DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第49回「Quatermass Ⅱ」(4)

 本家Quatermassの唯一作、続きです。

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Quatermass『QUATERMASS』(1970)

  1. Entropy
  2. Black Sheep of the Family
  3. Post War Saturday Echo
  4. Good Lord Knows
  5. Up on the Ground
  6. Gemini
  7. Make up Your Mind
  8. Laughin Tackle
  9. Entropy(Reprise)
  10. One Blind Mice [bonus]
  11. Punting [bonus]

<メンバー>

Pete Robinson(Key)

John Gustafson(Ba, Vo)

Mick Underwood(Dr)

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 次の「Gemini」は彼らにしては珍しいアップテンポのナンバー、Steve Hammond作。これに先立ってEric Burdon & The Animals――当ブログ命名の由来となったバンド也――のアルバム『LOVE IS』(1968)で取り上げられています。(ちなみにそちらでは、ギターにAndy Summersが参加してるのね。)こちらのヴァージョンはハード・プログレ色が全開で、間奏のオルガンとドラム・フィルの絡みなんかもう最高。いやあ、Quatermassの三人も巧者揃いだが、Steve Hammondってえ人の作曲力にも脱帽だわな。

 

 次もハモンド作品、「Make Up Your Mind」。ベースがバキバキ言ってるけど、歌メロは物凄くキャッチー。と思ったら1分40秒くらいで終わっちゃった?……ちがう、怪しげなプログレ・パートが大展開し出したわ。ELPの「Tarkus」じゃないけど、なんかああいう物々しい感じね。Peteの鍵盤は多彩多様だし、Johnのベースも変幻自在、もちろんMickの質実剛健ドラムの上でね。お、8分15秒から冒頭のような爽快な歌パートに戻ったぞ。シンフォニックに締めくくったね。

 

 と、些か疲れながらも再生を続けると、次もPete Robinsonによる超大作「Laughing Tackle」。ピート自身のアレンジによるストリングスも大フィーチュア。「クラシックを昇華できるのはJon Lordだけじゃないぜ!」ってとこかな。この曲の(ドラム的な)聴き所は、4分25秒辺りからの「ドラム・ソロ」セクション。5分50秒からはこんどはベースとクラヴィネットが不穏な雰囲気を醸し出す。しかもそこへ、ELO(Electric Light OrchestraのファーストかThe Beatlesの「A Day in the Life」かっていうような「重いストリングス」が追加。切り替わってジャジーなワルツ風リズムが執拗に繰り返される上へも同様に。インストゥルメンタルの壮大な、実験的な(真にプログレ)曲でしたな。最後の「Entropy(Reprise)」につながって行って、おしまい。

 

 やっぱり、ハードロックというよりプログレとか「アートロック」と言った方がいいのかな。私の持ってる再発CDボーナスの「One Blind Mice」(元はシングルナンバー)は、3分ちょっとのハード・ナンバー(三人共作)ですけどね。もう一つのボーナス「Punting」(三人共作)はそのB面だったというインスト。ジャム・セッションを録ったっぽい構成と音像だけど、ミックのヘヴィで安定したドラミングがピートの奇天烈フレーズとジョンのメロディアスベースを包み込んでいますなあ。

 

 といいわけで、名作は人にあることないこと語らせる力を持っています。『QUATERMASS』は数年前にボーナスディスク付きの再発盤が出てましたので、探しやすいかと思います。(私はボーっとしてたら逃したんで、相変わらず1996年再発のヴァージョンを聴いていますがね。)Rainbowのファーストが好きな人、ELPAtomic Roosterが好きな人、変な人力(じんりき)ロックが好きな人には、お勧めです。

<完>

Riot特集:時系列全作品紹介(13)『ARMY OF ONE』

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Riot『ARMY OF ONE』2006

  1. Army of One
  2. Knockin’ at My Door
  3. Blinded
  4. One More Alibi
  5. It All Falls Down
  6. Helpin’ Hand
  7. The Mystic
  8. Still Alive
  9. Alive in the City
  10. Shine
  11. Stained Mirror
  12. Darker Side of Light
  13. Road Racin’(live)[bonus]

<メンバー>

Mark Reale(Gt)

Mike Flyntz(Gt)

Pete Perez(Ba)

Mike Dimeo(Vo)

Frank Gilchriest (Dr)

 

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 2005年9月の来日を経ての新作。正直なところ期待と不安が半々だったように記憶します。来日はMike Tirelliが歌ったが正式ヴォーカルはMike Dimeoのままだ、という説明もよくわからなかったし。こんな風にシンガーの座が不安定な状態でどうやって作品をまとめるのだろうか?それに、ニュー・ドラマーの腕前は?……

 

 おっかなびっくり再生ボタンを押すと、予想に反して力感あるスピードナンバーが飛び出しました。“♪The battle has not yet begun, we’ll tear out the hearts of all those suppress us……”なんていう歌詞が登場する、珍しく戦闘的な「Army of One」。Mike Dimeoの歌唱は、この類型の楽曲については史上最良ではないでしょうかね。彼は超ハイトーン・ヴォーカリストではありませんが、抑揚をつけた歌いこなしを披露してます。

 

 次に、新ドラマーのFrank Gilchriestですが、この人もなかなか達者なプレイを繰り出します。勢いを活かすべき時は軽快に、タメを効かすべき時は重厚にっていう、ヘヴィメタルというよりはハードロックの美学が身についてる感じ。この人は楽譜の読み書きができるとかで(たしか)、Riotの複雑な楽曲――ボビーさんのせいですな……――も自分で研究の上会得したんじゃなかったですかね。(最近出たRiot Vのライヴ盤『LIVE IN JAPAN 2018』でもその成果が聴けます。)Pete Perezのベースとの相性もよさそう。ギターはもう言うまでもなし、名人芸の世界で――私は‟Mark Realeを人間国宝に認定しろ“とかねて申し上げてます――ありますが、この曲では「ソロ」のところでテンポを落とし、ワウを効かせたフレージングを多用してるのが面白い。

 

 てっきり、前作『THROUGH THE STORM』のようなハードロック路線に進むのかと思っていたら、メタリックに攻めてきたのでびっくりしましたね。「音」のほうは、プロデュースとエンジニアリング・ミキシングにBruno Ravelが参画しているので安心の高品質。Brunoは、本作ではキーボードとバッキング・ヴォーカルでも助力してますし、Tony Harnellもこれまで同様バッキング・ヴォーカルで協力。Westworldの仲間が好サポートしてくれてて嬉しい限り。

 

 さて2曲目「Knockin’ at My Door」は面白い曲。こういうリズムパターンてあんまりなかったんじゃないかな。‟四角いシャッフル“っていうか、スクエアなのに弾んでるの(?)。フランクさんのバスドラワークが心地好い。ヴァースのところは抑え気味にうたっといて、“♪You see what you wanna see……”のところから一気に開放的になる歌の展開も素敵だ。ギターソロ前半は割とブルージーな弾きのコンテストなんですが、後半でお家芸のメロディアスなツイン・プレイに自然にリンク。曲終盤でかぶさってくる鍵盤もさり気なくていい感じだし、フランクのライド打ちがまたいいのだ。個人的にかなり好きな曲ですな。

 

 次の「Blinded」はディメオさん時代Riot流の正統楽曲。ブリッジからコーラスのところの展開と、歌メロの感じは「いかにも」。続く「One More Alibi」がかつての「Soldier」風のリフを持つこともあってか、この辺は懐かしさを感じさせますかね。ただ、後者などやはりコーラスのところの開放感は従来作以上で――Westworldでの探究が活かされたと言ったら穿ち過ぎですか?――あります。“♪I’ll give you, another piece of time to tell you”なんていうあたりはグッときます。ディメオさんの表現力というか説得力は見事。

 

 「It All Falls Down」の、銃を連射するみたいなリフの畳みかけは、Riotにはちょいと珍しい。コーラスにあたる部分のリズムパターンも16分のバスドラと4分のベースの組み合わせによる些かヘヴィなものですが、その上の歌はメロディアスなのがRiot流です。ギターソロの一部に耳を凝らすと、マーク・リアリの運指の癖が出てきたりしてホッとしたりね。

 

 6曲目は器楽+ギターソロから始まる「Helpin’ Hand」。抑え目のテンポでヘヴィに迫るのかと思いきや、コーラスのところでは『THE BRETHREN OF THE LONG HOUSE』あたりで完成の域に達した美旋律バラードみたいな歌い上げが聴けたりするから、油断ならない。ギターソロも、名人芸の劇的ヴィブラートがこれでもかと繰り出されるのであった。Riotはいつもおんなじような曲ばかり書いてると思ったら大間違いですよ。

 

 なんていいながら、次の「The Mystic」は明らかに「Thundersteel」や「Dragonfire」を踏まえたお約束のスピードナンバーなんだけどさ。むかし(アルバムを買った当初)はこちらもメロパワとかが大好物だったのでこの曲なんかに反応してたんですが、いまアルバムを通して聴くと、これなんかはオマケになりますね(極論すればね)。ギターソロに関して、速いパッセージの引き出しはMike Flyntzの方が多彩なんだなあと思ったりしますが……いつものパターンだとわかってても彼らのツイン・フレージングにはやられてしまうなあ。楽曲の尺が少し長いです。

 

 うってかわってヘヴィなリズムで進む「Still Alive」は、Riotらしくはないけど、イイですな。フランクの太鼓と金物の繰り出し方が巧みなのが、ピートのテクニカル・ベースとうまく調和。ソロ前半のパートはリアリ色全開で、そこから研究熱心なフリンツに引き継ぎ。こういう曲だと歌がダレがちにもなりますが、いまやヴェテランの域のディメオさん、間投詞“♪Oh~/yeah~”こそやや多いものの、テンションを保って歌いきってくれます。

 

 次の「Alive in the City」には、Andy Aledortという方がセカンド・ギターソロでゲスト参加していますね。ギター雑誌で執筆・編集したり、ギター教則の作品を多く出したりしている方のようです。楽曲は、スライド・ギターをフィーチュアしたイントロから始まる、ちょっとだけ「Outlaw」っぽいというかウェスタン趣味を感じさせる曲。シンプルなリフで引っ張る感じなんですが、メタル的でないテイストが面白く、聴き入っちゃうと7分過ぎちゃう。スライドの名手と思しきアンディさんに触発されたのかどうか、マーク(だよね?)のソロもスライド・プレイ全開で興味深い。「マーク・リアリっていう人はギタリストとして過小評価されている」っていうのは全世界のRiotファンの共通認識だと思うけど、この曲なんかを聴くとホントにそう思いますわ。

 

 些か勿体ぶった始まり方をする10曲目「Shine」は、実は疾走曲なのでした。おお、これなんかは従来楽曲焼き直し感のあまりない、創意の感じられるナンバーじゃないですか。メリハリの効いた展開、強度のあるバッキングに負けないタフなヴォーカル、終盤に掛かるほのかなストリングスの味わい……ステージで再現はしにくそうだけど、Riotはまだまだ進歩するぜ!っていう気概に溢れてると思いますね。

 

 インストゥルメンタルの「Stained Mirror」は、まずアコースティックギター+キーボードをバックに、エレクトリック・ギターがソロでメロディを奏でます。「Inishmore」や「Isle of Shadows」の路線ですか。終盤というか後奏がやや長めで、そこからの余韻とクロスしながら次曲が始まります。アルバムを締めくくる「Darker Side of Light」、オーソドックスなロッキング・ソング。特に走りもしない、捻りの少ない8ビートの楽曲をきっちり仕上げるのがハードロック時代の地力あるバンドの力量でしょう。フランクとピートの技がほのかにスリルを加味し、一方でディメオさんが朗々たる歌を――重た目の歌詞を載せて――歌う。いかにも真面目な曲だ。

 

 最後はボーナストラックで、1998年の川崎でのライヴ音源。ライヴアルバム『SHINE ON』を録音したのと同時期のもののはず、従ってドラマーはBobby Jarzombekさんです。曲自体が名曲なのはいうまでもないからいいとして、Guyの曲を歌うMikeというのが新鮮ですよね。合ってるかはさておき……。この曲はマーク・リアリのロングソロが聴けるわけですが、その後のパートがここでは比較的尺の長いベースソロ(ピートさん)。次いで、マイク・ディメオの煽りによる聴衆とのコール&レスポンス。再びギターソロ(掛け合い)に突入して、最後は「Killer」(『THE PRIVILEGE OF POWER』)のソロ末尾のフレーズを合奏して終わり。

 

 なお、アルバムの内側(ジャケット)には、Riotの初代ヴォーカルであったGuy Speranzaの写真と、彼の思い出を語るマークの文章が載っていました。

 

「ガイに初めて会ったのは1975年の夏。カヴァーバンドで歌ってたガイを観た時、“彼と一緒にやれればきっとうまくいくぞ”と思った。じっさい、色んな困難があったけど乗り越えて、Riotは多くのファンを獲得できた。81年の末頃、ガイは家族と暮らすことを選択してバンドを去った。94年には久しぶりに再会し、歌のアイディアを交換したりして「リユニオン」の話もしたりしたんだが、結局実現しなかった。……2004年11月に彼は亡くなってしまったんだ。それを聴いたときは信じられなかったし、自分の青春の一部が失われてしまったと感じた(I felt another piece of my youth was gone.)。ガイは控え目なやつで、尊大なところなんて全然なかった。そして、非常に才能豊かで、唯一無二の声を持ってた。彼が亡くなって本当に悲しい。この作品を、旧友の記憶と遺産に捧げたい。云々」(大意)

 

 前作ではGeorge Harrisonへの追悼を述べていましたが、こんどは同世代の友達・仲間を送らねばならなくなったというのはつらかったのではないでしょうか。そんな中でもこれだけの力作――過去の焼き直しに終わってないという点わたしはすごくいいと思うんですけど――を仕上げたんですから、マーク・リアリと仲間たちはやはり立派な「音楽の僕」ですよね。

第49回「Quatermass Ⅱ」(3)

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<関連作品>

 やっぱり、本家の話もしとかないとまずいやね。Quatermass(Ⅱじゃないオリジナルのほう)は、1970年に唯一のアルバムを残している英国ハードロックの名グループ。メンバーはPete Robinson(Key)+John Gustafson(Ba, Vo)+Mick Underwood(Dr)。さよう、ギタリストはおりません。編成だけだとEmerson, Lake & Palmerと同じですが、こちらはハード・ヘヴィなロックファンの支持が厚い。なんといっても、「Black Sheep of the Family」が――正確には彼らのオリジナルではなくて、PeteのChris Farloweバンドでの元同僚Steve Hammondの作品なんですけど――Rithcie Blackmore’s Rainbowにカヴァーされたことが大きい。ヘヴィなリズムに浮遊感もある鍵盤フレーズが重なり、キャッチーでパワフルな歌が乗っかる、という名作ですね。

 

 アルバム『QUATERMASS』には、この曲以外にも個性的なハードロックが数々収められていて、楽しめるのでございます。

 

Quatermass『QUATERMASS』(1970)

  1. Entropy
  2. Black Sheep of the Family
  3. Post War Saturday Echo
  4. Good Lord Knows
  5. Up on the Ground
  6. Gemini
  7. Make up Your Mind
  8. Laughin Tackle
  9. Entropy(Reprise)
  10. One Blind Mice [bonus]
  11. Punting [bonus]

<メンバー>

Pete Robinson(Key)

John Gustafson(Ba, Vo)

Mick Underwood(Dr)

 

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 冒頭の「Entropy」はPete作・演奏の浮遊感ある鍵盤インスト。そこから、ピコピコ(?)効果音的な音が鳴ったかと思うと、くだんの名曲「Black Sheep of the Family」に突入。Peteのオルガンさばきのお陰で、プログレ風味もあり。「ロックンロール動物園」のところで書きましたが、オリジナルのソウルフルなChris Farlowe版やロニー&リッチーによるRainbow版より「このヴァージョン」が“ブリティッシュ・ハード”って感じで好きなんですよね、わたし。1分50秒からの転調するところも、派手ではないですが得難い面白さ。

 

 「Post War Saturday Echo」っていうのは、オルガンがシンフォニックなフレーズを奏でるところから幕を開ける大作。第2のパートは、静謐でスロウなバッキングの上、ジョンの歌が遠目に響く。3分20秒辺りから器楽のヴォリュームが上がり、跳ねるようなリズム(ワルツ調?)を繰り出してきます。4分30秒辺りからの間奏部分では、Peteがピアノにスイッチ、ジャジーな味わい増幅。5分45秒辺りからはオルガンをバックに歌いあげられていき、6分40秒辺りで第3の(?)パートへ。またテンポが変わり、旧いコンピュータゲームのような音を鍵盤がピコピコ発する裏では、ベースとドラムが変拍子を支える。6分40秒からまたしても「ワルツ風+遠い歌」に戻り、スロウ・ジャズ調に終わ……るのかと思いきや、ラストだけはELPみたいになったね。

 

 John作の「Good Lord Knows」は、Peteの鍵盤(チェンバロ風?)をバックにジョンが歌い、ストリングスが加わってくる厳かな曲。

 

 ジョンの作曲の幅ってすごいね。聖歌のような4曲目のあとに、トリオの本領発揮のハードナンバー「Up On The Ground」が続くんですが、これも彼の作。オルガンの活躍具合い、ヘヴィなリズム、張りのある歌……ELPというより初期Uriah HeepとかAtomic Roosterと共通する味がありますな。それと、Johnは歌もうまいけど、ベースの腕も凄いです。のちにIan Gillan Bandなんかでも名演を残してくれますがね。

<続く>

Riot特集:時系列全作品紹介(12)『THROUGH THE STORM』

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Riot『THROUGH THE STORM』2002

  1. Turn The Tables
  2. Lost Inside This World
  3. Chains(Revolving)
  4. Through The Storm
  5. Let It Show
  6. Burn The Sun
  7. To My Head
  8. Essential Enemies
  9. Somebody
  10. Only You Can Rock Me
  11. Isle Of Shadows
  12. Here Comes The Sun

<メンバー>

Mark Reale(Gt)

Mike Flyntz(Gt)

Pete Perez(Ba)

Mike Dimeo(Vo)

+[guest]Bobby Rondinelli(Dr)

 

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 前作からまた間が空きましたね。その余波で、Bobby Jarzombekが再び抜けてしまいました。ボビーさんはこの間に、当時元Judas Priestロブ・ハルフォードが立ち上げたバンドHalfordに参加し、より名前を知られるようになりました。かくいう私も、2000年に出たHalford『RESURRECTION』はリアルタイムで聴いて感銘を受け、「ボビーさんのプレイも聴けて美味しいじゃん」となったのですが……彼の活躍とは対照的に(?)、古巣のRiotの音沙汰ないのが不安にもなったものです。

 

 そのころから段々使われるようになったインターネット(Riotもこの頃オフィシャル・サイトを開いたんじゃなかったですかね?)で、少しずつ小出しにされるリリース情報だとか、一曲だけ聴ける音源とかにずいぶんヤキモキさせられたものであります。で、ようやくリリースというとき、まずこっちがチェックしたのはやはりドラマーでしたよ。この『THROUGH THE STORM』では結局正規の新メンバーは決まらず、元Rainbow/Blue Öyster CultほかのBobby Rondinelliがゲストに迎えられていたのでした。

 

 こちらのボビーさんにはパワーメタルの印象はなかったので、「どうかな?」とは思っていたんのですが、わたくし個人としては結果的には良かったんだと思います。あとで順次述べますが、本作のハードロック寄りの作風には合っていますから。まあ、バンドとしては、ライヴ活動につながるメンバーが決まらない状況は困ったでしょうけども。

 

 まずは、ジャケットを見ますか。まさに「through the storm」な写真が表紙となっていますが、これは(確かテキサスで)Mark Reale自身が撮影していたピクチャーを利用したものなんだそうです。マスコットのアザラシのジョニー君が姿を隠しまして、些かシリアスな感じにもなっていますが、私はこういうのもいいと思いました。

 

 プロデュースは例によってMark RealeとPaul Orofino、Millbrook Studio謹製。Tony Harnellのバッキング・ヴォーカルもあるし、ヴァイオリンでは以前と同じくYoko Kayumi氏が参加。制作体制は安定してきたといえるのでしょうね。あとは肝心の楽曲という事になります。

 

 冒頭の「Turn the Tables」は、私の記憶が確かならば、アルバムがリリースされる前に前倒しでネット上に公開されてたハズ。で、私はこの曲が凄い好きなんですわ。Riotの新曲に飢えてるときに聴いたから、っていうこともありますが……お得意のリフにナチュラルな疾走感、情感表現のコントロールをマスターしたシンガーによる歌唱、両ギタリストの魅力を余すところなく繰り出すギターソロ……いう事なしでした。(前作との対比でいうと、Peteのベースがややおとなしいかもしれませんがね。)曲終盤で歌に絡むギターも彼ら独自の味わい――「Warrior」から一貫して失われない持ち味。Reale/Dimeo/Flyntz作品。

 Mike Dimeo期Riotの代表作となってもおかしくなかったのですが……フォローアップするツアーがうまくまわらなかったためか、ステージで披露される機会が逸されてしまい、埋もれた名曲になっちゃいました。

 

 次は、Riotには割と珍しい16分のリズム刻みで突進する「Lost Inside This World」。Bメロからトニー・ハーネルのバックアップも受けて歌い上げるディメオ歌唱、捻りなしで得意のスケールを奏でるMark Realeのギター、高低を巧みに織り合わせるMike Flyntzのソロ……とこれまた聴き所いっぱい。終盤フェイドアウトしながらのところで弾かれるギター・フレーズまで美味しい。

 

 「Chains(Revolving)」は、やはり前曲同様Reale/Dimeo作。こちらはグッとヘヴィなナンバー。Bメロ部分のロンディネリ・ドラミングのライドシンバルが心地好い。その後の“♪Let it out, the chains revolving in my mind……”云々のサビも耳に残ります。ここまでの3曲が3曲とも異なる味わいなのは個人的に好印象。『NIGHTBREAKER』以来のアルバムでは、似た曲が続くことが少なくなかったですからね……

 

 タイトルトラック「Through the Storm」は6分超えの大作。落ち着いたテンポの8ビートなんですが、ピートのベースは(音量こそ小さめですが)活発に動いてます。キーボードが割と活用されていること、リード・ヴォーカルの歌い上げが活かせる曲想であることから、マイク・ディメオさん大活躍の曲でもありますかな。ギターソロは、速弾き抑え目。むしろ終盤の歌に絡むギターがマークの必殺技で、エモーショナル。この曲、マークのお気に入りなのでしょうか、2005年の来日公演で本作からはこれが選ばれました。(個人的には「Turn the Tables」も観たかったんですが……。)

 

 「Let It Show」は、ディメオ得意のバラード。物悲し気なヴァースから、やや開放的なコーラスへの展開、ギターソロを経ての転調など、ツボをおさえた作り。ギターも徹頭徹尾情感表現優先、泣きのギターを弾かせたら天下無双のリアリ先生の粘っこいプレイが聴けます。強いて言えば、全編にまぶさるキーボードの音色(ストリングス調)がやや単調でチープに感じられるかなあ。

 

 ややまったりしてきたところで疾走ナンバー「Burn the Sun」が登場。Reale/Dimeo/Flyntz作品です。ドラマーの個性もあるのか、パワーメタルにはならず、レインボー風味になってますかね。“♪Fire from the sky, fury from above……”に始まるコーラス部分の詞はメロディによくマッチしていて聴きやすい。奇をてらった部分の無い楽曲ですが、ギターソロ後半の二本の絡み(2分45秒辺りとか)は耳を引きます。

 

 次がRiotには珍しいタイプの、厚めのサビをもつナンバー「To My Head」。“♪It goes right back to my head.......”っていうところね。やはりミドルテンポの「Little Miss Death」(『THE PRIVILEGE OF POWER』)なんかがちょっと近いでしょうか?決して派手ではないんですが、拍の表や裏を巧みに強調して表現するボビー・ロンディネリさんのドラムが見事。

 

 「Essential Enemies」はReale/Dimeo/Flyntzのペンによるタフな8ビート。Aメロのところでスネアを表4つ打ちにするタイプの曲って、Riotにはこれまでなかったんじゃないかな。ヴォーカルにエフェクトが掛けられていたり、ギターも珍しくエフェクターを活用していたり、間奏でテンポを変えつつ鍵盤をフィーチュアして前作の「Cover Me」の中間部分のようなミステリアスな雰囲気を出していたりと、彼らにしては実験的な作品かな。終盤で切り込んで来るギターのフレーズはマークらしさ有り。おお、これも3分50秒で収まったぞ。

 

 「Somebody」は日本盤ボーナストラックとのこと。ゆったり気味のロックソング。テンポのこともあってか、粘っこいヴォーカルが聴けます。半音ずつ下がっていくコード進行のところのあととかね。派手な盛り上げはなく割と淡々と終わります。

 

 次に来るのがUFOの「Only You Can Rock Me」のカヴァー。マーク達はUFOThin Lizzyなんかが大好物ですから、演奏には難なし。無難すぎるくらい。キーボードは、Westworldでマークと協働したIce AgeのメンバーJosh Pincusが弾いてます。(Josh Pincusさんについては、第41回「Ice Age」(1)をご参照。)ディメオ歌唱もあってるんじゃないかな。トニー・ムーアやガイ・スペランザでは違和感があったでしょう。

 

 アルバム本編最後は、『INISHMORE』の「Inishmore」を思わせるインストゥルメンタル「Isle of Shadows」。ディメオのキーボード、ゲストによるヴァイオリンや笛もフィーチュアされてます。ギターが鳴りながらフェイドアウト

 

 ボーナス的に――ボートラではないのですが――入っているのが、「Here Comes The Sun」、もちろんThe Beatlesのあの名曲です。マークが(たぶん)プロデューサーと会話するところから始まります。原曲は歌がありますが、ここではアコースティック・ギターオーケストレーション(おそらく鍵盤)でインストになっています。これは、ビートルズというよりは2001年11月に亡くなったGeorge Harrisonへのトリビュート。マーク・リアリ(1955年生まれ)は、同世代の多くのミュージシャンがそうであったように、1964年のThe Beatles訪米をテレビ(エドサリヴァン・ショウ)で観てしまい、「僕もこうなりたい!」と思ったんだそうです。マークのビートルズ好きはドン・ヴァン・スタヴァンさんなどが証言されていますよね。マークのギタープレイ・コンポジションの「メロディ」の側面はビートルズやジョージから学んだものだったのかもしれないと思うと、興味深いですね。

第49回「Quatermass Ⅱ」(2)

 続き。

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QuatermassⅡ『LONG ROAD』(1997)

  1. Prayer for the Dying
  2. Good Day to Die
  3. Wild Wedding
  4. Suicide Blonde
  5. River
  6. Long Road
  7. Woman in Love
  8. Hit and Run
  9. Daylight Robbery
  10. Coming Home
  11. Circus
  12. Undercarriage [Demo Version]

<メンバー>

 Gary Davis(Gt)

 Bart Foley(Vo, Gt)

 Nick Simper(Ba)

 Mick Underwood(Dr, Perc

 +ゲストDon Airey(Key)

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 7曲目の「Woman in Love」は、スロウテンポのバラードかな。ハードヒットしないミックさんが影薄い……とか思ってたら、そうでもなかった、後半にかけてのダイナミズムの演出はさすがヴェテラン。機械じゃない人力ドラムはこういうところが最高だよね。ねっ!ただ、アルバム的にはやや似通ったテンポが続くかな。

 

 そこで次の「Hit and Run」はちょっと雰囲気を変えてきた。直線的に押すリズムと、メジャー調のブルーズロック風ギターリフが力感をもたらす。ゲイリーのギターソロもいろんなフレーズの組み合わせが天晴れ。

 

 9曲目の「Daylight Robbery」は、もろ「NWOBHMかよ!」ってなナンバー。私はWhite Spiritの「Midnight Chaser」を思い起こしました。歌メロもちょっと雰囲気が似てるなあ。え?この若作りな曲、John Gustafson提供なの?いつごろ作った曲なんでしょうねえ。ミックやニックも元気だし、ゲイリーとバートもここぞとばかりに前のめり、いい感じ。

 

 スケールの大きさを感じさせる――メロディアス・ハードの王道的進行だ――リフとコードの「Coming Home」もグレイト。コーラスのところで“I’m comin’, I’m comin’ home…..”と歌われるのが心地好く耳にのこる。(ところで、まったくの偶然だと思いますが、先日登場させたNaritaの関係バンド――Henrik Poulsenの作った別バンド――Prime Timeのサードアルバム『FREE THE DREAM』にも「I’m Coming Home」っていう曲があって、メロディはもちろん違いますがやっぱり“I’m comin’, I’m comin’ home…..”っていう歌いまわしが出てくるんですよね。“そういうふうに”歌いたくなるフレーズなのかな?)いやあ、こういう曲好きですね。

 

 本編ラストは「Circus」というバンド4名の共作になるナンバー。各人の得意なところがよく出た、パワフルな一曲。ゲイリーのギター・ワーク――たぶん、Jimmy Page辺りに影響を受けてるのでしょう――も多彩でよいし、バートのスモーキーヴォイスも味がある。ミックとニックは、やっぱり8ビートを操らせたら天下一品ですな。ナイス!

 

 私のCDでは12曲目に入ってる「Undercarriage」は、ボーナストラックで、Gary Davis作の曲のデモだそうです。録音音質は良くなくて、歌はほとんど聴こえませんが、ハードなリフとゴリゴリしたリズムセクションは捨てがたい。

 

 というわけで、「なんだ、Pete RobinsonもJohn Gustafsonもいないじゃん」といってスルーしてしまうのはあまりに惜しいブリティッシュ・ハードロックの佳作に仕上がっていたのでした。

<続く>