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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第59回「Automatic Man」(1)

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 ようやく3周目に入りました。「A」、こんなのは如何でしょう。短命ではあったものの実に味のある作品を残していたAutomatic Manです。

 ことの始まりはSantanaの名ドラマーMichael Shirieveが新しい方向を模索し始めたことでした。Stomu Yamashtaツトム・ヤマシタ)のアルバム『GO』に参加したマイケルは、ギタリストPat Thrallと出会い、協働を企てることとなります。

 そこへ次に加わったのは、“Bayeté”(バイエテ)の芸名で活動していたシンガー/キーボーディストのTodd Cochran。彼は70年代前半にすでにソロアルバムを出していました。そして最後に加わったのが、アメリカ西海岸(サンフランシスコ周辺)を拠点としていたベーシストDoni Harveyでした。彼らはアイランド・レコードのChris Blackwellに認められ、レコード契約を結ぶこととなります。

 ファースト・アルバムのレコーディングはロンドンを拠点に行われました。一部の曲でLou CasaBianca(マネージャー、コ・プロデューサー)やバンドメンバーが参加したほかは、楽曲は基本的にBayetéのペンによるものでした。後で聴いていきますが、これがまた絶妙の“プログレッシヴ・スペース・ファンキー・ジャズ・ロック”でございまして、他でなかなか味わえない個性を有していながら、しっかりキャッチーでもあるというマジカルな出来なのでございます。未聴の方は損をしている、と断言しておきましょう。

 

Automatic Man『AUTOMATIC MAN』(1976)

  1. Atlantis Rising Fanfare
  2. Comin' Through
  3. My Pearl
  4. One And One
  5. Newspapers
  6. Geni-Geni
  7. Right Back Down
  8. There's A Way
  9. I.T.D. (Interstellar Tracking Devices)
  10. Automatic Man
  11. Atlantis Rising Theme—Turning of the Axis

<メンバー>

 Bayeté(Vo, Key)

 Pat Thrall(Gt)

 Doni Harvey(Ba)

 Michael Shrieve(Dr)

 

 アルバムは、スペイシーなインスト「Atlantis Rising Fanfare」で壮大に幕開け。Bayetéの煌びやかな鍵盤に、Michaelのカラフルなドラミングを堪能しながら待っていると、自然な流れで次の「Comin’ Through」につながります。Doniさんの腰の据わったベースが心地好いロック・ナンバーで、AメロとBメロのツナギに入るキラキラした鍵盤も楽しい。Bayetéさんの歌もなかなか熱い。プログレとハードロックが両方好きな小生のような人間には、まさに至宝であります。

 あたら冗長になることを避けコンパクトにまとめた「Comin’ Through」(3分36秒)がフェイドアウトし、次に始まるのは、「My Pearl」。シングルとしても出たという、バンド全員の共作です。金物の鳴らし方ひとつとっても素晴らしい包容力のマイケル・ドラムに、絶妙のファンクネスを与えて楽曲を推進するドニ・ベース。これらがやっぱり基礎になりますが、グイグイ出しゃばらないだけでパット・スロールさんも決して地味なわけではありません。結構面白くトリッキーなフレーズも弾いてるぞ。バイエテのピアノの響きもよくて、Aメロ周辺では(私が個人的に好きな……)Billy Joelの風味も有ったりするの。

 4曲目の「One And One」は、テンポと歌の圧をすこしさげた、ムーディーな曲。浮遊感あるシンセサイザーが耳に印象的なのでふわっとした感じも与えますが、バック器楽の細かな手数(やっぱりマイケル・ドラムがすげえ)や、ソウルフルなバイエテ歌唱も美味しい、プログレッシヴ・バラードなのでした。

 もう一つ、すこし落ち着いたテンポの曲「Newspaper」が入って来ます。主役は多層に重なるキーボードかな。つかみどころのない(?)Aメロから、何かしら落ち着かせてくれるBメロへの展開なども実にうまい。

 「Geni-Geni」はややハードにスタートしますが、味わいはこれまでと共通のスペイシーなもの。この曲はリード・ヴォーカルがPat Thrallです。バイエテに比べるとやや線は細いですが、曲の雰囲気には合っていますな。彼の繰り出すギター・リフも耳に残る。中盤からのリズム隊のタフネスも捨てがたくて、(ファンク+ロック)風味大増量。

 なおこの『AUTOMATIC MAN』の歌詞世界は、宇宙や未来世界をモチーフにしたものも部分的には出てきますが、必ずしも難解不可思議なものではありません。“♪My pearl, my precious little girl……”(「My Pearl」)、“♪One and one is you and me girl……”(「One And One」)、“♪Worldly things take our hearts, worldly things keep us apart……”(「Newspapers」)といった具合。

 

 さあ、折り返し。ここからの4曲は、ソングライティングにLou CasaBianca氏が加わってます。「Right Back Down」は、比較的キャッチーなナンバーかな。パット・スロールのギターの響きは、Electric Sunの頃のUli Jon Rothのような“深い感じ”もあり。(Jimi Hendrixにルーツがあるのかも……)後半はバイエテさんの鍵盤捌きも堪能出来ます。

 「There’s A Way」では、バイエテと並んでドニもリード・ヴォーカルを執ります。おお、この曲はバンドメンバー全員+カサビアンカの総員創出作品だったんだね。テンポを落としてちょっとヘヴィなプログレ・ファンクナンバー。後半のマイケルの華々しいドラミング、もう遠慮しねえぜとばかりに炸裂するパットのギター・ソロが、たのしい。

 「I.T.D. (Interstellar Tracking Devices)」は、歌詞からするとSF風ラヴソング、でしょうか。フワフワした雰囲気がありながらもドラムは骨太。“♪Your interstellar tracking devices ……have brought you home.”のところがドラマティックでいいですな。

 テーマソング(?)の「Automatic Man」は、アップテンポのファンキー・ジャズロック。“♪Automatic man moves like a computer. Automatic man, hero of the psychic future……”。各プレイヤーの超絶スキルを堪能するなら、まずこれじゃないかな。個人的には余所での過小評価(地味だとか……)が気になるPat Thrall先生、彼が伸び伸び弾くとこのレベルだぞというのは要再認識。マイケル・シュリーヴのタイコとがっちり応酬できるプレイヤーといえばCarlos Santana(Santana)、それからNeal Schon(HSAS)、そしてパット先生さ。

 終曲は、バイエテによる「Atlantis Rising Theme—Turning of the Axis」。冒頭の「Atlantis Rising Fanfare」と呼応するようなスペイシーなインストゥルメンタル。煌びやかな鍵盤のバックで(やはり)マイケルのドラミングが劇的演出を担当するという“バンドの十八番”で締めくくり。

 繰り返しますが、これはお薦めの名作。

<続く>