<アーティスト概要>
さて、お次はドイツのハード・ロックはどうでしょう。ワールドクラスのスターとなるScorpionsが登場するより前から、ドイツ(西ドイツ)ではロックが盛んでした。The Beatlesがデビュー前の下積み時代を送ったのはハンブルクでしたし、“ドイツ人のロック”を表す「クラウト・ロック」という言葉もあります。(この語から一般に想起されるのは比較的実験的なサウンドのようですが。プログレとかテクノとかに連なる流れですな。)で、1970年頃からはLucifer’s Friendなど良質なハード・ロック・バンドも数々出てくるわけです。その中の一つが、今回お話しするBirth Controlです。
まずすごいのが、1970年にデビューアルバムを出したこのバンドが、1983年から約10年間、活動していなかった時期はありますが、いまなお現役だということです。2014年には、唯一残っていた創立メンバーでありVo兼DrのBernd Noske氏が亡くなってしまいましたが、残されたメンバーはバンドを継続しているようです。(昨年『HERE AND NOW』という新譜を発表しています。)
キャリアの長いバンドですが、活動は1970-83年のオリジナル活動期と、1993年-の再結成期に分けられると思います。再結成期にも、有望な若手をメンバーとしてNoskeがしたがえるような形で、旺盛な作品発表・ライヴ活動を行いましたが、バンドのカラーはオリジナル期に定まったものです。「オルガン入りのハード・ロック」であることをベースに、時にはプログレ風味の起伏に富んだアレンジを、時にはジャズ的なリズムアプローチを導入する。とはいえNoskeのソウルフルな「歌」が核にくることは変わらず、歌の内容も――すべての曲がというわけではないが――ユーモアを交えた社会諷刺をメッセージとして載せる、といったところが個性でしょうか。なおBirth Control(産児制限)という名前は、60年代後半に「ローマ法王と産児制限否定」が話題になっていたことからつけたものだったそうですが(そのころ彼らはアマチュアで、長期活動するとも思っていなかったらしい……)、このバンド名を守り続けた点もおもしろいところです。2枚目のアルバムジャケット裏には、法王らしき人のイラストが描かれております。
サウンドの要となるのは、Bernd Noske(Vo, Dr)の歌とグルーヴ感あるドラミング、およびオルガニストによる味付け(プログレ風、ジャズ風、聖歌風……ただしこのパートはメンバー交代が比較的激しい)。さほどギターは前面に出ないタイプなのですが、作曲の中心はギタリストのBruno Frenzelという人です。1983年には彼が亡くなってしまいバンドは活動を止めてしまうわけですが、それまでに彼らが残した作品(オリジナルアルバムだけで10枚以上)のクオリティの高さからするに、Frenzelがソングライターとして非常に優れていたことは間違いありません。Noske/Frenzel体制のBirth Controlには、ほとんど捨て曲なんてないんじゃないかと思いますね。
*写真右の赤服さんがBernd Noske、写真下の眼鏡さんがBruno Frenzel
<楽曲紹介>
オリジナル活動期を中心に、お薦めアルバムを挙げてみましょうか。
『BIRTH CONTROL』(1970)
記念すべき1stアルバム。オルガンが全編活躍している感じが強いですね。冒頭の「No Drugs」や「Recollection」はNoskeの朗々たる歌声が楽しめますし、「Foolish Action」というファストチューンでは楽器セクションの底力がわかります。ラストはThe Doorsの「Light My Fire」で、オリジナルよりハネるリズムでの演奏になっておりますが、この解釈もアリですな。
『OPERATION』(1971)
2ndアルバム。前作以上に曲の輪郭がはっきりしてきました。1曲目「Stop Little Lady」のような切れ味鋭いハード・ロックもあれば、プログレ的展開をもつ名曲「The Work Is Done」も。その上、どれも歌ものとしてよく出来ており、いい意味でキャッチ―なんですね、口ずさめる感じというか。CDボーナスのシングル曲「What’s Your Name」なんかは彼らにしてはストレートな曲ですが、デビュー35周年記念ライブ盤での演奏も良かったなあ。
『HOODOO MAN』(1972)
3rdアルバムにして初期の最高傑作。歌と楽器のこなれ具合が素晴らしく、「展開にひねりはあるのに、唐突な感じはない」という感じ。何言ってるかわかりませんね。まず冒頭「Buy!」をお聴き下さい。テンポチェンジが絶妙なことがおわかりいただけると思います。2曲目の「Suicide」は、ジャジーなオルガンがカッコいい個人的に一番好きな曲。サビの後ろのコードなんか最高です。
「Get Down To Your Fate」はビッグなシャッフルビートが心地よい。そして4曲目、不滅の名曲「Gamma Ray」の登場。このバンドにしては定まったテンポで進むんですが、乗っかるオルガンフレーズの繰り返しは魔術的。熱いヴォーカルが重なり、途中にはギターソロ、パーカッションソロも入る10分弱の大作。前作の「The Work Is Done」、次作の「She’s Got Nothing On You」と並んで、ステージでの定番。ちなみに、元HelloweenのKai HansenのバンドGamma Rayはこの曲から名前を付けておりまして、カヴァーも披露しております。ドイツロックの偉大な伝統に敬意を表するKai様が素敵。
『REBIRTH』(1974)
4th。これまで安定しなかったオルガン奏者の椅子に、この後しばらく正規メンバーとして名を連ねるZeus B. Heldが就いた作品。アルバムの作風は、ややギターが出るようになりハード・ロック色が強まりました。上でも述べた「She’s Got Nothing On You」や「Back From Hell」といったステージでの必殺ナンバーを収録。間に挟まれるエレガントな小曲も効果十分。
『LIVE』(1974)
わずか5曲ですが65分を超える大ライヴ作。「The Work Is Done」「Back From Hell」「Gamma Ray」「She’s Got Nothing On You」「Long Tall Sally」というのがその内容ですが、コンサート仕様で20分強に仕立てられた「Gamma Ray」が凄い。また、Bernd Noskeがライヴでこれだけ叩きながら歌っているというのは驚異です。Ringo Starr(The Beatles)やDon Brewer(Grand Funk Railroad)、Gil Moore(Triumph)など、歌いながら叩く(叩きながら歌う?)ドラマーは新旧さまざまいるわけですが、Noskeの力量は抜きんでていると思います。このバンドはライヴ盤を何枚か出していますが、クオリティはどれも高い。安心してお薦め出来ます。(続く)