Brian Richは、Jackalという自分のバンドがあるのでそちらへ戻りました。彼らも『RISE』・『VAGUE VISIONS』・『A SAFE LOOK IN MIRRORS』というメロディックメタルの良作を残しています。(2009年にBrian Richのソロプロジェクトのような形で『Ⅳ』も出た。)
Naritaは後任にKenny Lübckeを迎えます。Mercyful FateのMichael DennerとHank Shermannによるバンド(プロジェクト)Zoser Mezで歌っていた人というのが、メタル的には良いでしょうか。アルバム『VIZIER OFWASTELAND』(1991)では3曲歌ってますが、うち1曲がなんとCaptain Beyond「Mesmerization Eclipse」のカヴァー。デナー/シャーマンの趣味なんだと思いますが、渋い。ナイス。
Brianとは別れざるを得なかったものの、これまた実力派を獲得したNaritaはどんな作品を作ってくれたのでしょうか?
Narita『CHANGES』(1994)
<メンバー>
Henrik Poulsen(Gt)
Mac Gaunaa(Gt)
Kenny Lübcke(Vo)
Allan Sørensen(Dr)
+
Christian Dennis Raikai(Ba)
Andre Andersen(Key)
Flemming Rasmussen(Co-Producer)
他
「Changes」冒頭からキーボードが。これ、アンドレ・アンダーセンですよね。そこにミドルテンポの硬質のベースリフ(アディショナル・メンバーとなったC.D.Raikaiによる)が割って入ってきて、さらにギターが重なっていくっていう、思わせぶりなオープニング。歌は1分のところから入るのですが、朗々たる堂々たるもの。ブライアンとはタイプが違いますが、名歌手には違いない。ギターソロは従来よりコンパクトにまとめてきた印象ですが、テクニカル度合いは健在。
ところで、ケニーのヴォーカルは、サビ部分にバックヴォーカルを厚めにつけるスタイルが特徴的なんですが、これ、後にAndre AndersenのRoyal Huntを手伝うようになってからも十八番。ロイヤル・ハントのアルバムを聴いていて“なんか聴き覚えのある感じの歌?”とおもってクレジットをみるとケニーがバックグラウンド・ヴォーカルを担当してたりするんですよね。バックがケニーでリードがJohn Westとか、どんだけ豪華なんだよ。
Allan Sørensenのドラムソロから始まる「Hold On」は、バンドお得意の高速三連チューン。アランのキックもいい感じ……それから、レコーディングの音質はだいぶ改善されていて、音がクリアに聴こえますね。ライド・シンバルワークも細かく聴きとれてドラムファンには有難い。ギターソロもたっぷり、2分50秒辺りからのマックのキレはすさまじい。
珍しくギターソロから開ける「Stop The World」。明瞭な歌メロの印象も強いし、Bメロでさりげなくバックアップする鍵盤もあって、Royal Huntの雰囲気を感じる部分も。あっちはここまでパワーメタルじゃないか。“♪Stop the world, I wanna get off……”というところが(歌詞はシリアスだが)キャッチーで耳に残る。ベースも結構ゴリゴリいってますね、特に終盤。
このアルバム乃至バンドを評して「北欧版レーサーXか」と仰った方がいらっしゃいますが(シンコー・ミュージックMook『ヘヴィメタル・ハードロックCDガイド』2000年)、確かにねえ、というギター密度。「Bad Mother」ももちろんそうですが、やはり歌がしっかりしてるのが強い。ギター・サーカスで終わらないのは得難いことです。ハードロックの伝統を踏まえたようなナイス・リフで始まる「What The Hell Is Going On」も、歌劇的なヴォーカル“♪I gotto know, please tell me, what the hell is going on…….”と凄技ギターソロが一曲で味わえちゃうお得な3分半。
「One Of These Days」のリフは、一捻りあって面白……うわー、ベースがバッキバキだ。大好き。この手のヘヴィソング、むかしはそんなに好きでもなかったけど……こういう曲をカッコよく演奏する人々は尊敬します。あとこの曲はね、中間部にラップが挟まるのが新機軸なのよ。バッキングはヘヴィ・メタルのままなんだけど、Joseph Mbedaさんって人がゲストでやるのね。最後の“♬Begging and checkingand grabbing the mic, ‘cos I’m a true goner”っていうところが捨て台詞みたいで佳い。
これも全編Kennyの多重ヴォーカルが効果的に使われてる「You Know It’s Time」、アランの三連バスドラワークも冴えてます。なお、Allan Sørensenは後にRoyal Huntのメンバーにもなるのでした。リフ・ワークはヘンリックの十八番、そして必殺のマック・ソロ。歌を別とすれば、前作にいちばん近い雰囲気の曲かもね。
一方次は、前作には無かったもの。すなわち、バラードです。初のアコースティック・ギター登場。ケニーの歌に引き込まれる。サビ“♪You will never be alone as long as I’m here for you……”など、珍しく抒情的な一曲といえましょう。控えめだったキーボードが終盤にかけて少しずつ盛り上げにかかるのもお見事。単にテクを披露するんでなく、起承転結を踏まえてシュレッドするマックもナイス。
「Truth Seeker」も、雰囲気的には前作を思わせるミドル・テンポの楽曲。コーラスの“Truth seeker, believing is never wrong…….”というあたりのクリアさ(ケニーの歌い上げ)が素晴らしい。歌のテーマは“♪Your government is trying to hide the truth from every man alive.”とあるようにシリアスなものの様子。次の「I Believe」もテンポをグッと落としたミディアム・ナンバーで、テーマも近いと思われます。
締めくくり「Big Decisions」は、ヴォイスとパーカッシヴなベース(?)で不思議に始まります。ドラムはマーチングっぽい。コーラスのところは逆にストレートなロックのビートになりますが。“♪Hey people, don’t just stand there all alone”っていうあたりね。メロディアスなことを優先したような統制されたギターソロ明けに、“If we don’t stand together, this world won’t last forever. Have to end all the wars……”などと歌われ、一瞬無音になってから(3分50秒)、冒頭のマーチング・パターンに戻る……ある意味意欲作なのかもしれません。最後に「爆弾の炸裂音」(を模したSE?)が入っておしまいになるところからも、シリアスなメッセージ性を感じます。
即効性のあるスピードメタル、パワーメタルを期待するとちょっと合わないかも知れませんが、メロディアスでヘヴィで美しいメタルを聴ける良作と申せましょう。