、と思っていると終盤でくどいほどのRB風フレージングが来たー。
なんか冒頭に演奏ミス(?)みたいな音が入りつつ、ドラムのフィルから疾走曲になっていくのが「No Reprieve」。速さはさほどでもないですが、全パート一丸となっての突撃感はなかなか。“♪You can take my life away, but you can’t take my soul……”
「Smoke On The Water」か?と思わせるリフからアップテンポに変わる「Don’t Be Fooled」。Bメロでドラムパターンを変えてくるところがいい。Deep Purple「You Fool No One」のメインリフを8ビート風にしたようなところもあるか。やっぱり徹頭徹尾パープルっ子ですなあ。シングルとかになってないこの辺の曲のほうが面白かったりするね、ポップじゃないけど。ブルースさんのハイトーンが少し聴けるし、終盤のJon Lord風オルガン・ソロの執拗さも微笑ましいし。
ラスト。「Fool For The Gods」は、大仰なキーボードから幕を開ける大作(10分ちょっと)。最初三分の一がシンフォニックなオーヴァーチュアという態で、そこからアップテンポのシャッフル・ビート部分に発展。マルコムさんもこの曲では(Jon Lordのオルガンではなく)Rainbowにおける派手なキーボードに倣ってる。とはいえ、プログレ風の曲のようでありながら、個々の面々のプレイはあくまで古き良きハードロックの流儀で、ヤニックのギターも派手なギミックなどなく、あくまでメロディアスに攻めます。いや、正直に言って、このアルバムを聴くときほとんどコレをスルーしちゃってたのは反省だわ。
派手な技だとか、トリッキーな仕掛けとか、そういうものはほとんど無い作品で、時代を考えたら“地味”だったのかもしれません。それでも、70年代ハードロックに憧れその継承を試みたグループがあったっていうことは、素敵なことですよね。
<続く>