前回に続きまして、「英米HR簡史」(旧稿、2004)をお届け。一応、前篇が「英国HR」4グループ、後篇(今回)が「米国HR」4グループ+集大成した草創期HMグループ1つ、ということになっております。それなりに構成も考えてプレゼンテーションしてたのだ(……と思う)。
といいつつ、AerosmithもKissも(Rick DerringerもTed Nugentも)すっ飛ばしてRiotを入れてるあたりに個人的趣味が出まくっていますがね。
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5.Blue Öyster Cult <The Red and the Black(1973)> 4:21
HRはイギリスでのみ発達したわけではなかった。ハードな音への追求はアメリカでも行われていたし、60年代を席巻したサイケデリック・ロックは、アートとしての音楽という点で70年代に受け継がれていたといえる。Blue Öyster Cultは、ヘヴィな曲調にシュールな歌詞を掛け合わせ、独自のHRを築いた名バンドである。ニューヨークを拠点として活躍し、初期には「アメリカのBlack Sabbath」とのコピー(これはプロデューサーのSandy Pearlmanの戦略だったという)で名をはせたが、次第に神秘主義的歌詞からは脱却し、むしろその卓越した演奏能力を前面に押し出した楽曲重視のバンドへ変化していった。
ここでは、彼らのセカンド『TYRANNY AND MUTATION』から、現在もライヴのアンコール等で演奏される曲を。
6.Montrose <Bad Motor Scooter(1973)> 3:43
一方、アメリカ西海岸でも新たなHRの胎動が始まっていた。セッション・ギタリストとしてEdgar Winter Band等で活躍していたRonnie Montroseが(Mott The Hoopleの誘いを断って)組んだのが、自らの名を冠したバンドMontroseである。このバンドに参加したのが、当時無名のSammy Hagar(後にソロ活動を経てVan Halenに加入)ら、サンフランシスコ周辺の若手ミュージシャンであった。Ronnie&Sammyのタッグはセカンドアルバムまで続くが、彼らの出していた音と歌は、同時代のアメリカにはほとんど見られないストレートなアプローチによるロックであった。知名度こそそれほどではないが、アメリカンHR史上における重要度は、AerosmithやKissに勝るとも劣らない。
記念すべきデビューアルバム『MONTROSE』から、唯一無二のドライヴ感が堪能できるこの曲を。因みにこの曲、80年代日本で人気を博したジャパニーズ・ヘヴィメタル・バンド、44 Magnumがカヴァーして演奏していたという。
7.Riot <Warrior(1977)> 3:49
今回のセレクト中では最もマイナーかもしれないが、このバンドが選者のベストバンドであること(このバンドが無ければHRにはまることなどなかったと断言できる)から紹介させていただく。
デビューが小さなレーベルからということもあって、あまり注目されることが無いが、実はBÖCとMontroseの伝統を引き継ぐ、正統派中の正統派なのである。彼らは、Montroseばりのハードでタフなロックと、イギリス・ヨーロッパ方面で育まれたメロディ重視のロック(この方面での手本はDeep Purple,Rainbow,Thin Lizzy等である)を絶妙なバランスで配合し、独自のHRを築き上げた。しばしば「アメリカのバンドらしからぬ」と称されるその音作りを主に担っているのは、ギタリストMark Realeである。彼のセンスが他のメンバー(ライヴに強いメンバーが多い))のパワーと結びついてRiotのサウンドは形成される。1980年に行われたHRのイベント第1回「Monsters OfRock」に、RainbowやScorpionsらと並んで出場したのは、彼らがそれに相応しい実力を保持していたことを示す好例である。
今回は、選者をHRに引きずりこんだ曲であり、HR界でも高く評価されている曲を、ファーストアルバム『ROCK CITY』から。パワフルなヴォーカル、泣きのギター…といった要素は相当に日本人好みでもあるらしく、日本人によるカヴァーもいくつかある。1977年当時に既に日本の五十嵐夕紀なるアイドルが日本語ヴァージョン(邦題「バイ・バイ・ボーイ」。意味はよくわからぬが)でカヴァーしていたという情報がある(選者未聴)。また、近年では、アニメタルというプロジェクトでギターを弾いていた元Gargoyleのギタリスト屍忌蛇によるヘヴィメタル・カヴァー・アルバムでとりあげられている。(このヴァージョンのヴォーカルはそのアニメタルで一世を風靡した(?)坂本英三)
8.Van Halen <You Really Got Me(1978)> 2:37
アメリカンHRを語るときに避けて通れないのがこのVan Halenであろう。Alex&EdwardのVan Halen兄弟を核とするこのバンドは、Edwardの、ライトハンド奏法(タッピング)を中心とした超絶技巧ギターと、フロントマン、David Lee Rothのキャラクターを前面に押し出していたが、音の中身はHRの伝統に忠実な、正統派であった。
彼らの出現と活躍は、停滞しつつあった(Aerosmithはドラッグ禍やJoe Perryの脱退等で、KissはオリジナルメンバーAce Frehley & Peter Crissの脱退等で、それぞれ失速していた)70年代末アメリカンHR界に活気を取り戻したのであった。有名な「Jump」を含むアルバム『1984』発表後にはヴォーカリストが交替し、元MontroseのSammy Hagarが加入したことも話題となった。
彼らの驚愕のファーストアルバムから、英国Kinks1964年のヒット曲のカヴァーを。Kinksが編み出した伝説的なリフをディストーション・ギターで増幅表現した上を、Edwardお得意のライトハンドを絡めたソロが炸裂するという一曲。彼らもまた(Riotとは別の意味で)アメリカンロックとヨーロピアンロックを融合させることに成功したのであった。
9.Iron Maiden <Iron Maiden(1980)> 3:36
70年代末のイギリスでは、パンク革命が吹き荒れ、HRは「保守的な音楽」として若者の支持を失っていった。Motörheadなどの例外もあるものの、多くのHRバンドにとっては冬の時代であった。そんな中、HRへの愛着を強く持ちつつ、パンク=ニューウェーヴの手法を取り入れたユニークなバンドが登場するようになった。
Iron MaidenのリーダーでありメインソングライターのSteve Harrisは、HRをやるという信念のもとにメンバーを募り、地道なライヴ活動を通じて支持者を増やし、自主制作でレコードを出した(今日でいうインディーズの手法か)。HRに飢えていた若者はこぞって彼らを支持し、再びHRが盛り上がることになるが、このときの彼らの音楽はもはやHRとは呼ばれなくなっていた。Heavy Metal…かつての保守的イメージを払拭するために便宜的に用いられたのがきっかけだというが、これを合言葉に多くの若手バンドが登場した。当時のイギリスにおけるシーンの盛り上がりを形容して、New Wave of British Heavy Metalなる言葉も生まれた。これ以降、HMは新しい時代に突入していくことになる。
時代を変えた彼らのデビューアルバムからタイトルトラックを。HR由来のハードなリフにラウドなドラム、プログレ由来の曲展開、パンク由来の疾走感と毒々しいヴォーカルスタイル…新旧音楽が文字通り融合された「新しいロックの姿」がある。
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以上です。
へえ、44マグナムが「Bad Motor Scooter」をやってたんだ?
当時はいろんなライナーノーツを読み込んでたから、細かい情報も拾いまくっていたんでしょうなあ。(出典を記しておけばよかったね。)
<完>