何のために書いた文章か忘れてしまったのですが(2006年3-5月の執筆という記録のみあり)、「プログレ」についてあーだーこーだ言ってるのが出てきましたので掲載。たぶん、友だちにお好みテープを押しつける際の附録に作ったんだと思います。最初に出てる曲目表は、テープの曲順の筈。
例によって、改行・段落分け以外は原作通りです。
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PROGRESSIVE ROCK Vol.1 big name
1. Fanfare for the Common Man(single.ed.)*1977(Emerson, Lake & Palmer『THE BEST of EL&P』)
2. Knife Edge*1970(Emerson , Lake & Palmer『EMERSON ,LAKE & PALMER』)
3. Karn Evil #9 1st Impression Pt.2*1973(Emerson , Lake & Palmer『BRAIN SALAD SURGERY)
4. Hoedown*1972(Emerson , Lake & Palmer『TRILOGY』)
5. Heart of the Sunrise*1971(Yes『FRAGILE』)
6. Siberian Khatru*1972(Yes『CLOSE TO THE EDGE』)
所謂プログレッシヴ・ロック(以下プログレ)も、すでに35年以上の歴史を持つ。その間、様々なタイプのグループ・アーティストが登場しているが、その中でもやはり避けては通れないアーティストがいくつかある。
EL&P・Yes・King Crimson・Pink Floydをプログレ四天王などと称する(或いはGenesisが入ることもある)のは日本だけらしい [1]が、確かにこの四組はプログレ史上において絶対的個性を発揮し、後続を刺激し続けたビッグネームであるといえる。彼らの偉大なところは、その芸術性をポピュラーミュージックの枠中で表現しきったことであろう。端的に言えば、それまでには無いロックを創造しながら、商業的にも売れたのである(Pink Floyd『狂気』の売れ方とKing Crimson『RED』の売れ方は随分異なるが)。
マニアックなものを創り、芸術性を主張することは、思うに、そう難しいことではない。しかし、多くの人にそのよさを理解させることは容易ではない。その意味で例えば後期ビートルズは、前衛的な色を打ち出しつつもポップグループの頂点に君臨し続けた、今から考えると奇跡的な集団である。ビートルズ後期・末期の時代からこれらのグループが活動を展開していることは、全くの偶然ではあるまい。芸術性と商業性をどれだけ高い次元で融合させることができたか、それによって後世の評価が定まってくる。話がそれてきたが、要するにこの四組が別格なのには相応の理由がある、ということである [2]。
EL&Pは、KeithEmerson(key)・GregLake(vo,b,g)・Carl Palmer(d)からなる、所謂キーボードトリオである。クラシックの素養のある超絶キーボーディストEmerson、深みのあるヴォーカルを聴かせる(King Crimsonの初代ヴォーカルでもあった)Lake、躍動的なビートを叩き出すPalmerが対等に組んで作り出す音は実に個性的である。Emersonによるムーグ・シンセサイザーの使用など、画期的とされる要素をいくつも持つグループであるが、筆者は特にその演奏全体の「パーカッシヴ」な感覚に特徴を見る。Palmerのドラムだけでなく、Emersonのキーボード・ピアノも「打楽器」感を打ち出しているのだ。他のプログレ系(?) キーボーディストが概ねクラシック的奏法の枠内で弾くのに対し、Emersonはクラシックピアニスト+ジャズピアニスト+ロックンロールピアニスト (Little Richard的とも思える) とでもいうべき、非常にユニークなアプローチを取っている。単にクラシックのフレーズを引用してロックっぽく演奏した、というのにとどまらないEL&Pの音楽の魅力は、選曲・アレンジの妙だけでなく、演奏それ自体にもあるのかもしれない。
1.はEL&P後期を代表する名曲で、アメリカの作曲家アーロン・コープランドの曲をアレンジしたもの。原曲は10分強だが、ここにはシングル版を収録。2.はデビューアルバムから。ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」をアレンジしたもの。キーボードとリズムセクションの絡みが聴きもの。3.は名作といわれる『恐怖の頭脳改革』のB面を占める30分近い大作(オリジナル)のうちハイライトといえる一部分。4.は再びコープランド作品のアレンジで、アルバム『トリロジー』収録。彼らならではの「パーカッシヴ」な快演を楽しめる。
EL&Pとは対照的に、多くのメンバー交代を経ながら独自の音楽を作り上げたのがYesである。現在までで関与したヴォーカリスト2人、ギタリスト4人、ベーシスト1人、ドラマー2人、キーボーディスト5人である。しかもこの中には出たり入ったりしているメンバーが複数いるのである。Yesという音楽共同体で作品を創りたければ創り、興味を失えば去るというシンプルな構図がそこにある。
音楽的には、初期はコーラス・ハーモニーの美しさで聴かせるグループだったのが、より器用なプレイヤーの参入により技巧を凝らした組曲的な作品をも持ち味とするようになった、という経緯がある。また80年代の再編時には、よりポップな作品(「Owner of aLonely Heart」など)も残している。ラインナップによって、またその時のメンバーの関心によって作品の性格が左右されやすいのがYesであるが、不思議と「こんなのはYesじゃない」という感じのものは少ない。筆者の考えるところ、これはバンドの出発点に関係しているのではないかと思う。あくまで歌に重点を置き(「四天王」で専任リードヴォーカリストがいるのはYesだけ)、歌メロを中心として楽曲を組み立てるという思想は、ついに失われることが無かった。ギターやベース、キーボードの演奏で超絶技巧が聴ける場面は少なくない――むしろたくさんあるが、それも全て歌を中核とした「楽曲」のストラクチャーの中にきれいに収まるものである。器楽演奏やインタープレイに重点を置くジャズロックとはベクトルが異なるのである。「メロディアス」であるという一点において、Yesは群を抜いているといえるだろう。
5.は黄金のラインナップといわれた、JonAnderson(v)・Chris Squire(b)・Steve Howe(g)・Rick Wakeman(key)・Bill Bruford(d)によるアルバム『こわれもの』からのナンバー。ベースとギターがユニゾンで奏でるハードなリフに始まり、華麗なキーボードパートを挟み、叙情的な歌が流れる。6.は同ラインナップによるアルバム『危機』収録の曲。めまぐるしい展開を見せるが、やはり全器楽パートと歌との一体感が見事である。
[1] 日本にはこういう括りを好む傾向が強く見られる。「三大ギタリスト」(The Yardbirds出身のクラプトン・ベック・ペイジ)だの、「ハードロック四天王」(Led Zeppelin・Deep Purple・Black Sabbath・Uriah Heep!)だの…。
[2] ビートルズと異なる点は、これらグループは概ねライヴ活動を重視していたということである。卓越した演奏能力あってのことだが、自らの音楽を自ら実演してみせる姿勢においても、彼らは他の(或いは後続の)追随を許さないものがある。
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Vol,.1「big name」の前半をお届けしました。後半は次回。
<続く>