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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第56回「XTX & Cold Blooded Animal」(1)

 「X」始まりのアーティストが少ないため、だんだん苦しく……

 中国(大陸)のミュージシャン謝天笑(XTX)氏のバンド「冷血動物」のアルバムが二枚あったのでこちらにしようと思います。

youtu.be

 謝天笑氏は1972年山東(淄博)の生まれ。90年代から音楽制作を始めたそうです。1997年には冷血動物楽隊を結成、ファーストアルバム(後述)は2000年に発表。中国各地のほか、日本にも来たことがあるそうです。しばらくアメリカで活動したあと、2003年に中国に戻り、北京で冷血動物楽隊を再建、セカンドアルバムの制作を開始するとともにバンド名を「謝天笑与冷血動物」に変更。2005年に『X.T.X』を発表。

 

 その後も活動を続けられているようですが、私は音源を持っていないので割愛します。「百度百科」などで情報がまとめて見られますし、日本語で知りたい方にはChinese Rock Databaseさんをお勧め致しておきます。こちらの情報量と密度は凄いです。(http://www.yaogun.com/index.htm

 

 さてアルバムは如何に。古い方からいきますと……

 

Cold Blooded Animal冷血動物『COLD BLOODED ANIMAL(冷血動物)』(2000)

  1. Xingfu(Happy)(幸福)
  2. Outside the Window(窗外)
  3. Forever A Secret(永遠是個秘密)
  4. The Place Where Buried Treasure Lies(埋蔵宝蔵的地方)
  5. Epitaph(墓誌銘)
  6. I Think I Might Have Died Last Night(昨天晩上我可能死了)
  7. Way Back When(很久以前)
  8. The Circling Sun(循環的太陽)
  9. Patient: Terminal(絶症病人)
  10. Lake Yanxi(雁栖湖)

<メンバー>

 謝天笑(Vo, Gt)

 李明(Ba)

 武鋭(Dr)

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 這いずり回るようなベースのリフレインに始まる「幸福」。敢えての単調なドラムと、歪みとクリーンの切り替えが極端なギター、そして何よりローテンションとブチ切れを織り交ぜるヴォーカルが、古き良きグランジ(というか、Nirvana)を感じさせます。続くアップテンポの「窗外」も、ヘヴィ(陰鬱)でありながらどこかポップなKurt Cobainの作風を継承。武鋭氏のドラミングも全力感がよく、さらにキレが良くなればDave Grohlの境地に達せそう。あんまりNirvanaにこじつけるのもどうかと思いますが、次の「永遠是個秘密」なんかは「Come As You Are」のフィールがあるのよね。こちら(Cold Bloded Animal冷血動物)の個性を挙げれば、謝天笑氏の「歌」が中国ハードロックの伝統を受け継いで明瞭な(かつ仄かに芝居がかった)ものであることでしょうか。

 

 そういう聴き方をしてみると、「埋蔵宝蔵的地方」あたりが、真に彼らの個性が出た曲じゃないかと愚考する次第。オーソドックスな8ビート・ロックのフォーマットの中で歌謡曲・メタル・パンク・民族音楽等々の要素を融合させている……っていうと大袈裟ですかね。さらには歌詞も、歌詞はしっかり聴きとれるが内容はわかるようなわからんような、っていう加減もいい。“♪我們都要経過理想去生命最終的地方……”

 

 日々が無為に流れていくことへの疑いと恐れがテーマの(たぶん?)、「墓誌銘」。李明氏の淡々としたベースが味わい深し。“♪昨天和今天有什麽不同……”ポピュラー音楽としては陰鬱なのはグランジの流儀なのかもしれませんが、“♪天象墳墓一様圧着我,誰拯救我誰拯救我”なんていう「昨天晩上我可能死了」は重いわ。オトの方はやっぱりニルヴァーナに倣ってると思うんですが、ヴォーカルが‟丁武(唐朝楽隊)に学んだかのように、そこはかとなく京劇風歌いまわしをする”のが面白い。

 

 おおお、Spizzenergi風のリフが!……などと「很久以前」を聴いて思う人間がどれくらいいるのやら。アップテンポでダークなパンクロック。歌詞は執拗に同じシリーズを繰り返します。ギターの掻き鳴らしから始まって、フルでデカいノリを生み出す「循環的太陽」……も、“♪循環的太陽把我深深埋葬 深深埋葬”ときます。

 

 「絶症病人」ではハイスピードに飛ばすのかい?こいつあやっぱりNirvana(「Territorial Pissings」)風だ。締めくくる「雁栖湖」は逆に、何かの真似というのでない彼らの個性がよく出ていると思います。まあ、陰鬱な歌ではあるのですが、起伏・メリハリも聴いていて。

 

 しかし全編なかなかの完成度でしたね。ニルヴァーナの影は見え隠れしますが、物まねでは決してないですし……とはいえ当時これがCD4万枚+カセット15万本(!)売り上げた(Chinese Rock Databaseに拠る)っていうのには驚きます。彼らはライヴもすごかったそうですが、それも影響したんでしょうかね。

<続く>