さてさて、本作『METAL ROSE』に戻りますか。特に事前情報を得ていなかったので、当時店頭でこれを見つけた時は驚きました。2005年は、聖飢魔Ⅱが期間限定で再集結していたときではありましたが、パーマネントなミュージシャンとしては活動されていなかったゾッド親分が作品を発表とは?Trash Recordsというレコード会社も聞いたことがないなあ……と思って裏ジャケットのクレジットをよく見てみると、プロデューサとして“Satyrs Malsaw”の名が。これは、「サテュロス丸沢」氏では?後追いファンの私はリアルタイムでは存じませんでしたが、聖飢魔Ⅱ初期・中期のディレクターだった方。聖飢魔Ⅱの中期までのオールシングル集『愛と虐殺の日々――歴代小教典大全』に署名入りでコメントを書かれていたのをよく覚えているところであります。(なお、『愛と虐殺の日々』は2013年に「ソニー時代完全版」という新ヴァージョンが出まして、そちらの方がより多くの曲を網羅しておるわけでありますが、丸沢氏のコメントはなくなってしまっております。氏の言葉を読みたければ、91年版『愛虐』をお求め下さい……?)なかなか本題に入らないな。
『METAL ROSE』1曲目は、タイトル曲「Metal Rose」。明瞭なメロディラインを歌い上げるゾッド親分――ヴォーカルに専念しております――、さながらメタル演歌といった趣。(“演歌メタル”ではないので念の為。)全体にはメタルというかハードロック調でありまして、ギター・ベースのリフが先導するのでありますが、イントロに聴こえるピアノや一番と二番の間に入る短いオルガンソロなど、キーボードがこの曲ではいい雰囲気を出していると思います。
2曲目「Zod’s Night」は、いきなりベースソロから始まる……のでありますが、このソロ、聖飢魔Ⅱ第2大教典『THE END OF THE CENTURY』収録の「Demon’sNight」のイントロによく似ております。というか、意識的に似せているのでしょう。親分のベースプレイといえばこれ!後で紹介しますが、映像で観られるヴァージョンもあります。
で、そこから先はもちろん別の曲です。まずヴァースの部分はラップ調(?)というのでしょうか、ライムを強調した歌詞とヴォイスで押します。ブリッジ部分はゆったりというか長あく引っ張るフレーズ(例「かーみーよーのーむーかーしーよーりー」←聖飢魔Ⅱ「悪魔組曲・第2楽章『悪魔の穴』」へのオマージュでせう)に転じ、コーラスで正統的歌い上げハードロックになるという展開……文字で読むとよくわからないかも知れませんが。
あと、ワシャワシャした(一聴チープな)音作りがこの曲ではいい方向に作用してますね。(「Metal Rose」のような曲ではともかくとして。)曲の最後に、名ゼリフ「ゾッドだ!」――聖飢魔Ⅱのステージに飛び入りする場合はこのキメゼリフを叫ばれるのが常――が入ってるのも嬉しい。私からすると本曲がこの作品のハイライト。
「Pirates」は、歌詞的にはもっとも聖飢魔Ⅱ時代を回顧している――というか聖飢魔Ⅱ及び信者らへの想いを表現してる――ようであります。「砕かれた鎌のベースが、よみがえり火を吹く」なんて一節がありますが、これは本解散(1999年)時のミサにゲスト参加したゾッド親分が、自らの“鎌の形のベース”を終演時に叩き壊したことを指しています。聖飢魔Ⅱのドキュメンタリー作品『ウラビデオ』でもこの場面はフィーチュアされているんですが、ナレーション(by 神谷明氏)はこう添えていました。「ゾッド親分は、そのシンボルである鎌ベースを、自らの手で叩き壊した。聖飢魔Ⅱとの思い出を、断ち切るかのように。」……で、『METAL ROSE』の作られた2005年には、聖飢魔Ⅱが期間限定再集結していまして、ゾッド親分もベースを自ら修復して一部のステージにゲスト参加、信者らの前に姿を現した、のであったわけ。
曲の内容と曲名の関連はよくわからない(歌詞にも「Pirates」及び関連語は出てこないような……)のですが。リズムはいたって単純・シンプルなんですが、歌のメロディラインは結構込み入ってるような。
ラストは「Bashing Hero」という曲ですが、「平坦メロのヴァース」→「歌い上げコーラス」のパターンはほぼこれまで同様。歌詞のテイストは他3曲のファンタジー風味とはやや異なっておりまして、ほんのりと社会風刺が入っているみたいです。「日本万歳 景気回復 絶対安心 将来有望 Hey Hey Hey Hey Yeah」というのをどう解釈するか、ですが。繰り返しますが、これは2005年の作品です。その当時の世態を想起して聴きたいところ。
わずか4曲ですが、ゾッド星島というひと(もとい悪魔)のロックにかける情熱、聖飢魔Ⅱへの愛情がよくわかる作品となっております。現在では入手は難しいかもしれませんが、チャンスがあればぜひどうぞ。
<関連作品>
(1)聖飢魔Ⅱ『THE END OF THE CENTURY』(1986)
「Zod’s Night」の元ネタと考えられる「Demon’sNight」を収録。
このアルバムはバンド創始者ダミアン殿下作曲の楽曲を多く収めるものですが、ジェイル代官作の“新しい曲”も2曲ありまして、それが名曲「Fire after Fire」とこの「Demon’sNight」なのでございました。おどろおどろしいベースリフにて始まるミドルテンポのヘヴィ・ハードロック。
正直申しますと、「The End of the Century」「Jackthe Ripper」「蠟人形の館」といった有名曲(ステージでもよく演奏されました)の並ぶ中では、さほど強く印象に残る曲ではなかったのですが……1999年の本解散時、12月30日の「TheSatan All-stars Day」(歴代構成員大集合)で“地球デビュー時の構成員”によって演奏されまして、その映像にはインパクトがありましたね。ゾッド親分のベースソロ、やたら格好良いジェイル代官、終盤疾走モードに入ったときの楽団の一体感。「こんなに良い曲だったっけ?」と。それと、映像だとよくわかるのですが、メインのデーモン閣下の歌唱の後で合いの手的に「Hey! Hey!……」と入れて来るゾッド親分の「コーラス」参加の貢献度の大きさ。80年代の初期聖飢魔Ⅱに関する記述をたどると、ゾッド親分のステージング・コーラスはバンドの大きな個性だったとされていたのですが(私はその当時は観ていないので知りませんでした)、こういうことだったのかと。
(2)ダミアン浜田『照魔鏡』(1996)
ダミアン浜田殿下がインディーズレーベルから出したソロ・アルバム。ギターは殿下自身が弾き(他にシンセやプログラミングも)、ドラムはライデン湯澤殿下、キーボード類は松崎雄一様が担当。ベースは7曲でゼノン石川和尚、3曲でゲスト参加の人間椅子・鈴木研一氏がプレイ。そしてヴォーカルはほぼダミアン殿下がとっておられますが、デーモン閣下・エース長官・ゾッド親分が1曲ずつ歌っています。鈴木さんのヘルプもありますが、全体としては聖飢魔Ⅱの新旧メンバーがバックアップして出来た作品。
ゾッド親分のリード・ヴォーカルは、私は本作で初めて聴きました。意外に(失礼!)上手だ……。チューブラーベルの響きで幕を開ける4曲目の「ANOTHER…」という曲。疾走曲(アルバム2・3曲目)が続いた後にくるミドルテンポの楽曲で、聴き所はまずゾッド・ヴォーカルと、ゲスト参加の鈴木氏のベース。後者については雑誌のインタビューでダミアン殿下が「アクティヴなベースだなと思った」と語ったとか……(それを後日知った鈴木氏は、「あいつ弾き過ぎでねえか」と殿下から思われちゃったのでは(笑)という趣旨の発言を「第79回人間椅子倶楽部」でされてますが。)ミックスの関係もあってベースラインがやたら強調されているのですが、これはこれでイイ。ゼノン和尚とはまた違った味わい。このほか鈴木氏は「月光」「照魔鏡」という曲でプレイしてます。
そして、様式美ギターソロ、チェンバロ風キーボードソロあけの歌詞「煩悩の狭間には 見えないピアノ線が張り巡らされている」、これがどういうわけか記憶に残るのですわ。“ピアノ線”っていう単語は使われそうであんまり効果的に歌詞に使われた例はない気がするんですが、ここだとゾッド親分の――朗々としたデーモン閣下とは違う――歌唱も相まってちょっと背筋寒い感じを演出してる……と思うのですがどうですかね。
(3)聖飢魔Ⅱ『オール悪魔総進撃THESATAN ALL STARS』(活動絵巻教典=VHS,DVD)
以前にも言及したかと思いますが、1995年の新旧構成員参加イヴェントの記録。ゾッド星島親分は「怪奇植物」「蠟人形の館」「Jack the Ripper」「悪魔組曲作品666番ニ短調」で登場。創設メンバーとして、ということでしょうか、全楽曲ダミアン浜田殿下も登場する曲でございます。地球デビュー前はこういう感じだったのかなと想像する次第。
各構成員の短いインタビュー(ゾッド親分のもあり)や、ダミアン殿下・デーモン閣下の対談も収録されたお得な内容。というか、私が初めて買った聖飢魔Ⅱの映像作品(VHS)なので思い入れが半端ない。高校の頃、一緒にバンドをやってた友人に(無理やり?)貸したりもしてました……ってこりゃあいまでもあんまり変わらんな。とにかく後追いファンとして必死だったのですよ、バンドの良さを知り、さらに周囲に広めようとね。
いまではDVD化され手軽に観られるようになりましたから、皆様もぜひ。新旧メンバー豪華に登場のナンバーも良いですが、当時の正規構成員(デーモン・エース・ルーク・ゼノン・ライデン)による「Overture~WINNER!」「Guns ’N’ Butter」「Big Time Changes」なんかも力強さと洗練の絶妙なブレンド具合が素敵。何と言いますか、非常にうまい演奏でありながら、予定調和に陥っていないところがよいんですよ。特に「Guns ’N’ Butter」は好き。「蠟人形の館」とか「地獄の皇太子」とかの初期HM名曲くらいしかよく知らなかった時期に観て、「エッ、ナニこのナイスなリフと疾走感?ヴォーカルも凄いし……タッピング全開の超絶ギターソロも信じられん」……ってなったのね。いまでも名曲ベスト20くらいには入れたい。「この曲の入ってるアルバムはさぞメタルを極めているのであろう!」と意気込んで買ったのが『PONK!』という作品でございました。
“メタルを極めて”云々がこっちの勝手な誤解であることは、聴いてすぐわかったのですがね。バラエティに富んだ――よくいう、おもちゃ箱をひっくり返したような――作風はいまだとすごく楽しめるのですが、当時は唖然としたものでした。前回かな、言及したMegadeth『RISK』なんかもそうですが、少ない情報からCDを買うというのは大冒険なのですよ。でもねえ、それだけに「買っちゃったんだからいいところを探そう!」と思って一生懸命聴く、っていうこともあるよね。現在のようにあらかじめインフォメーションやら世評(レビュー)やらが“見えて”しまっていると、そういう出会いは減ります。