DON'T PASS MUSIC BY

"Louis XIV, finesse and force......."<Chroming Rose>

時代の産物を追う?(11)

(1)The Sanity Days『EVIL BEYOND BELIEF』(UK)


 Grim Reaperっていうバンドがありまして、「See You In Hell」などで一世を風靡したのが1983年のことでした。(といってますが私は3歳ですから勿論当時は知りませんでした。後から知って聴いてみると……)疾走感と劇的なキメフレーズを絶妙にブレンドし得る素晴らしい演奏陣を擁したバンドでしたが、何といっても圧巻はSteve Grimmettというシンガーの歌唱でありました。大抵の音楽は、ブームになると優れた演者が其処此処から現れるものですが――速弾きギタリストが一時期雨後の筍状態だったことを想起されますよう――、ヘヴィメタルに関する限りヴォーカリストだけは「逸材の雨あられ」とはならないのが現実、でございましょう。
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 そんな中で、スティーヴ・グリメットって人は、間違いなく本物の、実力派歌手でありました。どう凄いかっていうと……ファーストアルバム『SEE YOU IN HELL』の「Dead On Arrival」と「See You In Hell」を聴くだけでいいです。って言おうと思ったんですが、いま聴き直したらサードアルバム『ROCK YOU TO HELL』のアタマ2曲の方がもっと凄いわ。「Rock You To Hell」から「Night Of The Vampire」への流れをお聴きください。「堂々とした」、とか「朗々たる」、とかそういう形容詞が当てはまる(といって“オペラティックにやり過ぎ”てはいない)正統派HR歌唱が聴ける。いま聴き直しながら書いてるんですけど、ラストの「I Want More」まで弛んだ所無し。演奏陣も良いうえ、音質もだいぶ良好なので、まずは本作をお勧めしますかね。ジャケットはちょいと“デスメタルまがい”で微妙(↓)ですが。
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 素晴らしい作品を送り出しながら、レコード会社の契約トラブルとかですり減らされ、Steveの脱退→バンド解散となったのが1988年のこと。そこでスティーヴはスラッシュ・メタル・バンドOnslaughtに一時参加、『IN SEARCH OF SANITY』で歌いました。正統派歌唱とパワー/スラッシュのバンドが合うのか?とお思いでしょうが、これがなかなか良いのだ。(……すみません、ワタシ本作以外のOnslaughtアルバムを持っていないので、彼らの真の味わいとは比較的出来ないんですが……)

 「In Search Of Sanity」なんかは、アグレッシヴなリフの上に組み立てられた疾走ソングですが、スティーヴ流歌唱は全く変わっていない。ミスマッチすれすれのスリリングな感じが良いです。他に類のない作品が生まれたのじゃないでしょうかねえ。
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 このアルバムがナイスなのは、次の「Shellshock」以降もテンションが落ちないところですね。スティーヴも力を入れて歌い続けるし、器楽陣のリフのアイディアも豊富で、「Lightning War」がいかにもスラッシュ的なビートパターンを示したかと思えば、12分を超える「Welcome To Dying」はプログレ的な味わいもあり。AC/DCのカヴァー「Let There Be Rock」なんてのもあるよ!

 私の持ってるCDにはボーナストラックとしてNWOBHMの名バンドAngel Witchのカヴァー「Confused」も入ってお得。スラッシュ・ファンには必ずしも歓迎されなかったアルバムっちゅうことですけど、捨ててしまうのは惜しいと思うなあ。Youtubeには、彼が居た時のライヴ映像なんてのもあってビックリ。恰幅の良いスティーヴがスラッシュ・バンドで客を煽ってるのがカッコいい。

 で、Steveはここも抜けて、今度は正統派HMバンドLionsheartで歌います。ファーストアルバム『LIONSHEART』の評価は極めて高かった(らしい)のですが、メンバーチェンジだの来日公演の不成功だのといったことが重なって失速してしまったとか。私はそのファーストを持ってますが、冒頭のミドル「Had Enough」――ちょっとLed Zeppelin風味かな……否、Coverdale/Page風味なんだわ――からSteveは凄い(もはや威厳がある)し、ギターソロを含めた演奏部隊も冴えてる。スピードナンバー「Ready Or Not」・「Living In Fantasy」からバラード「All I Need」、Don Nix「Going Down」のカヴァーまで、実に楽しませてくれるのです。ほんのわずかにロックンロール味というか、ブルージーなテイストをまぶしてあるのが聴き手を飽きさせないポイントなんじゃないですかね。“アメリカン!”てほどではないですが、ラスト二曲(「Good Enough」「In The Night」)の「爽」な感じは捨てがたい。

 このバンドで数作を送り出した後、ソロ活動に進んだスティーヴ。私はThe Steve Grimmett Band『PERSONAL CRISIS』(2007)を持っておりますが、歌唱力は衰えておりません。キーボードの音も取り込みよりヨーロピアン・メタルに接近した音像の楽曲、これを劇的に歌い上げる氏には脱帽。スピードナンバー「Karma」、続く「Wait For Ever」、パワーバラード「Lonely」、私の好きなリフ展開型の疾走曲「Wrath Of The Ripper」……徹頭徹尾メタルに仕上げられた好作品ですよこれは。スティーヴの歌は、“圧力”が凄いんで、ずーっと聴いていると少し疲れるかもしれませんが。おお、最後の「Fallen」ではギタリストが古き良きネオクラシカル・ギター・ソロを奏でておるな。
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 で、ようやく今回の作品になるんですが、かつてのOnslaught『IN SEARCH OF SANITY』時代の面々と別バンドを立ち上げたってのがThe Sanity Daysなるバンド。まあ、名前からも“関連性”はわかりますな。『EVIL BEYOND BELIEF』は、発売とほぼ同時に専門店で手に入れ、期待しまくりながら聴いたもんです。

The Sanity Days『EVIL BEYOND BELIEF』
 1.Genesis
  2.Charlie
  3.Satan's Blood
  4.My Last Words
  5.Evil Beyond Belief
  6.Ruler Of Eternity
  7.My Demon Mind
  8.Broken Wings
  9.Closer To The Edge
  10.Firestorm

 一曲目「Genesis」は語りとSEによるイントロで、なんかホラー映画的な煽り。そこからの本編「Charlie」は、おおおお、往年の「In Search Of Sanity」っぽいリフと起伏のなかなかグッとくる疾走ナンバーではないの。Bメロのあたりのスティーヴの歌が“アレ?ちょっと音程とリズムが不安定?”なんてのはご愛敬に思えるくらいには、ね。
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 次の「Satan's Blood」はグッとテンポを落としたヘヴィナンバー。スティーヴの歌は例によって堂々としたものですが、ちょっとフックに欠けるかな。

  ううむ、このアルバムは全体にちょっと地味ですかね。大作「Evil Beyond Belief」(9分半ある)など、テンポを曲中で変えたりする試みもあるし、スロウに始まりながら後半から疾走パートを持つ「My Demon Mind」、得意のバラード「Broken Wings」もあれば、ラストは責めたてるリフの疾走「Firestorm」だったりと決して単調ではないのですが……

 メタル的に即効性のある部分が出てこない感じといいますか、キャッチーさがないのです。各曲が長いの(一番短いので5分03秒)も、冗長な感じを与えるかもしれません。皆さまにお薦め……ではなかったか。スティーヴの歌は相変わらず大したもの、これは確かなんですが。

 やれやれ、結局は「グリメット先生をご紹介!」となってましたね。まとめますと、
Grim Reaper『ROCK YOU TO HELL』を聴いて若きグリメットの力に慄き、
Onslaught『IN SEARCH OF SANITY』を聴いてパワーメタルと組み合ったグリメットの心意気に感じ、
Lionsheart『LIONSHEART』を聴いて円熟グリメットの表現の幅広さを味わい、
Steve Grimmett『PERSONAL CRISIS』を聴いて老練グリメットの底力を思い知るとよかろう!

 ……The Sanity Daysはグリメット・ファンになっちゃった人向け、ってことでいいんじゃないかな。