DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

時代の産物を追う?〔続〕(23)

<2019年作品>

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 Steve Morse先生が参加してるのでわたしがスルーするわけ(にいか)ないプログレ・バンドFlying Colors。これまでに二枚のオリジナル・アルバムと二枚のライヴ・アルバムを出してますが、どれも高品質。ドラムは元Dream TheaterのMike Portnoy、ベースはスティーヴ・モーズの右腕Dave LaRue、キーボードが元Spock’s BeardのNeal Morse、リードヴォーカルにCasey McPherson。

 (2)Flying Colors『THIRD DEGREE』(USA)

  1. The Loss Inside
  2. More
  3. Cadence
  4. Guardian
  5. Last Train Home
  6. Geronimo
  7. You Are Not Alone
  8. Love Letter
  9. Crawl

<メンバー>

 Casey McPherson(Vo, Gt)

 Steve Morse(Gt)

 Dave LaRue(Ba)

 Neal Morse(Key, Vo, Gt)

 Mike Portnoy(Dr, Perc

 現代プログレの猛者が集まりながら、「歌モノ」としての完成度を優先させる作風。正直なところを申し上げると、彼らのファースト『FLYING COLORS』(2012)を聴いたときほどの感激は、今回はありませんでした。というのは、言い換えれば彼らの作風が高品質で安定しているということでもあるのですが。

 

 そのクオリティの高さはコンサートでも同様。彼らの二枚組ライヴ『LIVE IN EUROPE』(2013)で、ファーストの各曲+メンバーの持ち曲(もといたバンドの曲とか)を自由自在に演奏しているのを聴いて「はあ、うまい人らってのはいるもんだ」と溜息しか出なかったこともあります。(私は、Dixie Dregs「Odyssey」がピックアップされてるのに驚き喜んだクチですが。)

 

 あんまりしっかりしてたんで、セカンドアルバムとセカンドライブアルバムをスルーしちゃったくらい。(そんなんじゃスティーヴ信者を名乗る資格がなかったね……)

 

 今回の作品も、事前にはチェックしてませんでした。専門店(Recofanだったかな)で「箱入りヴァージョン」を売ってたのがどうにも気になって、あらためて手を出した次第。別ミックス(ヴァージョン)の入ったボーナスディスクのほか、コースターやポスターが入ってました。

 

 作品は、前のもの以上に「聴きやすく」なっている感じがしました。たんにポップでキャッチーになったというわけではありませんが――だいたい、一番短い曲で5分08秒なんていうポップスはおかしいだろ、ね――、シンプルなところはシンプルに、込み入ったとこは込み入った風にというメリハリが一層きいたために、流して聴きながらダイナミズムが感じられるようになりました。例えば「The Loss Inside」も、快活なハードロックという印象……ギター・ソロがDeep Purpleでの「それ」っぽくなってるなあと思ったら、キーボード・ソロもパープル風に挿し込まれますね。

 

 「More」もヴァース部分はストレートなロック仕様。こういったプレイもうまいのがMike Portnoyさんで、他の“プログレ・ドラマー”(往々にしてシンプルな8ビートは得意じゃなかったりする……)とは別格の腕を見せつけます。録音が良いこともありますが、ドラム・ワークの細部まで生々しく感じとれるのが人力音楽派には嬉しい。そして、こういう曲のプレイを聴いていると、「やっぱり、ポートノイ氏は故Neil Peartの正統後継者だなあ」と思いますね。具体的に言うと、彼らには、プログレやジャズの感覚もありながら、伝説の故Keith Moonのテイストが必ずどこかにあって「ロックっぽい」んですよ。あとは後半の鍵盤ソロがおもしろいかな。

 

 「Cadence」はゆったり軽やかな楽曲で、メロディアスなギターも良い。「Guardian」はリズムの遊びが面白いダンス・ナンバー(なわけないか。足がもつれそうだ)。途中で爽快な8ビートに移行してスカッとさせてもくれます。うん、まずはこの曲が気に入りましたよ。ギターソロはテンポを落としてじっくり聴かせてくるし、Dave LaRueさんのベースソロもたっぷりあるし、締めにはまた例のリズムパターンが来るし。

 

 壮大さを感じさせるイントロから始まる「Last Train Home」は、10分半の大作。いわば楽章があって構成がしっかりあるんですが、穏やかなパートからギターソロをブリッジにして三連のスピーディなパートに移り……といったあたりの巧さは流石。それでいて器楽大会に終わらず、歌がしっかりヤマ場に来るので、疲れずに聴き通すことが出来ます。後半は全盛期のKansasのような雰囲気もある気がします。

             

 さて折り返しの「Geronimo」は雰囲気を変えて、スラッピング・ベースが印象的なジャジーな乗りの一曲。我らがスティーヴ・モーズ先生のギターソロも冴え渡る。少し長いけど、これも気に入った。“♪Wowow~”なんていうコーラスも意外性があって良いね。

 

 ワアッと盛り上がった後でクール・ダウンしときましょう。「You Are Not Alone」はピアノ+アコギ伴奏のバラード。途中からはフルバンドになりますが、あくまで主役は歌。続く「Love Letter」が軽やかに弾んであたたかみのある楽しさを演出すするのと、ぜひセットでお聴きください。後者のThe Beach Boys風のコーラスワークも面白い。

 

 そして迎える幕引きには、11分超の「Crawl」が控えております。前半は穏やかだなあと思っていると、グラデーションでだんだん盛り上がっていって、5分過ぎ辺りからのスティーヴのスーパー・プレイが最初の山となります。とはいえ、ちょっとパートの区切りが明瞭すぎるかな。ギターの目立つところがここと終盤に割り振られてる感じでね。

 

 ボーナスディスクの「Crawl(Instrumental Arrangement & Mix)」(少し短い)の方がプログレ耳には刺激があるかも。可能ならデラックス版(ボーナスディスク付き)をお聴きになられると楽しいですよ。曲目は、

Flying Colors『THIRD DEGREE(Bonus Disc)』

  1. Waiting For The Sun (Unreleased Bonus Studio Track)
  2. Geronimo (Instrumental Arrangement & Mix)
  3. You Are Not Alone (Instrumental Arrangement & Mix)
  4. Love Letter (Alternate Acoustic Arrangement & Mix)
  5. Last Train Home (Instrumental Arrangement & Mix)
  6. Crawl (Instrumental Arrangement & Mix)

となってます。おまけディスクながら42分もあるし、ヴァージョン違い、アレンジ違いも楽しい。

 

 とまあ、「刺激は薄れた」とか言いながら、けっきょくはお腹一杯持て成されてしまうのであった。モーズ先生、Steve Morse Bandが無理なら、Flying Colorsでもいいので来日してくださいませ……

<続く>

どんぱす今日の御膳032

032

Bob Seger & The Silver Bullet Band「Heavy Music」(『LIVE BULLET』1976)

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 はじめにこの曲を聴いたのはWayne Kramerのライヴアルバム(『LIVE AT DINGWALLS 1979』)だったという邪道振りが私っぽい。ボブ・シーガーデトロイトの人で、ウェイン(当時元MC5)もデトロイト人。ううむ、デトロイトロックシティなんだねえ。

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 性急なウェイン版に比べると本家はグッと腰が据わってて“ヘヴィ”。ボブさんの哀愁タフヴォイスも味わい深い。地元デトロイトの聴衆も大盛り上がり、コール&レスポンス込みで8分以上の熱演に。

第56回「XTX & Cold Blooded Animal」(1)

 「X」始まりのアーティストが少ないため、だんだん苦しく……

 中国(大陸)のミュージシャン謝天笑(XTX)氏のバンド「冷血動物」のアルバムが二枚あったのでこちらにしようと思います。

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 謝天笑氏は1972年山東(淄博)の生まれ。90年代から音楽制作を始めたそうです。1997年には冷血動物楽隊を結成、ファーストアルバム(後述)は2000年に発表。中国各地のほか、日本にも来たことがあるそうです。しばらくアメリカで活動したあと、2003年に中国に戻り、北京で冷血動物楽隊を再建、セカンドアルバムの制作を開始するとともにバンド名を「謝天笑与冷血動物」に変更。2005年に『X.T.X』を発表。

 

 その後も活動を続けられているようですが、私は音源を持っていないので割愛します。「百度百科」などで情報がまとめて見られますし、日本語で知りたい方にはChinese Rock Databaseさんをお勧め致しておきます。こちらの情報量と密度は凄いです。(http://www.yaogun.com/index.htm

 

 さてアルバムは如何に。古い方からいきますと……

 

Cold Blooded Animal冷血動物『COLD BLOODED ANIMAL(冷血動物)』(2000)

  1. Xingfu(Happy)(幸福)
  2. Outside the Window(窗外)
  3. Forever A Secret(永遠是個秘密)
  4. The Place Where Buried Treasure Lies(埋蔵宝蔵的地方)
  5. Epitaph(墓誌銘)
  6. I Think I Might Have Died Last Night(昨天晩上我可能死了)
  7. Way Back When(很久以前)
  8. The Circling Sun(循環的太陽)
  9. Patient: Terminal(絶症病人)
  10. Lake Yanxi(雁栖湖)

<メンバー>

 謝天笑(Vo, Gt)

 李明(Ba)

 武鋭(Dr)

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 這いずり回るようなベースのリフレインに始まる「幸福」。敢えての単調なドラムと、歪みとクリーンの切り替えが極端なギター、そして何よりローテンションとブチ切れを織り交ぜるヴォーカルが、古き良きグランジ(というか、Nirvana)を感じさせます。続くアップテンポの「窗外」も、ヘヴィ(陰鬱)でありながらどこかポップなKurt Cobainの作風を継承。武鋭氏のドラミングも全力感がよく、さらにキレが良くなればDave Grohlの境地に達せそう。あんまりNirvanaにこじつけるのもどうかと思いますが、次の「永遠是個秘密」なんかは「Come As You Are」のフィールがあるのよね。こちら(Cold Bloded Animal冷血動物)の個性を挙げれば、謝天笑氏の「歌」が中国ハードロックの伝統を受け継いで明瞭な(かつ仄かに芝居がかった)ものであることでしょうか。

 

 そういう聴き方をしてみると、「埋蔵宝蔵的地方」あたりが、真に彼らの個性が出た曲じゃないかと愚考する次第。オーソドックスな8ビート・ロックのフォーマットの中で歌謡曲・メタル・パンク・民族音楽等々の要素を融合させている……っていうと大袈裟ですかね。さらには歌詞も、歌詞はしっかり聴きとれるが内容はわかるようなわからんような、っていう加減もいい。“♪我們都要経過理想去生命最終的地方……”

 

 日々が無為に流れていくことへの疑いと恐れがテーマの(たぶん?)、「墓誌銘」。李明氏の淡々としたベースが味わい深し。“♪昨天和今天有什麽不同……”ポピュラー音楽としては陰鬱なのはグランジの流儀なのかもしれませんが、“♪天象墳墓一様圧着我,誰拯救我誰拯救我”なんていう「昨天晩上我可能死了」は重いわ。オトの方はやっぱりニルヴァーナに倣ってると思うんですが、ヴォーカルが‟丁武(唐朝楽隊)に学んだかのように、そこはかとなく京劇風歌いまわしをする”のが面白い。

 

 おおお、Spizzenergi風のリフが!……などと「很久以前」を聴いて思う人間がどれくらいいるのやら。アップテンポでダークなパンクロック。歌詞は執拗に同じシリーズを繰り返します。ギターの掻き鳴らしから始まって、フルでデカいノリを生み出す「循環的太陽」……も、“♪循環的太陽把我深深埋葬 深深埋葬”ときます。

 

 「絶症病人」ではハイスピードに飛ばすのかい?こいつあやっぱりNirvana(「Territorial Pissings」)風だ。締めくくる「雁栖湖」は逆に、何かの真似というのでない彼らの個性がよく出ていると思います。まあ、陰鬱な歌ではあるのですが、起伏・メリハリも聴いていて。

 

 しかし全編なかなかの完成度でしたね。ニルヴァーナの影は見え隠れしますが、物まねでは決してないですし……とはいえ当時これがCD4万枚+カセット15万本(!)売り上げた(Chinese Rock Databaseに拠る)っていうのには驚きます。彼らはライヴもすごかったそうですが、それも影響したんでしょうかね。

<続く>

どんぱす今日の御膳031

031

Blur「Song 2」(『SONG 2』1997)

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 高校のとき、部活の後輩に聴かせてもらって知った曲。ブラーはすでに有名バンドでしたが、私は「流行りものは追わなかった」ので出遅れていたのでした。デーモン・アルバーンさんはアンディ・パートリッジ先生の弟子みたいなもんだったらしいのにねえ……

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 その後輩はバンドでこの曲をやるとかで、すでに別のバンドで活動していた私に叩き方の助言を求めてきたのだったはず。ちなみに、軽音部とかじゃないです(自然科学部という部活である)。で、当の後輩よりも私がこの曲を面白がっちゃって、彼ら(後輩たちのバンド)のスタジオ入りに割り込んで、叩いちゃったりして……ドラミング指南になっていなかった。申し訳ありませんでした。

 “♪When I feel heavy metal……”

時代の産物を追う?〔続〕(22)

<2019年作品>

(1)Bernie Shaw & Dale Collins『TOO MUCH INFORMATION』(UK)

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 現Uriah HeepのヴォーカリストBernie Shawと、Dale Collinsとの双頭ユニット。専門店で見かけるまで、こんなことをやってるとは知りませんでした。

 

  1. So Many Times
  2. Alone
  3. Here we go
  4. Too Much Information
  5. Sad Song
  6. Hey Jimi
  7. Just A Little Bit
  8. Rock On

<メンバー>

 Bernie Shaw(Vo)

 Dale Collins(Gt, Ba, Key)

 Don Restall(Dr)

 Jason Gardenits(Piano)

 他


         

 バーニー・ショウは現行Uriah Heepを支える名シンガー。初代のDavid Byronや二代目のJohn Lawtonなんかとはタイプが違って、「明るい声質」の人なので、ユーライア・ヒープではどうかと思わなくもなかったのですが……近年のオリジナル作品(『WAKE THE SLEEPER』は名作だった)を聴くに彼の個性は今のバンドには完璧にフィットしてますよね。ライヴでの安定感も素晴らしいし。

 

 他には、NHOBHM期のバンドGrand Prix『GRAND PRIX』(1980)や、Iron MaidenPraying Mantisの元メンバーで構成されたStratus『THROWING SHAPES』1984)で若き日のバーニーさんの声が聴けます。この人、少なくとも声は歳をとらないなあ。あ、Grand PrixのキーボーディストだったPhil Lanzon氏はいまやUriah HeepでMick Box(唯一のオリジナル・メンバーたるギタリスト)の片腕です。

 

 で、このアルバムは、本人の名前が入るものとしては(すなわちソロ的な作品としては)初になるんじゃないですか。双頭バンドのもう一方、Dale Collinsさんについては、すみませんがよく存じません。曲のほとんどを書き、ギター・ベース・キーボードをプレイしてるとのことですので、実質的な主宰はかれなんでしょうね。

 

 作品は、バーニーの歌声を活かした、(いい意味で)オーソドックスなロック。ハードロック、といえるものもありますが(「So Many Times」など)、全体としては歌を聴かせることに重点があり、アコースティックやバラードも少なくありません。ミドル・シャッフルの「Here We Go」あたりは、Uriah Heepではあまり聴かないタイプでおもしろいし、ピアノ中心のバラード「Sad Song」はしんみりさせます。「Hey Jimi」や「Just A Little Bit」もじっくり聴かせるようなテンポの曲ですね(後者のギターソロはシンプルだが味があるのよ)。

 

 メタル的な刺激はない作品ですが、Bernie Shawの歌のよさ(うまさ、だけじゃなくて)がじっくり味わえるという点ではわるくない。ユーライア・ヒープとあわせて楽しめば、いいんじゃないでしょうか。

<続く>