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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第52回「Tycoon」(1)

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 “ロック界に君臨する将軍たらんと、自らをタイクーン(大君)と名乗る大型新人登場!必殺の一振りが今振り降ろされた!”

 

 オビにこういうのが付いたデビューアルバムがあったら、どう思います?「さぞ活きのいいメタルかなんかであろう」と思うんじゃないかな……

 

 昔も今も、レコード・CDについてくる煽り文句っていうのはスゴイもんですが、これはびっくりしました。というのも、私はこのバンドはリアルタイムでは知らず、再発のCDを輸入盤で買っていたので……まさか当時の日本盤が「こういう」アピールをされてたとはね。後追い者が「調べる」とこういう体験も出来ます。

 

 確かに、バンド名はTycoon(大君)ですし、彼らに野心もあったんでしょうけども、「振り降ろされた」と来たらなんか殺気立ったサウンドを想像しませんか。ところがさにあらず、音は所謂A.O.R.のそれなんですよね。ファーストアルバムはこちらです。

 

Tycoon『TYCOON』(1978)

  1. Such A Woman
  2. Slow Down Boy
  3. Out In The Cold
  4. Don’t You Cry No More
  5. Too Late (New York City)
  6. The Way That It Goes
  7. Don’t Worry
  8. How Long (Can We Go On)
  9. Drunken Sailor
  10. Count On Me

<メンバー>

 Norman Mershon(Vo, Cho)

 Jon Gordon(Gt, Synth, Strings, Cho)

 Mark Kreider(Ba, Cho, Perc, Strings)

 Richard Steinberg(Dr)

 Michael Fontana(Key, Piano, Org, Synth, Cho)

 Mark Rivera(Sax, Perc, Vo, Cho)

 

 

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 やや長い前振り(鍵盤類による)を経て開幕する「Such A Woman」。太いギターリフも繰り出されますが、ヴォーカルアレンジの妙もあってあくまでポップの範疇。マイナー調のこれに対して、続く「Slow Down Baby」は明るいアメリカン・ロック風味。Bachman-Turner Overdriveっぽいというか(BTOはカナダですけどね)。この曲でサックスソロを披露しているのが我らがMark Riveraさん*でしょう。明朗で張りのある吹きっぷり。

〔*後述しますが、彼はBilly Joel Bandのメンバーなので(筆者にとって)親近感があるのです。上のアルバム・ジャケットでは後列向かって一番左の方。〕 

 

 ノーマンさんの入魂歌唱が聴ける「Out in the Cold」は、ロック色強め。サックスソロからギターソロへつながるあたりもHRファンからすると楽しい。このグループはヴォーカルパートを分厚く演出するところにも個性があるんですが、「Don’t You Cry No More」では、冒頭やコーラスでは多重歌唱の華麗さが、ヴァースではリードヴォーカルのパワーが、ともに味わえるようになっております。この曲も終盤にマークのサックスソロをフィーチュア。バンドにとっての武器(「必殺の一振り」?)だったのでしょうね。グイグイ進む8ビート「Too Late (New York City)」は、ベースに注目。メインソングライターでもあるMark Kreiderさんの運指がツボをおさえてる。キャッチーなコーラス“♪It’s too late…….”も良いね。

 

 さて後半、カラフルに鍵盤が散歩する「The Way That It Goes」は軽快な感じ。ドラムの人力感がまたよろしくて、後期ビートルズっぽい楽曲をうまく引き立ててます。オルガンにより導かれる「Don’t Worry」は、プログレハードっぽい感じあり。(Kansasのポップサイドを想起させるといいますか……)ギターが思いの外活躍してるか。「How Long(Can We Go On)」は、マーク・リヴェラさんがリードヴォーカルをとっています。ノーマンさんよりは少し線が細く艶も少なめかもしれませんが、ソウル系の歌はうまいですね。サックス・ソロも披露してます。

 

 ゆったり明るい「Drunken Sailor」は、コーラスの多重ヴォーカルがイイ。“♪You make me feel like a drunken sailor…….”。ラストの「Count On Me」は程好い疾走感あるナンバーですが、リードヴォーカルは再びリヴェラさん。彼ららしいキャッチーなコーラス“♪Count on me…….”が耳をとらえます。サビあとのピアノの入り方、サックス・ソロの置き方など、Billy Joelの作風にちょっとだけ通じるものを感じなくもない。

 

 さて、本作のプレイヤーたちについて若干だけ補足。Michael Fontanaさんは1960年代から活躍しているかなりのヴェテラン。Mike Bloomfieldの率いたThe Electric Flag『A LONG TIME COMIN’』(1968)に参加してたんですね。70年代はLou Reedとの仕事も多数。

 

 Mark RiveraさんはBilly Joelバンドのメンバーとして大活躍なんですが、Ringo Starrとの仕事も当ブログではご紹介しました。お、Michael Monroe『NOT FAKIN' IT』(1989)の「She’s No Angel」でもサックスを吹いてるんだね。2014年にソロ・アルバムも出していて、評判も良いみたいですが、私は手に入れることが出来ていません。

<続く>