「Y」も苦しい。手元にYesがいっぱいあるんですが、以前プログレ記事再掲コーナーで出てきちゃったグループだし、出来れば重複は避けたい。おおそうだ、こんなのがあったな……
Yellow Matter Custard『ONE NIGHT IN NEW YORK CITY』(2003)
1-1. Intro
1-2. Magical Mystery Tour
1-3. Dear Prudence
1-4. Dig A Pony
1-5. She Said She Said
1-6. I Call Your Name
1-7. You Can't Do That
1-8. When I Get Home
1-9. Nowhere Man
1-10. Rain
1-11. Free As A Bird
1-12. Come Together
1-13. I Am The Walrus
1-14. While My Guitar Gently Weeps
2-1. Baby's In Black
2-2. I'll Be Back
2-3. No Reply
2-4. The Night Before
2-5. You're Gonna Lose That Girl
2-6. Ticket To Ride
2-7. Everybody's Got Something To Hide Except For Me And My Monkey
2-8. Oh Darling
2-9. Think For Yourself
2-10. Wait
2-11. Revolution
2-12. I Want You (She's So Heavy)
2-13. You Know My Name (Look Up The Number)
2-14. Lovely Rita
2-15. Good Morning Good Morning
2-16. Sgt. Pepper (Reprise)
2-17. A Day In The Life
ご覧のとおり、The Beatlesのカヴァー・アルバムです。「ビートルズを演る」アイディアっていろいろあって、The Beatles Revival Bandみたいに「そのままやる」のもあれば、Punklesみたいにパンクにする、Beatallicaみたいにメタリカと混ぜる、Todd RundgrenのUtopiaみたいにエッセンスを吸収したオリジナルをやる、そしてThe Rutlesのように演奏からイメージから何から英国風ユーモアで包んでパロる……
ま~あみんな大好きビートルズなんですが、このYellow Matter Custard――もちろん、名曲「I Am The Walrus」の歌詞の一節に由来――は、‟完コピ系”ですね。メタル・プログレ系の腕利きが、原曲愛をブチまける「ライヴ」。自分の本業では一曲5分がデフォルトのポール・ギルバート、10分のマイク・ポートノイ、30分のニール・モーズ――些か誇張有り――が、2分半の曲はきっちり2分半で終えるのがこだわり。あ、メンバー書いとかないと。
<メンバー>
Neal Morse(Key, Gt,Vo)
Mike Portnoy(Dr, Vo)
Matt Bissonette(Ba, Vo)
Paul Gilbert(Gt, Vo)
私はCD二枚組を持っておりますが、映像作品も出されてまして、さらには(ここだけの話じゃが)Youtubeなんかでもそれが観られちゃうのだ……映像を観ると、ポールがMC5のシャツ着て出てたりしておもしろい。
さて、一枚ずつ聴こうね。ビートルズ音源をコラージュしたイントロに続いて元気よく始まるのは「Magical Mystery Tour」。本家ビートルズがライヴではやらなかった後期の楽曲から幕を開けるあたりが流石。
「Dear Prudence」、「Dig A Pony」、「She Said She Said」と続ける選曲センスもきらいじゃない。(私は「ビートルズは断然後期!」派なもので……)こういう「ビートルズが活きてたらこうじゃないの?」は、演ってる連中が一番楽しいんだろうね。 「Dig A Pony」のギターソロなんか、オリジナル通りに(たぶんわざと)たどたどしく弾いてるしさあ。
人によっては世界初のプログレアルバムとみとめる『REVOLVER』(……すみません、言ってんのは私です)からの「She Said She Said」も良い。この曲は、英国ハードロックLone Star『LONE STAR』(1976)や80年代モッズのThe Chords『SO FAR AWAY』(1980)でもカヴァーされてましたね。前者は大胆なアレンジが施されて大作に変貌、一方の後者は原曲通りながら1.25倍くらい(体感)の速さになってました。そんななか、ポートノイと愉快な仲間たちは、基本に忠実。この曲のあとにメンバー紹介が行われます。
次のセクションは前期の曲シリーズかな。「I Call Your Name」、「You Can’t Do That」、「When I Get Home」と、軽快なロックンロール(風)が続きます。多重ヴォーカルが魅力の「Nowhere Man」をきっちり決めて、中期・後期の橋渡し曲「Rain」に。「Rain」は、サイケがかった演出やらテープ逆回転やらで当時として実験的作風だったんですが、それを人力で完全再現しようというこの連中のマニア振りには恐れ入る。この曲は、ドラマーRingo Starr屈指の名演が楽しめるんですが、カヴァー(ここではコピ―か)してるマイクが誰より楽しそう。あとこの曲というと、The Jam(Paul Weller)が演奏したカヴァー・ヴァージョン(デモ)をレア曲集で聴いたことがありますな。
で、さらにこの人々が真性のマニアだと思うのは、「Free As A Bird」をもカヴァーしてることですな。「The Beatlesの新作!」(ジョンが遺していた音源に他の3人が演奏を重ねたもの)として一時話題になった曲でありますが、これを律儀にやるという。それも、曲の終わりを「Come Together」にうまいこと繋げて……「Come Together」のようなヘヴィ・ロックンロールは彼らにゃお手のものでしょう。ポールもややアクティヴに弾きまくる。
そして、バンド名の由来となった「I Am The Walrus」が登場。“♪Yellow matter custard, dripping from a dead dog’s eye……”何ちゅう歌詞だろね、さすがはJohn Lennon(とマザー・グース及びルイス・キャロルの啓示)。バンド名が入った箇所なので、ここでニューヨークの聴衆は「ワアー」と声を上げてます。
この曲はと……そうだ、Spooky Toothのがあった、『LAST PUFF』(1970)に入ってるずるずるヘヴィなヴァージョンをどうぞ。以前プッシュしたHumble PieのGreg Ridley(Ba)のプレイも聴けます。プログレ界隈ではAffinityが1968年に録音してまして(リリースされてなかったみたい、いま『AFFINITY』(1970)のボートラ)、Linda Hoyleが歌うのがあります。あと、Octopusっていうサイケ・ロックバンドによるライヴ演奏(1971年10月)が同『RESTLESS NIGHT The Complete Pop-Psych Sessions』で聴けます。割と同時代から好まれてた曲なのね。どれもこれもヘヴィなオルガンがキモ。
一枚目ラストは「While My Guitar Gently Weeps」。イントロのジョンの掛け声(”Eh, up!”)まで再現する偏執ぶり。楽曲のストラクチャーは崩してませんが、この曲ばかりはポールが自己流のソロを弾きまくりますな。ポピュラー・ミュージックの楽曲で「ギタリストが自己主張する曲」の扉を開いたこの曲のおかげで後世のメタル・ギタリストは好き勝手もとい大活躍ができるわけですから、現代ギタリストの大半はジョージとエリックそしてビートルズに足を向けては寝られまい。
Todd Rundgrenがジョージ・ハリスン・トリビュートの『SONGS FROM THE MATERIAL WORLD : A Tribute To George Harrison』(2003)で粘っこいプレイを披露していたり、盲目のギタリストJeff Healeyが持ち曲にしていたり(『THE JEFF HEALEY BAND LIVE AT MONTREUX 1999』)といったこともありますが、やはりビートルズ以後最高の名演は、以前ご紹介したGeorge Harrison『LIVE IN JAPAN』(1992,ジョージ&エリック来日共演版)でしょう。第33回「ライヴ好演集」(4)では「I Want To Tell You」の話しかしてませんが、イントロだけで聴衆が「ウワアー」となる「While My Guitar Gently Weeps」も重要。さらに復習でオリジナルを聴くと、「リンゴのドラミング」の懐の広さに感服させられます……ビートルズの曲っていうのは聴くごとに発見があって堪りませんな。
Yellow Matter Custardのライヴ二枚目については次回で。
<続く>