次の「Gemini」は彼らにしては珍しいアップテンポのナンバー、Steve Hammond作。これに先立ってEric Burdon & The Animals――当ブログ命名の由来となったバンド也――のアルバム『LOVE IS』(1968)で取り上げられています。(ちなみにそちらでは、ギターにAndy Summersが参加してるのね。)こちらのヴァージョンはハード・プログレ色が全開で、間奏のオルガンとドラム・フィルの絡みなんかもう最高。いやあ、Quatermassの三人も巧者揃いだが、Steve Hammondってえ人の作曲力にも脱帽だわな。
次もハモンド作品、「Make Up Your Mind」。ベースがバキバキ言ってるけど、歌メロは物凄くキャッチー。と思ったら1分40秒くらいで終わっちゃった?……ちがう、怪しげなプログレ・パートが大展開し出したわ。ELPの「Tarkus」じゃないけど、なんかああいう物々しい感じね。Peteの鍵盤は多彩多様だし、Johnのベースも変幻自在、もちろんMickの質実剛健ドラムの上でね。お、8分15秒から冒頭のような爽快な歌パートに戻ったぞ。シンフォニックに締めくくったね。
と、些か疲れながらも再生を続けると、次もPete Robinsonによる超大作「Laughing Tackle」。ピート自身のアレンジによるストリングスも大フィーチュア。「クラシックを昇華できるのはJon Lordだけじゃないぜ!」ってとこかな。この曲の(ドラム的な)聴き所は、4分25秒辺りからの「ドラム・ソロ」セクション。5分50秒からはこんどはベースとクラヴィネットが不穏な雰囲気を醸し出す。しかもそこへ、ELO(Electric Light Orchestra)のファーストかThe Beatlesの「A Day in the Life」かっていうような「重いストリングス」が追加。切り替わってジャジーなワルツ風リズムが執拗に繰り返される上へも同様に。インストゥルメンタルの壮大な、実験的な(真にプログレ)曲でしたな。最後の「Entropy(Reprise)」につながって行って、おしまい。
おっかなびっくり再生ボタンを押すと、予想に反して力感あるスピードナンバーが飛び出しました。“♪The battle has not yet begun, we’ll tear out the hearts of all those suppress us……”なんていう歌詞が登場する、珍しく戦闘的な「Army of One」。Mike Dimeoの歌唱は、この類型の楽曲については史上最良ではないでしょうかね。彼は超ハイトーン・ヴォーカリストではありませんが、抑揚をつけた歌いこなしを披露してます。
次に、新ドラマーのFrank Gilchriestですが、この人もなかなか達者なプレイを繰り出します。勢いを活かすべき時は軽快に、タメを効かすべき時は重厚にっていう、ヘヴィメタルというよりはハードロックの美学が身についてる感じ。この人は楽譜の読み書きができるとかで(たしか)、Riotの複雑な楽曲――ボビーさんのせいですな……――も自分で研究の上会得したんじゃなかったですかね。(最近出たRiot Vのライヴ盤『LIVE IN JAPAN 2018』でもその成果が聴けます。)Pete Perezのベースとの相性もよさそう。ギターはもう言うまでもなし、名人芸の世界で――私は‟Mark Realeを人間国宝に認定しろ“とかねて申し上げてます――ありますが、この曲では「ソロ」のところでテンポを落とし、ワウを効かせたフレージングを多用してるのが面白い。
てっきり、前作『THROUGH THE STORM』のようなハードロック路線に進むのかと思っていたら、メタリックに攻めてきたのでびっくりしましたね。「音」のほうは、プロデュースとエンジニアリング・ミキシングにBruno Ravelが参画しているので安心の高品質。Brunoは、本作ではキーボードとバッキング・ヴォーカルでも助力してますし、Tony Harnellもこれまで同様バッキング・ヴォーカルで協力。Westworldの仲間が好サポートしてくれてて嬉しい限り。
さて2曲目「Knockin’ at My Door」は面白い曲。こういうリズムパターンてあんまりなかったんじゃないかな。‟四角いシャッフル“っていうか、スクエアなのに弾んでるの(?)。フランクさんのバスドラワークが心地好い。ヴァースのところは抑え気味にうたっといて、“♪You see what you wanna see……”のところから一気に開放的になる歌の展開も素敵だ。ギターソロ前半は割とブルージーな弾きのコンテストなんですが、後半でお家芸のメロディアスなツイン・プレイに自然にリンク。曲終盤でかぶさってくる鍵盤もさり気なくていい感じだし、フランクのライド打ちがまたいいのだ。個人的にかなり好きな曲ですな。
次の「Blinded」はディメオさん時代Riot流の正統楽曲。ブリッジからコーラスのところの展開と、歌メロの感じは「いかにも」。続く「One More Alibi」がかつての「Soldier」風のリフを持つこともあってか、この辺は懐かしさを感じさせますかね。ただ、後者などやはりコーラスのところの開放感は従来作以上で――Westworldでの探究が活かされたと言ったら穿ち過ぎですか?――あります。“♪I’ll give you, another piece of time to tell you”なんていうあたりはグッときます。ディメオさんの表現力というか説得力は見事。
「It All Falls Down」の、銃を連射するみたいなリフの畳みかけは、Riotにはちょいと珍しい。コーラスにあたる部分のリズムパターンも16分のバスドラと4分のベースの組み合わせによる些かヘヴィなものですが、その上の歌はメロディアスなのがRiot流です。ギターソロの一部に耳を凝らすと、マーク・リアリの運指の癖が出てきたりしてホッとしたりね。
6曲目は器楽+ギターソロから始まる「Helpin’ Hand」。抑え目のテンポでヘヴィに迫るのかと思いきや、コーラスのところでは『THE BRETHREN OF THE LONG HOUSE』あたりで完成の域に達した美旋律バラードみたいな歌い上げが聴けたりするから、油断ならない。ギターソロも、名人芸の劇的ヴィブラートがこれでもかと繰り出されるのであった。Riotはいつもおんなじような曲ばかり書いてると思ったら大間違いですよ。
次の「Alive in the City」には、Andy Aledortという方がセカンド・ギターソロでゲスト参加していますね。ギター雑誌で執筆・編集したり、ギター教則の作品を多く出したりしている方のようです。楽曲は、スライド・ギターをフィーチュアしたイントロから始まる、ちょっとだけ「Outlaw」っぽいというかウェスタン趣味を感じさせる曲。シンプルなリフで引っ張る感じなんですが、メタル的でないテイストが面白く、聴き入っちゃうと7分過ぎちゃう。スライドの名手と思しきアンディさんに触発されたのかどうか、マーク(だよね?)のソロもスライド・プレイ全開で興味深い。「マーク・リアリっていう人はギタリストとして過小評価されている」っていうのは全世界のRiotファンの共通認識だと思うけど、この曲なんかを聴くとホントにそう思いますわ。
インストゥルメンタルの「Stained Mirror」は、まずアコースティックギター+キーボードをバックに、エレクトリック・ギターがソロでメロディを奏でます。「Inishmore」や「Isle of Shadows」の路線ですか。終盤というか後奏がやや長めで、そこからの余韻とクロスしながら次曲が始まります。アルバムを締めくくる「Darker Side of Light」、オーソドックスなロッキング・ソング。特に走りもしない、捻りの少ない8ビートの楽曲をきっちり仕上げるのがハードロック時代の地力あるバンドの力量でしょう。フランクとピートの技がほのかにスリルを加味し、一方でディメオさんが朗々たる歌を――重た目の歌詞を載せて――歌う。いかにも真面目な曲だ。
最後はボーナストラックで、1998年の川崎でのライヴ音源。ライヴアルバム『SHINE ON』を録音したのと同時期のもののはず、従ってドラマーはBobby Jarzombekさんです。曲自体が名曲なのはいうまでもないからいいとして、Guyの曲を歌うMikeというのが新鮮ですよね。合ってるかはさておき……。この曲はマーク・リアリのロングソロが聴けるわけですが、その後のパートがここでは比較的尺の長いベースソロ(ピートさん)。次いで、マイク・ディメオの煽りによる聴衆とのコール&レスポンス。再びギターソロ(掛け合い)に突入して、最後は「Killer」(『THE PRIVILEGE OF POWER』)のソロ末尾のフレーズを合奏して終わり。
「ガイに初めて会ったのは1975年の夏。カヴァーバンドで歌ってたガイを観た時、“彼と一緒にやれればきっとうまくいくぞ”と思った。じっさい、色んな困難があったけど乗り越えて、Riotは多くのファンを獲得できた。81年の末頃、ガイは家族と暮らすことを選択してバンドを去った。94年には久しぶりに再会し、歌のアイディアを交換したりして「リユニオン」の話もしたりしたんだが、結局実現しなかった。……2004年11月に彼は亡くなってしまったんだ。それを聴いたときは信じられなかったし、自分の青春の一部が失われてしまったと感じた(I felt another piece of my youth was gone.)。ガイは控え目なやつで、尊大なところなんて全然なかった。そして、非常に才能豊かで、唯一無二の声を持ってた。彼が亡くなって本当に悲しい。この作品を、旧友の記憶と遺産に捧げたい。云々」(大意)
冒頭の「Entropy」はPete作・演奏の浮遊感ある鍵盤インスト。そこから、ピコピコ(?)効果音的な音が鳴ったかと思うと、くだんの名曲「Black Sheep of the Family」に突入。Peteのオルガンさばきのお陰で、プログレ風味もあり。「ロックンロール動物園」のところで書きましたが、オリジナルのソウルフルなChris Farlowe版やロニー&リッチーによるRainbow版より「このヴァージョン」が“ブリティッシュ・ハード”って感じで好きなんですよね、わたし。1分50秒からの転調するところも、派手ではないですが得難い面白さ。
「Post War Saturday Echo」っていうのは、オルガンがシンフォニックなフレーズを奏でるところから幕を開ける大作。第2のパートは、静謐でスロウなバッキングの上、ジョンの歌が遠目に響く。3分20秒辺りから器楽のヴォリュームが上がり、跳ねるようなリズム(ワルツ調?)を繰り出してきます。4分30秒辺りからの間奏部分では、Peteがピアノにスイッチ、ジャジーな味わい増幅。5分45秒辺りからはオルガンをバックに歌いあげられていき、6分40秒辺りで第3の(?)パートへ。またテンポが変わり、旧いコンピュータゲームのような音を鍵盤がピコピコ発する裏では、ベースとドラムが変拍子を支える。6分40秒からまたしても「ワルツ風+遠い歌」に戻り、スロウ・ジャズ調に終わ……るのかと思いきや、ラストだけはELPみたいになったね。
John作の「Good Lord Knows」は、Peteの鍵盤(チェンバロ風?)をバックにジョンが歌い、ストリングスが加わってくる厳かな曲。
ジョンの作曲の幅ってすごいね。聖歌のような4曲目のあとに、トリオの本領発揮のハードナンバー「Up On The Ground」が続くんですが、これも彼の作。オルガンの活躍具合い、ヘヴィなリズム、張りのある歌……ELPというより初期Uriah HeepとかAtomic Roosterと共通する味がありますな。それと、Johnは歌もうまいけど、ベースの腕も凄いです。のちにIan Gillan Bandなんかでも名演を残してくれますがね。
まずは、ジャケットを見ますか。まさに「through the storm」な写真が表紙となっていますが、これは(確かテキサスで)Mark Reale自身が撮影していたピクチャーを利用したものなんだそうです。マスコットのアザラシのジョニー君が姿を隠しまして、些かシリアスな感じにもなっていますが、私はこういうのもいいと思いました。
冒頭の「Turn the Tables」は、私の記憶が確かならば、アルバムがリリースされる前に前倒しでネット上に公開されてたハズ。で、私はこの曲が凄い好きなんですわ。Riotの新曲に飢えてるときに聴いたから、っていうこともありますが……お得意のリフにナチュラルな疾走感、情感表現のコントロールをマスターしたシンガーによる歌唱、両ギタリストの魅力を余すところなく繰り出すギターソロ……いう事なしでした。(前作との対比でいうと、Peteのベースがややおとなしいかもしれませんがね。)曲終盤で歌に絡むギターも彼ら独自の味わい――「Warrior」から一貫して失われない持ち味。Reale/Dimeo/Flyntz作品。
Mike Dimeo期Riotの代表作となってもおかしくなかったのですが……フォローアップするツアーがうまくまわらなかったためか、ステージで披露される機会が逸されてしまい、埋もれた名曲になっちゃいました。
次は、Riotには割と珍しい16分のリズム刻みで突進する「Lost Inside This World」。Bメロからトニー・ハーネルのバックアップも受けて歌い上げるディメオ歌唱、捻りなしで得意のスケールを奏でるMark Realeのギター、高低を巧みに織り合わせるMike Flyntzのソロ……とこれまた聴き所いっぱい。終盤フェイドアウトしながらのところで弾かれるギター・フレーズまで美味しい。
「Chains(Revolving)」は、やはり前曲同様Reale/Dimeo作。こちらはグッとヘヴィなナンバー。Bメロ部分のロンディネリ・ドラミングのライドシンバルが心地好い。その後の“♪Let it out, the chains revolving in my mind……”云々のサビも耳に残ります。ここまでの3曲が3曲とも異なる味わいなのは個人的に好印象。『NIGHTBREAKER』以来のアルバムでは、似た曲が続くことが少なくなかったですからね……
タイトルトラック「Through the Storm」は6分超えの大作。落ち着いたテンポの8ビートなんですが、ピートのベースは(音量こそ小さめですが)活発に動いてます。キーボードが割と活用されていること、リード・ヴォーカルの歌い上げが活かせる曲想であることから、マイク・ディメオさん大活躍の曲でもありますかな。ギターソロは、速弾き抑え目。むしろ終盤の歌に絡むギターがマークの必殺技で、エモーショナル。この曲、マークのお気に入りなのでしょうか、2005年の来日公演で本作からはこれが選ばれました。(個人的には「Turn the Tables」も観たかったんですが……。)
「Let It Show」は、ディメオ得意のバラード。物悲し気なヴァースから、やや開放的なコーラスへの展開、ギターソロを経ての転調など、ツボをおさえた作り。ギターも徹頭徹尾情感表現優先、泣きのギターを弾かせたら天下無双のリアリ先生の粘っこいプレイが聴けます。強いて言えば、全編にまぶさるキーボードの音色(ストリングス調)がやや単調でチープに感じられるかなあ。
ややまったりしてきたところで疾走ナンバー「Burn the Sun」が登場。Reale/Dimeo/Flyntz作品です。ドラマーの個性もあるのか、パワーメタルにはならず、レインボー風味になってますかね。“♪Fire from the sky, fury from above……”に始まるコーラス部分の詞はメロディによくマッチしていて聴きやすい。奇をてらった部分の無い楽曲ですが、ギターソロ後半の二本の絡み(2分45秒辺りとか)は耳を引きます。
次がRiotには珍しいタイプの、厚めのサビをもつナンバー「To My Head」。“♪It goes right back to my head.......”っていうところね。やはりミドルテンポの「Little Miss Death」(『THE PRIVILEGE OF POWER』)なんかがちょっと近いでしょうか?決して派手ではないんですが、拍の表や裏を巧みに強調して表現するボビー・ロンディネリさんのドラムが見事。
次に来るのがUFOの「Only You Can Rock Me」のカヴァー。マーク達はUFOやThin Lizzyなんかが大好物ですから、演奏には難なし。無難すぎるくらい。キーボードは、Westworldでマークと協働したIce AgeのメンバーJosh Pincusが弾いてます。(Josh Pincusさんについては、第41回「Ice Age」(1)をご参照。)ディメオ歌唱もあってるんじゃないかな。トニー・ムーアやガイ・スペランザでは違和感があったでしょう。
アルバム本編最後は、『INISHMORE』の「Inishmore」を思わせるインストゥルメンタル「Isle of Shadows」。ディメオのキーボード、ゲストによるヴァイオリンや笛もフィーチュアされてます。ギターが鳴りながらフェイドアウト。
ボーナス的に――ボートラではないのですが――入っているのが、「Here Comes The Sun」、もちろんThe Beatlesのあの名曲です。マークが(たぶん)プロデューサーと会話するところから始まります。原曲は歌がありますが、ここではアコースティック・ギター+オーケストレーション(おそらく鍵盤)でインストになっています。これは、ビートルズというよりは2001年11月に亡くなったGeorge Harrisonへのトリビュート。マーク・リアリ(1955年生まれ)は、同世代の多くのミュージシャンがそうであったように、1964年のThe Beatles訪米をテレビ(エド・サリヴァン・ショウ)で観てしまい、「僕もこうなりたい!」と思ったんだそうです。マークのビートルズ好きはドン・ヴァン・スタヴァンさんなどが証言されていますよね。マークのギタープレイ・コンポジションの「メロディ」の側面はビートルズやジョージから学んだものだったのかもしれないと思うと、興味深いですね。
7曲目の「Woman in Love」は、スロウテンポのバラードかな。ハードヒットしないミックさんが影薄い……とか思ってたら、そうでもなかった、後半にかけてのダイナミズムの演出はさすがヴェテラン。機械じゃない人力ドラムはこういうところが最高だよね。ねっ!ただ、アルバム的にはやや似通ったテンポが続くかな。
そこで次の「Hit and Run」はちょっと雰囲気を変えてきた。直線的に押すリズムと、メジャー調のブルーズロック風ギターリフが力感をもたらす。ゲイリーのギターソロもいろんなフレーズの組み合わせが天晴れ。