“ロック界に君臨する将軍たらんと、自らをタイクーン(大君)と名乗る大型新人登場!必殺の一振りが今振り降ろされた!”
オビにこういうのが付いたデビューアルバムがあったら、どう思います?「さぞ活きのいいメタルかなんかであろう」と思うんじゃないかな……
昔も今も、レコード・CDについてくる煽り文句っていうのはスゴイもんですが、これはびっくりしました。というのも、私はこのバンドはリアルタイムでは知らず、再発のCDを輸入盤で買っていたので……まさか当時の日本盤が「こういう」アピールをされてたとはね。後追い者が「調べる」とこういう体験も出来ます。
確かに、バンド名はTycoon(大君)ですし、彼らに野心もあったんでしょうけども、「振り降ろされた」と来たらなんか殺気立ったサウンドを想像しませんか。ところがさにあらず、音は所謂A.O.R.のそれなんですよね。ファーストアルバムはこちらです。
Tycoon『TYCOON』(1978)
- Such A Woman
- Slow Down Boy
- Out In The Cold
- Don’t You Cry No More
- Too Late (New York City)
- The Way That It Goes
- Don’t Worry
- How Long (Can We Go On)
- Drunken Sailor
- Count On Me
<メンバー>
Norman Mershon(Vo, Cho)
Jon Gordon(Gt, Synth, Strings, Cho)
Mark Kreider(Ba, Cho, Perc, Strings)
Richard Steinberg(Dr)
Michael Fontana(Key, Piano, Org, Synth, Cho)
Mark Rivera(Sax, Perc, Vo, Cho)
やや長い前振り(鍵盤類による)を経て開幕する「Such A Woman」。太いギターリフも繰り出されますが、ヴォーカルアレンジの妙もあってあくまでポップの範疇。マイナー調のこれに対して、続く「Slow Down Baby」は明るいアメリカン・ロック風味。Bachman-Turner Overdriveっぽいというか(BTOはカナダですけどね)。この曲でサックスソロを披露しているのが我らがMark Riveraさん*でしょう。明朗で張りのある吹きっぷり。
〔*後述しますが、彼はBilly Joel Bandのメンバーなので(筆者にとって)親近感があるのです。上のアルバム・ジャケットでは後列向かって一番左の方。〕
ノーマンさんの入魂歌唱が聴ける「Out in the Cold」は、ロック色強め。サックスソロからギターソロへつながるあたりもHRファンからすると楽しい。このグループはヴォーカルパートを分厚く演出するところにも個性があるんですが、「Don’t You Cry No More」では、冒頭やコーラスでは多重歌唱の華麗さが、ヴァースではリードヴォーカルのパワーが、ともに味わえるようになっております。この曲も終盤にマークのサックスソロをフィーチュア。バンドにとっての武器(「必殺の一振り」?)だったのでしょうね。グイグイ進む8ビート「Too Late (New York City)」は、ベースに注目。メインソングライターでもあるMark Kreiderさんの運指がツボをおさえてる。キャッチーなコーラス“♪It’s too late…….”も良いね。
さて後半、カラフルに鍵盤が散歩する「The Way That It Goes」は軽快な感じ。ドラムの人力感がまたよろしくて、後期ビートルズっぽい楽曲をうまく引き立ててます。オルガンにより導かれる「Don’t Worry」は、プログレハードっぽい感じあり。(Kansasのポップサイドを想起させるといいますか……)ギターが思いの外活躍してるか。「How Long(Can We Go On)」は、マーク・リヴェラさんがリードヴォーカルをとっています。ノーマンさんよりは少し線が細く艶も少なめかもしれませんが、ソウル系の歌はうまいですね。サックス・ソロも披露してます。
ゆったり明るい「Drunken Sailor」は、コーラスの多重ヴォーカルがイイ。“♪You make me feel like a drunken sailor…….”。ラストの「Count On Me」は程好い疾走感あるナンバーですが、リードヴォーカルは再びリヴェラさん。彼ららしいキャッチーなコーラス“♪Count on me…….”が耳をとらえます。サビあとのピアノの入り方、サックス・ソロの置き方など、Billy Joelの作風にちょっとだけ通じるものを感じなくもない。
さて、本作のプレイヤーたちについて若干だけ補足。Michael Fontanaさんは1960年代から活躍しているかなりのヴェテラン。Mike Bloomfieldの率いたThe Electric Flag『A LONG TIME COMIN’』(1968)に参加してたんですね。70年代はLou Reedとの仕事も多数。
Mark RiveraさんはBilly Joelバンドのメンバーとして大活躍なんですが、Ringo Starrとの仕事も当ブログではご紹介しました。お、Michael Monroe『NOT FAKIN' IT』(1989)の「She’s No Angel」でもサックスを吹いてるんだね。2014年にソロ・アルバムも出していて、評判も良いみたいですが、私は手に入れることが出来ていません。
<続く>