この頃ジャンル的に偏ってきた気がするんで、すこし違ったものを。J-Fusion Masterpiece Collectors’ Boxというセットに入っていた「Keep(キープ)」の二作品です。(なお、他は、村上寛&ダンシング・スフィンクス『ダンシング・スフィンクス』、野獣王国『野獣王国LIVE』です。)
作品は1981年と82年のものなので、当然リアルタイムでは知りませんでした。ボックス裏の売り文句にそれぞれ「深町純が、プリズムの和田晃、マライヤの山木秀夫、富倉安生らと結成したスーパー・グループ、KEEPの記念すべきファースト・アルバム……個々のハイ・レベルなテクニックが絶妙に絡み合うJ-Fusion屈指の名盤!!」、「J-Fusionの金字塔!!……フュージョン・ファンからはもちろんのこと、ジャズ・ロック~プログレ・ファンからも広く支持を受ける真の“フュージョン”であり“プログレッシヴ”なミュージックがこれだ!」などと刺激的な文言が並んでいたのにまんまと乗せられたのであった。
まあ、個別には深町純さんの『ニューヨーク・オールスターズ・ライヴ』は聴いたことがありましたし(地味にSteve Khanが聴きたかったのだ)、和田アキラさんのPrismはファースト・アルバムと初期(1977)の発掘ライヴくらいとはいえ作品を持ってて割と愛聴してたので、興味はあったのです。
(なおここで補足説明なのであるが、和田さんについては、聖飢魔Ⅱ信者ならばピンと来なければならないのである。①ライデン湯澤殿下とゼノン石川和尚+松崎様のユニットRXに何度もゲスト参加されている。②かつて聖飢魔Ⅱでサポーティング・キーボードをプレイされていたレクターH伯爵(石黒彰さん)とW.I.N.S.という超絶技巧ユニットもやっておられた。③そもそも聖飢魔Ⅱのファースト・アルバムとPrismは、後述するように深い関係がある。……)
(1)Keep『DG-581』(1981)
1. Owl Flight
2. Pan Neo
3. Never Ending Sad
4. Dance Of Paranoia Opus 3
5. Sonatine
<メンバー>
深町純(Key)
和田晃(Gt)
富倉安生(Ba)
山木秀夫(Dr)
復刻されたライナーノーツに載っているKeepのインタビュー(1981年3月、笠木修治氏による)によりますと、グループ名に特に意味は無いが「響きが快いし、シンプルで良いと思っている」。Keepは「深い意味での自由な型で自由な音楽がしたいと思って集ったグループ」とのことです。
また、「各メンバーの息づかいが聞こえてきそうな白熱のインタープレイが聞かれるが、深町純のキーボードと拮抗するような、エッジの鋭い和田晃のギターはプリズムともまたひと味違ったフレーズを紡ぎ出しており興味深い」等と記される福原武志氏のライナーノーツ(2003年4月)によりますと、このユニットの中心人物は深町さんだったようですね。全曲、作曲(作詞も)は深町純さんです。
ゆったりした1曲目の「Owl Flight」では、深町さんのエレガントなピアノが堪能出来ます。5分過ぎくらいからは和田さんギターの見せ場。続く「Pan Neo」は、イントロからまずギターが先攻(?)、少ししてピアノに譲ります。そのあとのパートが良くて、ドラムの細かい刻みの上で鍵盤と弦楽器が絡み合うくだり(1分30秒~3分辺り)が素敵。その後は、シンセサイザーが登場してひとしきり。終盤再び鍵盤&弦の組み打ちに突入してエンド。この曲、山木さんのドラムが実に心地好いなあ。
「Never Ending Sad」は、歌入り(関川ミキさん(Vo)アレックス・イーズリーさん(Cho))。ヴァースのところはメロウな歌謡曲調、コーラスは熱いファンク調と、メリハリが利いてます。聖飢魔Ⅱの「Never Ending Darkness」(“♪Never ending darkness, never ending sadness......”)はこれに影響を受けて……はいないでしょうな。あれは、初期Scorpionsテイストだ。
それはともかく……私NovelaとかStarlessとか好きなんですけど、あの辺にもちょっと通ずるものを感じてしまうのですね。ジャズ・フュージョンにしろ、ハードロック・プログレにしろ、もとは英米で発達したものなわけで、器楽に関しては直輸入で問題ないんですが、歌を入れるとなると(特に日本語で)、やはり歌謡曲的な何かがしぜんと入って来るんだなあと。で、それが独特のものを生むわけです。(私は肯定しています。)70-80年代のものを聴く面白さはそういうあたりにもありますね。
「Dance Of Paranoia」というのは、深町さんのなかでは一連つづきもののコンポジションなんでしょうか。後日ご紹介するニューヨーク・オールスターズ『LIVE』には「Dance Of Paranoia Op.2」というのがありますし、“Ponta”Murakami(村上「ポンタ」秀一)『INTRODUCING “PONTA MURAKAMI”』(1976)には「Dance Of Paranoia」という曲があります。(アルバムに深町さんが参加。)余談ですけど、私が最初に使ったドラムスティックは中学の時の友だちがくれたPontaモデルのパール106Hでしたわ。スティックにいろいろ種類があるなんてのも知らないで使い続けてましたが、初心者にも扱いやすいありがたい品でした。
閑話休題。「Dance Of Paranoia Opus 3」は、ドラム・ソロから始まる短い(といっても4分12秒ある)ナンバー。不勉強で詳しく存じ上げなかったのですが、山木さんのドラミング、特にそのスネアワーク、素晴らしいですね。和田さんもこれまでの抑えた感じとは変わって、ギンギン。清水靖晃さんのサックスもイイ感じ。
最後は最長曲「Sonatine」。ミニマルっていうんじゃないんでしょうけど、反復を繰り返すピアノの横で(上、っていうより横かと)ギターがちょこちょこフレーズを置いて行く第一部分。3分40秒あたりからリズムを変えて、長めのブリッジ第二部分。ジェントルなピアノパートを挟んで、ギター弾きまくりへ……って、文字で書くとうまく伝わらないな。ど真ん中のあたりではシンセサイザーがきらびやかに披露されたり、その後にはベース・ソロも聴けたり。終盤はピアノが主役の座に躍り出まして、12分30辺りの鬼気迫るパートが凄い。最後はギターも薄くかぶさってフェイドアウトしていきます。プレイヤーのスキルはジャズ・フュージョン側のものだと思うんですが、楽曲の構築はプログレッシヴ・ロック的というんでしょうか。プログレ好きにはきっとグッとくる筈。
<続く>