中国のヘヴィメタルを御紹介。本来なれば偉大なる唐朝楽隊(Tang Dynasty)や超載楽隊(Overload)といった1990年代のグループからヒストリーをたどりたいのですが、それはまたの機会に。代わりに、近年出くわした活きのいい作品をば。
Explosicum『CONFLICT』(爆漿楽隊『衝突』2008)
メンバー
邱剣化(Gt)
曽凱鋒(Gt)
李俊超(Vo)
譚冲(Ba)
鍾然(Dr)
2008年の作品ですが、見事なまでに80年代的オールドスクール・スラッシュ。本作は彼らのファーストアルバムですが、後述するように各メンバーはそれまでに若干の経歴を有していました。……と言っておきながらなんですが、この作品の良さは「熟練の技」にあるのではありません。技量や録音の面では向上の余地を大きく残しながらも、「俺たちゃこういうのがとにかく演りたいのだ!」という暑苦しい心意気が伝わってくるんですよ。
中国ヘヴィメタル史をここで語る用意はないのですが、一つだけ指摘が必要かと思います。「ロック」というものは、長らく中国(大陸)では地下物でありました。60年代のブリティッシュビートや70年代のハードロック・プログレ・パンク等々は、リアルタイムでは中国の若者に伝わっていなかったわけです。所謂改革開放の後、少しずつ外国音楽としての「ロック」が入ってきますが、崔健(ツイ・ジエン)のような中国初のアーティストが登場するまでにはさらに時間を要しました。概ね1980年代末頃になってようやく「ロックバンド」が出てくるようになったといえると思います。
ヘヴィメタルということでいえば、これは衆目の一致するところですが、唐朝楽隊の登場が極めて重要でした。1992年にファーストアルバムを出しますが結成はもう少し前に遡る、まさに中国ロックの申し子であり、且つ、外国バンドの模倣にとどまらないオリジナリティと高度な演奏技術を兼ね備えていた偉大なグループでした。(バンドはメンバーチェンジを経つつ現在も存在しています。)彼らの登場が刺激となり、北京を中心としてヘヴィメタルに傾倒するグループが増えていきます。
ちなみに、中国ロックについて知りたければ、「CHINESE ROCK DATABASE」というウェブサイト(日本語です)をご覧になるとよいでしょう。ここの情報量は凄いです。私もいろいろ学ばせてもらいました。(北京で音楽CDやグッズの店をやっている中国の人も「アレは凄い!」と称賛してました。)
1990年代末あたりから作品を発表するグループも増えてきますが、難しい問題も見えてくるようになります。すなわち、バンドをどう維持するのか、ということ。例えば、外国から来た留学生がメンバーだったりすると、その人の帰国でバンドが成り立たなくなったり。あるいは中国の人同士のバンドでも、諸事情あって誰かが離れてしまうと代わりがうまくみつからなかったり。ある意味では「淘汰」が起こり実力ある人が残るともいえますが。
そうしたこともあって、同じバンドでありながら、アルバムごとに音楽性が随分変わる、ということが多いのが中国メタルの特徴となっている気がします。スラッシュ→ハードポップなんていうのは極端な事例(実例!)としても、スラッシュ→ブラックメタル→インダストリアル、なんていうのはザラだったりします。それがメンバーの本心から演りたいことなのだったらよいのですが……上で述べた事情で「欧米で2-30年かけて醸成された諸ジャンル」が「ほんの数年で中国に流入」したために、スタイルの模倣で手いっぱいになっているようなケースも散見されるのですね。そうでないレベルのバンドを保つというのはこれは並大抵ではないようです。
元に戻りましてこの爆漿楽隊。実は珍しく北京ではなく南昌(江西省)を本拠地としているバンドなのですが、彼らも(おそらく)上のような苦労をしてきた様子。南昌の他のバンドとの人的交流が密であることについては、のちほどわかる範囲で触れます。要するに、それだけの労力を注ぎ込みながら「演りたい」音楽を追求しているのは素晴らしいということを言いたいのでございます。
<続く>