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The Beatles「I’m Only Sleeping[Mono]」『THE COMPLETE YESTERDAY AND TODAY』(2023)
新年一発目は、ビートルズにしましょう。
といっても、この曲「I’m Only Sleeping」自体はべつに新作でもなんでもなく、『REVOLVER』(1966)に入っていた曲ですけどね。Eternal Groovesなるレーベルが発売したコンピ『YESTERDAY AND TODAY』の“完全版”がどうにも気になってしまい御小遣いはたいて買ってしまったので、何か役に立ってもらおうという魂胆。
同作は昔アメリカで出たという編集盤で、『RUBBER SOUL』『REVOLVER』期の作品がつまみ食いで入ってます。『THE COMPLETE YESTERDAY AND TODAY』はステレオとモノとが全部入ってる上に、ボーナスディスクで同時期のレア音源をカヴァーしているという代物。かつて『ANTHOLOGY』に入ってた曲なんかもあるようですから、初出激レアというわけではないですけど、1965-66年のビートルズのイカレっぷりがまとめて味わえるのは悪くない。
「I’m Only Sleeping」は元来『REVOLVER』に入っていたジョンの作品ですが、実験的な音づくりもさることながら、“いかにもやる気のない”歌詞と歌唱が最高で、昔からこれが好きなんですよね。「♪頼むから起こさないでくれ、やめろ、揺するな、ほっといてくれよ……」って、あんたレイジーすぎるだろ。姉妹編の「I’m So Tired」と併せて、ジョンらしさ全開の名曲ですよね。春眠暁をおぼえず?
この曲はワーキング・ヴァージョンも秀逸で、例の『アンソロジー』にも入っていた、(逆回転とかのギミックなしの)アコギ伴奏版もすばらしい。歌詞がクリアに聴こえるだけに、「そんなに眠たいのかい!」って突っ込みたくなる愛らしさ。そういえば66年といえば、The Kinks(というかRay Davies)が「Sunny Afternoon」でダルなナンバーを送り出した年でもありましたな。あっちは眠いというより「なさけない」感じですけど。あ、でも「Sunny Afternoon」には「♪The taxman’s taken all my dough(税吏がゼニをみんな持ってった)」という一節がありましたっけ。それに対応するのはジョージ作の「Taxman」っすよね。英国の“税金”ってそんなにキツかったのか……。ビートルズとキンクスの歌詞世界について、で論文くらい書けそうだ。
閑話休題。『THE COMPLETE YESTERDAY AND TODAY』の聴き所はほかにもありますけど、流して聴いてて“グッと来た”のは、(これも『アンソロジー』収録済みですが)「And Your Bird Can Sing(Take 2/Vocal Dub)」ですね。何があったのか知らんが、全編でジョンとポールが爆笑(というか吹き出し笑い)しまくってる謎テイク。何らかの事情でハイだったのではとかいろいろ言われてますが……後年失われるスタジオ内の明るい雰囲気(?)が嬉しい。
あ、最後に。既発音源も少なくないというのに、ケチな私が『THE COMPLETE YESTERDAY AND TODAY』を買った決め手は、有名な(?)「ブッチャージャケット」が再現されてたから。この悪趣味さ、元祖リヴァプールの残虐王!Carcassより約四半世紀も早く“この”センスですよ。もっとも、ジョージあたりは当時から「イヤ」だったらしいですけどね。どうしても手元に置きたくなってしまったのでした。