「プログレ」「ロック」に対する様々なアプローチを見るのが狙いの本編集において、最も異彩を放っているのが『Trout Mask Replica』から7.8.を採用したCaptain Beefheartであろう。場合によってはプログレの範疇でさえ語られることのない、ジャンルを超越した「音楽」である。どうやったらこういう音がイメージできるのか。
とりわけ7.は、アルバム一曲目ということもあり、そのインパクトは強烈である。かくいう筆者も最初に聴いたときは針飛びでもしているのかと(CDだからそれはありえないのだが)疑った。なにしろ、各楽器のリズムがバラバラで、個別に耳をやると好き勝手やっているようにしか聴こえない。しかもヴォーカルは「歌」という感じではないのだ。ところが、通して聴いてみると、このわずか2分足らずの中でこれが綺麗に完結している(辻褄が合ってしまっている)のである。どうやら、デルタブルーズをベースに、フロージャズやロック、フォークなどをごった煮的に取り入れたものだということだが、この音の前にはそうした解説も意味を持たないだろう。
Frank Zappaの奇才ぶりというか、変態ぶりは、筆者ごときに語れる小さなものではない。とりあえずここでは、CaptainBeefheartとの共演ライヴを紹介しておこう。アルバム『Bongo Fury』では、二人の共演がポイントであるためか、楽曲はR&Bよりの比較的聴きやすいものが多い(いわゆるポップにくらべれば相当へんちくりんだが)。9.はアルバムの終曲で、Zappaがギタリストとしても非凡であったことがわかる好演。ドラムのTerry Bozzioも素晴らしいサポート振りである。
もう一つZappaのものを挙げておきたい。ギターやドラムは「鬼」といいたくなるくらいテクニカルなのだが、10.はZappaとしてはかなりポップな作品である。筆者はかつてこの曲のプロモーションヴィデオを見たことがあるのだが、サイケな色彩の中に当人が出てきて演奏&演技するようなものだったと記憶する(何しろ5年以上前なので、あまり正確にはわからない)。PVをつくるほど一般向けなのに、「俺はスライム」……当時はただヘンな人だと思っていたが、最近ようやくその面白さ、凄さがわかるようになってきた。この曲はライヴ盤『Zappa in New York』でも聴くことができる。
最後は、ポップフィールドからの挑戦状ということで、Todd Rundgrenを取り上げた。Utopiaは、Rundgrenがソロ活動中に組んだ別働ユニットで、特に初期はテクニカルな演奏と一風変わった曲展開を――つまりプログレ風味を売りにしていた。Rundgrenはポップもハードロックもパンクもプロデュースしてしまうし、楽器もたいていこなしてしまう才人であるが、彼がバンドメンバーという立ち位置だとどうなるかを示したのがUtopiaなのだろう。
Utopiaは後期になると、ソロとの区別がつきにくくなるが、初期(11.はUtopiaのデビューアルバムからである)は、ロックっぽい音を出していた。新しいことをやろうとする精神こそが「プログレ」であるとするなら、Utopiaにも充分その資格はあろう。
<完>