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どんぱす今日の御膳281

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Billy Joel「The Prime Of Your Life [Demo]」(『MY LIVES[Disc2]』2005)

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 今年最後はBilly Joelで締めくくりましょう。「こんなタイトルの曲知らないなあ?」という人はただしい、これ、レア曲というかデモ・ヴァージョンなのです。一応正式にリリースされています(2005年の編集ボックスセット『MY LIVES』Disc2)ので、堂々と紹介します。

 音を聴くと、「あ、あの曲のもとになってるのか!」とわかると思います。もったいぶるところでもないので申しますが、後に「The Longest Time」になる曲。最終版「The Longest Time」とは歌詞も全く違いますし(歌詞ができていないところも多々あり)、そもそもア・カペラでもない。リズム・パターンは、「Don’t Ask Me Why」(『GLASS HOUSES』所収)みたいな感じだよね。デモの終盤ではビリー自身の“♪Four!”とか“♪Five!”とかいう掛け声が入っていますが、これは彼のデモでよくある、コードを通じた展開の指示だと思います。

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 そう、ビリー・ジョエルのデモってすごくためになって、「楽曲の形成過程」が割とよく見えるのですよ。同じ『MY LIVES』に入っている「Christee Lee」のデモは、完成版(『AN INNOCENT MAN』1983年に所収)が8ビートであるのに対し、ルーズなシャッフルになっています。サックス・ソロの入るところでは“♪Solo!”、その後のブリッジに入るところでは“♪Second bridge!”と声を掛け、後奏でもサックスやギターの入りに必ず指示を出している。“♪Piano!”と叫んでから自分でローリングピアノを披露するとか、かなり細かいデモなのは、私のようなマニアにはすんごくありがたい。

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 『RIVER OF DREAMS』(1993)に入っている「All About Soul」は、かつてビリーが何かのドキュメンタリーで「はじめはバイク乗りの曲だった」と話していたのを覚えています。(映像『SHADES OF GREY』だったかなあ。90年代半ばだったと思います。)完成版からはそういう風情を感じなかったので、「もとはどんなだったんだろう?」と興味津々だったわけですが、まさかほんとうに「Motorcycle Song」(ワーキング・タイトルにしてもわかりやすい……)として世に出てくるとは。例によって歌詞は完成版と全く異なりますし、リズム・パターンが違いますね。

 

 ビリー・ジョエルは楽曲を作る(仕上げる)際にリズム・パターンにすごくこだわる人なんですね――ここでPhil Ramoneが知恵を出すと「Just The Way You Are」がああいうユニークなものになり、Danny Kortchmarが整理すると「Blond Over Blue」がああしたすっきりしたものになる、というわけね――そのことが今回触れた3種のデモからもよーくわかるという次第。

 Billy Joelのメロディメーカー振り、都会の詩人としての資質、ピアニストとしての力量、ロックンローラーとしてのエネルギー……はよく皆さんの知るところとなっていると思いますが、「リズムの研究家」としての彼についても同じく注目してみる必要アリです。そういえば、オリジナルのBilly Joel Bandの時は、彼の右腕はベースのDoug Stegmeyerであり、“main man”がドラマーLiberty DeVittoでした。ビリーにとっての「リズム」の意味は、まだまだわれわれの探究の余地ありではないでしょうか?