<2019年作品>
Steve Morse先生が参加してるのでわたしがスルーするわけ(にいか)ないプログレ・バンドFlying Colors。これまでに二枚のオリジナル・アルバムと二枚のライヴ・アルバムを出してますが、どれも高品質。ドラムは元Dream TheaterのMike Portnoy、ベースはスティーヴ・モーズの右腕Dave LaRue、キーボードが元Spock’s BeardのNeal Morse、リードヴォーカルにCasey McPherson。
(2)Flying Colors『THIRD DEGREE』(USA)
- The Loss Inside
- More
- Cadence
- Guardian
- Last Train Home
- Geronimo
- You Are Not Alone
- Love Letter
- Crawl
<メンバー>
Casey McPherson(Vo, Gt)
Steve Morse(Gt)
Dave LaRue(Ba)
Neal Morse(Key, Vo, Gt)
Mike Portnoy(Dr, Perc)
現代プログレの猛者が集まりながら、「歌モノ」としての完成度を優先させる作風。正直なところを申し上げると、彼らのファースト『FLYING COLORS』(2012)を聴いたときほどの感激は、今回はありませんでした。というのは、言い換えれば彼らの作風が高品質で安定しているということでもあるのですが。
そのクオリティの高さはコンサートでも同様。彼らの二枚組ライヴ『LIVE IN EUROPE』(2013)で、ファーストの各曲+メンバーの持ち曲(もといたバンドの曲とか)を自由自在に演奏しているのを聴いて「はあ、うまい人らってのはいるもんだ」と溜息しか出なかったこともあります。(私は、Dixie Dregs「Odyssey」がピックアップされてるのに驚き喜んだクチですが。)
あんまりしっかりしてたんで、セカンドアルバムとセカンドライブアルバムをスルーしちゃったくらい。(そんなんじゃスティーヴ信者を名乗る資格がなかったね……)
今回の作品も、事前にはチェックしてませんでした。専門店(Recofanだったかな)で「箱入りヴァージョン」を売ってたのがどうにも気になって、あらためて手を出した次第。別ミックス(ヴァージョン)の入ったボーナスディスクのほか、コースターやポスターが入ってました。
作品は、前のもの以上に「聴きやすく」なっている感じがしました。たんにポップでキャッチーになったというわけではありませんが――だいたい、一番短い曲で5分08秒なんていうポップスはおかしいだろ、ね――、シンプルなところはシンプルに、込み入ったとこは込み入った風にというメリハリが一層きいたために、流して聴きながらダイナミズムが感じられるようになりました。例えば「The Loss Inside」も、快活なハードロックという印象……ギター・ソロがDeep Purpleでの「それ」っぽくなってるなあと思ったら、キーボード・ソロもパープル風に挿し込まれますね。
「More」もヴァース部分はストレートなロック仕様。こういったプレイもうまいのがMike Portnoyさんで、他の“プログレ・ドラマー”(往々にしてシンプルな8ビートは得意じゃなかったりする……)とは別格の腕を見せつけます。録音が良いこともありますが、ドラム・ワークの細部まで生々しく感じとれるのが人力音楽派には嬉しい。そして、こういう曲のプレイを聴いていると、「やっぱり、ポートノイ氏は故Neil Peartの正統後継者だなあ」と思いますね。具体的に言うと、彼らには、プログレやジャズの感覚もありながら、伝説の故Keith Moonのテイストが必ずどこかにあって「ロックっぽい」んですよ。あとは後半の鍵盤ソロがおもしろいかな。
「Cadence」はゆったり軽やかな楽曲で、メロディアスなギターも良い。「Guardian」はリズムの遊びが面白いダンス・ナンバー(なわけないか。足がもつれそうだ)。途中で爽快な8ビートに移行してスカッとさせてもくれます。うん、まずはこの曲が気に入りましたよ。ギターソロはテンポを落としてじっくり聴かせてくるし、Dave LaRueさんのベースソロもたっぷりあるし、締めにはまた例のリズムパターンが来るし。
壮大さを感じさせるイントロから始まる「Last Train Home」は、10分半の大作。いわば楽章があって構成がしっかりあるんですが、穏やかなパートからギターソロをブリッジにして三連のスピーディなパートに移り……といったあたりの巧さは流石。それでいて器楽大会に終わらず、歌がしっかりヤマ場に来るので、疲れずに聴き通すことが出来ます。後半は全盛期のKansasのような雰囲気もある気がします。
さて折り返しの「Geronimo」は雰囲気を変えて、スラッピング・ベースが印象的なジャジーな乗りの一曲。我らがスティーヴ・モーズ先生のギターソロも冴え渡る。少し長いけど、これも気に入った。“♪Wowow~”なんていうコーラスも意外性があって良いね。
ワアッと盛り上がった後でクール・ダウンしときましょう。「You Are Not Alone」はピアノ+アコギ伴奏のバラード。途中からはフルバンドになりますが、あくまで主役は歌。続く「Love Letter」が軽やかに弾んであたたかみのある楽しさを演出すするのと、ぜひセットでお聴きください。後者のThe Beach Boys風のコーラスワークも面白い。
そして迎える幕引きには、11分超の「Crawl」が控えております。前半は穏やかだなあと思っていると、グラデーションでだんだん盛り上がっていって、5分過ぎ辺りからのスティーヴのスーパー・プレイが最初の山となります。とはいえ、ちょっとパートの区切りが明瞭すぎるかな。ギターの目立つところがここと終盤に割り振られてる感じでね。
ボーナスディスクの「Crawl(Instrumental Arrangement & Mix)」(少し短い)の方がプログレ耳には刺激があるかも。可能ならデラックス版(ボーナスディスク付き)をお聴きになられると楽しいですよ。曲目は、
Flying Colors『THIRD DEGREE(Bonus Disc)』
- Waiting For The Sun (Unreleased Bonus Studio Track)
- Geronimo (Instrumental Arrangement & Mix)
- You Are Not Alone (Instrumental Arrangement & Mix)
- Love Letter (Alternate Acoustic Arrangement & Mix)
- Last Train Home (Instrumental Arrangement & Mix)
- Crawl (Instrumental Arrangement & Mix)
となってます。おまけディスクながら42分もあるし、ヴァージョン違い、アレンジ違いも楽しい。
とまあ、「刺激は薄れた」とか言いながら、けっきょくはお腹一杯持て成されてしまうのであった。モーズ先生、Steve Morse Bandが無理なら、Flying Colorsでもいいので来日してくださいませ……
<続く>