DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

どんぱす今日の御膳295

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Tempest「Funeral Empire『LIVING IN FEAR』(1974)

 英国のプログレッシヴ・ハードロッカーTempestは、2枚しか作品を残していませんが、その2枚ともが超絶ギタリストをフィーチュアした名品なのであります。

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 私はもちろん同時代に聴いていたわけではなく、2000年代にディスクガイドの類で知って手を出したのですが、当時のお目当てはファースト・アルバムのAllan Holdsworthでした。“超絶”なんていう陳腐な言葉じゃ表せないようなギターが聴けるらしい!ということで、輸入盤のファースト『TEMPEST』を買い、不思議な煮え切らないハードロックに浸りました。分かり易い音ではなかったが、楽しめた。

 その後しばらくしてから、「セカンドもあるなら聴いてみるか」という局面にようやく至ります。セカンドになかなか手が伸びなかったのは、「アランが抜けちゃってた」「専任ヴォーカリスト(Paul Williams)も居なくなってた」の2点によるものだったのですが……後任のOllie Halsall(ギター兼ヴォーカル)は凄かった。知らなかったことを猛烈に後悔するぐらい凄かった。アランもある面ではそうでしたが、“ギターらしからぬ”フレーズを次々繰り出す奇天烈さ。それでいてポップさを失わないメロディセンスと歌心。(オリーはビートルズマニアらしいので、ルーツはその辺にあるかと。彼はラトルズでプレイすることになるしね。)

 

 今回挙げたのはセカンドの冒頭を飾る軽快なロックンロール。手数が多くテンポチェンジもお手の物のドラミング(by Jon Hiseman)も良し。“♪The sun will never go down, the sun will never set……”と歌われるから、お題は“陽の沈まぬ帝国=大英帝国”なんでしょうけど、それが「Funeral Empire」(葬儀帝国――funeral pyre(葬式で遺体を焼く時の薪)に掛けてあるのでしょう)だというところに皮肉の聴いたブリティッシュユーモアが込められてゐる。のか?

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 このセカンドアルバム『LIVING IN FEAR』は楽曲粒ぞろいで、続く「Paperback Writer」(勿論天下のThe Beatlesのカヴァー)も楽しいよ。大人げない感じの(笑)疾走感がたまりません。

どんぱす今日の御膳294

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Praying Mantis「Children Of The Earth」『TIME TELLS NO LIES』(1981)

 よし、メタルに戻ろうか。NWOBHM中メロディアス派の守護神Praying Mantisの中心メンバーは、勿論TinoとChrisのTroy兄弟ですね。彼らのセンスは実に素晴らしい……とか言いながら、当然私(80年代生)はリアルタイムでは全然知りませんでした。それどころか、最初に彼らの音を聴いたのはオリジナルアルバムですらなかった。

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 『LIVE AT LAST』(1990)っていうライヴ・アルバムがあってですね、“NWOBHM十周年を記念したコンサート”を収録したものなんですが、そこにトロイ兄弟+ポール・ディアノ(Vo、元Iron Maiden)+デニス・ストラットン(Gt、元Iron MaidenLionheart)+ブルース・ビスランド(Dr、元Statetrooper他、のちPraying Mantisに入る)という編成のスペシャルバンドが出たということなんです。(曲によってメンバーの出入りがある。)

 

 これを2000年以降に中古で手に入れて、「へー、元メイデンのポールが歌ってんだ?」くらいの気持ちで再生し、はじめはアルバム後半のアイアン・メイデン曲ばかり聴いたわけですが、そのうち前半もちゃんと聴いてみるとそれはそれでメロディアスでなかなかいい。Praying Mantisって、名前しか知らなかったけどちゃんと聴いてみようかな……となってようやくこのファーストアルバムにたどり着くわけね。すでに名盤の誉れ高いので、私が今更追加することはないですが、劇的なこの「Children Of The Earth」(歌はクリス)はもちろん、ティノの塩辛ヴォイスも似合うハードな「Panic In The Streets」や、Steve Caroll(Gt)の歌うオープニングの「Cheated」の爽快さ……やはり良いですな。

                                                               

 そうそう、私がスルーしちゃいけないのは2曲目よ。はいはい、The Kinks「All Day And All Of The Night」のハードなカヴァーです。この曲も「You Really Got Me」あたりと同様、“みんな大好き”でね、のちに(1987年)ロンドン・パンクの長老(?)The Stranglersがカヴァーしてシングルヒットさせてますね。Praying Mantisのヴァージョンは、オリジナルに対し割と忠実な(生真面目な?)カヴァー、かな。パンクからメタルまでみんなに敬われるキンクスがやっぱり偉い!……じゃなくて。Praying Mantisですが、メンバーチェンジを経ながらもトロイ兄弟はロックし続けているわけでして、偉い!

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どんぱす今日の御膳293

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The Dictators「Faster And Louder」『BLOODBROTHERS』(1978)

 前回からのニューヨークつながりでこんなのはいかが。70年代半ばから活動するパンク(プロト・パンク?)The Dictators『BLOODBROTHERS』はそのサードアルバムで、冒頭を飾る「Faster And Louder」がこのガシャガシャした最高のハードナンバー。速弾きギターにはメタル的なカタルシスも有り。Richie Teeterのタイトなドラミングもイイね。

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 パンク・ロックの歴史上きわめて重要なグループですが、私はパンク・リスナーとしてこのバンドに突き当たったのではありませんでした。そう、メタル経由なんですなコレが。ココのギタリストRoss Friedman氏=Ross The Bossが80年代にはかのManowarのオリジナルギタリストとして君臨しているのでした。Ross The Bossのセンスって結構面白くて、ゴリゴリのメタルをプレイしているようでいて、不思議とチャックベリー由来の(ような)“ロックンロール感”があるんですよ。これは後世のメタル・ギタリストの多くにはない点でして、Manowarのファーストあたりではそれもちゃんと味わえたりします。(近年出したソロアルバムでもほのかにその個性は出ています。)

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 「Faster And Louder」をはじめ本アルバムの多くの曲はAndy Shernoff(ベース)が作曲していますね。才人。もちろんHandsome Dick Manitobaの太いヴォーカルもナイス。あ、クレジット見てたら、プロデューサーの一人にSandy Pearlman(Blue Öyster Cultの初期の仕掛人)が入ってますね。なあんだ。ニューヨークのロック界隈って意外に狭い?

 

 『BLOODBROTHERS』はこれまた名盤でして、他にもRamonesっぽさもあるポップなリフロック「Baby, Let’s Twist」とか、メロディアスな「No Tomorrow」、結びにくるタフな「Slow Death」までお楽しみがいっぱい。

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どんぱす今日の御膳292

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Buck Dharma「Born To Rock」FLAT OUT』(1982)

 米国の偉大なハードロックバンドBlue Öyster CultのリードギタリストBuck Dharma(Donald Roeser)のソロ・アルバム。バック・ダーマっていうのは、BÖC初期のマネージャーSandy Pearlmanが“エキセントリックなステージネームをつけようぜ”っていうアイディアを出したため名乗ることになった芸名だそうですが。

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 BÖCでもこの人は歌ってますが――ヒット曲「(Don’t Fear)The Reaper」とかで――、このソロ・アルバムでももちろん全面で歌唱。Eric Bloomより少し細くてクール……というか、私には(The Kinksの)Ray Davies的に聴こえる時があるのよ。(Blue Öyster Cult『HEAVEN FORBID』の「Harvest Moon」とか「X-Ray Eyes」とかを聴いてみてね。)

 

 これまで唯一のソロ・アルバムFLAT OUT』ですが、BÖCよりはややポップさを正直に出したハードロックというところ。「Born To Rock」の他だと、私は「Cold Wind」あたりが好きですな。

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 ソロ・アルバムだからいろんなミュージシャンが関与してますが、「Born To Rock」でベースを弾いてるのはDennis Dunaway、ドラムをたたいてるのはNeal Smith(ニールに至っては作曲にもクレジットされてる)です。さよう、オリジナルAlice Cooperの面々ですよ(私も今確認して知った)。アメリカン・ハードロックの祖たちの競演!

 

 エンジニアでKen Kessie(Anthem『TIGHTROPE』の仕事で日本では有名?)、リ・ミキシングでTony Bongiovi(Jon Bon Joviの従兄)なんてクレジットも。BÖCもそうですが、「ニューヨーク産」のロックですね。じゃあ、Riotとかとも意外に近かったのかな?どーなんでしょう。

 「Born To Rock」はなかなか面白い(いかにもエイティーズな)ミュージックヴィデオが作られてるからそれを御覧なされ(本文冒頭)。ヒットしたからなのか、83年頃のBlue Öyster Cultのライヴでは、「Born To Rock」(BÖCヴァージョン)もやってたりするのだぞ。ロック好きはスルー出来ない一曲。

どんぱす今日の御膳291

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Little Richard & 高中正義Tutti Frutti」(『RICHARD MEETS TAKANAKA』1992)

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 リトル・リチャードの映画(『LITTLE RICHARD: I AM EVERYTHING』)が日本公開されるってんで公式サイトを覗いたら、高中さんが長めのエピソードを語っておられるのがあって、「あ、こんな作品があったな!」と思い出したやつです。全10曲入りのアルバム。このジャケットの「裏面」も面白いので、ぜひ探して見てくださいね。

 「Tutti Frutti」をはじめそもそもLittle Richardのヒットナンバーばっかりなので曲がイイのは言うまでもないんですが、パフォーマンスもスゴイ。高中さんの弾きまくりにあおられてなのか、リトル・リチャードのノドも絶好調!?年齢のことを言うのもなんですけど、このころもう60歳近かったはずで、そんでこんなシャウトしまくりですよ。

 

 オリジナル・ヴァージョンが出てから実に35年後*に、同じかそれ以上のテンションで「歌う」のって、かなりすごい。

*〔注〕厳密には、シングルは1955年に出ており、それを含むアルバム『HERE'S LITTLE RICHARD』が1957年発表です。

これって、

ポール・マッカートニーが「I’m Down」を2000年に歌う(⇐1965年)

イアン・ギランが「Speed King」を2005年に歌う(⇐1970年)

ゲディ・リーが「Bastille Day」を2010年に歌う(⇐1975年)

ポール・ディアノが「Prowler」を2015年に歌う(⇐1980年)

デーモン閣下が「地獄の皇太子」を2020年に歌う(⇐1985年)

……という様なもので、相当レアであることは確かでありましょう。まずアーティスト(又はバンド)が“長寿”でなければ無理だしね。

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 この92年版「Tutti Frutti」は、アレンジがオリジナルから変わっていて、冒頭にソロギター入りのインストセクションがつけられてから始まります。「あのシャウト」から始まらない……ので、最初は違和感があるのですが、兎に角主役の二人が無茶苦茶元気で“ノリノリ”(最早死語っぽいがこの言い方でないと表せぬ)なので、だんだんどうでもよくなります。リトル・リチャードは60年代も70年代もこの曲を歌い継ぎリメイクもしてきていますけど、「歌」に関してはこれを超える熱さのはあんまりないんじゃないかな。

 

 それと、やっぱりギターですね。リトル・リチャードのバックは伝統的に「ギター・バンドじゃなかった」わけで――リード楽器はサックスが多いよね?――、ごく一時期Jimi Hendrixがバックバンドに居たなんていうのを除けば、“ギターとリトル・リチャードの組み合わせ”は珍しい筈。でもここでの相性は良好で、2分49秒あたりでリトル・リチャード“Take it, Takanaka!”と煽ると突入する高中正義さんのソロは楽しい。一聴の価値ありです。

 

 本作、リズム部分は時代を感じるというか、80年代以降っぽさそのものなので、Earl Palmerのバックビートを尊崇(勝手に)している私からするとちょっと淡白すぎますけど、その分主役は光ってます。何度も言いますが、還暦ミュージシャンの熱い心意気を感じ取れるか。むしろこっちが試される気さえしますね。

 最後にアルバムのクロージング・ナンバーもどーぞ。“♪Ready Teddy!”

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*あ、最後に。映画(『LITTLE RICHARD: I AM EVERYTHING』)も観に行きましたが、良かったですね。さっき名前を挙げたEarl PalmerやCharles Connorといった「リトル・リチャードのバックで叩いていた」人たちのほか、彼の60年代初期英国ツアーでバックにいたSounds IncorporatedのTony Newman(やはり名手の中の名手ドラマー!)まで登場して、ドラムファン的にも大満足!?Little Richardはロックンロールのオリジネイターであり、パンクの祖でありハードロックの親であり、グラムの姉でありファンクの兄である……というようなことがよーっくわかりました。