別の関心から手に入れていた作品に、「実はアノ人が!」みたいなケースは割とありますが、これはビックリだった。言わずと知れたELP(Emerson, Lake & Palmer)の伝説的ドラマーCarl PalmerのプロジェクトPM、その(唯一の)アルバム『1:PM』にBayeté氏が加わっていたなんてね。参加名義はTodd Cochranなんですが、作曲にも貢献してるし一部リードヴォーカルもとっているのでした。
ELPファンやAsiaファンからの受けはよくない作品のようですが――曰く“フツーのポップ”、曰く“カールのドラミングが無個性”……――Todd Cochran関与作という観点から聴きなおしてみせますぞ。
PM(Carl Palmer’s PM)『1:PM』(1980)
- Dynamite
- You've Got Me Rockin
- Green Velvet Splendour
- Dreamers
- Go On Carry On
- Do You Go All The Way
- Go For It
- Madeline
- You're Too Much
- Children Of The Air Age
<メンバー>
Carl Palmer(Dr)
Todd Cochran(Key, Vo)
John Nitzinger(Gt, Vo)
Barry Finnerty(Gt, Vo)
Erik Scott(Ba, Vo)
トッド・コクランは2・3・8・9・10と実に半数の楽曲を手掛け、それらで歌っております。カール・パーマーとの接点は何処にあったんでしょうかな。2「You’ve Got Me Rockin」は、トッドの弾く軽快なピアノが楽しいロックンロール。そうそう、Automatic Manと同じヴォイスだよ(あたりまえだけど)。ELPっぽくはないけど、Asiaのポップサイドを考えたら、Carlのドラムは“それらしい”と思うがな。Billy Finnertyさんの捻くれギターソロは面白いし。続く「Green Velvet Splendour」も8ビートのロックナンバーで、トッドによるシンセ(だよね?)ソロが往時代的。ELPも80年代はこういう音を出してましたよ。
8「Madeline」は、派手めな鍵盤ワークがすこしAutomatic Manを思い起こさせるナンバー。Erik Scottさんのベースがファンキーな弾みを生み出す。カールはこういうビートは必ずしも得意ではなさそうですが、気になるほどではない。9「You’re Too Much」は、おお、疾走ナンバーですな。そうか、もうパンク/ニューウェーヴの時代を通過してるんですよね。彼らのキャリアを考えたら、シンプルに過ぎるという批評も的外れではないですけど……つなぎ目(ブリッジ)の小技や、いかにもな鍵盤ソロなどは捨てがたい。
アルバムを締めくくる「Children Of The Air Age」も、快活なロックソングというべきで、アートロック色は薄め。楽曲のスタイル、録音の方法論などのために“カール・パーマーらしさがない”という人もいるようですが、いやいや、あなたカール・ファンだったら「このフィル、あのロール」を聴いただけで“カール先生!”ってわかんなきゃ。ブラックミュージック的なノリがなくて、フィルが若干野暮ったいところまで含めてCarl Palmerでしょうよ。
……って褒めてないみたいだが、褒めてます称賛してます。1980年ですから、ドラマーが機械にとってかわられていく恐ろしい時代の入り口にいたわけですが、彼はちゃんと人力ドラミングの意地を見せてくれていますよ。最大の功労者は、Todd Cochranだけどね!
あとの曲も聴いておこう。1「Dynamite」はJohn Nitzinger作で、JohnとBarryが歌います。プログレ・ハードというか産業ロックというかそういうテイストですけども、AsiaよりもELP(Emerson, Lake & Powellの方ね)よりも早い作品だということを忘れてはいけません。
4「Dreamers」もJohn作・ヴォーカルのキャッチーな8ビート。どうよ、カールのドラミング。機械じゃ出せない(微かな)ハシリ・モタリと十八番のスネアロール。俺は文句ないね。メロディアスなギターソロも良いです。ただし、この辺りの曲ではToddの鍵盤はおとなしめ。
5「Go On Carry On」もJohnの曲。後にAsiaがやるような感じのオープニングから快活なヴァースへ。なぜか第2期Novelaを思い出す私……自分でもよくわからんが、プログレにはポップセンスが必要だということをふと思い返す瞬間というのがあるのだった(?)。
6「Do You Go All The Way」はBarry作・歌唱。Barryさんといえばジャズ畑の人というイメージでしょうが、80年代ポップ・ロックをモノにしてたりする。間奏でギターとキーボードがちょっと目立つかな。一筋縄でいかないギターソロは終盤に繰り出されるのです。7「Go For It」も同じくBarryの曲。こちらも意外(?)な、疾走ナンバー。こういうのはELPやAsiaでは聴けないよね。本作中最短で、3分未満で潔く終わっちゃう。
アルバムの構成としては、ラスト三曲にバイエテ……じゃなかったトッド・コクランのちょいと凝った曲が配されているので、決して一本調子な印象にはなっていないですし、私はこれ、アルバムとして悪くないと思うんですけど。
ただ、2作目はなかったわけで、メンバー達にとっては“成功”ではなかったようですなあ。コレを書くにあたってBarry Finnertyさん――Brecker BrothersやThe Crusaders、Miles Davisなんかとも仕事をしてきたやっぱりジャズ系の人――のオフィシャルHPを拝見したら、PMのことも「バイオグラフィー」の一節に出てきましたけど……コレが凄いんだ。おおまかに拾いますと……
70年代末。ジャズでは(サイドマンでは)あまり稼げないという気がしてきたの で、もっとコマーシャルなものをやろうと思った。ポップ/ロック/R&Bみたいなね。自分で歌うことも再びやるようにした。いくつか良いデモも出来た。
そしたらあるとき、カール・パーマーが現れて、“新しいバンドをやろう”と言ってきた。自分の曲も気に入ったと言う。それに乗せられて、クルセイダーズからオファーされていたヨーロッパ・ツアー(実入りはスゴクいい筈だったんだが)を断ってしまった。そして、L.A.へ行って新曲のリハーサルをやることになった。
パーマーの集めたバンドには、トッド・コクランやジョン・ニッツィンガーといった才能ある連中がいたよ。コンビネーションは残念ながら間違っていたけどね。カールには「ファンクさがまるでなかった」(He really was the antithesis of funkiness!)。そんなわけで、俺は一年間を棒に振っちまった(週250ドル稼げてた筈だったのにな)。『1 P.M.』ってレコードは確かに出したが……もしこれを聴いちまった奴にはこう言いたいね。「ご愁傷様」と。
っていう、こっちのストーリーが面白すぎますわ。今回の収穫はむしろこれだよ。プロのミュージシャンもたいへんだ。ちなみに、カール自身のオフィシャルサイトには、こうあります。
ELPを超える地平を模索して、カールパーマーは自分のバンドPMを結成した。オートマティック・マンのトッド・コクランやブルーズ・ギタリストのジョン・ニッツィンガー、さらにエリック・スコットとバリー・フィナーティを迎えたのだ。バンドは“トップ40”スタイルのロックを試みて『1 P.M.』というアルバムをリリースした(1980年、ヨーロッパのみ)。だが、成功は収められず、バンドはほどなく解散した。
なんだが、ボス自身にとっても‟黒歴史“みたいになっているのが悲しい。まあ、プログレのディスクガイドにこれが載ってたら、「オイオイ、ELP関連作とするには強引ですぜ」と言いたいところはありますがね。だがむしろ!メンバーが否定すればするほど、イイトコロを探して聴きたくなるのが音楽の下僕というものです。(金を払って買ってしまった自分を慰めるためにも……)
<続く>