1-6「We Can’t Go Back Again」はデニスさんがメインで歌うアコースティック・ソング。Pete Sears氏のオルガンも雅な雰囲気を醸し出す。Grateful DeadのBob Weirさんを(ヴォーカルとギターで)フィーチュアした「The Well」は、バンジョーも入るカントリーフレイヴァ―入りの一曲。一方次の「Taste of One」はオルガンを除いてバンド(Ace of Cups)メンバーのみで録られたミドル・ソング。こちらはメアリ・シンプソンさんのスライド・ギターがいい感じ。
1-9「Mama’s Love」はCharlie Musselwhiteのハーモニカをフィーチュアしたブルーズ・ナンバー。(Mary Gannon作)アコギとドブロでKen Emersonさん、エレクトリックギターでJorma Kaukonenさん(Jefferson Airplane)が参加してますが、チャーリーのプレイがやっぱり耳を引きますかね。引き続いてヨーマさんがギターで加わった「Simplicity」は、物悲しい雰囲気。1分40秒辺りまでスロウで悲し気なんですが、その後疾走を始め曲調が変わって(ツインギターのソロも有り)盛り上がっていき、最後はまた冒頭のテンポに戻って終わる。Led Zeppelinの「Stairway to Heaven」の様式美ですな(?)。そして一枚目ラストはピアノやメロトロンも入るゆったりした「Feel It in the Air」、メアリ・ガノンさんがリードを取ります。この曲も後期ビートルズ(というか『ABBEY ROAD』)っぽい味わい有り。
リズムセクションが加わった音源は、8曲目から11曲目ですが、これはライヴのようです。「Please Find My Baby」は、イントロ部分は1973年の録音で始まって、クロスフェードで74年のライヴバージョンが始まるカッコいい演出。ステージだと木村さんの声が一層張りがあるのがナイス。リズムセクションが入ってドライヴ感が増したこともありますが、ボトルネック大炸裂の内田ギターがとにかく凄い。凄いったら凄い。わたしなんざ、エルモアのオリジナルより先にうっかりこっちを聴いちゃったもんだから、ご本家のを聴いたときに「アレ、意外にまったりしてる?」とか思っちゃった。
「Walkin' Blues」は、Eric Claptonが『UNPLUGGED』でやったので有名でしょうか。エリックはもちろんロバート・ジョンソン版に基づいていますが。まあ、この曲はクラシック中のクラシックで、カントリー・ブルーズ系の人もたくさんやってますし――個人的にはSon Houseのヴァージョン(in『THE COMPLETE LIBRARY OF CONGRESS SESSIONS, 1941-1942』)が好き――、The Butterfield Blues Bandのヴァージョン(『EAST WEST』所収)も名演ですね。あとは、「Born To Be Wild」で有名なSteppenwolfのJohn Kayがソロ・アルバム(『FORGOTTEN SONGS AND UNSUNG HEROES』)で弾き語り調カヴァーをしてたり、90年代にJohn Lee Hookerを好サポートしたスライド・ギターの名手Roy Rogersがダンサブルなヴァージョン(『SLIDEWINDER』所収)をやってたりと、探せばいろいろありますよ。憂歌団のはマディ版に基本的に忠実だと思います。
「Shake Your Money Maker」はエルモア・ジェイムズ原作の舞踏用ナンバー。このアップテンポのノリに抗することは出来まい。エルモアのは電気ギターでグイグイ刺激的に迫る楽曲ですが、憂歌団はアコギで弾き倒すのが面白い。ロック・ファンにはたぶん、Peter GreenのFleetwood Macのヴァージョンがアピールするかな。エルモアのをさらに速くエグくしたみたいなのね。ほとんどハードロックです。バターフィールド・ブルース・バンドも『THE PAUL BUTTERFIELD BLUES BAND』で演ってて、Mike Bloomfield & Elvin Bishopのギターコンビのプレイもファンキーでカッコいいですけど、フリートウッド・マックのブチ切れ演奏の方がロック小僧には効いたなあ。マイナーなところだと、Musician Union Bandっていうオランダのロックミュージシャンたちによるプロジェクト『MUSICIAN UNION BAND』(Spencer Davis GroupやIan Gillan Bandでお馴染みRay Fenwickが仕掛人)でもなかなかノリのよいヴァージョンが披露されてますぞ。
すぐ話が脇にそれるな……。「Look On Yonder Wall」もエルモア曲です。エルモアといえば!の3連フレーズが繰り出される軽快なナンバー。これまたナイスカヴァーがありまして、ポール・バターフィールドたちは「Look Over Yonders Wall」というタイトルでタイトなギターブルーズ/ロックを送り出してるし、ピーター・グリーンは『PETER GREEN SPLINTER GROUP』(ちなみに、ベースはNeil Murray、ドラムはCozy Powellだから、Whitesnakeファンは聴かないとまずいんじゃないですか?)でクールなピアノ入りヴァージョンを仕上げてます。憂歌団はこれらに比べるとオール・アコースティックだから牧歌的……なんかじゃ全然なくて、木村さんのホットな歌と内田さんの縦横無尽ギターが得難いドライヴ感を出しちゃってます。