前回のJはJackie Chanだったんですよね(第11回「Jackie Chan」(1))。こんどはJohn Wettonのソロ作でも語ろうかと思ってたら、最近『THE DIG』のウェットン特集(ムック)が出ちゃって……やめとくことにしました。以前にMogul ThrashとかQandoとかで触れてたので、ウェットンさんはまた後日。(それぞれ、第40回「“HEAVEN & HELL”」(23) ・ 第18回「Qango」をご参照下さい。)今回は、企画に乗じて私もお勉強させてもらいますか。『LIVING LOUD』で感銘を受けてから気になっているシンガー、Jimmy Barnesさんについてね。
オフィシャルサイトの「バイオグラフィー」冒頭には、「ジミー・バーンズはオーストラリアン・ロックンロールのかなめ“the heart and the soul”である」とあります。オーストラリアではスーパー・スターである由。1956年の生まれのジミーさんは、16歳のときCold Chiselというバンドに加入、数々のステージを踏むとともに録音も多数残しています。1984にはソロに転じ『BODYSWERVE』をリリース、続く『FOR THE WORKING CLASS MAN』(1986)もヒットしました。今回取り上げようとする『FREIGHT TRAIN HEART』はそれらに続く第三作。
その後もコンスタントに作品を発表……と見えますが、実は激しいロックライフに疲労困憊、1993年には家族でヨーロッパへ移住、96年までオーストラリアを離れています。2000年代に入り、抱えていたというアルコール問題などを克服し、第二の黄金時代に入った……という感じらしいです。なかなかの波瀾万丈。オフィシャル・バイオに記されているジミーの言葉がカッコいい。“My job is to turn every night of the week into Saturday night for people. It’s the best job there is.”パブロック出身者の面目躍如。
で、ここまで言っといてなんですが、オリジナル・アルバムは次の一枚しか入手できていないのであった。いや、でも名盤よ!?
(1)Jimmy Barnes『FREIGHT TRAIN HEART』(1987)*日本盤の曲順
1. Driving Wheels
2. Seven Days
3. Too Much Ain’t Enough Love
4. Do Or Die
5. Waiting For The Heartache
6. Last Frontier
7. I Wanna Get Started With You
8. I’m Still On Your Side
9. Lessons In Love
10. Walk On
<メンバー>(曲ごとに異なる)
Jimmy Barnes(Vo)+Jonathan Cain(Key)、Neal Schon(Gt)、Tony Brock(Dr)、Randy Jackson(Ba)、Huey Lewis(Harmonica)……
5と10のみDesmond Childが担当したほかは、Jonathan CainとMike Stoneがプロデュース。もう、面子でわかっちゃう高品質ハード・ポップ。Journey組(ジョナサン・ケインとニール・ショーン)の参加が話題となったようですが、聴くとやっぱり主役は歌。Brian Johnson(AC/DC)ほと極端じゃないけどけど、聴き手の耳に刺さるごとき熱い歌唱が楽しめる。
最初が、David Lindleyのスライド・ギターで幕を開ける「Driving Wheels」。Jonathanの端正なピアノが重なる前奏から、朗々たるBarnes歌唱の聴ける壮大な本編へ。‟トラック野郎をモチーフにしたのかな?“という歌詞と豪壮な疾走感は、北米風。(例えばBachman-Turner Overdrive辺りと似た雰囲気を感じる。)ニールもリズム・ギターで参加してるとのことですが、この曲はデヴィッド・リンドレーさんのプレイが素晴らしすぎる。
Journey組の加わってない2曲目「Seven Days」(Bob Dylan作。Ron Woodヴァージョンも有名)も、分厚いバッキング+骨太な歌の「ジミー色」。ドラムはINXSのJon Farrissで、オーストラリアン・スターの共演に。
ジミー、ジョナサン、ニールに、トニー・ブロック(Dr)とランディ・ジャクソン(Ba)が加わった、つまりこの曲を演奏している面々のオリジナル共作「Too Much Ain’t Enough Love」はメロウでお洒落な一曲。ソロもとるニールのギターが全編大活躍ですが、ほんのりジャジーなテイストが独特で、Journeyとはまた違った味わい有り。
次も同ラインナップによる、タフなリフ主体のハード・ロック「Lessons In Love」。6人ものバック・ヴォーカルとのコール&レスポンスとなるサビ“lessons in love…….”がキャッチー。ニールのギターソロもハイ・センス、流石のカッコよさ。
5曲目はデズモンド・チャイルド・プロデュース、バッキング・ミュージシャンも他の曲とはまったく異なる「Waitin’ For The Heartache」……ですけども、メロディアス・ロックとしての仕上がりは見事で、違和感は無し。私にとってはRobert FrippやPeter Gabrielといったプログレ大御所との仕事が思い出されるドラムのJerry Marottaも、職人仕事。80年代的な王道歌モノ(バラード)です。
さあ後半。ジョナサンのピアノで静かに始まる「Last Frontier」は、史上の開拓者たちに思いを馳せた曲と見受けられます。ドラマティックに盛り上がっていき、コーラスでは程よい疾走感も味わえます。こちらも、ニール’sギターが堪能できるのですが、ジミーさんの歌がやはり良いなあ。ストロングな歌唱スタイルと思わせながら、この人は詞(ことば)にかんしてかなり繊細な気がします。ハイトーンが出る人でも、あんまり崩したり流したりすると台無しになりますけど、この人は各ラインを歌い出すところの発音(発声)がクリアでキレイなの。どれかまず一曲、というんだったらこの曲をおすすめしますかね。
次もJourney組参加の、ややリラックスした調子の明るい「I’m Still On Your Side」。ピアノの入り具合なんかが、80年代のBruce Springsteenを想起させたりも。ブルースとは歌唱スタイルは全然違うけど、これはこれで良いなあ。
「Do Or Die」は、本作ではこれまでになかったような弾むリズムが面白い……と思ってたら0分40秒から前のめりで疾走だ!“♪Walk straight in, I always do or die”!こういう疾走曲もJourneyじゃあんまり聴けないね。ニールもジョナサンもノリノリだ。
お次は、イントロからナイスなハーモニカが鳴り響く「I Wanna Get Started With You」。これは、Huey Lewisのプレイですな!ヒューイのブルーズ・ハープは、客演でも映えるねえ(Thin Lizzyの「Baby Drives Me Crazy」、Sammy Hagar「Little White Lie」とか、私は好きです)。この曲は、ロックファンにはGrand Funk Railroadのヴァージョンでもお馴染み「Some Kind Of Wonderful」みたいな、バウンディング・ブギーになっております。(「Some Kind Of Wonderful」は後にHuey Lewis & The Newsも『FOUR CHORDS & SEVERAL YEARS AGO』で取り上げていますね。)こういうグルーヴが無性に聴きたくなる時ってあるよね。しかし、Jimmy BarnesとJourney(Neal & Jonathan)とHuey Lewisの共演とは、贅沢な。
最後に「Walk On」は5曲目同様デズモンド・チームの作。シンセサイザーがフィーチュアされた、スケールの大きなバラード。“♪Don’t look back, walk on……”というメッセージもポジティヴな、アルバムの締めくくりに相応しい一曲。
いやあ、実はこんなに丁寧に聴いたことなかったんですが、素晴らしいアルバムじゃないですか。
<続く>