<名演紹介>(続)
(7)Billy Joel「Back in the U.S.S.R.(LIVE)」(『КОНЦЕРТ』1987)
Billyは、アルバム『THE BRIDGE』ツアーの締めくくりをソ連(当時)で行おうと考え、一部の反対を押し切って実行しました。その時の模様を収めたのが何度か言及してきている『КОНЦЕРТ』というライヴアルバムです。(ちなみに、Billyにはこれ以前に『SONGS IN THE ATTIC』(1981)という、初期の名曲をライヴ演奏して集めたライヴ盤があります。こちらもBillyバンド全面参加で、お薦め。)『THE BRIDGE』ツアーですので当然そこからの曲が多いわけですが、他にも名曲・ヒット曲を演ってくれている……のはこれまでに述べたところでもお分かりいただけると思いますが、このアルバムの楽しみは「Billyの曲以外」にもあるのでした。冒頭の「Odoya」というのは、Billy一行が現地で知り合ったジョージア(当時はグルジアといっていた)の聖歌隊によるア・カペラ。ラストに収められているのがBob Dylanの「The Times They Are A Changin’」のカヴァー、なんとBillyがアコースティックギター弾き語りで歌ってます。
そして、The Beatlesの「Back in the U.S.S.R.」。バンドでははじめ、「ソ連に来たからこの曲、っていうのはありきたりだからShe Loves Youをやろう」としていたそうです――実際にそのリハーサル音源も残っている――が、どういうわけか結局これをやることに。音源を聴くと、ステージ上からBillyが聴衆に「You like Beatles?」と煽りかけるや否やバンドがこの曲のイントロを奏でだすという流れがナチュラルでお見事。Billyバンドは――これは割と有名な話らしいのですが――リハーサルの時に自分らの曲(Billyの曲)はほとんどやらないで、オールドロックンロールとか「自分らの好きな曲」ばっかり音出しするんだそうですよ。そういう彼らからすれば、少々の予定変更があっても、The Beatlesナンバーならお手の物、ってところでしょう。LibertyもRingoになりきって(?)楽しそうですし、Billyから“Take it away, Russell!”と煽られたRussell Javorsのギターソロも決まり、Billy入魂の歌唱(&ピアノ)も完璧で、さすがは「エド・サリヴァン・ショウ」キッズですな。
(8)Billy Joel「I Go to Extremes」(『STORM FRONT』1989)
ソ連ツアーから戻ったBillyは、バンドの改編を行いました。長年バンマスを務めていたベースのDoug Stegmeyerと袂を分かち、これまた長年タッグを組んで名作を送り出してきていたプロデューサーのPhil Ramoneとも別れます。新たにMick Jones(Foreigner他)をプロデューサーに迎え、Liberty(Dr)、David Brown(Gt)らと曲作りを進めます。この「I Go to Extremes」は、BillyとLibertyがジャムっていた時に、Libertyが繰り出した激しいビートに触発されて書きあげた曲だそうで、アルバム中でも特にパワフルな曲に仕上がっています。「躁状態と鬱状態」の波に悩み「なぜ自分は極端に走ってしまうのか」と歌う、(『THE BRIDGE』以降の)パーソナルな傾向の歌詞・曲でもあります。
ライヴでも定番で、Libertyが元気一杯に叩きまくります。これも、スタジオ版以上になってしまうのがLiberty流。曲の終わり辺りでは、BillyのピアノとLibertyのドラムで「コール&レスポンス」みたいなのをやってしまいます。あまりにLiberty色が強すぎるからでしょうか、ドラムがChuck Burgiに交替してからのライヴ盤には収録がありません。
(9)Pat Travers「I Guess I’ll Go Away」(『BLUES TRACKS 2』1998)
課外活動その2。Pat Traversはカナダ出身のロックギタリストで、1970年代末から活動している人ですが、90年代に入って、ブルーズ色を強めてきました。このアルバム以前に『BLUES TRACKS』というのも出しています。本作『2』は、Pat(Gt,Vo)とLiberty Devitto(Dr,Harm)が共同でプロデュースに当たり作り上げた(ベースはTim Franklin)ブルーズ・ロックのカヴァー集。Johnny Winterの「I Guess I’ll Go Away」やCreamの「Take It Back」、The Allman Brothers Bandの「Whipping Post」、The Beatlesの「Taxman」などが取り上げられています。
Patの歌唱は熱いし、ギタープレイも見事なものですが、わたくしからすると、しばらく音沙汰のなかったLiberty Devittoがロックソングを次から次へと叩きまくっているのが痛快。やはりこの人はタム使いが独特ですなあ。「カヴァー集」なので、さほど話題にはならなかった作品なんですが、ご推薦。特に1曲目、Patが「Hey!」と叫んでからリフが始まり、ビッグなドラムが入ってくるところなんか楽しい。これを聴いて、Johnny Winterのオリジナルも聴き直したくなる……カヴァー集としては上出来。
(10)The White Ravens「Rubberband」(『GARGOYLES AND WEATHER VANES』2010)
最後は、最近年のLiberty。このグループはよく知らないんですが、2010年に一作目アルバムを出しているところからすると若いバンドじゃないかと。ピアノが主導し女声ヴォーカルが載る、ポップ・ロック/オルタナ・ロック……かな。
Libertyの参加もどういう経緯かわからないのです、すみません。ドラムの音は、ハイハットの使い方とか、スネアのハードヒット具合とか間違いなくLiberty DeVittoそのもので嬉しくなるんですけど。このアルバム、どうやら12曲版と6曲版があるようなんですが、わたくしの持ってるのは6曲入りの方。CD店で普通には売ってなくて、通販で入手しました。(完)