DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第57回「Yellow Matter Custard」(2)

 後半戦。マニアなばかてく野郎どもによるビートルズ・カヴァー・ライヴ盤、その2-1以降です。

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Yellow Matter Custard『ONE NIGHT IN NEW YORK CITY』(2003)

 1-1. Intro

 1-2. Magical Mystery Tour

 1-3. Dear Prudence

 1-4. Dig A Pony

 1-5. She Said She Said

 1-6. I Call Your Name

 1-7. You Can't Do That

 1-8. When I Get Home

 1-9. Nowhere Man

 1-10. Rain

 1-11. Free As A Bird

 1-12. Come Together

 1-13. I Am The Walrus

 1-14. While My Guitar Gently Weeps

 

 2-1. Baby's In Black

 2-2. I'll Be Back

 2-3. No Reply

 2-4. The Night Before

 2-5. You're Gonna Lose That Girl

 2-6. Ticket To Ride

 2-7. Everybody's Got Something To Hide Except For Me And My Monkey

 2-8. Oh Darling

 2-9. Think For Yourself

 2-10. Wait

 2-11. Revolution

 2-12. I Want You (She's So Heavy)

 2-13. You Know My Name (Look Up The Number)

 2-14. Lovely Rita

 2-15. Good Morning Good Morning

 2-16. Sgt. Pepper (Reprise)

 2-17. A Day In The Life

<メンバー>

 Neal Morse(Key, Gt,Vo)

 Mike Portnoy(Dr, Vo)

 Matt Bissonette(Ba, Vo)

 Paul Gilbert(Gt, Vo)

 

 ワルツ調の「Baby’s In Black」、マイナーとメジャーの交錯する「I’ll Be Back」、さらに「No Reply」と、The Beatles3・4枚目の曲が続きます。次の「The Night Before」は『HELP!』収録のロックンロール。Yellow Matter Custardの才人たちは演奏も歌も大したものですが、シンガーとしての個性はやっぱりジョンとポールに敵わないというのはみとめるしかないでしょうかな。とりわけポール翁はいまだにロング・ステージであの美声を保つんだから、別格と言わざるを得ませんな。次の「You’re Gonna Lose That Girl」のようにコーラスワークで聴かせる曲ならば、フォロワーにも太刀打ちするチャンスは生じますが。この曲のシンプル極まりないギターソロも真面目に弾くポールが良い。

 

 さらに『HELP!』シリーズが続いて「Ticket To Ride」へ。これも多重コーラスがうまく効いてる。これまたカヴァーがありまして、有名どころだとまずThe Carpenters。彼ら流の曲にアレンジされているほか、“♪He’s got a ticket to ride”と歌い替えてますね。それから「You Keep Me Hanging On」で有名なVanilla Fudgeが、『VANILLA FUDGE』(1967)の冒頭でやってます。オルガン入りのヘヴィ・サイケ・ヴァージョン。ヴァニラ・ファッジに影響を受けた連中は数多いですが、例えば英国のDeep Purpleっていう新人はデビューアルバム『SHADES OF DEEP PURPLE(1968)で「Help!」の(同じような方法論による)カヴァーを、『THE BOOK OF TALIESYN』(1968)では「We Can Work It Out」をやってます。Yellow Matter Custardは曲終盤の(原曲でフェイドアウトしていく部分)でポールがものすげえ速弾きをちらっと披露してます。

 

 「Everybody's Got Something To Hide Except For Me And My Monkey」をやるというのはナイス。THE BEATLES(通称『ホワイト・アルバム』)収録のハード・ロックンロール、これも本家ビートルズはステージでやってないですからね。この曲が終わったところでマイクが“I’ve got blisters on my fingers!”と叫びますが、この「名言」はもともとはリンゴが「Helter Skelter」のエンディングで言っていたもの。続いても後期の曲で「Oh Darling」、ポールの強靭な喉には敵わないか、ちょっと歌が苦しそう。

 

中期の「Think For Yourself」(ジョージ作)というのも渋いですな。「嘘つき女」っていう邦題はどうなんだと思いますが……。同じく『RUBBER SOUL』からの「Wait」は、オリジナルではダブル・ヴォーカルの曲ですが、面白いことに「ポールは『これはジョンが書いた』と言い、ジョンは『これはポールの曲さ』と言っている」んだそうで。Yellow Matter Custardでは中間部のシングル・ヴォーカル部分をマイク・ポートノイ氏が歌いますが、彼の声はポールやあるいはリンゴというより、キース・ムーンなんだよね……

 

よしよし、後期のハードロックもちゃんと演るか。「Revolution」……うーん?意外に軽い仕上がりなのはなんでだろう、Nicky Hopkins風のピアノが入ってないせいもあるか。もっとヘヴィでいいんだよ?ということで、“She's So Heavy”な「I Want You」へと。マットのブルンブルンいうベースはナイス。ポールは「アイ・ヲン・ユー」と歌うんですが、原曲でジョンは「アイ・ヲンチュー」と歌っていたので不思議な感じ(違和感)が。こういう時は第三者のプレイを聴いてみよう、小生が敬愛するAlvin Lee先生(元Ten Years After)がやってたからね……あれ、大半は「ヲンチュー」だけど、数か所「ヲン・ユー」とも歌ってる。ネイティヴの方々がそうなんだからもうなんでもいいんだろうか。Yellow Matter Custardのこだわりは、原曲通り「ブツっ」と切るところね。

 

 このバンドのヤバさを感じたのは何といっても次の「You Know My Name (Look Up The Number)」。ビートルズ史上屈指の珍曲(私は昔からこの曲が無茶苦茶好きなんですが)を完コピで仕上げるとは。ジャジーな演奏はまあ出来るとして、中間のDenis O’Bellパート“♪You know my name, babababa~”周辺を律儀にやるだけでなく、終盤の奇声パートをマイクの“キース・ムーン・ヴォイス”を活かしてフルカヴァー(捨て台詞的な部分まで全部やる)するという。聴いてる側も試されてるよねコレ。

 

 こんなのやって後はどうすんの?と、思ったらコンサート末尾は『SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND』のラスト4曲をその順番でやるという、ね。ピアノ・ソロも入る軽快な「Lovely Rita」、ソロ前の素っ頓狂な“♪Rita!”も完全再現。ポールのロックンロールの後はジョンのR&R「Good Morning Good Morning」だわな。かねがねこの曲はハードロック向きだと思ってましたが、ストレートにやってやはり問題なし。ここでのニールのヴォーカルはかなり良い、ジョンっぽいよ。オリジナルに敬意を払ったポールのギターワークもよろしい。そして「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band(Reprise)」になだれ込むと。近年でもポール・マッカートニーはこの曲をショウ終盤でよくやりますよね。

 

 締めくくりは大作「A Day In The Life」。先に余談を片付けると、Brian Auger & The Trinityがブライアンの達者なオルガンを中心にしたジャジー・インストをやっていたり(『DEFINITELY WHAT !』(1968)一曲目)、Jeff Beckがライヴでギターメインのインストをやってたり(『LIVE AT BB KING BLUES CLUB』(2003))と、なぜか歌無しヴァージョンがいくつか。あ、StingDEMOLITION MAN』(1993)っていうのに歌モノ・カヴァーがあって(93年イタリアでのライヴ)、割と原曲に忠実ですわ。さてYellow Matter Custardはと……ニールのナイスヴォーカル(ジョン風)で進行し、例のオーケストレーションのところはテープを使って、“♪Woke up, fell out of bed……”のところはポール・ヴォーカルにバトンタッチ。“~got out of bed”って歌ってるけど、ここの歌唱は本家ポールっぽくて良い。マイクとマットはバックに徹してこのシンフォニック大作を完成させます。

 

 やっぱり、聴衆・観衆以上にやってる本人らが楽しんじゃってますなあ。いいけど。

 

 最後にオマケインフォ。イエロー・マター・カスタードはワン・ショットの企画ではなく、後年別作品も出しました、上記の面々からベースがKasim Sulton――Utopiaトッド・ラングレンと一緒に『DEFACE THE MUSIC』を作ったりしてた、マットに負けないビートルマニア……――に交替したラインナップで『ONE MORE NIGHT IN NEW YORK CITY』(2011)っていうのも発表。当然こちらもライヴ、楽曲の重複は一曲も無し。このオタクどもめ……

<完>

どんぱす今日の御膳037

037

The Buggles「Adventures in Modern Recording」(『ADVENTURES IN MODERN RECORDING』1981)

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 「ラジオ・スターの悲劇」が当たり過ぎたThe Buggles――なにしろ、メンバーのGeoff Downesは、Asiaエイジア)時代の「キーボード・ソロ」コーナーでもコレの一節をつま弾いて喝采を浴びてたんだから……――の、ラストアルバム(2作目だけど)。

 私はコッチの方が結構好きでしてね。この前後にTrevor HornとGeoff DownesはYesに出入りしたんですけど、彼らの参加作であったYes『DRAMA』の「Into the Lens」を改作した「I Am A Camera」も、この『ADVENTURES IN MODERN RECORDING』には入ってるし。バンドとしては崩れてて、トレヴァー・ホーンの一人ユニット状態だったとかも言われますが……

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 元気な冒頭曲「Adventures in Modern Recording」も、よく聴くと「Video Killed the Radio Star」と同様に業界観察&皮肉になってるところが彼ららしい。プロデューサーとして名を馳せるホーンが“But he's not playing, he’s not playing, he’s just having adventures in modern recording……”って歌うのなんかもね……

時代の産物を追う?〔続〕(25)

<2019年作品>

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 もうXTCは動かないのかなあ。Andy Partridgeさんはこの作品のみならずいろんな人と協働してたり、ソロ的に作品を出したりしますから、音楽への意欲がまだまだ盛んなんだと思いますが。組む相手によって、ポップなものも出せば、実験的なものも出してきた方ですが、ヒッチコック/パートリッジ(Vo, Instruments)による制作の本作は如何に。

 (4)Robyn Hitchcock/Andy Partridge『PLANET ENGLAND』(UK)

  1. Turn Me On, Deadman
  2. Flight Assistants, Please Prepare For Love
  3. Got My...
  4. Planet England

                     

 タイトルからしてもろにThe Beatlesへの愛情が溢れている「Turn Me On, Deadman」*は、サウンドも後期ビートルズ(サイケ入り)そのもの。アンディはかつてXTCの変名バンドThe Dukes Of Stratosphearでも同様のことをやってましたが、ここではさらに“素直”にオマージュを捧げてます。

 

〔*“Turn Me On, Deadman”というのは、ビートルズ(というかジョン・レノン)屈指の実験的楽曲「Revolution 9」の“♪Number nine, number nine, number nine…….”というリフレインを逆回転再生させると“♪Turn me on, deadman, turn me on, deadman……”と聴こえる、っていう有名なネタでして(Cf「ポール死亡説」)、逆回転だのサブリミナルメッセージだのといったジョーク――だと筆者はとらえてます――が世に蔓延る一因ともなったもの。〕

 

 ロビンがリードを歌ってアンディはバッキングヴォーカルですが、楽曲はThe Dukes Of Stratosphearか後期XTCかという音で、(たぶん)アンディによると思われる意外に深く抉るようなギターリフも力感あり。“♪Turn me on, deadman!”

 

 「Flight Assistants, Please Prepare For Love」も、前の曲と同じくサイケ・ポップ色。ヴォーカルにエフェクトというかエコーが掛かってたり、「ぐにょーん」って音(飛行機を模してるのかな?)が入りまくったり。“♪Believe I’m going down……”

 

 アンディのカウントから入るカントリー・タッチのアコギ歌曲「Got My……」では、アンディも歌います。前2曲のような凝りまくったビートリー・サウンドより、こういう明快なサウンドの方が(いまの時点では)好みですな。彼らのメロディセンスはビートルズ譲りですが、演出をやり過ぎなくても十分楽しいのですから。

 

 跳ねるリズムで躍動的な「Planet England」も、私からするとXTC風味が感じられてよろしいのですが……ぎゃくにこのお二人が作るものは“破綻が無さすぎる”のが気になるくらい。

“♪Waters rise and people scream, close your eyes and people dream, I love to back the losing team, down on Planet England……”

歌の頭にも雷雨のSEがちょっと入り、歌の本編が終わった後にも雨の降る音がしばらく収められているのは、なんでしょうね。(「Black Sabbath」……は関係ないですか。ないでしょうね。ちなみにXTCではコリンさんがBlack Sabbath好きだったみたいです。)

 

 クレジットにある“Recorded in a shed in Swindon, Planet England”というのが、彼らのユーモア(?)をあらわしてるようで微笑ましい……ですが、英国がUKを脱退しちまった今だと強ちジョークでもなくなっちゃいましたかね。

<続く>

どんぱす今日の御膳036

036

CovenBlack Sabbath」(『WITCHCRAFT DESTROYS MINDS & REAPS SOULS』1969)

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 「オズボーン」なんていうメンバーがいるバンドの「Black Sabbath」。英国のBlack Sabbathよりも世に出たのはこっちが先(1969)だったりする。ただし音像はメタル原型というよりは、「サイケ(Psychedelic Rock)」ですね。女性ヴォーカルJinx Dawsonの呪術的歌唱(?)は、西海岸ロック(というかJefferson Airplane)っぽい。

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 このアルバムの最大の聴き所は、実は、10曲目の「Satanic Mass」。13分強にわたる“黒ミサ実況”でございます。“♪Hail Satan !”(!)さらにブックレットの写真も一緒にご覧になると……「何やってんだお主ら」。マジなのかコケオドシなのか?ロックに残る珍品ではありましょう。

 それ以外はちゃんと「曲」でして、いま聴くと時代を感じるフォーキーなサイケ・ロック。ただし「Black Sabbath」の場合ではたとえば、1分28秒辺りから2分04秒の間の魔術風パート(?)はおどろおどろしい。その直後に疾走パートに入って、終盤また呪術を掛けて終わってしまう……アブないナンバーではあった。

 こんな奴らが単発で終わらなかったという1970年代がおそろしい。そして、数年前には魔女ジンクス様がメンバーを集めてCovenを動かし始めたっていうのはもっとおそろしい。

第57回「Yellow Matter Custard」(1)

 「Y」も苦しい。手元にYesがいっぱいあるんですが、以前プログレ記事再掲コーナーで出てきちゃったグループだし、出来れば重複は避けたい。おおそうだ、こんなのがあったな……

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Yellow Matter Custard『ONE NIGHT IN NEW YORK CITY』(2003)

1-1. Intro

1-2. Magical Mystery Tour

1-3. Dear Prudence

1-4. Dig A Pony

1-5. She Said She Said

1-6. I Call Your Name

1-7. You Can't Do That

1-8. When I Get Home

1-9. Nowhere Man

1-10. Rain

1-11. Free As A Bird

1-12. Come Together

1-13. I Am The Walrus

1-14. While My Guitar Gently Weeps

 

2-1. Baby's In Black

2-2. I'll Be Back

2-3. No Reply

2-4. The Night Before

2-5. You're Gonna Lose That Girl

2-6. Ticket To Ride

2-7. Everybody's Got Something To Hide Except For Me And My Monkey

2-8. Oh Darling

2-9. Think For Yourself

2-10. Wait

2-11. Revolution

2-12. I Want You (She's So Heavy)

2-13. You Know My Name (Look Up The Number)

2-14. Lovely Rita

2-15. Good Morning Good Morning

2-16. Sgt. Pepper (Reprise)

2-17. A Day In The Life

 

 ご覧のとおり、The Beatlesのカヴァー・アルバムです。「ビートルズを演る」アイディアっていろいろあって、The Beatles Revival Bandみたいに「そのままやる」のもあれば、Punklesみたいにパンクにする、Beatallicaみたいにメタリカと混ぜる、Todd RundgrenUtopiaみたいにエッセンスを吸収したオリジナルをやる、そしてThe Rutlesのように演奏からイメージから何から英国風ユーモアで包んでパロる……

 ま~あみんな大好きビートルズなんですが、このYellow Matter Custard――もちろん、名曲「I Am The Walrus」の歌詞の一節に由来――は、‟完コピ系”ですね。メタル・プログレ系の腕利きが、原曲愛をブチまける「ライヴ」。自分の本業では一曲5分がデフォルトのポール・ギルバート、10分のマイク・ポートノイ、30分のニール・モーズ――些か誇張有り――が、2分半の曲はきっちり2分半で終えるのがこだわり。あ、メンバー書いとかないと。

 

<メンバー>

 Neal Morse(Key, Gt,Vo)

 Mike Portnoy(Dr, Vo)

 Matt Bissonette(Ba, Vo)

 Paul Gilbert(Gt, Vo)

                                      

 私はCD二枚組を持っておりますが、映像作品も出されてまして、さらには(ここだけの話じゃが)Youtubeなんかでもそれが観られちゃうのだ……映像を観ると、ポールがMC5のシャツ着て出てたりしておもしろい。

 

 さて、一枚ずつ聴こうね。ビートルズ音源をコラージュしたイントロに続いて元気よく始まるのは「Magical Mystery Tour」。本家ビートルズがライヴではやらなかった後期の楽曲から幕を開けるあたりが流石。

 「Dear Prudence」、「Dig A Pony」、「She Said She Said」と続ける選曲センスもきらいじゃない。(私は「ビートルズは断然後期!」派なもので……)こういう「ビートルズが活きてたらこうじゃないの?」は、演ってる連中が一番楽しいんだろうね。 「Dig A Pony」のギターソロなんか、オリジナル通りに(たぶんわざと)たどたどしく弾いてるしさあ。

 人によっては世界初のプログレアルバムとみとめる『REVOLVER』(……すみません、言ってんのは私です)からの「She Said She Said」も良い。この曲は、英国ハードロックLone Star『LONE STAR』(1976)や80年代モッズのThe Chords『SO FAR AWAY』(1980)でもカヴァーされてましたね。前者は大胆なアレンジが施されて大作に変貌、一方の後者は原曲通りながら1.25倍くらい(体感)の速さになってました。そんななか、ポートノイと愉快な仲間たちは、基本に忠実。この曲のあとにメンバー紹介が行われます。

 

 次のセクションは前期の曲シリーズかな。「I Call Your Name」、「You Can’t Do That」、「When I Get Home」と、軽快なロックンロール(風)が続きます。多重ヴォーカルが魅力の「Nowhere Man」をきっちり決めて、中期・後期の橋渡し曲「Rain」に。「Rain」は、サイケがかった演出やらテープ逆回転やらで当時として実験的作風だったんですが、それを人力で完全再現しようというこの連中のマニア振りには恐れ入る。この曲は、ドラマーRingo Starr屈指の名演が楽しめるんですが、カヴァー(ここではコピ―か)してるマイクが誰より楽しそう。あとこの曲というと、The JamPaul Weller)が演奏したカヴァー・ヴァージョン(デモ)をレア曲集で聴いたことがありますな。

 

 で、さらにこの人々が真性のマニアだと思うのは、「Free As A Bird」をもカヴァーしてることですな。「The Beatlesの新作!」(ジョンが遺していた音源に他の3人が演奏を重ねたもの)として一時話題になった曲でありますが、これを律儀にやるという。それも、曲の終わりを「Come Together」にうまいこと繋げて……「Come Together」のようなヘヴィ・ロックンロールは彼らにゃお手のものでしょう。ポールもややアクティヴに弾きまくる。

 

 そして、バンド名の由来となった「I Am The Walrus」が登場。“♪Yellow matter custard, dripping from a dead dog’s eye……”何ちゅう歌詞だろね、さすがはJohn Lennon(とマザー・グース及びルイス・キャロルの啓示)。バンド名が入った箇所なので、ここでニューヨークの聴衆は「ワアー」と声を上げてます。

 この曲はと……そうだ、Spooky Toothのがあった、『LAST PUFF』(1970)に入ってるずるずるヘヴィなヴァージョンをどうぞ。以前プッシュしたHumble PieのGreg Ridley(Ba)のプレイも聴けます。プログレ界隈ではAffinityが1968年に録音してまして(リリースされてなかったみたい、いま『AFFINITY』(1970)のボートラ)、Linda Hoyleが歌うのがあります。あと、Octopusっていうサイケ・ロックバンドによるライヴ演奏(1971年10月)が同『RESTLESS NIGHT The Complete Pop-Psych Sessions』で聴けます。割と同時代から好まれてた曲なのね。どれもこれもヘヴィなオルガンがキモ。

 

 一枚目ラストは「While My Guitar Gently Weeps」。イントロのジョンの掛け声(”Eh, up!”)まで再現する偏執ぶり。楽曲のストラクチャーは崩してませんが、この曲ばかりはポールが自己流のソロを弾きまくりますな。ポピュラー・ミュージックの楽曲で「ギタリストが自己主張する曲」の扉を開いたこの曲のおかげで後世のメタル・ギタリストは好き勝手もとい大活躍ができるわけですから、現代ギタリストの大半はジョージとエリックそしてビートルズに足を向けては寝られまい。

 Todd Rundgrenジョージ・ハリスン・トリビュートの『SONGS FROM THE MATERIAL WORLD : A Tribute To George Harrison(2003)で粘っこいプレイを披露していたり、盲目のギタリストJeff Healeyが持ち曲にしていたり(『THE JEFF HEALEY BAND LIVE AT MONTREUX 1999』)といったこともありますが、やはりビートルズ以後最高の名演は、以前ご紹介したGeorge Harrison『LIVE IN JAPAN』(1992,ジョージ&エリック来日共演版)でしょう。第33回「ライヴ好演集」(4)では「I Want To Tell You」の話しかしてませんが、イントロだけで聴衆が「ウワアー」となる「While My Guitar Gently Weeps」も重要。さらに復習でオリジナルを聴くと、「リンゴのドラミング」の懐の広さに感服させられます……ビートルズの曲っていうのは聴くごとに発見があって堪りませんな。

 

 Yellow Matter Custardのライヴ二枚目については次回で。

<続く>