DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第53回「内田勘太郎」(5)

 私が内田勘太郎さんというギタリストに興味を持ち始めたころに、丁度ソロ・アルバムが出ました。

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内田勘太郎『マイ・メロディ』(1998)

 1.ブリージン

 2.夢うつつ

 3.スリープ・ヲーク

 4.あのメロディ

 5.スターダスト

 6.安心

 7.ラグ・ア・ファンク

 8.美らフクギの林から

 9.ていんさぐの花          

 10.ボードー・イヴ

 11.蘇州夜曲

 12.明日の夜に

 13.眠ってしまおう

 14.スモーキー・アイズ

 

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 実に盛りだくさんな内容の充実作であります。歌入りありインストあり、アコースティック小品ありフルバンドの長尺あり、ホットなブルーズ・ブギーありクールなフュージョンあり……何度聴いても飽きません。

 

 「ブリージン」(Breezin’)は、George Benson版が名高いフュージョン名曲のカヴァー……だというのは後で調べた話で、入手当時ジャズ・フュージョン方面の知識皆無だった私は元ネタを知りませんでした。ジョージ・ベンソン氏のは(およびそれに先行するGábor Szabó氏のは)、スムース・ジャズの代名詞的な軽妙さが味の一曲。一方内田版は、エレクトリック・ボトルネックが大炸裂するエルモア風のハード・シャッフル(+要所要所でアコースティック・ギターが嵌まる)。内田さんのアコとエレキを同時に堪能できるなんて、贅沢この上ない。メインのメロディに当たる部分はアコースティック・ギターが受け持ち、中間でギュイーンとエレクトリックにバトンタッチ、さらにはゲストのエレクトリック・ヴァイオリン(太田恵資さん)にもソロを回して大盛り上がり。リズムセクション(とりわけドラムの氏永仁さん)の煽動力も素晴らしくて、一気に押し切られます。何か一曲、ということならまずこれをお聴き下さいませ。

 

 ものすごい高揚させられた後に、アコギをつま弾いた短い「夢うつつ」が入って、それを枕としながら「スリープ・ヲーク(Sleep Walk)」へつながります。オリジナルはSanto & Johnnyで、後にJeff BeckBrian Setzerなど多数のアーティストにカヴァーされてきた名曲。がんらいの浮遊感はそのままに、ただし行進的なドラムを付けて端正に仕上げられました。ヴァイオリン・ソロも入ったり、転調をからめたりと、5分超の力作に。

 

 お次はトロピカル(?)なイントロが印象的な歌もの。もちろんご本人が歌います。“♪お家に灯りが着いてたな……”。アコースティック・ギターの繊細な響きが素晴らしい。エンディング間際の口笛も可愛らしい小品。

 

 「スターダスト」(Stardust)は、Hoagy Carmichael作のスタンダードナンバー。アコースティック・ギター下田逸郎さんが参加。冒頭の歌は日本語の歌詞で歌われます。“♪夢のかけらそのまま……”。その後はギター一本のインストゥルメンタルに。

 

 メロディアス路線が続いたところで、エルモア・ジェイムズ風のタフなブルーズ「安心」へ。“♪心配……なんとなく心配……いろいろと心配……心配するなといわれても、心配……”。スライドもビシバシ決まるひたすらカッコいい曲。“♪ふと気づいたら……忘れてた心配。”

 

 「ラグ・ア・ファンク」は、エレクトリック・ギターとベースによるファンキーなラグタイム。内田さんのエレキ弾きまくり(バカテク!)が満喫出来ますし、ベースの方(金城浩樹さん)のスラップも多用したド派手プレイもいい。1分47秒で一瞬静寂が訪れてからエンディングになだれ込むくだりは鳥肌もの。

 

 洋楽調のものが連続した後の「美らフクギの林から」は、ヴォーカル(石垣勝治さん)の包み込むような歌唱が温かい歌謡曲。“♪島通り……竹ぼうき……持って……僕の心おそうじ、君の心も。”たしかこの頃から内田さんは拠点を沖縄に移されたとどこかで読みましたが、本アルバムにも「ブルーズ」「フュージョン」と並んで「沖縄音楽」の影響があるみたい、です。次の「ていんさぐの花」も沖縄民謡の美しく穏やかなカヴァー(インスト)ですしね。

 

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 「ボードー・イヴ」は、6分調の長尺曲。これがあなた、ジョン・リー調のストンピング・ブギーで無茶苦茶良いのだよ。エレクトリック・ヴァイオリオンのソロ、エレクトリック・ギターの弾きまくり(ソロもラン・フレーズも)、バッキングのドラムとベースのグイグイ感……Canned Heatウッドストックとかでやったみたいな感じの強引さがたまらない。終盤ワンコードでギュウィーンと盛り上がっていって……ブツッと切れて(ドラム一発“ドン”から)突然次の「蘇州夜曲」につながる演出も心憎い。

 

 服部良一先生――わが心の歌「青い山脈」をお作りになった服部先生を呼び捨てになど出来ない――作曲の「蘇州夜曲」を、ここではバンド形式のインストゥルメンタルでカヴァーしています。エレクトリックギターやヴァイオリンがメインメロディを取りますが、間奏ではギターソロもたっぷりフィーチュア。生ギターじゃなくても内田さんのプレイは‟タッチ”が伝わるようです。

 

 「明日の夜に」はスティールギター(尾崎孝さん)が大いに盛り込まれた、内田さんの歌入りナンバー。「眠ってしまおう」は、ヴァイオリンの響きが印象的な穏やかな歌曲。“♪窓の外には……お月様……”口笛ソロのところのバックのベースの弾み具合がいいな。

 

 メロディアス楽曲の連打でアルバムが締めくくられます。「スモーキー・アイズ」も前二曲のようなメロウ路線の、インスト。むかしはこの辺の曲は刺激が足りない気がしてあまり熱心に聴かなかったんですが、ちゃんと聴き直すといいですね。どの曲も抒情的でありながら、叙景詩として成り立っているというか、風景・情景をしっかり感じさせてくれるという。ラスト5曲に共通のテーマは「夜」だと思うんですが、それぞれに顔が違うのも面白いし。

 

 ということで、邦楽に疎く、歌謡曲もサッパリな私にもとってもやさしい、素晴らしいアルバムでございました。私は初出を聴いていますが、2004年の再発盤はボーナストラックが2曲プラスされてるみたいですよ。

<続く>

どんぱす今日の御膳009

009

Alvin Lee「Getting Nowhere Fast」(『IN TENNESSEE』2004)

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 まえに“私はAlvin Lee派”とか言いながら、ちゃんと作品を紹介してなかったですね。とりあえず、まず、これを聴いてよね。

 

 この曲には参加してませんが、伝説のギタリストScotty Moore(エルヴィス・プレスリーのバックをつとめた御方)を迎え入れて作ったアルバムは、初期ロックンロールの滋味を満面に湛えた傑作。

 

 アルヴィンはヴォーカリストとしても魅力的なことがよくわかる作風でもあるんですが、この「Getting Nowhere Fast」は、加えてアコースティックとエレクトリックの使い方が絶妙なレイドバック・ナンバー。ギタリストのタッチが判る名演、最高!

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時代の産物を追う?〔続〕(11)

 二枚組の後半へ。

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Ace of Cups『ACE OF CUPS』(USA)

CD1

  1. Introduction: There's A Record Being Made
  2. Feel Good
  3. Pretty Boy
  4. Fantasy 1 & 4
  5. Circles
  6. We Can't Go Back Again
  7. The Well
  8. Taste of One
  9. Mama's Love
  10. Simplicity
  11. Feel It in the Air

CD2

  1. Interlude: Transistor
  2. Stones
  3. Interlude: Baby from the Forest of Knolls
  4. Life In Your Hands
  5. Macushla / Thelina
  6. As the Rain
  7. Interlude: Daydreamin'
  8. On the Road
  9. Pepper in the Pot
  10. Interlude: Breath
  11. Indian Summer
  12. Grandma's Hands
  13. Medley:The Hermit/The Flame Still Burns/Gold & Green/Living in the Country
  14. Outroduction: It's Always Safe ...
  15. Music

<メンバー>

 Denise Kaufman(Ba, Vo, Harmonica)

 Mary Ellen Simpson(Gt)

 Diane Vitalich(Dr, Perc, Vo)

 Mary Gannon(Claps)

 +サポート&ゲスト

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 さて二枚組の2枚目。インタールードが流れてから始まる2-2「Stones」は、オリジナル・メンバーたちによる元気なハード・ロックンロール。このアルバム、録音もいいなあ。ドラムの音がとても活き活き聞こえる。Dan Sheaさんのサポート・オルガンも、Steppenwolfの初期みたいでカッコ良い。

 

 再びインタールードをはさんで、Taj Mahal(Vo)をフィーチュアした「Life in Your Hands」へ。タジさんとメンバーたちによるほとんど歌のみの(厳密にはア・カペラではないのですが)一曲。このあたりから、演出が多彩になってきます。「Macushla / Thelina」は、イーリアン・パイプス(バグ・パイプの一種だそうです)やらハング・ドラムだのを用いた不思議な楽曲。この辺の珍しい楽器を操っているのはDan Sheaさんなんですが、「As the Rain」でもブズーキ他色んな楽器をプレイしていますね。ゲストヴォーカルはPeter Coyoteアメリカの俳優・作家)さん。David Grisman氏のマンドリンも雰囲気あり。

 

 インタールードに、タジ・マハールさんが歌う「Daydreaming’」を置いて、バンジョーフィドルウクレレの活躍するカントリータッチの「On the Road」へ。どうやら二枚目は「ロック」より「米国土着音楽」への探究が著しいみたいです。こういうのは、ランナウェイズガールスクールじゃ聴けないところですね。Buffy Sainte-Marieさん(Vo)をフィーチュアした「Pepper in the Pot」もカントリーというか特殊なフォークというかそういう味わいですしね。

 

 またもインタールードをはさんで、「Indian Summer」、こちらはアコースティック主体でしんみりと。Ken Emersonさんのドブロが味わい深い。次の「Granma’s Hands」はエレキ・ピアノのサウンドが特徴的で、不思議とキャッチーなヴォーカルナンバー。ハンドクラップの多用が効果的。

 

 そのあとが、9分超えになるメドレー。「The Hermit」はアコースティック・ギターの感じ、笛の入り方など、「Stairway to Heaven」の風味強し……っていうか、あっちが米国フォーク音楽の流儀をうまいこと導入していたというべきなのかもしれませんな。ジミー・ペイジは研究熱心ですから。「The Flame Still Burns」になると今度は、The Who中期の楽曲っぽい感じになる。開放的なコードの感じとかね。Terry Haggertyさんて方がギターソロを弾いてる。そこから今度はThe Beatles(というか。ジョージ・ハリスン)のインド音楽になるのであった(「Gold & Green」)。Norman Mayell氏のシタールやGeoffrey Palmer氏のヴィブラフォンをフィーチュア。最後のパート「Living in the Country」はバンドメンバー中心の、多重ヴォーカルを活かしたロック・ソング。

 

 アウトロを短く入れて、アンコール的に「Music」という(今度こそ)ア・カペラをやって全編の幕を下ろします。

 

 それにしても、なんという密度の濃さでしょうか。“かつてのガールズ・バンド”が思い付きで再集結したのかな、なんてとらえていたことを猛省しました。皆さんのお声こそ若くはないですが、それはそれで別の味があるし、ロックバンドとしての勢いを感じさせる(主に)一枚目、アメリカン音楽の深層を掘り下げていった二枚目と、ゲストも含めてヴェテランの意欲作に脱帽させられました。

<続く>

どんぱす今日の御膳008

008

Marty McFly with The StarlightersJohnny B. Goode」(『BACK TO THE FUTURE Original Soundtrack』1985)

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 有名映画のサウンドトラック。ヒューイ・ルイスエリック・クラプトンも参加してる豪華アルバムですが、盛り上がるポイントはコレ。「中の人」は良く知りませんが、ロックンロールの名作をうまいこと80年代風に演ってます(個人的には、Judas Priestよりもうまくやったと思う)。

 サウンドトラックですので、‟マーティが気合入り過ぎでアンプをぶっ倒したり、ライトハンドをキメまくったり、周囲ポカーンで終わったり……”っていうのは入ってませんけどね。

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第53回「内田勘太郎」(4)

 まだ続き。

憂歌団『BLUES 1973~1975』(1978)*[  ]内はカヴァー元

  1. Please Find My Baby [Elmore James]
  2. Key To The Highway [Big Bill Broonzy]
  3. It Hurts Me Too [Elmore James]
  4. Kind Hearted Woman [Muddy Waters/Robert Johnson]
  5. King Fish Blues [Tampa Red]
  6. I Can’t Be Satisfied [Muddy Waters]
  7. Careless Love [Lonnie Johnson]
  8. Please Find My Baby [Elmore James]
  9. Walkin’ Blues [Muddy Waters/Robert Johnson]
  10. Shake Your Money Maker [Elmore James]
  11. Look On Yonder Wall [Elmore James]
  12. Rollin’ & Tumblin’ [Muddy Waters]
  13. Good Morning Little School Girl [Sonny Boy Williamson]
  14. Take A Little Walk With Me [Robert Jr. Lockwood]

  #1~7(1975.5.24)

  #8~11(1974.9.28)

  #8(intro)・12~14(1973.5)

<メンバー(憂歌団)>

 木村充輝(Vo, Gt)

 内田勘太郎(Gt, 12 Strings Gt, Harp)

 花岡献治(Ba)

 島田和夫(Dr)

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 残り半分の1~7曲目が1975年、バンド形式のスタジオ録音です。私はやっぱり「Please Find My Baby」のインパクトが忘れられない。CD掛けたらいきなり、細かな刻みから導かれて(アコースティック・ギターなのに)ギュウィーンというエグい3連がドン・パン繰り出されるんですからね。“天使のダミ声”木村さんのアクが強くも実は繊細なヴォーカルもインパクト十分で、内田さんのボトルネック名演とあわせブルーズ解釈史に残る名作になっているのではないかと。「カッコいいブルーズを聴きたいんだけど」、って言われたらまずこれを差し出したい。

 

 「Key To The Highway」もブルーズの古典。RCAブルースの古典』という名コンピにはJazz Gillumさんのヴァージョンが入ってますが、そちらおよび憂歌団が下敷きにしたらしいBig Bill Broonzyのヴァージョンは割と軽快なノリ。いっぽう憂歌団は気怠い雰囲気を少し強調してますかね。終盤2分55秒辺りのギター(‟♪てれれ・てってって”っていうトコ)がやけに好き。

 

 この曲はエリック・クラプトンも好物らしく、Derek & The Dominosのアルバムやソロのライヴ(『RAINBOW CONCERT』)、そしてB.B.Kingさんとの共演盤『RIDING WITH THE KING』なんかで繰り返しやってます。憂歌団と同様、ほんのりメロウなテイストに持ち込んでますか。それから、Keith Richards『MAIN OFFENDER』で鍵盤入りの重厚なヴァージョンを披露してますな。マニア向け作品(?)では、Pete York(Dr)+Colin Hodgkinson(Ba)+Miller Anderson(Gt)+Zoot Money(Key)+Spencer Davis(Gt)っていうラインナップ――60年代英国ロック好きなら反応せざるを得ない……――がライヴでやってる(『EXTREMELY LIVE AT BIRMINGHAM TOWN HALL』)のがありますぞ。こちらは所謂ブリティッシュ・ブルーズロック的解釈。ズート・マネーのオルガン・ピアノがクールだ。

 

 それから、英国ものでは忘れちゃいけない、名シンガーJo-Ann Kellyがピアノとリズム隊をバックに熱唱するヴァージョンね(『KEY TO THE HIGHWAY』所収)。ジョ・アン・ケリーさんは英国最高峰のブルーズシンガーでいらしたと思います。あとは……オリジナルの世代のブルーズマンたちによるものもありました。Brownie McGheeさんがニューポート・フォーク・フェスティヴァルで歌ってる音源(『NEWPORT FOLK FESTIVAL:BEST OF THE BLUES 1959-68』所収)は、Sonny Terryさんのハーモニカとご本人のギターのみを伴奏にした軽快なプレイ。個人的に意外だったのは、わが最愛のブルーズマンJohn Lee Hookerさまがやっていたこと。彼のスタイルの曲じゃないよなあ、と思って聴くんですが……笑っちゃうくらいジョン・リーしてる。コード進行も執拗なリフ運びも、そして歌も、カレ流になってるのだ。(私は『BLUES IN TRANSITION1955-1959』という編集盤で聴きました。)

 

 他のアーティスト話への脱線が著しいですが、これでも憂歌団に受けたご恩にお礼申し上げるつもりでやっております。憂歌団の演奏で楽曲を知り――あるいは興味を深め――古今東西の他のアーティストのヴァージョンを探るに至ったケースがいっぱいあるということなのですよ。人の音楽ライフに影響を与えるのはオリジナル作品のみではないのです。私が以前からすぐれた編集盤やナイスなカヴァー・ヴァージョンの価値を力説してまいりましたのもそういうわけでございます。

 

 さて、戻りまして、またもエルモア・ジェイムズの「It Hurts Me Too」。ノッシノッシ歩くようなバウンド感が魅力のヘヴィ・ブルーズ。木村さんの情感こもった歌唱も、島田さんの重いようで軽く軽いようで重いドラムもいい味わい。エルモアのヴァージョンはピアノとホーン入り。このコーナー常連のバターフィールド・ブルース・バンドもやってますが、そちらはポールのソウルフル・ヴォイスとブルーズハープが主役のアレンジかな(『THE ORIGINAL LOST ELELTRA SESSIONS』で聴ける)。かと思うと同じく米国の至宝Canned Heatがピアノ入りのメロウヴァージョンをやってたり(Bob熊さんHite Jr.が歌います。『CANNED HEAT & JOHN LEE HOOKER RECORDED LIVE AT THE FOX VENICE THEATRE』所収)、英国ではJohn Mayall &The BluesbreakersがMick Taylorのギターを主役にしてやってたりします(『CRUSADE』に収録)。みんな大好きElmore James……あ、英国ハードロックの雄Foghatもアルバム『STONE BLUE』でRod Priceのスライド決めまくりヴァージョンをやってた。

 

 「Kind Hearted Woman」は、元はRobert Johnson曲ですが、先回も書きましたような事情で、憂歌団Muddy Waters版に依拠してるとのこと。たしかに、ロバート版と違ってスライド(ボトルネック)がバリバリに効いております。私はロバート・ジョンソンの方を先に聴いていたので、「随分アクの強いアレンジだなあ」と思ったものです。

 

 「King Fish Blues」もウォーキングするブルーズ。やや甲高いヴォーカルに、タッチの伝わるアコギ捌きという、憂歌団印。Tampa Redのオリジナルは、RCAブルースの古典』などで聴けますが、キーが違うことを除けば雰囲気はかなり近いかな。あ、ピアノがかすかに入ってたんだね。

 

 そしてもいちどマディの「I Can’t Be Satisfied」。これはもうボトルネックが決まらなきゃどうにもならない曲ですが、なんといっても内田ギターが完璧すぎる。地味ながら花岡さん&島田さんの推進力もあってグイグイ進むナンバーに。マディ・ウォーターズの原本は、マディのタフ・ヴォイスが強力。これもカヴァーが結構あって、私の手もとには、英国のブルーズ女王Jo-Ann Kellyが朗々と歌ってるやつ(『DO IT & MORE』所収)、The John Dummer Blues Bandがスライドギター全開でやってるやつ(『NINE BY NINE』に入ってる)、ジョン・ダマーとも縁がありジョ・アン・ケリーの弟でもあるスライド名手Dave KellyPaul Jones(昔Manfred Mannにもいたヴォーカリスト)と組んでライヴ演奏したやつ(『LIVE AT THE RAM JAM CLUB VOL.2』)と、英国モノがいくつか。ハードロックファンは、Paul Rodgers(元Free、Bad Company)の『MUDDY WATER BLUES』というMuddyトリビュート作品をどうぞ。Jason Bonhamの親父譲りの豪快ドラム+Brian Setzerの乾いた絶妙ギターによるハードロッキン・ヴァージョン「I Can’t Be Satisfied」が聴けます。ポール・ロジャースの歌がイイのは言わずもがな。

 

 「Careless Love」はLonnie Johnson版によってますが、元はトラディショナル・ソングだそうです。ロニー版のほかにSnooks Eaglin版てのが手元にあるので聴いてみましたが、スヌークスの方がややあっさり軽快、ロニーはほんのすこし芝居がかった歌い方に思えました。両者ともギターは軽やかに奏でるので、この曲のキモはそこなんでしょう。憂歌団もそれらの雰囲気を引き継いでます。木村さんの歌は力が抜けてていい感じ、内田さんギターはいわゆるブルーズの話法だけにとらわれず(間奏など)さり気ないバックアップが見事。

 

 アルバムの曲順とは異なってしまいましたが、美味しいところは触れさせてもらいました。今から探して聴くのは楽じゃないかも(廃盤?)しれませんが、ぜひどうぞ。

※☟こちらは“憂歌兄弟”ヴァージョン(⁉)

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<続く>