DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第2回「Attila」

<アーティスト概要>

 同名のグループがいくつかあるようですが、わたくしが取り上げるのは1969-70年に活動した二人組のデュオです。アルバム一枚を残して終わったそのユニットは、William Joel(Vo.Key)&Jonathan Small(Dr)。楽器の編成だけだと音がイメージしにくいでしょうか?Vo,Keyの名前にご注目ください……この人、後にソロ・アーティストとなるBilly Joelその人なのであります。
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 William Joel氏は、ニューヨークのローカルバンドへ参加した(後述『MY LIVES』ではThe Lost Soulsというバンドでの曲が聴けます)後、The Hasslesに加入します。このバンドには、後にRam Jamを結成するベーシストのHowie Blauveltもいました。The Hasslesは1967年に『THE HASSLES』Sam & Daveで有名な「You Got Me Hummin'」やTrafficの「Coloured Rain」のカヴァーを含む)、1969年に『HOUR OF THE WOLF』(Joelのオリジナルが増え、ややロック色が強まる)を発表し解散しますが、JoelとドラマーのJonathan(Jon) Smallはタッグを組んでの活動を続けたのでした。
 
 そうしてみると、この二人組は何か洗練されたポップスとかジャズロックとかをやっていたのかと思いたくなりますが、ちがいました。彼らがたった二人でやっていたのは「ヘヴィ・メタル」です。当時まだそういう用語は一般的ではありませんでしたし、本人たちもそう称してはいなかったのですが、音を聞いてしまうとそう表現するほかなくなります。「ひずんだオルガン弾きまくり、歌はシャウトしまくり、ドラム叩きまくり」なのです。この「やり過ぎ感」が最高。
 
 Billy Joel本人は「若気の至り」だったと考えているようであまり誇らしげに回顧することはないのですが(Billyのかなり後の説明によると「Led ZeppelinとかJimi Hendrixみたいなことをやりたかったんだが……あれは“Psychedelic Bullshit”だったね」とのこと)。長いことアルバム『ATTILA』が再発されなかったのには彼の意向が働いていたという話もありますし、2005年に発売されたBillyのキャリアを総括するレア音源のボックスセット『MY LIVES』にもこのアルバムからは「Amplifier Fire:Part 1:Godzilla」しか採られていません。「Amplifier Fire」という曲はインストで、しかも「Part 2:March of the Huns」(Hunsというのは「アッティラ大王」が率いていた「フン族」のことですから“バンドのテーマ曲”といってもよいはずなのですが)はカットされての収録でした。叫びまくりのヴォーカル曲を入れていないこと、収録時間の都合もあるのかもしれませんが「~Huns」を入れていないことなどは、Billyの「照れ」によるものではないかと勘ぐっておりますよ、わたくしは。
 
 BillyのJimi Hendrix好きは89年のアルバム『STORM FRONT』の「Shameless」でも確認できますが、69年時点でも熱狂していたわけですね。Billy Joelというアーティストは、わたくしにとってあまりに重要なので、機会をあらためて話したいと思います。ただ一つだけ述べさせてもらえば、Billy本人の評価はともかく、Attilaがやっていたことは間違いなく「ロック」であり、Billy Joel音楽の本質はそこにあるということです。ヒットしたバラードも多いので、マイルドなシンガーソングライターのイメージでとらえられることもあるでしょうが、ライヴを観ればスグわかるように、彼は「ロックンローラー」なんですね。そのことが痛いほどわかる一作『ATTILA』でした。あ、ジャケットの写真は食肉加工場で撮ったそうですよ。
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<楽曲紹介>
 アルバム一枚なので、トラックリストを示します。(*はインストゥルメンタル
1.Wonder Woman
2.California Flash
3.Revenge Is Sweet
4.Amplifier Fire[Part 1:Godzilla/Part 2:March of the Huns]*
5.Rollin' Home
6.Tear This Castle Down
7.Holy Moses
8.Brain Invasion*
 
 4や8は、歌がない分JoelのオルガンとSmallのドラムがよく聴こえますが、リズムのとり方は結構ジャズ風味が強いように思えます。ソロパートのオルガンのフレーズはクラシック的でもあるのですが、同時代のキーボードヒーロー、Keith Emerson(The Nice, ELP)・Jon Lord(Deep Purple)・Vincent Crane(The Crazy World of Arthur Brown, Atomic Rooster)以上に「力技」感がありますね。
 
 冒頭の1は、オルガンの音が盛り上がってすぐに「Wonder Woman~」と歌が入ってくる。「声」は確かに“Billy Joel”なのですが、あんまりにもハードロック調の歌唱なので驚きます。2のイントロフレーズは、Jimi Hendrixの「Voodoo Child(Slight Return)」最初の十秒っぽい……かな。全体に隙間なく繰り出されるオルガンのフレーズが印象に残ります。個人的に一番びっくりして一番好きなのが5。もはや「パワーメタル」じゃないの?低く唸るオルガンとドラムの細かいロールから始まるのは、Deep Purpleの「Highway Star」風、といえなくもない……が、こっちの方が早く(「Highway Star」は72年リリース)、遥かに暴走気味。曲に展開はあるのだが、抑えるということを知らぬ。二人で出せるだけの音を全部たたきつけてやるわ、っていう心意気が素敵です。ぜひ聴いてみて、爆笑して、感動してください。
 
<思い出話>
 Billy Joelという人の音楽に触れたのは、もう四半世紀近くも前のことになりますか。ほぼ初の洋楽体験がこの人の曲だったのですが、当時わたくしは結構真面目で、「歌の歌詞をおぼえよう」と、近隣の図書館で借りたテープについていた歌詞カードをノートに写したりしていたものでした。(インターネットなんていうものはなかったのだ。)で、アルバムも少しずつ集めていったのですが、あるとき中古CDショップでBILLY JOEL with Attila/The Hassles』というCDを見つけたのです。これまでに買った作品のライナーノーツで、「Billyはむかしハッスルズやアッティラというグループにいた」という記述は目にしていたのですが、作品を目にしたことはなかったので、「これは!?」と思って買って帰りました。で、ワクワクしながらかけてみたら、1曲目が「California Flash」。え、と思っていると次が「Wonder Woman」。まあ、びっくりしました。「ピアノ・マン」のイメージとは違ったわけですからね。でも、わたくしはすでに「うるさいロック」大好き人間になっておりましたから、「これはこれであり!」となったわけですけども。
 
 ちなみにこのCDは正規盤ではないようで(曲順もオリジナルと違う)、それどころか「The Hassles」名義で収録されている音源も全然関係ないものでした。CDの9-16曲目は、やけに野太いヴォーカリスト(Billyとは明らかに別人)の歌う、どう聴いても80年代以降の音像のロックで……「これがAttilaより前にやってたThe Hasslesなの???」とひたすら混乱しておりました。かなり後になってから、別のCDショップで『THE BEST OF THE HASSLES:YOU GOT ME HUMMIN’』というのを購入し、“ほんとうの”The Hasslesの音を聴いて、やっと謎が半分解けたというわけです。(残りの謎は、「じゃああれは誰?」)
 
 さきに、Billy本人がAttilaのことをあんまり評価していないということを書きましたが、そのせいもあってわたくしのなかでは(ひょっとすると必要以上に)このユニットのことが気になる存在になってしまいました。Vanilla FudgeThe Nice,初期Deep Purpleなど、「オルガン・ロック」はありましたが、70年の時点であそこまでブチ切れたサウンドを出していた奴らなんていなかったんじゃないか。その画期的な試みはどうやって行われたんだろう?というわけですね。Billy Joelの評伝が出版されるとわたくしはたいてい手に取るのですが、必ずAttilaまわりのエピソードをチェックしてしまうのですよ。だいたい記述は少なくて「サウンドの謎」はあまり解けませんが、同志Jon SmallとBillyの人間関係(George HarrisonEric Claptonみたいなところもある……)と友情(90年代には、カメラ・映像の仕事に転じていたSmall氏がBillyの映像作品を手掛けている)は興味深いものでした。
 
<今回取り上げた作品>
(1)Attila『ATTILA』(1970):オリジナルはEpicというレーベルから出たものでした。
 
(2)Billy Joel『STORM FRONT』(1989):本文中言及した「Shameless」は、カントリーシンガーのGarth Brooksにもカヴァーされヒットしています(アルバム『ROPIN' THE WIND』に収録)。後年、Billy JoelがShea Stadiumで行ったコンサートではBrooksがゲスト参加してこの曲を歌っています。
 『STORM FRONT』はこのほかにも「Leningrad」「We Didn't Start the Fire」「And So It Goes」など名曲多数ですが、その辺についてはまた別の機会に。
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(3)Billy Joel『MY LIVES』(2005):彼がソロ・アーティストとしてメジャーになる前の音源(The Lost Souls,The Hassles,Attila)、レアなデモ・ヴァージョンやオムニバス参加曲などを集めたCD4枚+DVDのボックスセット。
 いわゆるマニア向けアイテムではありますが、通して聴くと、「クラシック・ビートルズ・ジャズ・R&B・ブロードウェイのミュージカル」(Billy自身が1994年春にプリンストン大学で行った講演で、“あなたが影響を受けた音楽を挙げてください”と尋ねられた際に答えたもの)が確かに彼の源にあることが感じられます。
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(4)The Hassles『THE BEST OF THE HASSLES:YOU GOT ME HUMMIN’』(1999):ハッスルズの2枚のアルバム全曲(但しなぜか2枚目のアルバムから「Hotel St.George」のみオミット)プラス、ボーナストラック(シングル曲とデモ)からなるコンピレーション。
 『THE HASSLES』(1967)は、カヴァー曲も多めの(強いて言えば)サイケ・ポップといったところ。冒頭の「Warming Up」という短いインストは(ちょっとバタバタしているが)ジャジーなノリが楽しい。続く「Just Holding On」はSpencer Davis Groupっぽいかな。Billy JoelSDG/TrafficSteve Winwoodが大好きで、1986年のアルバム『THE BRIDGE』では念願の競演を果たしてます(終曲の「Getting Closer」)。
 ハッスルズの2枚目『HOUR OF THE WOLF』はほぼJoel作で占められ、何れも中々の出来ですが、注目はタイトル曲。12分近くあり、歌、生バンド、奇妙なSE、ホーンセクションなどが入れ代わり立ち代わりするカオティックな一曲。サイケ?プログレ?でも歌声はしっかりBilly Joelなのだ。この辺の“実験精神”はAttilaに通じる!!……かも。
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<おわりに>
 今回も短くまとまりませんでした。前回、作品数のけっこうあるアーティストをやって長くなったので、今回は「一作しかないアーティスト」を選んだのですが……たった一作でも思い入れがあるとつい語りたくなってしまいますね。要するにわたくしは喋りたがりなのだね。すみません。