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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

時代の産物を追う?〔続〕(15)

2018年作品のつづき。

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 私はYardbirdsが好きでして、それも世間の「三大ギタリスト」崇拝に盾突いて“Keith RelfとかJim McCartyとかが凄いのだ!”と考えておるのです。いや、エリック・ジェフ・ジミーが別格のアーティストなのは確かですけど、他のメンバーが「ただのバック」みたいに思われるのは我慢ならん……って誰に怒ってるんだわたしは。


 キースとジムの功績は、Renaissanceを立ち上げたことにあると思うのですが、キースは早くに亡くなってしまいましたよね。それだけに、IllusionBox of FrogsTop Tophamとのコラボ、そして再結成Yardbirdsと、旺盛に活動を続けるジム・マッカーティが頼もしいのなんの。


 そんな彼のソロ作は、ヤードバーズ流のブルーズロックでも、ルネサンス風のプログレでもない、穏やかな作風。

(5)Jim McCarty『WALKING IN THE WILD LAND』(UK)

 1. Walking In The Wild Land
 2. Changing Times
 3. Mountain Song
 4. Right On The Road
 5. Charmed
 6. Soft In A Hard Place
 7. Dancing Leaves
 8. Stop Living Life In The Past
 9. In The Clear
 10. Connected
 11. Come Around The Corner
 12. So Many Questions
<メンバー>
 Jim McCarty(Vo,Gt, Dr)
 George Koller(Ba)
 Ben Riley(Dr)
 Tom Reynolds(Key)
 Hugh Syme(Key)
 他

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 「Walking In The Wild Land」は、ピアノが伴奏の中心を担うゆったり優雅な曲。ジムご本人のテンダーな歌唱がいい感じ。Drew Jureckaさんのヴァイオリンも上品に登場します。歌いまわしからなぜかThe Syn『BIG SKY』(2010)の「Universal Witness」っぽさを感じた……っていうのはマニア趣味過ぎますか。Jim McCartyとSteve Nardelli(The Syn主宰)って、5歳しか違わないのね。『BIG SKY』は、元It BitesのFrancis Dunneryを迎えて制作されたわが好物なんですけど、アコースティックな美しさ・楽しさという点では本作とよく似た雰囲気を醸し出してますよやっぱり。

 

 冒頭よりヴァイオリンが奏でられ歌へつながる「Changing Times」も、ピアノ入りのアコースティック小品。アコースティック・ギターはジム・マッカーティ自身のプレイですか。彼はヤードバーズではドラマーですが、初代ルネサンス後期・イリュージョンでは専らギターを弾いていましたので、お手の物というところ。ついでに言うと、Keith Relfもヤードバーズでは歌とハーモニカ担当でしたが、初代ルネサンスではギターも弾きましたし、Medicine Headっていうバンドをプロデュースした際はベースも弾いてました。三大ギタリストみたいなスーパープレイヤーじゃあないですが、二人とも結構器用だったということですね。特に、アコースティックな音楽を演奏・演出する上では。「Changing Times」でも、ぜひジムの繊細なギターワークをお聴き下さい。次の「Mountain Song」も、ピアノがポロンポロン入る抒情的な楽曲。アルバムとしては、似たような雰囲気の曲が続きすぎるかもしれませんがね……。深い(リバーブの効いた?)ドラムの音が深山幽谷を感じさせます(?)。

 

 4曲目「Right On The Road」は、ギターにMark Newman、ベースにSteve Lucas、ピアノにJohn Hawkenの諸氏を迎え、ドラムはジムが叩きます。あ、Chris Hall氏もスティール・ギターでゲスト参加でした。この曲では、何といっても目玉はJohn Hawken先生。初代Renaissance風の楽曲で、初代RenaissanceおよびIllusionのメンバーだった名手ジョンのプレイが聴けるとは!派手に弾きまくるのではないですが、この端正な感じが素晴らしい。

 

 10曲目「Connected」も同ラインナップによる楽曲です。軽快に弾むややロックっぽいナンバー。ここではピアノよりマークさんのギターが印象的かな。物悲しいメロディにあわせて程好い泣きのギターを繰り出します。

                    

 5曲目「Charmed」にはGuido Bassoさんのフリューゲルホルンがフィーチュアされます。ゆったりした8ビートのフォーキーロックの合間に典雅な響きが加わります。ホルンのためばかりじゃないと思いますが、後期ビートルズか中期ザ・フーのような感じもあります。(ジョン・エントウィッスルのソロっぽいのかも。)

 

 Guido Bassoさんはたいへんなヴェテランでいらしたのですが、次の「Soft In A Hard Place」にも大物ゲスト。リード・ギターでAlex Lifeson(Rush)が登場です。落ち着いたアコースティック8ビートソングの間に、緊張感のあるエレクトリック・ギター・ソロを嵌め込みます。ラッシュとは違う感じでのプレイも良いね。それにしても、なんでバッソさんやライフソンさんなの?と思ってクレジットを見ると、「本作の録音はトロントのNo.9スタジオで行われた」とありましたわ。それでカナダの音楽家が招かれたのですかね。

 

 「Dancing Leaves」も、本作の基調となるピアノ+アコギ主導のジェントル・ソング。ジム・マッカーティさんのヴォーカリストとしての力量にぜんぜん触れてきませんでしたが、なかなか乙なのでございます。枯れた味わいって言っちゃうとそれまでですけども……淡々としているようでパートに応じて歌い上げる辺りは巧みで、さすがIllusionから歌い続けてこられただけはある。

 

 そんなジムさんの明朗な歌を思い切り楽しめるのが次の「Stop Living Life In The Past」。リズム・ギターにRay Montfordさんという方が呼ばれています。“♪Stop living life in the past……”。次の「In The Clear」も、ミックスの方策かジム’sヴォイスがストレートに聴かされます。笛の音(もしくはそれを模したシンセかな)が雰囲気づくり。“♪Lalalala……”

 

 10曲目はさっき言及しました。その後の「Come Around The Corner」は、Procol Harumの「Grand Hotel」みたいな感じのエレガントな始まり方をします。オルガンとピアノのダブル鍵盤もプロコル・ハルムっぽいかな。後半でQuisha Wintさんのバッキング・ヴォーカルがさり気なく入ってくるあたりもいい。

 

 最後の「So Many Questions」まで、作風は一貫していましたね。本曲はドラムがとりわけ繊細ですが、George Kollerさん――本作のプロデューサーでもある――のベースもアコースティック・ミュージックを活かす絶妙な押し引き具合。

 

 The Yardbirdsのイメージとはまったく違う作品でした。ハードロック・ファンにとっつきやすいものではありませんし、全体に近い雰囲気の曲が並ぶあたりも“地味”な印象を与えるかもしれませんが、たまにはこういうのもいいですよ、と言っておきましょう。Jim McCartyさんは「ヤードバーズのドラマー」にとどまらない音楽家だ、ってことがよくわかります。ちなみに氏はかなりしっかりしたホームページを持っておられるので、情報はそちらでも得られますよ。
<続く>