2019年作品はまだあるよ。
この前、Brian Rossが元気だ、って話をしたと思いますが(時代の産物を追う?〔続〕(13))……Satanの真のマスターマインドRuss Tippinsも実はこんなプロジェクトをやっていた、と。ノーマークだったのでびっくりしました。専門店でゲットして聴いてまたびっくり、2010年代末にこんなに「70年代風のハードロック」をやるなんて!いい意味で、衝撃を受けましたよ。
(6)Tanith『IN ANOTHER TIME』(UK/USA)
- Citadel (Galantia Part 1)
- Book Of Changes
- Wings Of The Owl (Galantia Part 3)
- Cassini's Deadly Plunge
- Under The Stars
- Mountain
- Eleven Years
- Dionysus
- Under The Stars (Reprise)
<メンバー>
Russ Tippins(Gt, Vo)
Cindy Maynard(Ba, Vo)
Charles Newton(Gt)
Keith Robinson(Dr)
Russ Tippins Electric Bandなる個人プロジェクトで動きを見せたのがしばらく前、その後まさかのSatan復活、そしてここへきて新バンドTanithの立ち上げ……ラス・ティピンズ先生のご健勝ぶりに涙が止まらない。
ポイントはまずその70年代風の手触り。楽曲がそれっぽいというだけじゃなく、プレイ、録音まで徹底的。例えば冒頭の「Citadel」、細かく聴くとほんのわずかなミスタッチも敢えて残しておるのだ。2分30秒のところのギターリフは、指が引っかかっちゃったとしか思えない、だがそれが良い!次に私の趣味でいうと、ドラムの生っぽさが最高。これは打ち込みじゃぜったい味わえねえです。そして、8ビートの疾走感のある中に16分の細かい刻みリフを入れる、Satanでも聴かれるラス様のお家芸!
……少し落ち着こう。Russ Tippins氏はクラシック・ロック好きだというのはよくわかりましたが、このバンドがおもしろいのは、この曲想では有りそうで意外に少ない男女ツインヴォーカルの妙味。ラス様は(Brian Ross公に比べたらそりゃ)線の細いヴォーカルですが、Cindy Maynardさんとマイクを分け合う限りでは問題なし。古風なHRのお楽しみ、長めのソロも楽しめますぞ。まずはこの曲だけでいいからチェックしてみてください。Youtubeではライヴ版もみられるが、歌にソロに元気なRuss Tippinsも良いが、ベースをボンボン弾きながら歌うシンディ様も凄い。
ベースの推進力でグイグイ進む「Book Of Changes」は、弾(はじ)けるギターソロ――たぶん二人で応酬してる――も楽しいし、激重ではないのにどことなくドゥーミーな「Wings Of The Owl」、動き回るベースに導かれるビッグ・ビートの「Cassini's Deadly Plunge」(終盤の程好い疾走もナイス)と、“キメの多さ”ではSatanを思わせつつも、やっぱり70年代のHR/アートロック風の楽曲がいっぱい。
ハード・シャッフル「Under The Stars」、タム豊富などんどこドラムが盛り上げてから走っていく「Mountain」なんかを聴いても、「この人ら、さぞDeep Purple・Led Zeppelin・Black Sabbath・Thin Lizzyその他いろいろ……が好きなんでしょうなあ」と微笑ましくなるのだ。物まねってことじゃありませんので念のため。昇華の度合いは高レベルであります。
静かに始まるりつつドラムのダイナミズムで順次盛り上がっていく「Eleven Years」、バラード風かと思わせておきながらハード&ヘヴィに展開していく「Dionysus」、そしてパーカッション乱れ咲きの「Under The Stars (Reprise)」と続いていって、幕。
クラシック・ハードロック・ファンは迷わずチェックなさい!と言いたいのだが、手に入れやすくないかなあ。日本盤も出てないみたいだし、勿体無い。
<続く>