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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第41回「Ice Age」(4)

 さて、Ice Age回の締めくくり、現時点でのラストアルバムにして最高傑作LIBERATIONのご案内。ちなみに、私はこちらを先に聴きました。これもひょっとするとDisk Heavenで買ったんだったかも。いやあ、お世話になりました。
 
Ice AgeLIBERATION2001
1. The Lhasa RoadNo Surrender
2. March of the Red Dragon
3. The Blood of Ages
4. A Thousand Years
5. When You’re Ready
6. Musical Cages
7. Monolith
8. The Guardian of Forever
9. Howl
10. The Wolf
11. To Say Goodbye, Part.3: Still Here
12. Tong-Len
<メンバー>
Josh PincusVo, Key
Jimmy PappasGt
Arron DiCesareBa
Hal AponteDr
 
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 “Liberation”(解放)だけだと何のことやらわかりませんが……「The Lhasa Road(ラサの道)」とか「March Of The Red Dragon(紅き龍の行進)」とか「Tong-Len(トンレン)」とかあるので、“チベット(史)”がモチーフだということがわかるのでした。中国によるチベット“解放”(“侵攻”)を取り上げた、まあ、コンセプト・アルバムと言ってよろしかろう。ただし、欧米アーティストの一部に盛んな「フリー・チベット」的な動向とはあまり関係なさそう。歌詞の内容やJoshの性格を考えると、近現代史上の出来事でイマジネーションをかきたてる事柄を知ったから(たぶん、書物か何かで?)、まとめてみようと思った、というところじゃないのでしょうか。ただ、この辺はまるっきり憶測。ネット上の本作レビューでもコンセプトとか歌詞内容に踏み込んでいるのは無いし、Josh自身のインタビューみたいなのも見つからないもので。
 
 このアルバムも、「全体に明るめの音像+変拍子の嵐+熱い歌」という個性に貫かれているのですが、前作よりも各パートのつながりがスムーズになっていて、唐突感が減少しております。あくまで比較の問題ですが、聴きやすい、です。
 
 一曲目が強力な「The Lhasa RoadNo Surrender)」。軽やかなキーボードに始まり、必殺変拍子、メロディアスなギター、キャッチーなリフ(ここがポイント)……と展開。ブリッジ“♪There’s no surrender in my heart……etc.”からつながって215秒からのコーラス“♪Flowers on the Lhasa road…….”で疾走するのが爽快。音数豊富な間奏は得意技でしょうが、明けの「一瞬の無音(545秒)」→♪“We’ll grow! Flower on the Lhasa road……”ってなるところが力強い感じで素敵。歌詞の方は、あまり直接的な表現(ポリティカルに)はありません。“♪Through re-education, they have cleansed your brainwashed minds”なんていうくだりはハッとさせられますがね。
 
 次はインスト「March Of The Red Dragon」。「紅き龍」は、まあ、人民中国の比喩でしょう。マーチング・ドラムっぽいリズムの上でキーボードが奏でられ、1分ほどで終わり、次の「The Blood Of Ages」に切れ目なくつながります。初期のDream Theaterっぽいかなあ、彼らとしては些かダークな曲調。410秒くらいからの“♪Left, right,left, right……〔行進の掛け声を模している?〕”は不気味だし、その少し後の歌詞“♪Yet again martyrs must die, drowning their dreams in the blood of ages”というのも重い感じ。
 
 「A Thousand Years」は、印象的なギターソロから始まります。速弾きだけじゃなくてエモーショナルなフレーズもなかなかですぞ、Jimmyさん。プログレ先達(70年代)をよく研究してる感じ。間奏のソロも良くて、ギターを楽しむんならこの曲かな。
 
 お次が、先行レビューでも割と好意的に言及されていたバラード「When You’re Ready」。うん、確かにいいです。ドブロ風のギター伴奏を伴いつつ歌われるヴァースが特にいいのは、前作ではバラード調でも暑苦しく歌ってたJoshが「力を適度に抜いた歌唱」を披露してくれてるから。盛り上がるのはあくまでコーラス・パートに限ることで、メリハリがついた。ただしご注意、この曲は9分弱になる大作でして、静かなバラードってだけじゃ終わらないの。途中から全パート参加でプログレ大会になっちゃうのね。“♪Follow me down to mythical ground……”のリフレインとかね。とはいえ、「動」と「静」の使い分けは上手になっているので、その後の起伏は絶妙で、この曲に注目が集まるのも宜なるかなという感じ。
 
 6曲目「Musical Cages」はインストゥルメンタル。これまでの曲に出て来たモチーフ(リフ)が微かに散りばめられている様子。あと、ここまではキーボードとギターにばかり言及してきましたが、この人らはドラムとベースも腕利きですぞ。なんだけど、315秒辺りからJoshのピアノがフィーチュアされる部分がやっぱり面白いなあ。音の洪水で疲れさせる、こればかりは仕方ありませんかね。
 
 次の「Monolith」も(短い)インスト。ここはJimmyアコースティック・ギターが主役。ちょっと一服。
 
 「The Guardian Of Forever」も全パート本領発揮のプログ・メタルですが、ヴァースでの抑えた歌唱が良いね、やっぱり。やたらと変拍子を使ってるのは相変わらずですが、じっくり聴かせる部分を配置してくれるようになったので◎。歌詞はやや抽象的で(チベットとは関係ないのかな?)、“♪A name carved in weathered stone, that guardian the great unknown…….”というのが何なのか。
 
 「Howl」もインストゥルメンタル。犬か狼の遠吠えのようなSEが微かに入りますが、基本はギターソロ。おそらく次の「The Wolf」の前振りでしょう。本作中最もタフなパワーメタル風の、ね。ヴァース部分の音域が低く、Joshのヴォーカルもアグレッシヴ。“♪He is the wolf, when you stumble he will catch you. He’ll tear away, your foundation and your faith.”とコーラスで歌われる「彼」とは一体?
 
 「To Say Goodbye」は前作にパート12が収録されていましたが、これはその続編らしい。Dream Theaterなんかもよくやった(やる)「アルバムをまたいでの続編」ですかな。楽曲の方も、典型的なプログ・メタル曲と言ってもいいでしょう。全パート出し惜しみ無しの技巧大会。歌詞の方は、やはり抽象的ですがトータルにはポジティヴなメッセージになっている(のかも)。“♪This is the day of liberation. This is the moment when the barriers fall. Now is the time for affirmation, to grab the reins and heed the trumpet-call.”というくだりにアルバムのキーワード‟liberation”が出てきますね……。これは「The Lhasa Road」の“♪They came to liberate you”(they=red china)とは異なる文脈だととらえる方がよいでしょうか。
 
 最後に短いインスト――前半は管楽器(風のシンセサイザー)、後半はピアノが主役――の「Tong-Len」があって完結。歌詞も無いので含意は判じかねますが、「トンレン」というのはチベット仏教における瞑想法のことだそうで、だとするとやっぱりアルバムはチベットをモチーフに閉じたということになるのでしょうか。それはさておいても、アルバムを通して前作より完成度は高まっていると思うのですが如何。
 
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さて、残念なことにIce Ageは既に解散しております。(*一部に、Soulfracturedと改名してしばらく活動し、その後再びIce Ageとして「再出発した」という情報もあるのですが、裏が取れない。少なくともIce Age名義で新しい音源は出ていません。)確かな技量と独特の個性を見せつけてくれていた人々だけに惜しい。JoshJimmyの仕事がまたどこかで聴けると嬉しいのですが……。<完>