順序が前後してしまいますが、面白コンピを発見したので割り込み追加。Various Artists『KINKS BEGINNINGS(3CD Set)』(2017)というのですが、CD1が「KINKS BEGINNINGS 1」、CD2が「STORY OF A SONG」、CD3が「KINKS BEGINNINGS 2」で、“Produced by SHEL TALMY”との文字が表紙にあり。キンクス初期のプロデューサーであったシェル・タルミー氏が噛んでるようですね。(逆に言うと、Ray Daviesは関与してない怪しげなコンピレーションともいえる。)この手の、すでにバンドと袂を分かった人が「このバンドぁ、俺がむかし手掛けたんだぜ」ってな意図に出る編集盤はいまいちなこともありますが、本作は意外に楽しめる。
初期のThe KinksがカヴァーしたR&B・R&Rの原曲をひたすら集めてあったり、彼らが影響を受けた(と思しい)楽曲を幅広く――R&Rはもちろん、フォーク・カントリー・ジャズ・ソウル色の強いものなど――収録していたりするのですが、特におもしろいのがCD2『STORY OF A SONG』。
(23)Various Artists『STORY OF A SONG』
1. You Really Got Me[live]/ The Kinks
2. I’m Ready/ Muddy Waters
3. Heartbreak(It's Hurtin' Me)/ LittleWillie John
4. If Lovin' Is Believing/ Billy The KidEmerson
5. El Loco Cha Cha/ Rene Touzet
6. Louie Louie/ The Kingsmen
7. The Slummer The Slum/ The 5 Royales
8. Sack O'Woe/ Ray Bryant Combo
9. Won't Be Long/ Aretha Franklin w/ RayBryant
10. Manteca, Opus 16/ Bill Russo & HisOrchestra
11. One Mint Julep/ Ray Charles
12. You Can't Sit Down, Pt.1/ Phil Upchurch
13. You Can't Sit Down, Pt.2/ Phil Upchurch
14. Room In Your Heart/ Gladys Knight &The Pips
15. Sticky/ James Brown
16. Let The Sunshine In/ Teddy Randazzo
17. The Hawk / Freddy Robinson
18. Run Chicken Run / Link Wray & The Wraymen
19. Turn 'Em On / King Curtis
20. Jookin' / Noble Watts
21. Comin' Home Baby / Mel Torme
22. All About My Girl / Jimmy McGriff
23. Sun Arise / Rolf Harris
24. Baby, Please Don't Go / Mose Allison
25. Predido Street Blues(edit) / Johnny Dodds
26. Manteca / Dizzy Gillespie
27. The Train And The River / Jimmy Giuffre
1曲目の「You Really Got Me」はライヴなんですが、音源を繰り返し聴いて得た結論としては、これはTVショーShindig! 出演時のものであろう、と。「大特集(9)」で言及したテイクですね。未発表ヴァージョンかとちょっと期待したのですが、残念。
本作のおもしろさは、RayやDaveの承諾を(たぶん)得ず、「You Really Got Me」に“影響を与えたと思われる”曲がひたすら選ばれ並べられていること。Muddy Watersはたしかにデイヴィス兄弟のフェイヴァリットでしたねえ。The Kingsmenの「Louie Louie」は長いこと「You Really Got Me」の最大の影響源だとまことしやかに言われてきた曲。実は60年代にThe KinksはEP『KINKSIZE SESSION』でカヴァーを披露しているんですがね、レイ達によると元ネタとは言えないようなんですなあ。このコンピだと、むしろ「Louie Louie」自体が、Rene Touzet「El Loco Cha Cha」のパターンをそっくりいただいてるってことがわかる点ですよ。
「The Slummer The Slum」は、メインのリズム・パターンが「You Really Got Me」の「ごががごが」と同じだ、と。まあこんな感じで、「似てる?似てるよね!」みたいなのをひたすら集めてあるわけ。作曲者レイがどこからインスピレーションを受けたかは、本人に聞かないと判然としませんが、まあ、通して聴いてみると、オールド・ジャズやオールド・ブルーズにはヒントになりそうな曲想はけっこうあったということ。また、Link WrayとかMose Allisonとか、5-60年代の若者――その代表がThe WhoのPete Townshendであったことに異論のあるかたはおりますまいね!――の心を奪い完全にロックンロールの虜にした存在はやはり大きいこと、なんかがわかるのだ。
具体的に「You Really Got Me」のヒントとしてデイヴィス兄弟が名前をあげている珍しい作品「The Train And The River」が最後にくる流れも、美しい。のどかな曲のようでいて、ホーンやギターが部分部分でインテンスに攻めてる曲だね。これをロックに応用しようとした兄弟(当時はティーンエイジャーだった筈……)の感受性の鋭さには、脱帽。
「You Really Got Me」史家(そんな人いるのか?)にとっては、便利なアイテムの登場でした。
<続く>