DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

どんぱす今日の御膳196

196

David Peel & The Apple Band「I Like Marijuana (Bonus Track)」(『BRING BACK THE BEATLES1977)

 不思議な作品。

f:id:yes_outsiders:20220309005420p:plain


 David Peel(1942-2017)って人は、かのJohn Lennonとも交流があったというニュー・ヨークのミュージシャン……らしいのですが、どういうふうにとらえたらよいのかな。プロト・パンクと紹介しているものもあれば、フォーク・ロックだのガレージだのに分類しているものもありましたが、ヒッピー風というかストリート感というか、そういうものが軸にあった人みたいです。

 

 それだけだったら、私の守備範囲の外なんですが、このアルバムだけはなぜか興味がありました。ビートルズがネタになってるから……では実はなくて、All Musicという情報サイトに「Mark Realeというギタリストが参加している」とあったからです。Mark Reale?Riotの?たしかに彼もニューヨーカーだけど、接点があったのか?――ずっと謎でした。

 

 で、ついに作品を中古店で見かけ入手できたのですが、どうもあやしい再発盤らしくあまり詳しいインフォメーションが載っておりません。それに、彼らしいエレクトリック・ギターが聴こえるのはボートラ扱いの「I Like Marijuana」なる奇矯な曲のみ(即ち1977年時点では入っていなかった?)。

 奇矯なというのは曲のテーマだけでなくて、やたらチープな打ち込みに電気ギターリフを無理に振り掛け、その上でピール氏がラップ(違うか?)する音の組み立てもです。記載がないのでこれはすべて憶測ですが、この曲はSteve Loeb(とGreene Street Recording Studio)あたりが関与したシロモノなのでは?ローブといえば我々の間では初期Riotに関わった人物という認識ですが、ビジネスとしては完全にHip Hopまわりの人ですし、80年代にMark Realeにスタジオ仕事を手伝わせていた(この言い方は語弊があるかな?)ようなのでねえ。

 

 いまYouTubeでこの曲のオリジナル(1968年?)を聴いてみましたが、当然こんなオトじゃなくて、フォーキーな人力ロックでしたよやっぱり。Mark Realeが参加した(させられた?)このテイクは、下手すりゃデヴィッド・ピールのあずかり知らぬものである可能性も出てきましたかな。勝手なミックスがあとから加えられて。

 

 というわけで、マーク・リアリの残した音なら何でも聴きたいわたくしにとっても、「何だこりゃ」の不思議な作品なのでありました。

※☟こちらは「オリジナル」ですかね。マーク・リアリは関係ありません……

youtu.be

どんぱす今日の御膳195

195

David Bowie「Where Have All The Good Times Gone」(『PIN UPS1973)

youtu.be

 英国ロック界の誇る才人David Bowie、彼がスゴイのはオリジナルだけではなかった。なんかTodd Rundgrenあたりともイメージが(個人的には)重なるんですが、カヴァーのセンスも卓越してる人ってのがいるもんですねえ。

 このアルバムは、友人(デヴィッド・ボウイの熱烈なファン)に貸してもらって聴きました。さっきうっかりトッド・ラングレンの名前を出しましたが、彼なんかと共通するのが60年代モノへの愛着ぶり。The Yardbirds「I Wish You Would」(オリジナルはBilly Boy Arnoldですけど)をボウイ先生やってます。(ラングレン先生は「Happenings Ten Years Time Ago」をカヴァーしてました。1976年の『FAITHFUL』所収。あっちも面白いよ。)

 

 ボウイはさらにヤードバーズ「Shapes Of Things」をやったり、最初期Pink Floyd「See Emily Play」をやったり、The Who「I Can’t Explain」をやったり……とツボを突いて(?)きます。で、そんな中に我らがThe Kinks「Where Have All The Good Times Gone」が含まれているのであります!キンクスのRay&Dave兄弟もお気に入り、後にVan Halenもカヴァーする“隠れた名曲”――当時は一介のシングルB面曲でした――にいち早く目をつけたボウイ先生は流石。演奏はオリジナルに割と忠実、あのリフが活かされております。

HR/HMファンならば、Van Halen『DIVER DOWN』(1982年)でカヴァーしたこともご存じでしょうか。「You Really Got Me」といい、やつらのキンクス愛は深いものがありますね。〕

 

 このアルバム、プレイヤーも豪華で、デヴィッドの側近(右腕?)Mick Ronsonがギターを弾き、同じく仲間のTrevor Bolderがベースをプレイ。そして何とドラムが鉄人Aynsley Dunbar先生!クラシックロック・ファンならばゼッタイどこかでお世話になっている名匠、そのプレイで往年の名曲が聴けるおいしいおいしい作品なのでありました。

どんぱす今日の御膳194

194

From The JamBruce Foxton & Russell Hastings)「Down In The Tube Station At Midnight」(『FROM THE JAM: LIVE!』2017)

 当ブログが最初にとり上げたアーティストがThe Jamでしたが、その偉大なるバンドへの半セルフ・カヴァー・バンドのライヴ作品。探しに探してようやく見つけました。

f:id:yes_outsiders:20220309004639p:plain

 

「半・セルフ・カヴァー」というのは、Paul Wellerこそ居ませんが、バンドのオリジナルメンバーが含まれているから。From The Jam名義で活動し始めた当初にはBruce Foxton(Ba)とRick Buckler(Dr)が参画していました。この2017年作品の頃にはRickは退き、「オリジナル・ジャム」はブルースのみ……なんですが、ポール・ウェラー役(Vo, Gt)のRussell Hastings氏が予想以上にいい仕事してます。

 

 声質がポールっぽいだけじゃなく、歌いまわしからギターのプレイまで実に丁寧にThe Jamの味を甦らせているのです。Alvin Leeが脱けた後のTen Years Afterを若返らせたJoe Gooch(Gt, Vo)氏や、Keith Relf亡き後のThe Yardbirds再興のカギとなったJohn Idan(Vo, Gt)氏と並ぶ、名バンド復興逸材ではないかと。ブルース・フォクストン先生との縁は長いようで、Bruce Foxton『BACK IN THE ROOM』(2012)――これもいずれきちんと紹介したいなかなかの好作品!――にも参加しています。

 

 さて、『FROM THE JAM: LIVE!』は、Bruce+Russellに、Mike Randon(Dr)とAndrew Fairclough(Key)を加えたバンドによる、ザ・ジャム・カヴァー大会。ベテランの回顧イベントだろと侮ること勿れ!「In The City」の爆走から「This Is The Modern World」に突入する“初期ジャムファン”(小生)感涙の展開。ブルースのベースってこんなにバッキバキいってたっけ?

 

 ベース、といえば今回挙げた「Down In The Tube Station At Midnight」ですよね。オリジナルはもちろん名曲、焦燥感を音で表現した様な弦楽器に細かいドラミング、クールでいながら爆発的に熱くなるヴォーカル……それを丁寧に再演しております。ポール・ウェラー氏は自分のソロではジャム初期はまずやりませんから、この曲を含むアタマ3連発がライヴで聴けるというのがもう貴重。

 

 アルバムではその後「The Butterfly Collector」に入り(クールなチョイス!)、次いで、待ってましたブルース作の持ち曲「Smithers-Jones」に。1990年代にStiff Little Fingersに居たブルースは同バンドのライヴでもこの曲をやっていましたね。たった3分間にメッセージとドラマを共に盛り込んだ名曲。“♪Sorry, Smithers Jones……”

 

 その後も「That’s Entertainment」のホットなカヴァー、躍動する「Start!」、あらためて聴くとよいなあ「Saturdays Kids」と来て、ヤマ場に登場するのが「David Watts」。The Kinksのオリジナルも勿論良いのですが、この曲を70年代末に蘇らせたThe Jamはセンスがよい!2010年代に再演するBruce&Russel(両者のヴォーカルの重ね方もBruce&Paulの妙を思い出させます)も偉い!というわけでこれも一聴の価値有り。

 

 最後は怒涛の「Going Underground」「Town Called Malice」「The Eton Rifles」で締め。お腹いっぱい。もちろん、もっとたくさんいい曲はある――ブルース作曲のものだけでも、アグレッシヴな「News Of The World」とか、最初期の「Carnaby Street」とかまだあるよね――のですが、それはまたの機会に、ということなんでしょうかね。

 

 元気なBruce Foxtonと逸材Russell Hastingsに会える好ライヴでした。

※☟こちらは初期のラインナップによる映像。ドラムがRick Bucklerさんです。

youtu.be

どんぱす今日の御膳193

193

Billy Joel「Shout」(『LIVE AT YANKEE STADIUM』1990)

youtu.be

 ちゃんと曲の話もしよう。「Shout」は本映像作品中唯一ビリーの曲ではありません。The Isley Brothersアイズレー・ブラザーズ)のカヴァーなんですが、このパフォーマンスも良い良い。即興的なコール&レスポンスでスタジアム中の(数万の)聴衆と掛け合いをしたあと、すかさずバンド一丸となってこの古典的ロックンロール(R&Bといったほうがよい?)をアップテンポで披露するという流れがまずいいね。コーラスが重要な曲ですが、クリスタル・タリフェロやマーク・リヴェラを含む重厚な布陣で隙も無し。

 

 で、途中ワンコーラスくらい“ビリーじゃない誰か”がリードをとる箇所があるのです。私CDの類でこのテイクの「音だけ」聴いたことがあって、「誰だろう、マーク・リヴェラかな?」などと思っていたのですが、映像を観て吃驚・・・・・・

 

 ビリーがマイクスタンドにマイクロフォンを挿してドラムセットの方に向け、リバティに歌わせてるではないですか!あれは、リバティだったのか!?

                                              f:id:yes_outsiders:20220124224017j:plain

 叩きながら歌ってるがなかなかうまい……というか、このオールディーズ・ナンバーはビリーやリバティのような初期ロックンロール大好きっ子にとっては“寝てても歌える”(わけはさすがにないか)ようなオハコだったと思われます。世間広しといえども、「歌うリバティ・デヴィート」が観られるのは、“かつてのドラマー”ジョン・スモールが監督したこの作品だけ!いやあ、盛り上がるネタに事欠かないなあ。

 

 最後に。このBS放映ヴァージョンだけなのかもしれませんが、MC部分の対訳字幕が出ます。落合さんという方によるものだそうですが、これも親切でありがたい。洋楽のステージを観て聴いて英語力をつける、というのも良いですが、細かいところはプロのフォローがあると安心ね。ちなみに、ビリーがステージを締めくくるときのキメ台詞“Don't take any shit from anybody!”は、多くの訳者を悩ませてきた名文句(?)――直訳じゃ意味が分からない――ですが、この字幕では「楽しむのが一番だ!」としてました。なるほどね……

 

 というわけで、2022年度の最初はビリー・ジョエルで景気よく始めましたぞ。

どんぱす今日の御膳192

192

Billy Joel「That’s Not Her Style」(『LIVE AT YANKEE STADIUM』1990)

youtu.be

※前回から続いてます

(4)当時の新作『STORM FRONT』からの「That’s Not Her Style」。今ではまず聴けないナンバーですな。BS(NHK)の映像では歌詞が下に出るので追っかけながら観聴きしてたんですが、これはビリーの妻(当時)Christie Brinkleyのことを歌ったもの、ですよね。“世間じゃ誤解されてるが、彼女はそんなんじゃない(That’s not her style……)”。よーく見てると一瞬ちらっとステージ脇にいるクリスティが映るんで、映像監督も曲をよく理解していると見た。

 

(5)そもそも、監督ですよ。フィルム・プロデューサー/フィルム・ディレクターはJon Smallさんですぞ!……何を力説しているかというと、ジョン・スモールはビリーが初めて世に出たバンドThe HasslesAttilaの頃の盟友(ドラマー)であるからです。(当ブログの大昔の記事にAttila特集あり。)ジョンの元妻エリザベスが、ビリーの妻(クリスティの前ね)になって敏腕マネージャーとしてBilly Joelをサポートしたとかそういう“Layla的な(?)”話もあるのですが、それは兎も角。

 

(6)終盤でやる「Miami 2017」も味わい深い。地元ニューヨークにおける(それも記念碑的な)コンサートだからということもあるでしょうが、盛り上がりがスゴイ。名曲ぞろいのビリーのキャリアの中でも、アルバム『TURNSTILES』は格別だ。

(7)エンディングは「And So It Goes」(スタジオ録音)に載せてクレジットが流れる美しさなのだが……最初にばーんとJon Small(前述)の名前が出たり、途中でAlexa Ray Joelの名前が出てきたり(ビリーの娘さん、当時まだ小さかったはず)、ヤンキー・スタジアムのスタッフの名前にBilly Squierと出てきて「あの人とは別人だよね?」となったり。

 で、CBSと出てきてハッとする我。そうだ、Billy JoelはColumbiaのアーティストで、日本ではソニーから出てた。『STORM FRONT』も、そうでした。で、CBS/ソニーといえば我らがRiot『THE PRIVILEGE OF POWER』(1990)ですよね!

 ビリーライオットは意外に近いところにいたんでは?という、必殺こじ付け人の流儀。いやでもさ、Billy Joel(1949生)もMark Reale(1956生)も「ビートルズを観て、ミュージシャンになりたいと思った」わけでしょ。ビリーはドイツ系、マーク(・リアリ)はイタリア系のニューヨーカーで、NYのストリート・ライフを心得てるよね。で、両者とも楽曲におけるメロディというものをすごく重視していると。もうこれは他人じゃないね?

〔2022/5/4加筆〕さらにさらに、Riot『THE PRIVILEGE OF POWER』の「Killer」にゲストヴォーカル参加しているJoe Lynn Turner氏は、Billy Joel『STORM FRONT』所収の「I Go To Extremes」「State Of Grace」にもバッキング・ヴォーカルで加わっているのだ!(Q.E.D