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Stratovarius「Deep Unknown」『POLARIS』(2009)
みんな大好き(?)Stratovarius。メンバーチェンジのゴタゴタあろうが『BURRN』の編集部と揉めようが、このバンドがフィンランドの英雄である事実は変わらない。
などといいつつ私はやっぱり後追いでした。別の高校に行ってた友人(当時はお互い知らなかったんだけど)が文化祭で「Father Time」をやってたと後に聞いて、「いいセンスしてる」と思ったなあ。そう、我々が高校生くらいの時は、メタルはメジャーだったのよ。(BURRN叢書No.29『ビッグ・イン・ジャパンの時代』をお読みください。)
「Hunting High And Low」がちょっと流行ってたくらいなんだから。……信じてもらえなさそうだけど。因みに、私は「Will The Sun Rise?」がたぶん一番好きです。『VISIONS OF EUROPE』というライヴ盤での演奏も良くてさあ。……だったらそれを紹介しろよ、ってなもんですが、まあ慌てないで。
偉大なバンドであるストラトヴァリウスは安泰なんだろうと思っていたら、そうでもない様子が見えてきたのが2000年代後半。リーダーのギタリストTomi Tolkkiと他のメンバーの間に摩擦が生じ、「リードヴォーカルが替わる」という話などが出た後、結局トルキ自身がバンドを出ていくことになっちゃいました。(ちなみに、Timo Kotipeltoに代わるヴォーカリストとしてトルキが挙げたのが、Miss Kという女性でした。この方の実力はわからないのですが、アー写が奇怪で、なぜか口元が血まみれのブラックメタルまがいの女性(Katriina Wiiala=Miss K)がポーズをとっているという。Arch Enemyでもやらねえよな?っていうピクチャーがいきなり出されたので(ティモ・トルキも不安定だったのかもしれん)、さんざんに叩かれてしまいました。Kさんはわるくないとおもう。
結局トルキが去り、残ったメンバー(ベースも交代したけど)は新ギタリストを入れてニューアルバムに取り掛かったというわけ。それが今回の『POLARIS』です。なんといってもメインソングライターとリードギタリストがいなくなっちゃったんだから、一大事ですよね。こっちも、「もう別バンドになるのでは?」とハラハラしたのですが、出てきた音を聴いて納得、いや、感心しました。後任のギタリストMatias Kupiainenはむちゃくちゃ若いんですが、曲も書けるしテクニカルでメロディアスなプレイも安定してるし。こんな逸材がさらっと出てくるんだからフィンランドはやっぱりメタル大国なのよ。わかりにくい喩えで悪いけど、Ten Years Afterに入ったJoe Goochバリ。「無名に近かったヤングジェネレーションが、ソングライティングとテクニカルプレイで老舗バンドを若返らせる」典型例。
「Deep Unknown」はアルバムのリーダートラックなんだと思いますが、当時はMVも作られてました。伊藤政則ROCK CITYで観た気がするからね。マティアスとイェンス(Key)のスーパープレイが見られて満足……なのだが、実はこのバンドにおいて「音」の質を決定づけているのはドラムなのである。そのことがMVでもCDでも聴くとわかるのだっ。
当時のドラムはご存じJörg Michael先生。この人のドラムはとにかく「硬い(硬質)」。プレイがぎこちないって意味ではなくて、至極かっちりしているのね。音数の多いギターやキーボードを上に載せることに専念した職人芸なんだと思う。のちにやむを得ない事情でバンドを離れていきますが、初代のドラマーTuomo Lassila(そもそもは彼がバンドの創立メンバーであり名付け親)の後を引き継いで「ストラトヴァリウス・サウンド」を確立した功績はあまりにもデカい。私が好きな「Will The Sun Rise?」は彼が参加して一作目の『EPISODE』であった、ということも見逃せないね。Axel Rudi Pellのところでも長年にわたりいい仕事をしてた名ドラマーだし、ヨルグ・マイケル先生をみんなでもっと讃えようぜ!
『POLARIS』は、中心人物ティモ・トルキ去りしあとの作品ということもあってか、メンバーが曲をいろいろ持ち寄っています。コティペルト・クピアイネン組、イェンス・ヨハンソン、そして新ベーシストLauri Porra。ラウリ・ポラーはなかなかの才人で(プログレッシヴロックの素養もあり)、本作でも「Forever Is Today」のようなストレートなメロパワから抒情的バラード「When Mountains Fall」、そして大作組曲「Emancipation Suite」まで幅広く提供してます。
というわけで、ストラトヴァリウスの歴史が新しいチャプターに入った記念碑的作品が、『POLARIS』と「Deep Unknown」だったというわけです。お勧め!