Tycoonはサードアルバムも作ったそうですが(『OPPORTUNITY KNOCKS』1983)、私は未聴です。
私が興味あったミュージシャン、Mark Riveraはというと、その頃はなんとBilly Joelバンドに入っていたのであった。(Richie Cannataさんの後任としてサックスを担当。)バッキング・ヴォーカルやパーカッション・ギターまでこなすマルチタレントのマークさんは、その後現在に至るまでビリーのサポートを続け、ビリー・バンド在籍最長人士となっております。
というわけで、関連枠でマークのプレイが聴けるビリー・ジョエル作品を鑑賞しときましょう。
<関連作品>
Billy Joel『AN INNOCENT MAN』(1983)
- Easy Money
- An Innocent Man
- The Longest Time
- This Night
- Tell Her About It
- Uptown Girl
- Careless Talk
- Christie Lee
- Leave A Tender Moment Alone
- Keeping the Faith
<メンバー>
Billy Joel(Vo ,Key)
Doug Stegmeyer(Ba)
Liberty DeVitto(Dr)
Russell Javors(Gt)
David Brown(Gt)
Mark Rivera(Sax, Perc, Cho)
まずはこれでしょう。マークの、ビリー・バンド加入初作品。この作品、Billyの前作『NYLON CURTAIN』(これも名盤!)がシリアス/社会派路線だったのとは好対照の、ポピュラー・ミュージックの伝統を踏まえ「ポップ」の本質に音楽的に迫った一枚でありました。チャート的な意味でのヒット曲も多いわけですが、それ以上に作っているビリーの精神がポジティヴだったのがストレートに反映されているようです。(この辺りは本人のコメント、各種伝記類を読んでもわかります。)
例えば、チャートの頂点に輝いた「Tell Her About It」の振り切ったポップさ。なぜか日本の自動車CMなどに多用される「Uptown Girl」のハッピーなテイスト。一人多重録音を用いつつ仕上げたア・カペラ「The Longest Time」のウォームな空気感。ビリーのベスト盤にはこれらがほぼ必ず入るんですが、それもまあ当然であろうという気はします。(オタク的なビリー・ファンとしては、「それ以外の曲もすごく良いぞ」と喚きたいですけども。)
で、全体の雰囲気が「陽」というか「爽」に振れていることと縁があると思うのが、ホーン類の多用。「Easy Money」は、Libertyの元気一杯ドラムとカッティング・ギターが盛り上げるロックナンバーですが、全編にサックスやトランペットがフィーチュアされています。David Sanborn(Alto Sax)・Ronnie Cuber(Baritone Sax)・Joe Sheplay&Jon Faddis(Trumpet)が参加とあるので、Mark Riveraの出番がどれだけあったかはわかりませんけど。
騒がしい前曲とはうってかわって静謐に始まる「An Innocent Man」は、Billyがアルバムに一曲は用意するスケールの大きい楽曲。『THE STRANGER』の「Everybody Has A Dream」や、『52ND STREET』の「Until the Night」など、ピアノの響きとストリングスの厚みをうまいこと活かした曲群の一つです。サックスの出番はないかな。「The Longest Time」も伴奏はハンドクラップとベースくらいのア・カペラなので、サックスは無し。ただ、この曲はレコーディングではビリーが多重録音に挑んで仕上げているそうなのですが、ライヴではバンドがコーラス隊にまわっています。後でご紹介する「ソ連ツアー」の時は、マークさんもバッキング・ヴォーカルの一角を担い、見事な喉を披露しています。
「This Night」は、スロウなバラード(ただしコードの展開がメジャーなのは珍しいんだ、とビリー自身が語っていた)。コーラス(サビ)でベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」第2楽章が引用され、歌詞付きの歌になっております。 “♪This night is mine, it’s only you and I……”っていうところね。2分50秒からは、歌メロをベースに構築されたサックス・ソロが繰り出されますが、これぞマークさんのブロウでしょう。
※右端がMark Riveraさん。Billy Joelは左下のサングラス。
「Tell Her About It」も分厚いホーンセクションがバックアップ。Ronnie Cuber(Baritone Sax)・Michael Brecker(Tenor Sax)・Joe Sheplay & John Gatchell(Trumpet)が演奏とのこと。あと、ピアノにさりげなくRichard Teeさんが参加も。キャッチーなヒット曲なんですが、後の時代にはあまりライヴで演奏されていないのが意外といえば意外。次の「Uptown Girl」がステージ・フェイヴァリットとして定着したのとは対照的なんですね。「Uptown Girl」は、ミュージック・ヴィデオも作られてます。あ、いま初めて気が付いたんですが、この曲が本作中一番「短い」曲だったんですね(3分16秒)。歌が中心で、長い器楽パートなどが無いせいでしょうか。
Ralph MacDonaldさんがパーカッションで参加した「Carelass Talk」は、たぶんここじゃないと聴けないレア曲。バンドの連携もうまくいった軽快なロックンロールで、十分にキャッチーなんですがね。ここにも「Tell Her About It」と同じホーンセクションが参加。
ホーンといえば、「Christie Lee」ですよ。なにしろ歌詞のテーマがホーン・プレイヤー(の失恋?)ですからね。“♪She didn’t need him as a man, all she wanted was the horn……”マーク・リヴェラのプレイを、リバティーの全開ビートとビリーのローリングピアノの上で聴けるんだから極上だ。
再びラルフさんのパーカッションを加え、さらにゲストにハーモニカ奏者のToots Thielemansさんを迎えた「Leave A Tender Moment Alone」は隠れた(?)名曲。数年前トゥーツさんが亡くなったというニュースを聞いたときに、「あ、ビリーの曲で演奏してた人だっけ」と思って調べたら、ものすごい偉大なジャズ・ミュージシャンだったことがわかって慌てて勉強を開始した次第。氏のベスト盤のほかに、Oscar Petersonのライヴ盤とか、Bill Evansとのコラボアルバムとかにも手を出しました。この曲に関しては、ビリーのステージにトゥーツさんがゲスト参加した際の映像がYoutubeにありますから、ぜひご覧下さい。このヴァージョンでは、コーラス隊の真ん中で歌ってるマーク・リヴェラさんも観られるぞ。かのJohn LennonがTootsさんに憧れていたという話がありますが、そのジョン・レノンに憧れてたビリー・ジョエルがトゥーツ先生と舞台を共にしてるというのもいい話ですね。
終曲「Keeping the Faith」も、「Tell Her About It」と同じホーン・セクションを入れたゆったりロック。ギターやベースも巧みな動きをしてます。キメに入るラッパがなかなか鋭利で、楽曲を引き立ててます。ジャムっぽい雰囲気をみせつつも、細部までよく構築されているのがこの曲。こちらもミュージック・ヴィデオがあり、(架空の)「ロック禁止裁判」に歌で応じるビリー、乗りまくる傍聴人、最後は踊り出す裁判長……ってのが観られるおもしろ作品になってます。Judas Priestのヴィデオとかが好きな人はぜひどうぞ。
<続く>